社内ポータルで就業規則のPDFを開いて、「副業」で検索する。結果は0件。では、副業は自由に始めていいのでしょうか。
そうとは限りません。副業の決まりは、「副業・兼業」という章のほかに、服務規律の遵守事項や懲戒の事由の中に、「他の会社等の業務に従事しない」のような言葉で書かれていることがあるからです。厚生労働省のモデル就業規則も、2018年1月に改定されるまでは、副業の決まりを遵守事項の1行にしていました。1
読む場所は3か所。条文の書き方を見れば、自分の会社が禁止なのか、許可制なのか、届出制なのかが見分けられます。
副業の決まりは、3か所に分かれている
副業を始める前に、自分の会社の就業規則を読むイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
厚生労働省のパンフレットは、働く人に向けて「既に会社で働いている人が、副業・兼業を行うことが可能かどうかは会社によって異なります。」と書いています。2友人の会社の話やネットの体験談ではなく、自分の会社の規則が答えになるのです。
就業規則には、社員がいつでも見られるようにしておく決まりがあります。職場への掲示や備え付け、書面の配布、パソコンでいつでも見られるようにする方法のどれかです。3入社のときにもらった書類や、社内ポータルの規程集を探してみてください。見つからなければ、人事や総務に置き場所を聞いてかまいません。
合理的な内容の就業規則が周知されていれば、その内容は一人ひとりの労働契約の中身にもなります。4副業の扱いも、その一部です。
常時10人以上が働く事業場には、就業規則を作って届け出る義務があります。510人に満たない職場で規則が無ければ、雇用契約書や労働条件通知書を読みます。
パートや契約社員の人は、自分に当てはまる規則が本体とは別になっていることもあります。モデル就業規則も、パートタイム労働者の就業に関する事項は「別に定めるところによる」としています。6規則の最初にある適用範囲の条で、自分がどの規則の対象かを先に見ておくと迷いません。
規則を開いたら、次の3か所を順に読みます。
- 「副業・兼業」の章や条を探す。今のモデル就業規則には、この章があります。
- 服務規律の「遵守事項」を読む。改定前のモデルは、ここに「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」と書いていました。
- 懲戒の事由を読む。改定前のモデルは、遵守事項に違反したときを、けん責や減給、出勤停止の事由にしていました。
2か所目と3か所目はセットで読みます。遵守事項で副業を許可制にし、守らなかったときの処分を懲戒の事由に置く。改定前のモデルは、そういう組み立てでした。
だから、検索の言葉も「副業」だけでは足りません。「兼業」「他の会社」「従事」「許可」「届出」でも探してみてください。
冒頭の0件のPDFも、どれかの言葉で見つかるかもしれません。
「できる」か「しないこと」かで、型を見分ける
見つけた条文はまず、文の終わり方で読み分けます。「〜できる」で終わるのか、「〜してはならない」「〜しないこと」で終わるのか。次に、「許可」と「届出」のどちらの言葉が入っているかを見ます。
表の文言はモデル就業規則の条文と、編集部が作った例です。実在の会社の規則ではありません。
| 文言の例 |
型 |
読み方 |
次にすること |
| 「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」のあとに、届出に基づいて会社が禁止や制限をできる場合が続く(今のモデル就業規則) |
届出制 |
原則としてできる。届け出た中身が制限の場合に当たるときだけ、会社が禁止や制限をする |
始める前に、決められた方法で届け出る |
| 「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」(改定前のモデルの遵守事項) |
許可制 |
会社の許可を得てから始める |
許可を申し出て、返事を待つ |
| 副業をするときは事前に届け出ること。ただし、同業の会社で働くときは許可を要する(作成例) |
届出制と許可制の組み合わせ |
副業の中身で、手続きが分かれる |
自分の副業がどちらに入るかを読む |
| 在職中は、他の会社等の業務に従事してはならない(作成例) |
禁止 |
文言の上では一律に禁止 |
認められる余地があるかを人事に聞く |
| 副業に触れた条文が見当たらない |
定めなし |
規則からは判断できない |
契約書を読み、人事に確認する |
読み違えやすいのは1行目の届出制です。
届け出れば何をしてもよい、という意味ではありません。同じ条の中に、会社が禁止や制限をできる場合が書かれています。今のモデル就業規則が挙げるのは、次の4つです。7
- 労務提供上の支障がある場合
- 企業秘密が漏洩する場合
- 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- 競業により、企業の利益を害する場合
硬い言葉が並びますね。
ふだんの言葉に直すと、本業に差し支えるほど働く、会社の秘密を持ち出す、会社の評判を落とす、本業の会社と競り合う、の4つです。許可制でも届出制でも、自分の副業がこのどれにも当たらないと説明できれば、話はぐっと進めやすくなります。
懲戒の事由も、最後に目を通しておきます。改定前のモデルのように「第○条に違反したとき」と条の番号だけを書く形なら、その条に副業の1行がないかをたどります。副業を名指しした事由があれば、手続きを飛ばしたときの処分が、規則にはっきり書かれているということです。
就業規則の副業の決まりを読む3か所と、禁止・許可制・届出制の見分け方作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「モデル就業規則」「副業・兼業の促進に関するガイドライン」ほか
