部下がミスをしたとき、「始末書を出して」と言うべきか、「顛末書でいいのか」と迷う上司や人事の方は多いはずです。この記事では、2つの書類の違い、書き方と例文、受け取るときの確認を、厚生労働省のモデル就業規則と労働基準法・労働契約法で確かめた範囲でまとめます。
条文などは2026年10月22日に確かめた内容です。個別の案件は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
始末書と顛末書は何が違うのか
一般的には、顛末書(てんまつしょ)は「何が起きて、なぜそうなり、どう直すか」を報告する書類です。始末書は、それに加えて反省と謝罪を示し、同じことを繰り返さないと誓う書類です。
どちらも法律が書式や名前を決めているわけではありません。今回確かめた労働基準法・労働契約法・モデル就業規則には、顛末書の定めはなく、始末書は懲戒の中で出てきます。会社によっては、顛末書を「経緯書」「報告書」「てん末書」と呼び、始末書の意味で使うこともあります。社内の言い方を先にそろえてください。
始末書・顛末書・報告書の違いの早見表と、迷ったときの見分け方作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月版)」
| 書類 |
一般的な目的 |
反省の言葉 |
懲戒との関係 |
| 報告書・経緯書 |
起きたことを共有する |
書かない |
なし |
| 顛末書 |
経緯・原因・再発防止を記録する |
必須ではない |
通常は別(処分の判断材料にはなる) |
| 始末書 |
反省・謝罪と再発防止の誓約 |
中心になる |
けん責・減給・出勤停止に付ける |
モデル就業規則の第67条は、懲戒の種類を次のように定めています。
つまり始末書は、単なる「ミスの報告」ではなく、懲戒の手続の中で求める書類です。軽い手違いの報告に、毎回始末書を求めると、書く側の負担も、会社の説明の重みも大きくなります。
始末書の書き方 項目と順番
始末書は、次の項目を上から順に書くのが一般的です。会社に様式があれば、それに合わせます。
| 項目 |
書くこと |
| 日付 |
提出する日。西暦か和暦かは社内の書き方に合わせる |
| 宛名 |
代表取締役や所属長など、会社が定める提出先。「殿」を付ける |
| 所属・氏名 |
部署・役職・氏名。押印の要否は会社の決まりによる |
| 件名 |
「始末書」。内容が分かる副題を付けてもよい |
| 事実の経緯 |
日時・場所・内容を、見たとおりに書く |
| 原因 |
自分の側の原因。他人のせいにしない |
| 反省 |
迷惑をかけた相手と、会社への謝罪 |
| 再発防止策 |
自分が今後する具体的な行動 |
| 結び |
「以後、同じことのないよう努めます」など。処分には従う旨 |
書くときのコツは3つです。
- 事実は時系列で、感想を混ぜずに書く。
- 反省は短く、再発防止は具体的に書く(「気をつけます」だけにしない)。
- 言い訳や他責の言葉は入れない。ただし、事情があるときは別に口頭か顛末書で伝えてよい。
例文1 遅刻の繰り返し
例文2 書類の紛失
例文3 取引先への誤送信
誤送信の対外的なお詫びは、別の文章になります。取引先に送る文はお詫びメールの書き方 取引先へのミスの謝罪と再発防止の伝え方・例文を参考にしてください。
顛末書の書き方と例文
顛末書は、反省の言葉を主にせず、事実と原因と対応を残す書類です。始末書より項目が多く、再発防止を会社の仕組みとして考える材料になります。
項目は、日付・宛名・所属氏名・件名・発生の日時と場所・経緯・原因・影響の範囲・実施した対応・再発防止策・結びです。
受け取る上司・人事が確かめること
受け取る側の姿勢で、書類の中身も、その後の職場の空気も変わります。次の点を確かめてください。
保管は、個人情報の扱いにもなります。個人情報取扱事業者は、利用の目的をできる限り特定し(個人情報保護法第17条)、取り扱う個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません(同法第23条)。始末書は人事の担当者が鍵のかかる場所か、閲覧を制限した電子の保管で管理し、直属の上司や同僚に回覧しないようにします。
人事考課との関係は、会社の制度次第です。始末書の有無ではなく、事実と程度を見て判断し、考課の基準に書いておきます。
懲戒の手続との関係
始末書を求める前に、懲戒の仕組みを確かめます。
ミスの報告から懲戒までの5段階と、上司・人事・条文の確認作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法・労働契約法(e-Gov 法令検索)・厚生労働省「モデル就業規則」
