乾杯の挨拶は、5つの部品に分けると1分で収まります。名乗りに20字、ねぎらいに60字、具体的な出来事に90字、来年への一言に70字、乾杯の発声に60字。足して300字前後で、ゆっくり読むとちょうど1分です。例文は社長から新人、幹事、取引先を招く会まで、手締めの掛け声も載せました。
乾杯は5つの部品でできている 300字前後が1分
挨拶の長さは、話す人が思っているより短いほうが喜ばれます。聞く側は、グラスを持ったまま立っています。1分を超えると、手が疲れてきます。
下の図に、乾杯と締めの流れを並べました。乾杯は「名乗り → ねぎらい → 出来事 → 来年 → 発声」、締めは「お礼 → 振り返り → 来年 → 手締め → 解散の案内」です。どちらも順番を入れ替えないだけで、話が迷子になりません。
乾杯と締めの挨拶の構成。5つの部品と、1分(300字前後)に収まる字数の目安作成: 編集部 / 出典: 編集部がまとめた一般的な構成の目安
| 部品 |
乾杯の挨拶 |
字数の目安 |
締めの挨拶 |
字数の目安 |
| 1 |
名乗り(部署・名前・指名への一言) |
約20字 |
お礼(出席と準備への感謝) |
約50字 |
| 2 |
一年のねぎらい |
約60字 |
一年の振り返りを一言 |
約70字 |
| 3 |
一言(具体的なできごと) |
約90字 |
来年に向けて |
約60字 |
| 4 |
来年への一言 |
約70字 |
手締めの案内と掛け声 |
約50字 |
| 5 |
「ご唱和ください」から乾杯 |
約60字 |
解散の案内(忘れ物・帰り道) |
約50字 |
| 合計 |
|
約300字(1分) |
|
約280字(1分) |
話す速さには個人差があります。ここでは、落ち着いて話して1分に300字前後という一般的な目安で数えました。声に出して読み、タイマーで測っておくと、本番の長さが分かります。
長くしない理由は3つある
- 乾杯は、料理と飲み物が目の前に並んだ状態で待ってもらう時間です。長いほど、場が冷めます。
- 話の中身が増えると、特定の人の話や数字の話に寄って、聞き手に差が出ます。
- 次に締めの挨拶が控えています。乾杯で言い切っておけば、締めで同じ話を繰り返さずに済みます。
乾杯の例文 1分(300字)と30秒(130字)
部長が頼まれた場面を例に、5つの部品を順に書きます。名前と出来事の部分は、自分の職場のものに置き換えてください。
30秒に縮めるときは、3つ目の出来事の部品を落とします。名乗りとねぎらいを1文ずつにして、来年への一言と発声だけ残すと、130字前後になります。
出来事の部品は、数字ではなく、見た場面で書くのがコツです。「売上が前年比120%に」と言うより、「9月の納品の夜に、全員が会議室に残っていた」のほうが、聞いた人の顔が上がります。業績の数字は、会議や社内報で伝えてあることが多く、乾杯で繰り返さなくても通じます。
「ご唱和ください」は、乾杯の直前に言う
発声の前に、グラスを持つ合図を入れます。「それでは、グラスをお持ちください」と言って、少し間を置くと、全員が手元の飲み物を取る時間ができます。発声は「乾杯!」と短く言い切ります。続けて参加者が「乾杯!」と返します。
「乾杯のあとは、お好きな飲み物で」「飲み干さなくて大丈夫です」と添えると、お酒が飲めない人も、車で来た人も、気兼ねなく口をつけられます。
立場ごとの例文 社長から若手、幹事まで
同じ5つの部品でも、立場によって中身の重心が変わります。次の図と表で、立場ごとの話の中心と、避けたいことを確かめてください。
立場別の早見。話の中心・長さ・避けたいことと、例文の字数作成: 編集部 / 出典: 編集部がまとめた例文の字数と一般的な目安
| 立場 |
話の中心 |
長さ |
避けたいこと |
| 社長・役員 |
一年の感謝と、来年の方向を一言 |
1分(長くても2分まで) |
業績の数字を細かく並べる・長い訓示 |
| 部長・課長 |
部署の具体的な出来事と、メンバーへのねぎらい |
1分 |
特定の人のいじり・自分の自慢 |
| 若手・新人 |
