社員の結婚や出産、家族の不幸があったとき、会社として何をどこまでするかは、法律では決まっていません。決まっていないからこそ、規程(社内の決まり)にしておかないと、担当者や相手によって対応が変わってしまいます。この記事では、2026年10月時点の制度をもとに、慶弔の規程の作り方と、訃報を受けてから弔電・供花を手配するまでの流れをまとめます。
慶弔の対応を規程にしておく理由
慶弔の対応は年に数回しか起きない会社も多く、そのたびに「前はどうしたか」を探すことになりがちです。前例が人の記憶にしか残っていないと、同じ事情でも対応が違ってしまい、不公平だと受け取られかねません。規程にしておく理由は、大きく3つあります。
- 誰に対しても同じ基準で対応できる
- 急ぎの場面でも、決裁と手配が早く進む
- 税の扱いで「一定の基準に従って支給した」と説明できる
3つ目は見落とされがちです。国税庁のタックスアンサー(No.5261)は、従業員やその親族の慶弔に「一定の基準に従って支給される金品」を、交際費等に含めない費用に挙げています。福利厚生費として扱えるということです。基準が無いままその都度の判断で出していると、この説明がしにくくなります。
法律で決まっていること・いないこと
慶弔休暇は法律上の義務ではない
厚生労働省の「モデル就業規則」(令和7年12月版)は、慶弔休暇の規定例を載せています。そのうえで、慶弔休暇は労働基準法上必ず定めなければならないものではないと解説しています。規定例の日数は空欄で、各事業場で具体的に決めるよう求めています。
ただし、慶弔休暇を設けるなら就業規則に書きます。労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使う使用者に就業規則の作成と届出を求め、「休暇」に関する事項を必ず書く項目にしています。
支給の条件を決めた祝金は「賃金」として扱う
結婚祝金や死亡弔慰金は会社の好意で出すもので、原則として賃金には当たりません。ただし、昭和22年の労働基準法の施行通達(発基第17号)は、就業規則などで支給の条件があらかじめ明確なものは、この限りでないとしています。
規程にして全員に支給する祝金・弔慰金は、就業規則に書く「臨時の賃金等」(89条4号)として扱うことになります。モデル就業規則は賃金の章の解説で、本体と別に定めた規程も就業規則の一部になり、労働基準監督署への届出が要るとしています。慶弔見舞金規程を別に作るときは、届出の要否を労働基準監督署か社会保険労務士に確かめておくと安心です。
パート・有期の社員にも同じ慶弔休暇
厚生労働省には「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(2026年4月28日改正)があります。この指針は、パートや有期雇用の社員にも、正社員と同一の慶弔休暇を与えなければならないとしています。週2日勤務の社員については、勤務日の振替を基本とし、振替が難しいときに慶弔休暇を与える例を「問題とならない例」に挙げています。
祝金・弔慰金を正社員だけにする場合も、その違いに理由を説明できるかを確かめておきます。パートタイム・有期雇用労働法8条は、待遇ごとに通常の労働者との不合理な差を設けることを禁じているためです。
税の扱いは「社会通念上相当」が目安
所得税では、会社が社員に出す結婚・出産の祝金は原則として給与です。ただし、額が本人の地位などに照らして社会通念上相当なら、課税しなくて差し支えないとされています(所得税基本通達28-5)。香典や災害などの見舞金も、社会通念上相当なら課税されません(同9-23)。
法人税では、社員とその家族への慶弔金を一定の基準で出せば福利厚生費になります。一方、取引先など社外の人の慶弔に出す金品は交際費等に含まれます(租税特別措置法関係通達61の4(1)-15)。同じ弔電・供花でも、社員の家族向けか取引先向けかで経理の扱いが変わるため、申請書に区分の欄を設けておきます。