「禁止」と書いてあっても、そこで終わりではない
規則に「従事してはならない」とあると、それだけで諦めたくなりますよね。
でも、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、裁判例を踏まえて「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり」と書いています。会社が制限できるのは、例えば先ほどの4つに当たる場合です。そのうえで、副業を禁止したり一律に許可制にしたりしている企業には、自社の業務に支障があるかを精査し、なければ原則として認める方向で検討することを求めています。8
ただし、これは会社に向けた考え方です。規則の「禁止」が、それだけで効かなくなるわけではありません。ガイドラインのQ&Aも、禁止や制限が妥当かどうかは「個々のケースに応じて慎重に判断されるもの」としています。9
モデル就業規則の解説が紹介する裁判例にも、両方の結論があります。10
- 運送会社が、準社員のアルバイトの許可申請を4度断った事案。後の2回は断る理由がなかったとして、損害賠償の請求が慰謝料の分だけ認められました。
- 大学の教授が、許可を得ずに語学学校で教えていた事案。夜間や休日の副業で本業への支障は認められないとして、懲戒解雇は無効とされました。
- 毎日6時間、深夜に及ぶ無断の兼業を理由にした解雇。裁判所は、会社への労務の提供に支障を来すおそれが高いとして、解雇を有効と判断しました。
禁止と書かれた会社で、黙って始めるのはいちばん避けたい道です。
人事に、どんな副業なら認められる余地があるかを聞くところから始めるのが近道でしょう。ガイドラインは、副業について相談や自己申告をしたことを理由に、不利益な取扱いをすることはできないとしています。
雇われる副業か、業務委託の副業か
届出や許可の申し出に何を書くかは、副業が雇われて働く仕事か、そうでない仕事かで変わります。
業務委託で受ける仕事も、副業に入ります。モデル就業規則の解説によると、副業・兼業には、ほかの会社に雇われる形のほか、事業主として行うものや、請負・委託・準委任の契約で行うものも含みます。11週末に受けるデザインや文章の仕事も、規則の上では届出や許可の対象になりえます。
雇われて働く副業なら、労働時間の話がついてきます。労働基準法は、事業場が違っても労働時間を合わせて数えると定めていて、事業主が違う場合も含みます。12本業と副業を合わせて1日8時間、週40時間を超えた部分は法定外の労働です。時間外と休日の労働の合計には、単月100時間未満、複数月平均80時間以内の上限もかかります。13会社が副業先の所定労働時間や始業と終業の時刻を聞くのは、この通算のためなのです。
業務委託や起業のように雇われない副業では、労働時間は通算されません。それでもガイドラインは、長時間にならないよう配慮することが望ましいとしています。何曜日の何時ごろ、月に何時間ほど使うのかを書き出しておくと、人事との話が早く進みます。
厚生労働省が公開している「副業・兼業に関する届出様式例」の欄を並べると、そろえておく情報が見えてきます。14
- 副業の形態(雇用か、非雇用か。非雇用なら業務の内容)
- 副業先の事業所の名称と住所
- 副業先の事業内容と、自分が受け持つ業務の内容
- 労働契約の締結日と契約期間
- 所定労働日、所定労働時間、始業と終業の時刻
- 所定外労働の見込み(1日、週、1か月の時間)
2行目から下の欄は雇われる副業のときに書くものです。様式例には、内容が変わったら届け出ることと、必要に応じて副業先での実労働時間を報告することへの確認も入っています。
副業を届け出る前・許可を申し出る前にそろえること作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」「副業・兼業に関する届出様式例」・労働基準法
人事に聞くとき、許可や届出を出すときの文例
いきなり申請書を出す前に、手続きを一度聞いておくと、行き違いが減ります。会社に決まった様式があれば、そちらを使ってください。数字や名前は、自分の場合に置き換えて使えます。
許可の文例には、さきほど挙げた4つの場合に当たらない理由を、一文ずつ入れました。本業への支障は時間で、秘密は情報の扱いで、名誉や信用は仕事の中身で、競業は相手先で説明する形です。人事が知りたいことに先回りして答えておくと、確認のやりとりが1往復で済むかもしれません。
副業を始める前の確認表
最後の控えは地味ですが、あとで効いてきます。様式例が、内容が変わったら届け出ることを確認事項にしているように、副業の手続きは最初の1回で終わりではありません。時間を増やす、相手先が変わる。そんなときも、前に出した内容があれば、何が変わるのかをすぐに伝えられます。
0件の検索から、堂々と始められる副業へ
規則の読み方で迷ったら、まず人事や総務に聞きます。社内では聞きにくいときは、都道府県労働局や労働基準監督署などにある総合労働相談コーナーで、予約なし、無料で相談できます。15税金は窓口が別で、所得税は税務署、住民税は住んでいる市区町村です。税金の準備は副業の確定申告の準備で、会社が副業の決まりを作る側の考え方は副業の割合と、副業届の決め方で説明しています。
「副業」で0件だったPDFも、3か所を読めば、会社の考え方が見えてきます。手続きを踏んで始めた副業なら、そこで身につけたことを、本業の面談でも隠さずに話せます。
この記事は、2026年10月29日時点の労働基準法と、厚生労働省のガイドライン、モデル就業規則(令和7年12月)で確認した内容です。自分の事情での判断に迷うときは、社会保険労務士や弁護士に相談してください。