就業規則は、労働時間・休日・賃金・退職など、職場の労働条件とルールをまとめた規則集です。入社のときに案内されても、きちんと読む機会は少ないかもしれません。この記事では、作る義務がある会社の条件と手順、社員が読んでおきたい項目を、労働基準法の条文と厚生労働省の資料で確かめながら整理します(2026年10月18日時点の制度)。
就業規則は、労働契約の内容になる職場の規則集です
北海道労働局は、就業規則を「労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律などについて定めた職場における規則集」と説明しています。ルールを先に決めて労使が守ることで、無用のトラブルを防ぐ役割があります。
会社が合理的な労働条件を定めた就業規則を社員に周知していれば、労働契約の内容は就業規則の条件によります(労働契約法第7条)。つまり就業規則は、一人ひとりの雇用契約の中身を形づくる書類でもあります。
一方で、就業規則は法令や労働協約に反してはなりません。反している就業規則は、労働基準監督署長が変更を命じることができます(労働基準法第92条・同施行規則第50条)。決まりの強さは、法令、労働協約、就業規則、個々の労働契約の順です。
就業規則の位置づけと、作成・届け出の義務がある事業場の判断作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法・労働契約法(e-Gov 法令検索)・厚生労働省
作る義務があるのは常時10人以上の事業場です
常時10人以上の労働者を使う使用者は、就業規則を作り、労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。内容を変えたときも同じです。10人以上になったときは、遅れることなく届け出ます(労働基準法施行規則第49条第1項)。
「10人」の数え方
迷いやすいのが人数の数え方です。厚生労働省のモデル就業規則は、就業規則は企業単位ではなく事業場単位で作って届け出るものだと説明しています。会社全体の合計ではなく、本社・支店・店舗などごとに数えます。
人数には、正社員だけでなく、パートタイマー・アルバイトなどの非正規の人も含みます(岡山労働局・長野労働局)。たとえば本社が15人、支店が6人の会社なら、作成と届け出の義務があるのは本社です。
| 事業場 |
常時働く人(パート・アルバイトを含む) |
作成・届け出の義務 |
| 本社 |
15人 |
あり |
| 支店 |
6人 |
なし(作れば周知は必要) |
支店などの就業規則が、変更の前も後も本社と同じ内容なら、本社を受け持つ労働基準監督署長を通して一括して届け出ることもできます(モデル就業規則)。
10人未満の会社はどう考えるか
10人未満の事業場には、届け出の義務はありません。ただ、モデル就業規則は、労働条件や待遇の基準をはっきり定めておくことは、事業規模や業種を問わず大切だとしています。作った場合は、周知して初めて労働契約の内容になります(労働契約法第7条)。
作るときと変えるときの4つの手順
就業規則は、作れば終わりではありません。意見を聴き、届け出て、社員に知らせるところまでが手順です。
就業規則を作る・変えるときの4つの手順(案・意見聴取・届出・周知)作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法・同施行規則(e-Gov 法令検索)・厚生労働省「モデル就業規則」
| 手順 |
すること |
根拠 |
| 1. 案を作る |
必ず書く事項と、定める事項を書く |
労働基準法第89条 |
| 2. 意見を聴く |
過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴く |
同第90条第1項 |
| 3. 届け出る |
意見書(代表者の氏名を書いたもの)を付けて労働基準監督署長へ |
同第89条・第90条第2項・施行規則第49条 |
| 4. 周知する |
掲示・備え付け、書面の交付、パソコンなどでいつでも見られるようにする |
同第106条・施行規則第52条の2 |
過半数代表者の選び方
過半数代表者は、管理監督者でない人で、意見を聴く代表を選ぶと明らかにした投票や挙手などで選ばれた人でなければなりません。会社の意向で決めた人は認められません(労働基準法施行規則第6条の2)。
パートタイム労働者や有期雇用労働者に関わる部分を作るときは、その人たちの過半数を代表する人の意見も聴くよう努めます(パートタイム・有期雇用労働法第7条)。パート用に別の就業規則を作ったときも、事業場の就業規則の一部として届け出が必要です(厚生労働省)。
届け出と周知
届け出は、労働基準監督署の窓口のほか、電子申請でもできます(モデル就業規則)。書面で出す場合、北海道労働局では通常2部を出してもらい、受付印を押した1部を控えとして返す扱いをしています。