額の判断に迷うときは、顧問の税理士や所轄の税務署に確かめてください。
慶弔規程で決める項目と、法律・税の確かめどころ。国家公務員の休暇日数も参考に作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「モデル就業規則」・国税庁の通達・人事院規則15-14
規程で決める8つの項目
規程に入れる項目は、次の8つが基本です。
| 項目 |
決めること |
迷いやすい点 |
| 対象者 |
正社員・契約社員・パート・役員のどこまでか |
パート・有期にも同一の慶弔休暇が要る |
| 事由 |
結婚・出産・死亡・傷病・災害 |
家族の範囲(配偶者の父母・祖父母など) |
| 休暇の日数 |
事由ごとの日数、連続か、有給か無給か |
休日を数えるか、いつから数えるか |
| 祝金・弔慰金 |
事由ごとの額 |
勤続や役職で差をつけるか |
| 弔電・供花 |
会社名で手配する範囲と名義 |
辞退されたときは手配しない |
| 申請 |
申請書・期限・添えてもらう書類 |
会葬礼状などで確かめるか |
| 決裁と支給 |
誰が決裁し、いつ支給するか |
休日や急ぎのときの代決 |
| 社内への知らせ |
知らせるかどうか、範囲 |
本人・遺族の了解を得る |
日数の物差しとして、国家公務員の例
民間企業の慶弔休暇の日数には決まりがありません。考えるときの物差しの一つとして、国家公務員の特別休暇の日数(人事院規則15-14)を挙げます。
| 事由 |
日数 |
| 本人の結婚 |
連続5日の範囲内 |
| 妻の出産 |
2日の範囲内 |
| 配偶者の死亡 |
7日 |
| 父母の死亡 |
7日 |
| 子の死亡 |
5日 |
| 祖父母の死亡 |
3日 |
| 兄弟姉妹の死亡 |
3日 |
| 配偶者の父母の死亡 |
3日(生計を一にしていた場合は7日) |
| 孫の死亡 |
1日 |
| おじ・おばの死亡 |
1日 |
忌引は連続する日数で、葬儀のため遠くへ行くときは往復の日数を加えます。祖父母とおじ・おばは、代襲相続して祭具などを受け継ぐ場合は7日です。これは公務員の決まりで、民間企業にそのまま当てはめる基準ではありません。
金額は会社が決める
祝金・弔慰金の額に、法律の決まりはありません。この記事では、根拠を示せる目安が無いため、金額の例は載せていません。決めるときは、次の観点で社内のつり合いを取ります。
- 事由ごとの重さ(本人の慶事、本人や配偶者の家族の弔事など)
- 勤続年数や役職で差をつけるか、つけるならその理由
- 1年に起きる件数の見込みと予算
- 税で「社会通念上相当」と説明できる範囲か
訃報を受けてから弔電・供花を手配するまで
訃報は多くの場合、社員本人か家族からの電話やメッセージで届きます。悲しみの中にいる相手から、必要なことを手短に聞かなければなりません。聞くことを一覧にして、受けた人がその場で書き取れるようにしておきます。
訃報を受けてから弔電・供花を手配するまでの流れと、弔電の申し込みの締め切り作成: 編集部 / もとの資料: NTT東日本・日本郵便・個人情報保護委員会
弔電の手配
弔電は、電報(NTT東日本・西日本など)か、日本郵便のレタックスで送れます。会社で使うサービスを1つ決め、申し込みの締め切りを手順書に書いておきます。
| 申し込み先 |
受付 |
当日に届く締め切りなど |
| NTT東日本 D-MAIL(ウェブ) |
24時間 |
14時を過ぎた申し込みは翌日の配達。12月31日〜1月3日は配達しない |
| 電報「115」(電話・NTT東日本と西日本) |
午前8時〜午後7時 |
2026年12月1日から午前8時〜午後4時。12月31日〜1月2日は休業 |
| 日本郵便 Webレタックス |
24時間 |
おおむね15時30分までの申し込みで当日のお届け。680円(税込)から |
2026年10月18日に各社のページで確かめた内容です。料金と時刻は変わることがあります。
