名刺交換は、初めて会った人と数十秒で終える短いやり取りです。ただ、その数十秒で相手は会社名と名前を覚え、こちらの印象を決めていきます。この記事では、名刺交換の順番と渡し方・受け取り方を、一般的な作法として整理しました。交換した後の名刺の扱いは、個人情報保護法と個人情報保護委員会の資料で確かめています。
名刺交換の作法は「決まり」ではなく慣習
最初に押さえておきたいのは、名刺交換の作法は法律や公的な決まりではなく、慣習だということです。会社や業界、地域によって細かな違いがあり、どれか一つだけが正しいわけではありません。迷ったときは、同行する上司や先輩のやり方に合わせるのがいちばん確かです。
作法の目的は、相手が名前と会社を覚えやすく、受け渡しで慌てないようにすることです。文化庁「敬語の指針」は、敬語を使う基盤を「相互尊重」に置いています。名刺交換の作法も、相手を尊重する気持ちを形にしたものと考えると、細かな手順に振り回されずに済みます。
一方で、受け取った名刺に書かれた氏名や連絡先は個人情報です。こちらは慣習ではなく法律が関わるので、後半で分けて説明します。
誰から先に渡すか
一般的には、訪問した側や立場が下の人から先に差し出します。訪ねてきた側がまず名乗る、と考えると覚えやすい順番です。
| 場面 |
一般的な順番 |
| 訪問先で会う |
訪問した側から先に差し出す |
| 立場に差がある |
立場が下の人から先に差し出す |
| 上司と同行している |
上司どうしが交換してから、自分が交換する |
| 相手が複数いる |
役職の高い人から順に交換する |
| 相手が先に差し出した |
先に受け取り、「申し遅れました」と自分の名刺を渡す |
順番を間違えても、それだけで失礼になるわけではありません。相手が先に出してきたら、慌てずに受け取り、すぐに自分も名乗れば十分です。
上司と同行するときの段取り
上司と一緒に訪問するときは、上司どうしの交換が終わるまで、少し後ろで名刺入れを手にして待ちます。相手が複数いるときは、上司が交換を終えた相手から順に、役職の高い人から交換していきます。
段取りで迷いやすいのは、相手が何人来るか分からない場面です。訪問の前に、相手の出席者と役職を上司と確かめておくと、名刺の枚数も交換の順番も落ち着いて準備できます。分からないときは、多めの名刺を用意しておけば困りません。
新人のうちは、上司から「うちの新人の山本です」と紹介されてから名乗る流れもあります。その場合は紹介を受けて一歩前に出て、「山本と申します。どうぞよろしくお願いいたします」と名刺を差し出します。
名刺交換の順番と、差し出し方・受け取り方・商談の間の置き方作成: 編集部 / もとの資料: 文化庁「敬語の指針」(言葉づかい)
渡し方と受け取り方
差し出すとき
名刺は、立ち上がって相手の正面で渡します。テーブル越しになる場合は、回り込める場なら回り込み、難しければ「テーブル越しに失礼いたします」と一言添えます。名刺入れから出した名刺を、相手が読める向きにして胸の高さで両手で持ち、会社名と名前を名乗りながら差し出します。
名乗るときの「申します」は、敬語の指針でいう謙譲語Ⅱ(丁重語)で、自分のことを相手に丁重に述べる言い方です。「山本と申します」と名乗れば、初対面の相手にも改まった印象で伝わります。
受け取るとき
受け取るときは「頂戴いたします」と言って、両手で受けるのが一般的です。受け取ったら名前を確かめ、読み方が分からなければその場で尋ねます。あとで呼び間違えるより、最初に聞く方が相手にとっても気持ちのよいやり取りになります。
お互いが同時に差し出したときは、一般的には右手で自分の名刺を渡し、左手で相手の名刺を受け、すぐに両手で持ち直します。
商談の間は、名刺をテーブルに置いておく
受け取った名刺は、すぐにしまわず、話の間はテーブルの上に置いておくのが一般的です。1枚なら名刺入れの上に、複数なら相手の席の並びと同じ順に置くと、顔と名前が一致して呼び間違いを防げます。複数のときは、いちばん上位の人の名刺を名刺入れの上に置く形が一般的です。
話が終わったら、「失礼いたします」と言ってから名刺入れに収めます。書類を片付けるときに、名刺を書類の下に挟んだまま持ち帰ってしまうことがあるので、帰る前に枚数を確かめておくと安心です。
研修などでは、差し出す名刺の高さを相手より低くする、といった細かい作法が教えられることもあります。ただ、これらに公的な決まりがあるわけではありません。相手が受け取りやすい位置で、名乗りながら丁寧に渡せていれば十分です。オンライン会議で初めて会うときは名刺を渡せないので、会議の前後に、メールの署名などで連絡先を伝えます。
