年末の挨拶回りで言うことは、「本年は大変お世話になりました」と「来年もどうぞよろしくお願いいたします」の2文で足ります。アポの電話も、受付での名乗りも、お歳暮を渡す場面も、この2文の前後に一言を足すだけ。
上司について初めて回る年でも、場面ごとの一言さえ決めておけば、緊張していても言葉に詰まりません。
迎える総務や営業事務の側にも、返し方の型があります。どちらの側でも、言い方を選ぶ物差しは同じ。相手の手間がひとつ減るかどうかです。
2文の口上は、用件のない訪問だから効く
年末の挨拶回りには、商談のような議題がありません。迎える側は「今日は何の用で、どれくらいかかるのか」を知らないまま応対することになるでしょう。
だから最初に1年のお礼と来年のお願いを言ってしまえば、相手はすぐに、挨拶だけの短い訪問だと分かります。応接室を用意するか、受付の前で立ったまま済ませるか、だれを呼ぶか。どれも、この2文を聞いた時点で決められます。
挨拶の言葉づかいに、法律や公的な決まりはありません。習わしも、会社や業界、地域で違うもの。ここから載せる言い方はどれも編集部の例なので、社内の先輩の言い方があれば、そちらに合わせてかまいません。
訪ねる側の場面ごとに、言い方と、相手が助かる理由を並べました。
| 場面 |
言い方の例 |
相手が助かること |
| アポの電話 |
「年末のご挨拶に、10分ほど伺えればと存じます」 |
用件と長さが分かり、予定に入れやすい |
| 受付(約束あり) |
「年末のご挨拶に伺いました」 |
取り次ぐ相手に、短い訪問だと伝わる |
| 受付(約束なし) |
「お手すきでしたら、ひと言ご挨拶させていただけますか」 |
断る余地が残る |
| お歳暮を渡す |
「お歳暮の品をお持ちしました。皆さまで召し上がってください」 |
記録の仕方と配り方が分かる |
| 上司に続けて |
「本年もありがとうございました」 |
上司の話を止めずに、顔と名前を覚えてもらえる |
| 別便で送った相手 |
「お歳暮の品は、別便でお送りしております」 |
届いた品と訪問を結び付けられる |
| 担当者が不在 |
「こちらを佐藤様にお渡しいただけますか」 |
受付の人が、だれに何を渡すか迷わない |
| 帰り際 |
「どうぞよいお年をお迎えください」 |
年内最後の挨拶だと伝わる |
なかでも出番が多いのが、お歳暮を渡す行。品の名前と「皆さまで」の2つが、受け取る側の手間を減らします。
訪ねる側の8つの場面と言い方の早見表。日程の目安と、官公庁を回る日の注意作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」・行政機関の休日に関する法律・国家公務員倫理規程・人事院
アポは「年末のご挨拶」と「10分ほど」を先に伝える
上司の挨拶に合わせ、品を渡せるよう両手で持って待つイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
12月は取引先も、締めの仕事や仕事納めの準備で予定が詰まりがちです。だから挨拶だけの訪問でも、約束を取ってから伺うほうが、相手は落ち着いて迎えられるでしょう。
いつ回るかに決まりはなく、会社や業界で違います。ただ、相手の最後の営業日だけは先に確かめておきたいところ。取引先から届く年末年始の休業のお知らせに書いてあることが多いので、回る順を組む前に見ておくと安心です。お知らせを出す側の文例なら、年末年始の挨拶メールの例文 休業のお知らせはいつ、誰に送るかにあります。
国の役所の休みは、法律で12月29日から1月3日まで。1年内の最後の執務日は2026年なら12月28日、月曜日です。
電話で頼むなら、用件と長さ、候補の日を一度に伝えるのがこつです。
「10分ほど」と長さを添えると、相手は会議の合間に入れられます。候補を幅で出せば、相手は選ぶだけで済みますよね。上司の名前を入れておくのも同じ理由。相手の側も、だれが顔を出すかを決められます。
「伺う」は文化庁の「敬語の指針」で謙譲語Ⅰに分けられる語で、訪ねる先の相手を立てる言い方です。一方、社外の人に自社の上司を言うときは「部長の田中」とし、名前に敬称を付けません。
メールなら、件名だけで用件が分かるようにしておくと親切です。
受付では、挨拶だけの訪問だと最初に言う
受付に着く時刻や名乗る順番は、ふだんの訪問と同じです。その流れは会社訪問のマナー 受付に着く時刻から、建物を出てコートを着るまでで詳しく紹介しています。年末の挨拶回りならではの一言は、「年末のご挨拶に伺いました」だけ。
約束をせずに回る会社や業界もあります。そうなると相手は、別の仕事の途中で呼び出されることになるでしょう。「お手すきでしたら」と添えておけば、今は手が離せないと言いやすくなります。
「させていただけますでしょうか」は、へりくだりすぎでしょうか。でも、ここではそうとはいえません。敬語の指針によると、「させていただく」は、相手の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受ける事実や気持ちがある場合に使う形です。2呼び出してもらえるかを尋ねるこの場面は、まさにその使い方です。
担当者に会えないときは、名刺に一言を書いて残す
担当者が外出していたり、手が離せなかったりすることもあります。そんなときは品を受付に預けてよいかを、まず尋ねてください。来客の品を受付で預かるかどうかは、会社によって決まりが違うからです。
そこで名刺の裏に、日付と「年末のご挨拶に伺いました」と書いて添えておきましょう。受付の人はだれの何を預かったかを書き留めずに済み、担当者も戻ってすぐ、お礼の電話やメールを返す相手が分かります。
お歳暮を手渡すときは、品の名前と「皆さまで」を添える