電話の「115」は、2026年12月1日から受付が午後4時までになり、12月31日〜1月2日は休業します。夕方や年末に訃報が届くこともあるため、ウェブで申し込めるようにしておくと慌てません。Webレタックスは、使う前にWebゆうびんの利用登録が要ります。
日本郵便は、弔電が通夜の前日か当日の午前中に届くよう、配達日を指定するよう案内しています。宛先は喪主で、喪主が分からないときは「故〇〇様ご遺族様」とします。敬称は、喪主から見た故人の続柄で選びます。
供花と弔慰金
供花は、葬儀を担当する葬儀社に連絡して手配するのが一般的です。会場によっては花の業者が決まっていることがあるため、先に葬儀社に確かめます。名札の名義(会社名・代表者名・部署一同)も、規程か手順書で決めておきます。
弔慰金は、通夜や葬儀で上長が持参するか、後日本人に渡すかを決めておきます。遺族が香典を辞退している場合に会社の弔慰金をどう扱うかも、規程で決めておくと迷いません。
社内に知らせるときは了解を得た範囲で
訃報を社内に知らせるときは、本人や遺族の了解を得た範囲にとどめます。個人情報保護委員会のQ&A(1-21)によると、亡くなった方の情報は個人情報保護法の対象ではありません。ただし、家族関係の情報などは、生きている遺族の個人情報に当たる場合があるとしています。
知らせる内容は、続柄、通夜・葬儀の日時と場所、香典や供花の扱いが中心です。亡くなった理由や詳しい事情は書きません。お知らせ全般の書き方は社内のお知らせ文の書き方で扱っています。
結婚・出産のときに一緒に進める手続き
慶事は、会社の祝金だけで終わりません。社会保険などの手続きも一緒に動くので、祝金の申請書で必要なことをまとめて聞くと漏れが減ります。2026年10月時点の主な手続きは次のとおりです。
| 出来事 |
手続き |
期限など |
確かめ先 |
| 結婚で姓が変わった |
被保険者氏名変更届 |
マイナンバーと基礎年金番号が結びついている人は原則不要。結びついていない人などは速やかに |
日本年金機構 |
| 結婚で配偶者を扶養に入れる |
健康保険 被扶養者(異動)届 |
事実発生から5日以内 |
日本年金機構 |
| 本人の出産 |
産前産後休業 |
産前6週間(多胎は14週間)は本人の請求で休業。産後8週間は原則として就業させない |
労働基準法65条 |
| 本人の出産 |
産前産後休業取得者申出書(保険料の免除) |
休業中か、休業終了日から1か月以内 |
日本年金機構 |
| 子が生まれ、扶養に入れる |
健康保険 被扶養者(異動)届 |
事実発生から5日以内 |
日本年金機構 |
| 本人・家族の出産 |
出産育児一時金(家族の出産は家族出産育児一時金) |
子1人につき原則50万円(2023年4月から) |
厚生労働省 |
会社の祝金と、健康保険の出産育児一時金は別のものです。社員から違いを聞かれることがあるので、規程の説明に一言添えておくと親切です。個別の手続きは、年金事務所・加入している健康保険・社会保険労務士に確かめてください。
社内で結婚や出産を知らせるかどうかも、本人の希望を先に聞きます。名字を変えずに働きたい人や、知らせるのを控えたい人もいるためです。
規程づくりの段取り
- 過去3年ほどの慶弔の対応を書き出す(誰に・何を・いくら・何日)
- 規程で決める8つの項目について、案を作る
- パート・有期の社員の扱いを、指針に照らして確かめる
- 金額の案が社会通念上相当かを、税理士か税務署に確かめる
- 就業規則への反映と届出の要否を、社会保険労務士か労働基準監督署に確かめる
- 訃報を受けたときの手順書(聞くこと・弔電の申し込み先)を作る
- 社員に周知する
最初の一歩は、過去の対応を書き出すことです。実際に出した額や日数を並べると、今の会社の「暗黙の基準」が見えてきます。そこから規程の案を作れば、社員にとっても納得しやすい決まりになります。