感謝と、これからの意気込みを短く |
30秒 |
笑いを取ろうとして長くなる |
| 幹事(司会) |
開会は進行の案内、閉会は帰り道の案内 |
30秒以内 |
自分の話を足す・長い前置き |
| 取引先を招く会 |
取引先への感謝を先に、社内の話は後に |
1分 |
内輪の話・取引先のいじり |
社長・役員
社長や役員の挨拶は、社員にとって、直接聞ける数少ない機会です。ねぎらいを長く語るより、来年の方向を一文で示すほうが記憶に残ります。数字は、社内に公表している大きなものを1つだけにします。
部長・課長
課長の挨拶は、部署のメンバーが聞きます。「誰が、何をしたか」を1つだけ入れると、ねぎらいが具体的になります。名前を出すときは、本人が嫌がらない出来事かどうかを、前もって考えておきます。
若手・新人が頼まれたとき
新人が頼まれたときは、30秒で足ります。うまく話そうとするより、「指名されたこと」への一言から入るほうが、場がやわらぎます。前もって頼まれたなら、「30秒でよいですか」と幹事に聞いておきます。
緊張しそうなら、最初の一文だけ決めておきます。名乗るだけで、口が動き出します。
幹事として開会・閉会の司会をするとき
幹事は、挨拶の中身より、進行を伝える役です。開会では会の流れを短く伝え、閉会では帰り道の案内をします。幹事の段取り全体は、忘年会の幹事がやること 案内文の例文・会費の集め方・当日の進行と経費の扱いで説明しています。ここでは司会の言葉だけを載せます。
取引先を招いた忘年会
取引先のいる会では、最初の一言を相手への感謝にします。自社の内輪の話は、「社内のことで恐縮ですが」と前置きして、短く済ませます。乾杯の発声を誰に頼むかや席の位置は、先方との関係で変わります。席の考え方は、席次の基本を図解 会議室・応接室・タクシー・エレベーターの上座にまとめています。
締めの挨拶 お礼から解散の案内まで
締めの挨拶は、宴会の終わりに話します。参加者は料理を食べ終え、お酒も回っています。乾杯より、さらに短さが大切です。部品は、「お礼 → 一年の振り返りを一言 → 来年に向けて → 手締め → 解散の案内」の5つです。
30秒で締めるなら、振り返りを落とします。「お礼 → 来年への一言 → 手締め」の3つだけで、130字前後に収まります。
宴会の終わりには、「終わります」より「お開き」「締める」と言うことが多く、この記事の例文もそれに合わせました。慣習の言い方なので、言いにくければ「これでおしまいにします」でも失礼にはなりません。
手締めの種類と打ち方 一丁締め・一本締め・三本締め
手締めは、会が無事に終わったことを祝って、全員で手を打つ慣習です。公的な決まりはなく、呼び方と打ち方は、地域や会社によって違います。この節では、広く使われている形を説明します。実際には、会社のやり方に合わせてください。
手締めの3種類。一丁締め1回・一本締め10回(3・3・3・1)・三本締め30回作成: 編集部 / 出典: 編集部がまとめた一般的な打ち方(慣習)
| 名前 |
打ち方 |
打つ回数 |
場面 |
| 一丁締め |
「よーお」のあと、パンと1回 |
1回 |
短く済ませたいとき・人数が少ないとき |
| 一本締め |
「よーお」のあと、パパパン パパパン パパパン パン |
10回(3・3・3・1) |
忘年会・宴会の締めとして多い |
| 三本締め |
一本締めを3回続ける |
30回 |
大きな会・式典・年の終わり |
呼び方が混ざっている
「一本締め」と聞いて、1回だけ打つ形を思い浮かべる人もいます。逆に、1回の形を「一丁締め」と呼んで、10回の形を「一本締め」と区別する会社もあります。同じ言葉が違う形を指すことがあるため、幹事には事前に「10回打つ形でよいですか」と聞いておくと安心です。
挨拶する人は、手締めの前に一言入れておきます。たとえば「一本締めで締めます。パパパン、パパパン、パパパン、パンの形です」と言えば、打ち方を知らない新人も一緒に打てます。
掛け声の例
手締めの掛け声は、挨拶する人が出します。「お手を拝借」と言って、一呼吸おいてから「よーお」と声を出します。
