稟議書は、自分では決められない支出や契約について、決裁する権限のある人に承認を求める社内文書です。読み手は忙しい上司や役員で、説明を聞かなくても書類だけで判断できることが求められます。この記事では、文化庁の「公用文作成の考え方」(2022年1月)にある書き方の工夫と会社法の決まりを手がかりに、通りやすい稟議書の型と例文をまとめました。
稟議書は「誰が何を決めるか」を形にした書類
稟議は、担当者が案を書き、決裁する権限のある人まで順に回して承認を得る仕組みです。法律で決まった様式はなく、どの金額や内容を誰が決めるかは、会社の職務権限規程や決裁権限の表で定めます。
ただし、稟議の決裁だけでは決められない事項もあります。取締役会のある会社では、会社法362条4項により、次のような重要な業務執行の決定を取締役に任せられず、取締役会で決めます。
| 決める場 |
もとになる決まり |
主な事項 |
| 稟議(決裁する人) |
会社の職務権限規程・決裁権限の表 |
金額や内容に応じて、部長・役員・社長などが決裁する |
| 取締役会 |
会社法362条4項(取締役会のある会社) |
重要な財産の処分と譲受け、多額の借財、支配人など重要な使用人の選任と解任、支店など重要な組織の設置・変更・廃止など |
| 取締役の過半数 |
会社法348条2項(取締役会のない会社で取締役が2人以上) |
会社の業務の決定(定款に別の定めがある場合を除く) |
「多額」「重要」に当たるかは、会社の規模や取引の内容で変わり、法律に金額の線は書かれていません。社内では決裁権限の表で、取締役会に付議する事項を決めていることがあります。起案する前に、自分の案件がどの欄に当たるかを確かめ、迷うときは総務や役員に相談します。
なぜ書類で残すのかも押さえておきます。国の行政機関は、公文書管理法4条により、経緯も含めた意思決定に至る過程を後から跡付けて検証できるよう、文書を作ることになっています。会社の稟議書も、後で「なぜ、誰が、いつ決めたか」をたどる記録になります。結論だけでなく、理由と比べた案を書き残すのはそのためです。
通りやすい稟議書の8項目
決裁する人が知りたいのは、「何を決めればよいのか」「なぜ今なのか」「いくらで、ほかに手はないのか」「何が起こりうるか」の4つです。これに答える順に、8つの項目を並べます。
| 項目 |
書くこと |
書き方のコツ |
| 1 件名 |
何を、どうするか、文書の性格 |
「営業部のノートパソコン3台の購入について(申請)」のように主題と性格を示す |
| 2 申請事項 |
何を、いくらで、いつ、どこに頼むか |
冒頭の2〜3行で言い切る |
| 3 目的・背景 |
なぜ今必要か、今の困りごと |
故障の回数や作業時間など、事実と数字で書く |
| 4 内容と費用 |
品名・数量・単価・合計、税込か税抜か、初期費用と月額 |
支払いの時期と、予算の範囲内かも書く |
| 5 比較と選んだ理由 |
ほかの案(別の会社・別の方法・何もしない)との比較 |
表にして、選んだ理由を一文で |
| 6 効果 |
何がどれだけ良くなるか |
時間や金額で示し、見込みは見込みと書く |
| 7 リスクと対策 |
契約期間・解約の条件・個人情報・止まったときの影響 |
対策を必ずセットで書く |
| 8 実施時期・担当・添付 |
いつから、誰が、何を添付したか |
見積書・契約書の案・カタログなど |
通りやすい稟議書の8項目と、読みやすくする工夫・添付・出す前の確認作成: 編集部 / もとの資料: 文化審議会「公用文作成の考え方」(建議)・会社法
読みやすく書くための工夫
文化庁の「公用文作成の考え方」(文化審議会建議・2022年1月7日)は、国の文書を分かりやすくするための指針です。社内文書にもそのまま使える工夫が多く、稟議書に当てはめると次のようになります。
- 標題(件名)では、主題と文書の性格を示す。報告・提案・回答・確認・開催・許可などの言葉を使う
- 結論は早めに示し、続けて理由や詳細を説明する
- 一文を短くし、一文の論点は一つにする。解説では、50〜60字ほどになったら読みにくくなっていないか意識するとよいとしている