労働基準法第89条第9号は、表彰と制裁の定めをする場合には、その種類と程度を就業規則に書くよう求めています。モデル就業規則の解説は、懲戒の事由が就業規則に書かれていなければ、懲戒処分はできないと説明しています。最高裁判決(国鉄札幌運転区事件・昭和54年10月30日)を引いた説明です。
労働契約法第15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、権利の濫用として無効としています。厚生労働省の「労働契約法のあらまし」は、この「懲戒」は労働基準法第89条第9号の「制裁」と同じ意味だと説明しています。
処分の重さについて、モデル就業規則の解説は、次のように書いています。
- 規律違反の程度に応じ、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要がある。
- 懲戒規定を設ける前の行為に、さかのぼって懲戒することはできない。
- 1回の懲戒事由に該当する行為に、複数回の懲戒処分を行うことはできない。
減給の制裁には上限があります。1回の額は平均賃金の1日分の半額、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1までです(労働基準法第91条)。
弁明の機会は、モデル就業規則(令和7年12月版)の第67・68条には書かれていません。就業規則に「賞罰委員会」などの手続を定めている会社は、それに従います。定めがなくても、本人の言い分を聞くことは、事実の取り違えを防ぐ意味で一般的に行われます。
始末書の提出を求められる範囲
ここは、公式の資料だけでは言い切れない部分があります。
始末書の提出を命じること自体は、就業規則の定めにもとづいて行われるのが一般的です。モデル就業規則も、けん責などの処分と合わせて始末書を提出させる定めを置いています。一方で、謝罪の気持ちを書くことまで強制できるか、提出を拒んだことを理由に重ねて懲戒できるかは、争いがあります。
ですから、次のように進めると安全です。
- 就業規則に始末書を求める定めがあるか確かめる。
- 定めがあっても、書く内容は「事実と今後の行動」を中心にし、謝罪の文言を細かく指図しない。
- 本人が書くことを拒んだときは、その場で重ねて処分せず、理由を聞いて、社会保険労務士・弁護士に確かめる。
ハラスメントにならない求め方
厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、職場のパワーハラスメントを、職場で行われる次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントに該当しないとされています。
同じ指針は、精神的な攻撃の「該当すると考えられる例」として、人格を否定する言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すこと、他の労働者の面前での大声での威圧的な叱責を繰り返すことなどを挙げています。「該当しないと考えられる例」には、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が再三の注意でも改善されない労働者に、一定程度強く注意をすることがあります。
始末書の求め方に当てはめると、次のようになります。
なお、労働施策総合推進法は、職場のパワーハラスメントの防止のために事業主が措置を講じることを定めています。
よくある場面での判断
| 場面 |
求めるもの |
ひとこと |
| 初めての軽い手違い |
報告書・顛末書 |
事実と再発防止を残す |
| 遅刻や欠勤の繰り返し |
注意、改まらなければ始末書(就業規則の定めがあるとき) |
まず面談で理由を聞く |
| 取引先に影響したミス |
顛末書、必要なら始末書 |
対外のお詫びは別に準備する |
| 社用車の事故 |
顛末書(事故の報告) |
規程の書き方は社用車の管理規程の作り方を参照 |
今日からできること
- 就業規則の第何条に、懲戒の種類と事由があるか、始末書の定めがあるかを確かめる。就業規則の基本は就業規則とは 作る義務がある会社・届け出の手順と、社員が見ておきたい項目にまとめています。
- 社内で、「報告書」「顛末書」「始末書」の使い分けを決め、様式を1枚ずつ用意する。
- 受け取るときの確認表(事実と評価を分ける・言い分を聞く・保管先)を、上司と共有する。
- 迷う案件は、処分を決める前に社会保険労務士・弁護士へ相談する窓口を決めておく。