オフィスの移転が決まると、総務の担当者は物件や内装の段取りと並行して、役所への届け出を期限内に済ませることになります。届け出先は法務局・税務署・年金事務所・労働基準監督署・ハローワーク・消防署などに分かれ、期限も「5日以内」から「1か月以内」までばらばらです。この記事では、各機関の公式の案内で2026年10月20日に確かめた届け出先と期限を一覧にし、移転の6か月前から移転後1か月までの段取りと、お知らせの文例をまとめます。
オフィス移転の届け出先と期限の一覧
本社(登記上の本店)を移す株式会社を例に、主な届け出を並べました。期限の数え始めは、どれも実際に移転した日です。
オフィス移転の届け出先と期限の早見表。年金事務所の5日以内がいちばん短い作成: 編集部 / もとの資料: 法務局・国税庁・日本年金機構・厚生労働省・東京都主税局・東京消防庁・日本郵便ほか
| 届け出先 |
届け |
期限 |
出す先・注意 |
| 法務局 |
本店移転の登記 |
移転した日から2週間以内 |
管轄の外へ移るときは、新旧あての申請書2通を旧本店の登記所へ同時に出す |
| 税務署 |
異動届出書 |
移転後すみやかに |
異動前の納税地の税務署 |
| 税務署 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 |
移転した日から1か月以内 |
移転前の所在地の税務署 |
| 都道府県・市区町村 |
法人住民税・事業税の異動の届け |
自治体ごとに違う |
例: 東京都は変更の日から10日以内に都税事務所へ |
| 市区町村 |
住民税の特別徴収義務者の所在地の変更 |
自治体ごとに違う |
社員が住む市区町村へ。例: 名古屋市は変更後すみやかに |
| 年金事務所 |
健康保険・厚生年金保険 適用事業所名称/所在地変更(訂正)届 |
事実発生から5日以内 |
管轄の外へ移るときは、変更前の所在地の年金事務所 |
| 労働基準監督署 |
労働保険 名称、所在地等変更届 |
変更の翌日から10日以内 |
移転後の所在地の労働基準監督署(一元適用事業) |
| ハローワーク |
雇用保険事業主事業所各種変更届 |
変更の翌日から10日以内 |
移転後の所在地のハローワーク。労働保険の届けの控えを添える |
| 消防署 |
防火対象物使用開始届出書 |
使用開始の7日前まで(東京消防庁) |
入居する会社が出す。使い始める前に検査を受ける |
| 消防署 |
防火対象物工事等計画届出書 |
工事の着手の7日前まで(東京消防庁) |
内装工事をするとき |
| 消防署 |
防火管理者の選任の届け |
選任したら遅滞なく |
事務所だけの建物は収容人員50人以上で選任が要る |
| 日本郵便 |
転居届 |
移転の前に(登録まで3〜7営業日) |
届出日から1年間、旧住所あての郵便物を転送 |
| 社用車 |
変更登録の申請 |
15日以内 |
所有者の住所や使用の本拠の位置が変わったとき |
期限が短いのは、年金事務所の5日と、労働保険・雇用保険の10日です。移転日が決まったら、その日から数えた期限をカレンダーに書き込んでおきます。役所に郵送で出すときの添え状は、送付状の書き方 例文とテンプレート 郵送・FAXで入れる項目と封入の順番を参考にしてください。
法務局 本店移転の登記は2週間以内
管轄の中か外かで、申請書と登録免許税が変わる
会社の本店の所在場所が変わったときは、2週間以内に本店の所在地で変更の登記をします(会社法第915条第1項)。ほかの登記所の管轄へ移したときは、2週間以内に、旧所在地で移転の登記を、新所在地で登記事項の登記をします(第916条)。
| 移る先 |
申請書 |
登録免許税 |
| 今の登記所の管轄の中 |
1通 |
3万円 |
| ほかの登記所の管轄 |
旧本店あてと新本店あての2通を、そろえて旧本店の登記所に出す |
3万円ずつ、合わせて6万円 |
本店移転の登記は、実際に移転した日より前には申請できません(法務局の記載例)。登記を怠ると、取締役などが100万円以下の過料に処されることがあります(第976条第1号)。
定款を変えるか、取締役会で決めるか
定款に本店の所在地を「○県○市に置く」と市区町村(最小行政区画)まで書いている会社が、同じ市区町村の中で移るときは、株主総会の決議は要りません。取締役会の決議(取締役会がない会社は取締役の過半数の一致)で移転を決めます。定款に書いた市区町村の外へ移るときは、先に株主総会の特別決議で定款を変えます。定款の変更の進め方は定款とは 記載事項と写しを提出する場面・定款変更の手続きを図解でまとめています。
印鑑は引き継がれ、印鑑カードは新しく受け取る
2025年4月21日から、ほかの登記所の管轄へ本店を移すときは、旧所在地の登記所が印鑑の記録を新所在地の登記所へ送るようになりました(法務省)。新しい登記所あての印鑑届書は要りません。ただし印鑑カードは引き継がれないため、印鑑証明書が要るときは、登記が終わったあとに新しい登記所で印鑑カードを請求します。