お歳暮や手土産は、最初の挨拶を言い終えたらすぐに渡すのが一般的です。紙袋から出して正面を相手に向ける、といった渡し方の基本は、ビジネスの手土産の渡し方 あいさつのあとすぐ、紙袋から出して一言で紹介しました。年末の挨拶回りで変えたいのは、添える言葉のほうです。
「お歳暮の品」と名前を言えば、受け取った側が記録しやすくなります。会社に届いたお歳暮は、届いた日と送り主を書き留めて、お礼状を出すのが一般的。ところが、ただの手土産と思われると、その記録から漏れかねません。記録とお礼の出し方は、お歳暮・お中元のお礼状の書き方 届いて3日以内に出す、ビジネスの例文が参考になるはずです。
「皆さまで」の一言にも役目があります。部署で分けてよい品だと分かれば、相手は個人あてか部署あてかを迷わずに済むのです。
たとえば品が菓子折りだけで、のしに「御歳暮」と書いていないなら、「年末のご挨拶のしるしに」と言い換えます。のしの名目と口で言う名目がそろっていれば、相手の記録と食い違いません。また、持参するなら、のしは外のしが選びやすいでしょう。表書きと名入れの決め方はのしの書き方 表書きと水引を、店に聞かれてその場で決められる早見表にあります。
上司と一緒のときの、若手の一言
上司と回るなら、品を渡す役は上司です。若手の受け持ちは、品をすぐ渡せる形で持っておくこと。上司が1年のお礼を言い終えるころ、紙袋から出した品をそっと上司の手に渡しましょう。
若手の番は上司の挨拶のあとで、短く続ければ十分です。
初めて会う相手への言い方は、敬語の指針が敬意表現の例に挙げる「初めてお目に掛かります。○○と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。」と同じ組み立てです。年明けの最初の連絡は、上司ではなく若手から届くことも多いでしょう。年内に一度顔を合わせておけば、1月のメールの差出人と目の前の顔が、相手の中で結び付きます。
品を別便で送った相手には
お歳暮を配送で手配した相手を訪ねるなら、品は持たずに、送ったことを一言伝えるだけで十分です。
これなら品が届いたとき、相手は訪問とつなげてお礼を言えますよね。送る時期や金額の決め方は、お歳暮の贈り方 取引先に届ける時期と、毎年迷わない金額の決め方を見てください。
官公庁を回る日は、品を持たずに挨拶だけ
取引先に官公庁があるなら、その日は品を持たずに伺います。国家公務員倫理規程で、職員は利害関係者から物品の贈与を受けることを禁じられているからです。国と契約している会社や、許認可や補助金を申請している会社は、その事務を受け持つ職員から見て利害関係者に当たります。3
例外は、「宣伝用物品又は記念品であって広く一般に配布するためのもの」。5社名入りのカレンダーを配る会社もあります。でも、受け取れるかどうかは先方が判断すること。持っていく前に担当の方に聞いておけば、相手を困らせずに済むでしょう。断られたら「承知いたしました」と引き取れば十分です。
もっとも、地方自治体や公的な団体には、それぞれの決まりがあります。迷ったら、ここでも先方の担当の方に確認を。品を持たないことを、「手ぶらで失礼します」とわびる必要もありません。受け取れない決まりのある相手に言えば、かえって気をつかわせてしまいます。
帰り際は「お時間をいただき」と「よいお年を」で結ぶ
年末の挨拶回りは、受付の前やロビーで立ったまま済ませることもあります。応接室に通されたとしても、議題の無い訪問に変わりはありません。2文の挨拶と品を渡し終え、相手の話がひと区切りしたら、訪ねた側から切り上げましょう。
「よいお年を」はその年のうちにもう会わない相手への挨拶です。年内にまた打ち合わせがある相手なら「来年もよろしくお願いいたします」までにして、最後に会う日に言えばいいのです。
回ったあとのお礼は、年末の挨拶メールにまとめてかまいません。その1通に「先日はお時間をいただき、ありがとうございました」と書き添えれば十分。相手の受信箱に、同じ用件のメールが2通並ばずに済みます。
迎える側は、受け取り方と取り次ぎ方を先に決めておく
年末は、約束のない挨拶の来客が受付に続けて来る日もあるでしょう。総務や営業事務、受付の担当がその場で迷わないよう、返す言い方を先に決めておくと楽です。
「申し伝えます」は自社の担当者を立てる言い方ではないので、来客に使って大丈夫です。敬語の指針は、上司に部下への伝言を頼まれたときの「申し伝えておきます」を取り上げ、話している相手に改まって述べたもので、伝える先の部下を「立てるものではない」と説明しています。6来客の前で自社の担当者のことを言うときも、考え方は同じです。
会社として贈り物を辞退しているとき
贈答品を受け取らない決まりのある会社では、品を差し出されたその場で断ることになります。
理由を「当社では」と会社の決まりにしておけば、相手は品や自分を断られたとは受け取らずに済むでしょう。辞退を書面で伝える文例は、先のお礼状の記事にあります。
受け取った品はその日のうちに、届いた日と送り主、品物、あて先を記録してから担当者へ。
迎える側の返し方の早見表と、品を受け取ったあとの流れ、先に決めておくこと作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」
挨拶回りの前の日に確認すること
回った先と会えた人、渡した品は、その日のうちに1行ずつ残しておきましょう。来年の12月は、その表から回る順を組めば済みます。年明けに担当を引き継ぐことになっても、その1枚で相手ごとの去年の様子まで伝わるはずです。
敬語の考え方は文化庁の「敬語の指針」で、役所の休みと公務員への贈与の決まりは法令と人事院の資料で、2026年10月30日に確認しました。挨拶回りの時期や言い方は慣習なので、会社や業界の習わしがあれば、そちらに合わせてください。