来客対応は、受付で迎えてからお見送りするまでの一続きの仕事です。言葉づかいには、文化庁の「敬語の指針」という拠りどころがあります。一方で、歩く位置やお茶の出し方の多くは慣習で、会社によって決め方が違います。この記事では、根拠のある部分と慣習の部分を分けて、当日の流れ・言い方・準備をまとめます。
来客対応は7つの段階に分けると抜けが出にくい
来客対応でつまずきやすいのは、一つひとつの所作よりも段階の境目です。受付から担当者への引き継ぎや、面談のあとの片付けが抜けると、来客を待たせたり、次に部屋を使う人が困ったりします。まず全体を7つの段階に分け、誰が受け持つかを決めておきます。
| 段階 |
すること |
言い方の例 |
| 1 前日までの準備 |
来訪者・時刻・部屋・飲み物を受付と共有する |
(社内の連絡) |
| 2 受付 |
立って迎え、会社名・名前・用件を伺う |
「いらっしゃいませ。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」 |
| 3 取り次ぎ |
担当者に連絡し、待つ場所と目安の時間を伝える |
「ただいま担当の田中を呼んでまいります」 |
| 4 ご案内 |
応接室・会議室まで先導する |
「応接室へご案内いたします」 |
| 5 お茶出し |
来客から先に出す |
「失礼いたします。どうぞ」 |
| 6 面談中 |
担当者への取り次ぎはメモで渡す |
「お話し中に失礼いたします」 |
| 7 お見送り・片付け |
見送り、入館証を受け取り、部屋を戻す |
「本日はありがとうございました」 |
来客対応の流れ。準備・受付と取り次ぎ・ご案内とお茶出し・お見送りの4つに分けた作成: 編集部 / もとの資料: 文化庁「敬語の指針」(文化審議会答申)
図で「慣習」の札を付けた所作は、一般的によく行われている例です。法令や官公庁の指針で決まったものではありません。会社に決め方があれば、そちらを優先します。
前日までに決めておくこと
当日の慌ただしさの多くは、前日までの共有で防げます。来客の予定を担当者だけが知っている状態にせず、受付・庶務にも同じ情報を渡しておきます。
受付・庶務と共有しておく項目は次のとおりです。
- 来訪者の会社名・氏名・人数
- 到着の予定時刻と、社内の担当者・同席者
- 使う部屋と、前の予定が終わる時刻
- 飲み物を出すか、出すなら何を出すか
- 入館証・駐車場が要るか
部屋は空調と机の上に加えて、ホワイトボードの書き込みや前の会議の資料が残っていないかも見ておきます。社内の数字や取引先の名前が書かれたままになっていることがあるためです。
受付と取り次ぎの言い方
名前と用件を伺う
来客が見えたら立って迎え、こちらから声をかけます。予定が分かっている場合は、名前を確かめたうえで「お待ちしておりました」と添えます。話が通っていると分かり、来客も安心します。
「お待ちしておりました」は自分の動作に「お」を付けていますが、問題はありません。文化庁の「敬語の指針」は、待つ相手を立てる謙譲語として正しい使い方だとしています(第3章の問16)。
社内の人は「部長の田中」と呼ぶ
社外の人に話すときは、上司であっても自分の会社の人を立てません。「敬語の指針」は、取引先に話す場面で上司を「田中」か「部長の田中」と呼ぶのは問題がないとしています。「田中部長」はウチ扱いの呼び方にならないので、適切でないと書いています(問24)。
同じ理由で、「田中部長は席を外していらっしゃいます」も避けます。尊敬語の「いらっしゃる」で自分側を立てることになるためです(第2章)。「部長の田中は席を外しております」と言い換えます。
来客の動作に謙譲語を使わない
受付で起きやすいのが、来客の動作に謙譲語を使う間違いです。「担当者に伺ってください」の「伺う」は謙譲語なので、来客ではなく担当者を立ててしまいます。指針は「担当者にお聞きください」「担当者にお尋ねください」に直すよう示しています(問10)。
受付で迷いやすい言い方の言い換えと、来訪者が入れる範囲・受付簿の扱い作成: 編集部 / もとの資料: 文化庁「敬語の指針」・IPA「組織における内部不正防止ガイドライン」
| 場面 |
避けたい言い方 |
言い換え |
敬語の指針 |
| 担当者に聞いてもらう |
担当者に伺ってください |
担当者にお聞きください |
問10 |
| 同じ場面 |
担当者にお尋ねしてください |
担当者にお尋ねください |
問10 |
| 来客に待ってもらう |
こちらでお待ちしてください |
こちらでお待ちください |
問12と同じ考え方 |
| 自社の部長のことを話す |
田中部長は席を外していらっしゃいます |
部長の田中は席を外しております |
問24・第2章 |
| 担当者を呼びに行く |
(そのままでよい) |
部長の田中を呼んでまいります |
問13・問24 |
| 来客を迎える |
(そのままでよい) |
お待ちしておりました |
問16 |
| 持ち物を頼む |
(そのままでよい) |
入館証をご持参ください |
問14 |
「ご持参ください」には「参る」が入っていますが、指針は相手の行為に使っても問題ないとしています。気になる場合は「お持ちください」と言えば足ります。