申請してから登記が終わるまでの間は、原則として登記事項証明書と印鑑証明書が発行されません(法務局)。証明書が要りそうなら、申請の前に取っておきます。
税務署 異動届出書と給与支払事務所等の届出書
異動届出書は異動前の税務署へ
本店の移転で納税地が変わったら、異動届出書を、異動前の納税地の税務署に、移転後すみやかに出します。添付書類は要りませんが、内容を確かめるため定款などの写しを求められることがあります(国税庁 C1-8)。2017年4月1日以後の異動からは、異動後の税務署へ出す必要がなくなりました(e-Tax)。
この届出書の「消費税」の欄に印を付けて出せば、法人の消費税異動届出書や、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録簿の登載事項変更届出書を重ねて出す必要はありません(国税庁)。後日、インボイスの公表サイトの所在地が新しくなったかも確かめます。
給与支払事務所等の届出書は1か月以内
給与の支払いの事務をする事務所を移したときは、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を、移転した日から1か月以内に、移転前の所在地の税務署に出します(国税庁)。本店の異動届出書とは別の届けです。
e-Taxソフト(WEB版)の「法人設立及び異動手続の申請・届出」を使うと、納税地の異動の届けなどを作るときに、都道府県と市町村あての異動届の様式も一緒に作って送れます(e-Tax)。
都道府県・市区町村 地方税の届けは自治体の案内で確かめる
法人住民税と事業税の異動の届けは、出す先・様式・期限が自治体ごとに違います。例えば東京都は、変更の日から10日以内に異動届出書を都税事務所へ出すよう案内しています。都内での移転なら、異動前と異動後のどちらかの都税事務所に出せば足ります。ほかの道府県から都内へ本店を移すときは、異動届出書ではなく法人設立・設置届出書になります(東京都主税局)。移転する前と後の、両方の自治体の案内を確かめましょう。
社員の住民税を給与から天引き(特別徴収)している会社は、社員が住む市区町村へ、会社の所在地が変わったことも届けます。様式の名前は市区町村ごとに違います。名古屋市は「特別徴収義務者所在地等変更届出書」を変更後すみやかに出すよう案内し、この届けとは別に法人市民税の異動届出書も要るとしています(名古屋市)。
年金事務所・労働基準監督署・ハローワーク 5日以内と10日以内
年金事務所 適用事業所名称/所在地変更(訂正)届は5日以内
健康保険と厚生年金保険の適用事業所が移ったら、事業主が「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を、事実発生から5日以内に出します。同じ年金事務所の管轄の中で移るか、外へ移るかで、届書の記入内容が違います(日本年金機構)。
| 移る先 |
出す先 |
法人の添付書類 |
| 同じ年金事務所の管轄の中 |
事務センターか管轄の年金事務所 |
登記簿謄本のコピー(提出日からさかのぼって90日以内に発行) |
| 管轄の外 |
変更前の所在地を管轄する年金事務所 |
同じ |
出し方は電子申請・郵送・窓口持参です。管轄の外へ移るときも、新しい年金事務所へ改めて届ける必要はありません。事業所の所在地が登記上の所在地と違うときは、賃貸借契約書のコピーなど所在地を確かめられる書類を添えます。登記の完了前に出すときは、この扱いでよいかを年金事務所に確かめます。
労働基準監督署とハローワークは10日以内に順に出す
労働保険(労災保険と雇用保険)は、変更のあった日の翌日から数えて10日以内に、2つの届けを出します(厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」令和8年8月版)。建設の事業や農林水産の事業など(二元適用事業)を除くすべての事業は一元適用事業で、次の順に出します。
- 移転後の所在地を管轄する労働基準監督署に「労働保険 名称、所在地等変更届」を出す
- 移転後の所在地を管轄するハローワークに、1の控えを添えて「雇用保険事業主事業所各種変更届」を出す
雇用保険の変更届には、原則として添付書類は要りません。内容を確かめるため登記事項証明書などを求められることがありますが、届に法人番号を書けば登記事項証明書は省けます。労働保険事務組合に事務を任せている会社は、まず組合に連絡します。
消防署と郵便 新しいオフィスを使い始める前に
防火対象物使用開始届出書は使用開始の7日前まで
東京消防庁の管内では、建物やその一部を使い始める7日前までに防火対象物使用開始届出書を管轄の消防署へ出し、使用開始の前に検査を受けます(火災予防条例第56条の2)。届け出るのは、工事業者ではなく、実際に入居する会社です。
間仕切りの変更などの内装工事をするときは、工事に着手する7日前までに防火対象物工事等計画届出書も出します(同第56条)。ほかの地域では、その市町村の火災予防条例と消防本部の案内で、届けの名前と期限を確かめます。