三本締めで、1回ごとに「よーお」と掛けるか、続けて打つかも、会社によって違います。指名された人は、幹事に確かめておきます。
地域ごとの締めもあります。大阪では「打ちましょ(パンパン)、もひとつせ(パンパン)、祝うて三度(パパンがパン)」と掛け合う大阪締めが、宴会の締めに使われます。参加者に大阪の人が多い会なら、この形も選べます。
避けたい話題と言葉
乾杯と締めは、全員が聞く挨拶です。一部の人にだけ通じる話や、聞いて困る人がいる話は避けます。
| 避けたい話 |
理由 |
言い換えの例 |
| 長い自慢・昔話 |
聞く人が立ったままで疲れる |
感謝の一言に変える |
| 特定の人のいじり |
本人が笑っていても、周りは困る |
本人が胸を張れる出来事を挙げる |
| 業績の数字の細かい話 |
場が会議になる。聞き取れない |
出来事を1つだけ選ぶ |
| 年齢・結婚・体型・出身などの話題 |
ハラスメントになるおそれがある |
仕事の場面の話にする |
| 「飲め」「一気」などの言葉 |
飲めない人への配慮に欠ける |
「お好きな飲み物で」 |
| 「終わる」「切る」「去る」 |
宴会では避けられがちな言葉 |
「お開き」「締める」 |
飲み物の言い方は、体質で飲めない人、服薬中の人、運転して来た人がいる前提で選びます。厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月19日公表)は、避けるべき飲酒として「他人への飲酒の強要等」を挙げています。乾杯の「飲み干しましょう」「みんなで空けましょう」は、飲めない人に重くのしかかります。「お好きな飲み物で」と言えば、全員が同じ場にいられます。
運転して来た人にお酒を勧めると、道路交通法第65条に触れるおそれがあります。罰則と、幹事が防ぐ方法は、忘年会の幹事がやること 案内文の例文・会費の集め方・当日の進行と経費の扱いで説明しています。
当日の準備 メモ・グラス・話し出すまで
準備は、前日までの原稿づくりと、当日の所作の2つです。
メモの持ち方
- 全文を書かず、5つの部品の最初の言葉だけを、小さい紙に書きます。
- 紙は、グラスを持たない手に持ちます。スマートフォンの画面は、話しているうちに暗くなるので、紙のほうが安心です。
- 出来事の部品は、固有名詞や数字を、メモに書いておきます。人の名前を間違えると、場が固まります。
- 見ながら話すときも、最初と最後の一文だけは顔を上げます。
乾杯のグラスを持つタイミング
発声をする人は、グラスを手元のテーブルに置いて話し始めます。挨拶の途中でグラスを持っていると、メモと両手がふさがります。「グラスをお持ちください」と言うときに、自分も持ち上げます。参加者がグラスを持つのを待って、「乾杯」と言います。
発声のあと、参加者が「乾杯」と返すまで、グラスは口に運びません。
指名されてから話し出すまで
- 名前を呼ばれたら、「はい」と短く答えて、立ち上がります。座ったまま答えると、周りに聞こえにくくなります。
- 前に出るときは、周りの人に軽く会釈します。
- 立ったら、一呼吸おいて、会場を見回します。最初の一言の前に2秒ほど間を置くと、会場が静かになります。
- 話し終えたら、一礼します。拍手があっても、席に戻る前にもう一度会釈します。
引き受けた日に決める3つの段取り
乾杯や締めを頼まれた日に、全部を書き上げなくてかまいません。次の3つだけ、その日のうちに決めておくと、本番で慌てません。
- 長さ。幹事に「1分でよいですか」と聞いて、時間を決める。
- 一言の出来事。1年のうち、自分が見た場面を1つ選ぶ。本人に迷惑がかからないか確かめる。
- 手締めの形。10回打つ形か、1回だけの形かを、幹事に確かめる。
「ご挨拶させていただきます」のように「させていただく」を重ねると重く聞こえるので、「務めます」「お話しします」と言い切ってかまいません。敬語の使い分けは、文化庁の「敬語の指針」が参考になります。前置きの言葉は、クッション言葉の一覧 恐れ入りますが・お手数ですがなど場面別の言い回しにまとめています。