- 三つ以上の情報を並べるときは箇条書を使う
- 図表を効果的に使い、図表には分かりやすい位置に標題を付ける
| 工夫 |
直す前 |
直したあと |
| 件名 |
パソコンについて |
営業部のノートパソコン3台の購入について(申請) |
| 結論を先に |
経緯から書き始め、最後に「つきましては」と承認を求める |
冒頭で「○○を○○円で購入したく、承認をお願いします」と書く |
| 一文を短く |
古くなっており、故障も多いため、作業が止まるので、買い替えたい |
理由ごとに文を分ける |
| 箇条書と表 |
3社の条件を文章で続けて書く |
比較表にする |
| 数字で示す |
かなり効率化できる |
月○時間の手作業がなくなる見込み |
例文1: 備品を購入するとき
金額や機種名は、自社の見積書の値に置き換えて使ってください。
例文2: クラウドサービスを導入するとき
月額で払い続けるサービスは、契約期間・自動更新・解約の条件と、預けるデータの扱いを必ず書きます。契約書の読み方は契約書を受け取ったら確認することにまとめています。
差し戻されやすい稟議書と直し方
差し戻しを減らすには、決裁する人が判断する材料がそろっているかを見直すのが近道です。出す前に、次の点を読み手の立場で確かめます。
| 差し戻されやすい書き方 |
直し方 |
| 目的が書かれていない |
今の困りごとと、放っておいたときの影響を書く |
| 金額の内訳がない |
単価・数量・税込か税抜か・初期費用と月額を分けて書く |
| ほかの案と比べていない |
別の会社・別の方法・何もしない案を表で比べる |
| 期限が「至急」だけ |
いつまでに決裁が要るか、遅れるとどうなるかを日付で書く |
| 添付がない・古い |
見積書の日付と有効期限を確かめて添付する |
| 決裁の範囲を超えている |
決裁権限の表で決裁する人を確かめ、取締役会に付議する事項でないか見る |
たとえば「業務効率化のため、下記のとおり購入したく、ご承認のほどよろしくお願いいたします。」だけでは、何がどれだけ良くなるのかが伝わりません。「見積書の作成が止まる故障がこの半年で○回起きたため、3台を入れ替えます。月○時間の待ち時間がなくなる見込みです。」のように、理由と効果を数字で書くと判断しやすくなります。
稟議の6つの段階と、稟議・取締役会・取締役の過半数で決める事項の分かれ道作成: 編集部 / もとの資料: 会社法・公文書管理法・電子帳簿保存法・国税庁 No.5930
回す前の段取りと、決裁のあとに残すもの
回す前に関係する人へ相談しておく
稟議書を回す前に、決裁する人や、経理・情報システム・法務など関係する部署に要点を伝えておくと、質問や差し戻しが減ります。特に予算の枠、システムの安全性、契約の条件は、それぞれの部署が確かめたい点です。回す順番と、いつまでに決裁が要るかも先に決めておきます。
決裁のあとに残すもの
決裁が済んだら、誰が・いつ承認したか、条件付きならその条件を記録に残します。発注や契約は、承認された内容と同じ金額・条件で行い、変わるときは改めて相談します。
添付した見積書や契約書は、税金の決まりでも保存が必要です。法人は、取引に関して作ったり受け取ったりした注文書・契約書・領収書などを、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存します(国税庁 No.5930)。メールやクラウドで受け取った見積書は、電子帳簿保存法の電子取引のデータに当たり、電子データのまま保存します(同法2条5号・7条)。保存期間の一覧は会社の書類の保存期間にまとめています。
今日からできること
稟議書は、型を一度作っておくと、次から書きやすくなります。
- 自社の決裁権限の表を開き、よく出す案件(備品・出張・契約など)の決裁者と金額の線を確かめる
- 8項目の見出しだけを並べた稟議書のひな形を作り、部内で共有する
- 過去に承認された稟議書を2〜3件読み、社内でよく使う言い回しを確かめる
- 見積書は、比べる案の分も取っておく
- 出す前に、下のチェックリストで見直す