防火管理者は収容人員で決まる
事務所だけの建物では、出入りし勤務する人の数(収容人員)が50人以上になると、建物の管理について権原を持つ人が防火管理者を選び、消防計画を作らせます(消防法第8条・同施行令第1条の2)。選んだら、遅滞なく消防署に届け出ます。飲食店などが入るビルは基準が違うため、自社で選ぶ必要があるかをビルの管理会社と消防署に確かめます。
郵便の転居届は登録まで3〜7営業日
日本郵便の転居届は、会社や団体も出せます。届出日から1年間、旧住所あての郵便物などを新住所へ無料で転送します。登録までに3〜7営業日かかるため、移転日の前に出します(日本郵便)。郵便の受け取りの決まりは郵便・宅配便の受け取りと社内配布 ルールの作り方と書留・親展の扱いで紹介しています。
許認可・社用車・取引先 会社ごとに違う届け
- 許認可: 建設業の許可、宅地建物取引業の免許、労働者派遣事業の許可など、所在地を届けている許認可は、変更の届けと期限をそれぞれの手引きで確かめます。
- 社用車: 所有者の住所や使用の本拠の位置が変わったら、15日以内に変更登録を申請します(道路運送車両法第12条)。車検証の所有者がリース会社の車は、リース会社に相談します。
- 銀行・保険・リース・取引先: 届けている住所の変更を、それぞれの書式で出します。
- 給与: 通勤経路が変わる社員は、通勤手当も変わります。日本年金機構は、固定的な手当の支給額の変更を、随時改定(月額変更届)の要件となる固定的賃金の変動の例に挙げています。対象になる人がいないか、給与計算の担当と確かめます。
移転の6か月前から移転後1か月までの段取り
届けの期限から逆算し、移転の半年前から動き始める段取りを図にしました。
オフィス移転の段取り。6か月前の契約の確認から移転後1か月の届けまで作成: 編集部 / もとの資料: 法務局・国税庁・日本年金機構・厚生労働省・東京消防庁・日本郵便ほか
6か月前 今の契約を確かめ、担当と予算を決める
- 今の賃貸借契約の解約予告の期間と、原状回復の範囲を契約書で確かめる
- 移転の責任者と担当、予算、移転日の候補を決める
- 新しいオフィスの条件をまとめ、物件を探す
解約の通知が遅れると、新旧のオフィスの賃料を長く二重に払うことになりかねません。
4〜5か月前 契約と内装・回線を手配する
- 新しいオフィスの賃貸借契約を結び、今のオフィスに解約を通知する
- レイアウトと内装の工事を発注する
- インターネット回線・電話・複合機の移設を申し込み、電話番号が変わるかを通信会社に確かめる
- 入館証や鍵の手配を管理会社と決める
2〜3か月前 業者を決め、お知らせの準備をする
- 引っ越し業者の見積もりを取り、決める
- 社内へ移転日と準備の流れを案内する
- 取引先へのお知らせの文面と送り先の一覧を作る
- 名刺・封筒・Webサイトなどの住所の差し替えを準備する
- 内装工事をするなら、東京消防庁の管内では着手の7日前までに工事等計画届出書を出す
1か月前〜前日 届けと荷造り
- 取引先へお知らせを送る
- 郵便の転居届を出す(登録まで3〜7営業日)
- 防火対象物使用開始届出書を出す(東京消防庁の管内は使用開始の7日前まで)
- 不要な書類を処分し、荷造りと配線の計画を固める
移転日〜2週間 期限の短い届けから出す
- 年金事務所の届け(5日以内)
- 労働基準監督署とハローワークの届け(10日以内)
- 本店移転の登記(2週間以内)
- 社用車の変更登録(15日以内)
- 税務署の異動届出書(すみやかに)と地方税の届け(自治体の期限)
1か月以内 残りの届けと住所の切り替え
- 給与支払事務所等の届出書(1か月以内)
- 銀行・保険・リース・取引先に登録の住所の変更を出す
- 印鑑証明書が要るなら、新しい登記所で印鑑カードを請求する
- 旧オフィスの原状回復と明け渡しを、契約の期日までに済ませる
取引先と社内へのお知らせ 文例
取引先へは、一般的には移転の1〜2か月前に、メールか書面で知らせます。電話番号やFAX番号が変わるときは、新しい番号を使い始める日も書きます。請求書の送り先など、相手の登録を変えてもらう必要がある取引先には、早めに個別に伝えると行き違いが減ります。
書面で送るときの例です。
社内には、締め切りを番号付きで知らせます。
今日からできること
移転日が決まる前から、次の5つを進められます。
- 今の賃貸借契約書を出して、解約予告の期間と原状回復の範囲に印を付ける
- 定款の本店の書き方(市区町村までか)と、本店の登記上の住所を確かめる
- この記事の一覧を写し、自社に当てはまる届け(許認可・社用車・健康保険組合など)を書き足す
- 移転する前と後の自治体の地方税の案内と、消防本部の届けの期限を調べる
- 取引先と届けている住所の一覧(銀行・保険・リース・Webサービス)を作り始める
この記事は、2026年10月20日時点の法令と、各機関・自治体の公表資料にもとづいています。登記・税・社会保険の個別の判断は、司法書士・税理士・社会保険労務士や、それぞれの窓口に確かめてください。