担当者がすぐ来られないとき
担当者が前の打ち合わせで遅れるときは、待ち時間の目安を伝えます。「少々」だけで済ませず「5分ほど」と数字で伝えると、来客は予定を立てやすくなります。10分を超えそうなら、代わりの人が対応するかを担当者に確かめます。
ご案内とお茶出しは、会社で決めて共有する
ここから先の所作は、ほとんどが慣習です。一般的なやり方を知っておくと迷いませんが、会社や業界、地域によって違うことがあります。社内に決まりがあればそれに従い、無ければ受付・庶務で一度決めて共有すると、人による差が出ません。
歩く位置・エレベーター・扉
一般的には、行き先を伝えてから来客の斜め前を歩いて先導します。曲がり角や段差では、手で方向を示して声をかけます。エレベーターや扉の前では、扉を押さえて来客に先に入っていただくのが一般的なやり方です。
部屋に着いたら、座っていただく席を手で示します。一般的には入口から遠い席を上座とします。部屋ごとの考え方は席次の基本で詳しく扱っています。
お茶出し
湯のみで出すか、ペットボトルや紙コップにするかは会社によって違います。湯のみで出す場合の一般的な流れは次のとおりです。
- 名刺交換が終わったころに、ノックして入る
- お盆をいったんサイドテーブルなどに置く
- 来客から先に、上座の人から順に出す
- 出し終えたら一礼して下がる
出す向きや順番は、法令や官公庁の指針で決まったものではありません。細かい作法を覚えるより、会話の邪魔をしないこと、こぼさないことを優先します。名刺交換の順番は名刺交換のマナーを参考にしてください。
面談中の取り次ぎ
面談中の担当者に急ぎの連絡を伝えるときは、声に出さずメモで渡すのが一般的です。来客の前で用件を読み上げずに済み、担当者も落ち着いて判断できます。
お見送りと片付けまでが来客対応
お見送りの場所は、来客との関係や会社の決まりで変わります。エレベーターの前で扉が閉まるまで、玄関の外まで、などの決め方があります。どこまで見送るかを担当者と受付で決めておくと、当日に迷いません。見送るときは「本日はお越しいただき、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」のように、来てもらったお礼を添えます。
来客が帰ったら、次のことを済ませます。
- 入館証を返していただき、番号を確かめる
- 部屋の資料とホワイトボードの書き込みを消す
- 忘れ物がないかを確かめ、あれば担当者から連絡してもらう
- 湯のみを下げ、部屋を次の人のために戻す
来訪者の記録と、入れる範囲を決める
受付は、会社の情報を守る入り口でもあります。IPA(情報処理推進機構)の「組織における内部不正防止ガイドライン」は、出入りできる領域を決めるよう示しています。領域の境目では、入退出の記録を取ることが必要だとしています。例として「運送業者はロビーまで、取引先は応接室まで、役職員は共用エリアと業務フロアまで」という区切り方が挙げられています。
この考え方を受付の仕事に置き換えると、決めておくことは次の3つです。
- 来客を通してよい場所(応接室・会議室)と、通さない場所(執務室など)
- 予約のない来訪者への対応(受付で待っていただき、担当者が受付まで来る)
- 受付簿・入館証の記録の取り方と保管
受付簿に書いてもらう氏名は、それだけでも個人情報に当たります(個人情報保護委員会「ガイドラインに関するQ&A」1-2)。前の来訪者の名前が次の人から見える一覧表にせず、1件ずつの用紙にしたり記入後すぐに回収したりする工夫があります。受付簿の置き場所と保管期間も決めておきます。
困った来訪者には、一人で対応しない
受付には、強い要求や大声で話す来訪者が来ることもあります。2026年10月1日に、改正された労働施策総合推進法が施行されました。顧客や取引先などからのカスタマーハラスメントについて、相談に応じる体制の整備などの措置が事業主の義務になっています。
厚生労働省のパンフレット(2026年7月作成)は、カスタマーハラスメントを次の3つをすべて満たすものとしています。
- 職場で行われる、顧客・取引先などの言動であること
- 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
- 働く人の就業環境が害されること
一方で、社会通念上許容される範囲の苦情は正式な申し入れであり、当たらないとも書かれています。受付で大切なのは線を引くことより、一人で抱えずに引き継ぐ手順を知っていることです。
- 対応を代わる人(上長・総務)と、呼ぶ方法
- 応接室で一対一にならないようにすること
- 何があったかを記録する人
会社の相談窓口や対応の方針は、総務・人事が決めて周知するものです。受付の担当者は、その手順を自分が知っているかを確かめておきます。
今日からできること
最初の一歩は、来客の予定を受付に伝えるメールの項目をそろえることです。項目が決まれば準備の抜けが減り、受付の人も迷わずに済みます。言い方に迷ったときは、文化庁の「敬語の指針」の巻末にある問い一覧から、近い場面を探してみてください。