冬のボーナスをもらってから辞めることは、できるのでしょうか。就業規則に「支給日に在籍している者に支給する」といった定めがある会社なら、退職日が支給日よりあとにあれば、条件は満たせます。条件にかかわるのは退職日で、上司に伝えた日ではありません。
ただ、同じ条にもう一文あったらどうでしょう。「退職を予定している者には賞与を支給しない」という一文です。この書き方の会社では、伝える日も条件に入ってきます。
ボーナスの条件は、法律ではなく会社の規程にある
手帳の1本の線に、伝える日と支給日、退職日の印を並べてみるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
賞与は法律で払うよう決まっているものではありません。厚生労働省のモデル就業規則の解説にも、「法律によって設けることが義務付けられているものではありません」とあります。1
それでも、労働基準法の上では賞与も賃金です。賞与のような臨時の賃金を定めるなら、会社はその中身を就業規則に書かなければなりません。2もらえるかどうかの答えは、自分の会社の規程の中にあるのです。
賞与の定義は、労働基準法が施行されたときの通達に出てきます。定期または臨時に、原則として勤務成績に応じて払うもので、額があらかじめ決まっていないもの。3毎月決まった額で払う給与とは、そこが違います。
条文は、就業規則の賃金の章か、別にまとめた賃金規程のどちらかにあるでしょう。会社には就業規則を周知する義務があり、見せてほしいと頼んでもかまいません。4働く人が10人に満たない会社なら、就業規則を作る義務はありません。2そのときは、雇用契約書や労働条件通知書が手がかりになります。
賞与の条は「だれに」「いつ」「いくら」で読む
賞与の条は「だれに」「いつ」「いくら」の3か所に分けて読むと、自分の場合が見えてきます。規程や裁判例に出てくる言い回しと、辞める人にとっての意味を1枚にまとめました。
賞与の条を「だれに」「いつ」「いくら」に分けて読む。言い回しごとの意味作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省、中央労働委員会、e-Gov法令検索
辞める人にいちばん関わるのは「だれに」の一文です。モデル就業規則の文例は、「算定対象期間に在籍した労働者に対し」支給する形。算定対象期間とは、賞与の額を計算するもとになる期間のことです。解説には、支給日のような決まった日に在籍している人だけに払う定めも置ける、とあります。1
この書き方は、裁判でも認められてきました。最高裁は、「支給日に在籍している者に対し」支給すると改めた銀行の就業規則について、前からの慣行を書きあらわしたもので、中身にも合理性があると判断しました。辞めたあとに支給日が来る賞与は受け取れない、という結論です。5
注意したいのは、在籍の条件のあとに続く一文です。中央労働委員会が紹介する事例には、「退職を予定している者には賞与を支給しない」と書いた規程が出てきます。こう書いてあると、支給日にまだ在籍していても、その前に退職を申し出た人は対象から外れることがあります。6
もっとも、どんな扱いでも認められるわけではありません。同じ資料によると、支給日在籍の定めを適法とする裁判例が多い一方で、支給日に退職を予定している人の賞与をごくわずかな額にとどめたことを違法とした裁判例もあります。周知されていない規程を理由に、払わずに済ませることもできません。6
「いつ」は支給日です。日付が書いてあれば迷いませんが、モデル就業規則には、業績が大きく落ちたときなどに「支給時期を延期し、又は支給しないことがある」というただし書があります。1支給日がずれて退職日を越えれば、支給日在籍の条件は満たせません。
「いくら」は業績や勤務成績を考えて一人ずつ決めるのが、モデル就業規則の書き方です。1額の決め方は会社の裁量が大きいところ。それでも、有給休暇を取った日を欠勤として扱い、賞与を減らすことはしてはいけません。7退職の前に残りの有給休暇を使っていて、そのあいだに支給日が来ても、在籍していることに変わりはありません。額面から引かれる保険料と税は、ボーナスの手取り早見表で見られます。
支給日と伝える日、退職日を並べてみる
3つの日付のうち、先に決まっているのは支給日です。退職日は申し出の期限と引き継ぎ、有給休暇の残りを足して決まります。伝える日は、そこから逆算して出てくる日です。
支給日、伝える日、退職日の並べ方の例。規程の一文と延期で変わる作成: 編集部 / 出典: e-Gov法令検索、厚生労働省、中央労働委員会
規程が「支給日に在籍」だけなら、伝える日は支給日の前でも後でもかまいません。退職日が支給日よりあとにあれば、条件は満たせます。図では支給日を12月10日に、申し出の期限を辞める1か月前に置きました。上司に話す日は、引き継ぎの都合で選んでいいのです。
「退職を予定している者」の一文がある規程だと、伝える日が支給日の前か後かで、扱いが分かれてしまいます。いつから「予定している」とみるかは、会社の運用しだい。読んでもよく分からないときは、規程の文面を持って、労働基準監督署か総合労働相談コーナーに相談できます。
どちらの規程でも、退職日を支給日の翌日のような、ぎりぎりの日に置かないほうが無難でしょう。図のCのように、支給日が延びると、退職日のほうが先に来てしまうからです。
冬のあとの期間にも、目を向けておきたいところです。冬の支給日のあとに働く月は、次の夏の賞与の算定対象期間に入ることがあります。支給日在籍の規程なら、その月を働いても、夏の支給日の前に辞めれば夏の分は出ません。辞めるまでの分を払う定めがあるかどうかも、同じ条で見ておけます。
法律の線は一本だけ。期間の定めのない雇用なら、民法では、辞めると申し入れてから2週間で雇用が終わります。8でも、引き継ぎと有給休暇の消化まで2週間に収めるのは、なかなか難しいはずです。上司への切り出し方と話す順番は、退職の切り出し方の記事で順を追って説明しました。
伝える日を決める手順
規程を開いたら、次の順で進めていきます。
- 就業規則か賃金規程で、賞与の条を開く。
- 「だれに」の一文を、手帳に書き写す。
- 今年の冬の支給日を、社内の案内で確認する。
- 退職の章で、申し出の期限を確認する。
- 勤怠システムで、有給休暇の残りの日数を見る。
- 退職日を支給日より後ろに置き、期限と引き継ぎの期間をさかのぼって、伝える日を出す。
書き写した一文に「退職を予定している」の言葉があるかどうか。6の数え方はそこで変わります。今の会社に勤めながら次を探している人は、在職中の転職活動にある入社日の出し方と重ねて使えます。
迷ったら、年内のうちに相談する
自分の場合がはっきりしないときは、ひとりで抱えなくていいのです。総合労働相談コーナーは、労働局や労働基準監督署の中などにあって、全国に378か所。予約はいらず、無料で話を聞いてもらえます。9
ボーナスを受け取ってから辞めることに、引け目を感じる人もいるかもしれません。でも、規程に書かれた条件に沿って日付を選んでいるだけです。支給日、伝える日、退職日。3つが手帳に並べば、上司に話す日は、自分で選んだ日になります。
法律はe-Gov法令検索で、ほかの資料は厚生労働省と中央労働委員会のサイトで、2026年10月31日に確認しました。日付の並べ方はひとつの例で、実際の扱いは会社の規程によります。