受け取った名刺は個人情報 保管・使い方・処分
ここからは慣習ではなく、法律の話です。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、連絡先や会社での職位・所属と本人の氏名を組み合わせた情報を、個人情報の例に挙げています。名刺はまさにこの組み合わせです。
受け取った名刺の扱い。当日・保管・使う・処分の4段階と関わる決まり作成: 編集部 / もとの資料: 個人情報保護法(e-Gov 法令検索)・個人情報保護委員会 ガイドライン(通則編)・Q&A
会社の「個人情報データベース等」に当たることがある
同じガイドラインは、「個人情報データベース等」に当たる例も挙げています。従業者が名刺の情報を、業務用パソコン(持ち主を問わない)の表計算ソフトなどで入力・整理している場合です。反対に、自分の名刺入れを他人には容易に検索できない独自の分類で分けている場合は、当たらない例です。
委員会のQ&A(1-37)は、本人しか使えない状態のアドレス帳や整理した名刺について説明しています。私的な使用だけなら会社の個人情報データベース等に当たらないが、業務に使っているなら当たり得る、という考え方です。仕事で受け取った名刺は、会社の情報として扱うものと考えておきましょう。
使うときと、処分するときの決まり
名刺の扱いに関わる主な条文は次のとおりです(2026年10月時点)。
| 条文 |
中身(要約) |
名刺での例 |
| 第18条 |
本人の同意なく、利用目的の達成に必要な範囲を超えて扱わない |
会社の利用目的に入っていない用途に使わない |
| 第21条 |
利用目的をあらかじめ公表していなければ、取得後すぐに通知か公表する。取得の状況から目的が明らかな場合などは除く |
会社のプライバシーポリシーで公表している目的に沿って使う |
| 第22条 |
使う必要がなくなったら、遅滞なく消去するよう努める |
不要な名刺はシュレッダーで、登録したデータも消す |
| 第23条 |
漏えいなどを防ぐため、必要かつ適切な安全管理の措置をとる |
机に出しっぱなしにせず、会社の方法で保管する |
| 第27条 |
法令に基づく場合などを除き、本人の同意なく第三者に提供しない |
名刺の情報を社外の人に渡さない |
ガイドラインは、名刺は本人が自分の意思で簡便な形で渡すものなので、申込書などと違って利用目的を事前に明示する義務は課さないとしています。そのうえで、あらかじめ利用目的を公表しておくか、取得後すぐに通知か公表をする必要がある、と説明しています(取得の状況から利用目的が明らかな場合などは除く)。
委員会のQ&A(4-16)は、会社の従業者であることを明らかにして名刺を交換した場合を取り上げています。その連絡先に自社の広告宣伝の冊子やメールを送ることは、取得の状況からみて利用目的が明らかな場合に当たる、という解釈です。ただし、特定電子メール法などほかの法令も守る必要がある、と添えています。
異動や退職のときは、手元の名刺を会社の決まりに沿って後任に引き継ぐか処分し、自宅などに持ち出さないようにします。名刺管理ソフトに登録したデータも同じです。仕事で受け取った名刺は、担当者個人のものではなく、会社が預かっている情報だからです。
なお、個人情報保護法の改正法が2026年7月17日に公布されました。一部を除き、公布日から2年以内で政令で定める日に施行されます。条文の番号や中身が変わることがあるので、会社の規程を見直すときは最新の条文を確かめてください。個別の判断に迷うときは、社内の個人情報の担当部署か、個人情報保護委員会の相談窓口に確かめると確実です。
今日からできること
- 名刺入れの名刺を補充し、折れや汚れがないか確かめる。
- 「株式会社〇〇 総務部の山本と申します」と、名乗りの一文を声に出してみる。
- 会社の名刺管理の決まり(どこに登録するか・誰と共有するか・どう処分するか)を確かめる。
- 机の引き出しにたまった名刺を整理し、使わないものは会社の方法で処分する。
名刺交換のあとは、その日のうちか翌営業日にお礼のメールを送っておくと、次の連絡もしやすくなります。書き方は、ビジネスメールの書き方 件名・宛名・結びとCC・BCCの使い分けにまとめています。応接室や会議室でどこに座るかは、席次の基本を図解 会議室・応接室・タクシー・エレベーターの上座をご覧ください。