モデル就業規則によると、就業規則は作ったり意見を聴いたりしただけでは効力が生じないと解されています。効力が生じるのは、何らかの方法で社員に周知された時期以降です。
必ず書くこと・定めたら書くこと
就業規則に書く事項は、労働基準法第89条で決まっています。必ず書く「絶対的必要記載事項」と、定めをするなら書く「相対的必要記載事項」があります。
就業規則に必ず書く事項・定めたら書く事項と、社員が読んでおきたい項目作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法(e-Gov 法令検索)・厚生労働省「モデル就業規則」
| 区分 |
事項 |
| 必ず書く |
始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換 |
| 必ず書く |
賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期、昇給 |
| 必ず書く |
退職(解雇の事由を含む) |
| 定めたら書く |
退職手当、臨時の賃金(賞与など)・最低賃金額、食費や作業用品などの負担 |
| 定めたら書く |
安全・衛生、職業訓練、災害補償・業務外の傷病扶助、表彰・制裁、全員に適用するその他のルール |
育児休業・介護休業・子の看護等休暇なども「休暇」にあたるため、対象になる人・手続き・期間を就業規則に書く必要があります(厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」)。2025年4月と10月に改正育児・介護休業法が施行されたので、見直しが済んでいるか確かめておきましょう。
減給の制裁を定める場合には上限があります。1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は1回の賃金支払期の賃金総額の10分の1までです(労働基準法第91条)。
社員が読んでおきたい項目
就業規則は、困ったときに頼れる手引きでもあります。厚生労働省のモデル就業規則の章立てを参考に、読んでおくと役立つ項目をまとめました。
| 項目 |
見るところ |
役立つ場面 |
| 労働時間・休日 |
始業・終業の時刻、休日、時間外労働 |
残業や休日出勤の扱いを知りたいとき |
| 年次有給休暇 |
付与の日数、取り方、時間単位の取得 |
休みの計画を立てるとき |
| 特別休暇 |
慶弔休暇・病気休暇など |
冠婚葬祭や体調を崩したとき |
| 育児・介護 |
育児休業・介護休業、短時間勤務 |
家族の予定が決まったとき |
| 賃金 |
締切日・支払日、手当、昇給 |
給与明細を確かめるとき |
| 休職 |
休職できる期間と復職の手続き |
長く休む必要があるとき |
| 服務規律・ハラスメント |
守ること・禁止事項・相談先 |
職場で困ったとき |
| 副業・兼業 |
届け出の要否と制限される場合 |
副業を始める前 |
| 退職・定年 |
退職を申し出る時期、定年の年齢 |
転職や退職を考えたとき |
年次有給休暇は、法律では、雇い入れから6か月続けて働き、全労働日の8割以上出勤した人に10日を与えるのが出発点です(労働基準法第39条第1項)。慶弔休暇のような特別休暇は会社ごとに決めるもので、日数や有給かどうかも就業規則で確かめます。
休職も、会社ごとの定めを読んでおきたい項目です。モデル就業規則の解説は、休職の定義や期間、復職について労働基準法に定めはないとしています。病気などで長く休むときの扱いは、自社の就業規則で決まります。
副業・兼業について、モデル就業規則は、勤務時間外に他の会社などの業務に従事できるとしたうえで、届け出にもとづき、労務の提供に支障がある場合や企業秘密が漏れる場合などに禁止・制限できる例を示しています(第70条)。自社の定めは会社ごとに違うので、始める前に確かめましょう。
迷いやすい点 契約との関係と、変更のルール
就業規則を会社の都合で変えて、社員に不利な条件にすることは、原則として社員との合意なしにはできません(労働契約法第9条)。例外は、変更後の就業規則を周知し、変更が合理的な場合です(同第10条)。
合理的かどうかは、社員が受ける不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況などに照らして判断されます(同第10条)。モデル就業規則は、不利益に変える場合は社員の代表の意見を十分に聴き、変更の理由と内容が合理的なものになるよう慎重に検討する必要があるとしています。
今日からできること 立場ごとのチェックリスト
社員の方は、自社の就業規則がどこで見られるかを確かめ、まず休暇・賃金・退職の章を読んでみてください。人事・労務の担当者の方は、人数・届け出・周知の3点を見直しましょう。
この記事は、2026年10月18日時点の労働基準法・労働契約法と厚生労働省の資料にもとづいています。個別の判断は、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署に確かめてください。