「次の期に、何人採るか」。採用計画を立てるときは、自社の事情だけでなく、世の中の人手不足の強さを知っておくと、人数と時期と待遇を決めやすくなります。その物差しになるのが、日本銀行「短観」の雇用人員判断DIです。
日本銀行は2026年10月1日に、第210回の短観(2026年9月調査)を公表しました。この記事では、業種別と規模別の数字、10年の推移、厚生労働省の有効求人倍率の職業別、中小企業白書の要点を並べ、最後に自社の採用計画への使い方をまとめます。
雇用人員判断DIとは 何を聞いて、どう読む数字か
短観は、日本銀行が年4回(3月・6月・9月・12月)行う、全国の企業へのアンケートです。2026年9月調査の対象は9,104社で、回答率は99.4%でした。回答期間は8月26日から9月30日です。
その中に「雇用人員」の質問があります。自社の雇用人員を「過剰」「適正」「不足」から選び、「過剰」と答えた会社の割合から「不足」と答えた会社の割合を引いた値が、雇用人員判断DIです。単位は「ポイント」です。
| 項目 |
内容 |
| 計算 |
「過剰」の割合 - 「不足」の割合(%ポイント) |
| 読み方 |
マイナスが大きいほど、不足と答えた会社が多い |
| 例 |
-38は、不足と答えた会社が過剰と答えた会社より、38ポイント多い |
| 「最近」 |
調査した時点の判断 |
| 「先行き」 |
3か月後(2026年9月調査なら2026年12月)の見通し |
| 規模の分け方 |
資本金で、大企業は10億円以上、中堅企業は1億円以上10億円未満、中小企業は2千万円以上1億円未満 |
出典: 日本銀行「短観(概要)2026年9月」、日本銀行「短観 よくある質問」。
調べ方は2通りです。最新の数字は、日本銀行の短観のページの「概要」と「全容」にあります。概要は規模別、全容のExcel(all2609a.xlsx)の「g.雇用人員」は、業種別×規模別まで載っています。過去の長い推移は時系列統計データ検索サイトで、系列を選んで取り出せます。
2026年9月調査 規模別の雇用人員判断DIと先行き
全産業の最新の値です。大企業は-29、中堅企業は-38、中小企業は-42で、規模が小さいほど不足が強くなっています。先行き(2026年12月)は、どの規模もさらにマイナスが大きくなる見通しです。
| 規模 |
2026年6月調査(最近) |
2026年9月調査(最近) |
先行き(12月) |
| 大企業 |
-28 |
-29 |
-31 |
| 中堅企業 |
-38 |
-38 |
-40 |
| 中小企業 |
-39 |
-42 |
-45 |
| 全規模合計 |
-37 |
-38 |
-41 |
出典: 日本銀行「短観(概要)2026年9月」5 雇用。
製造業と非製造業に分けると、非製造業の方が不足が強い状況です。
| 区分 |
大企業 |
中堅企業 |
中小企業 |
全規模合計 |
| 製造業(最近) |
-22 |
-30 |
-32 |
-29 |
| 製造業(先行き) |
-27 |
-33 |
-37 |
-34 |
| 非製造業(最近) |
-37 |
-44 |
-47 |
-44 |
| 非製造業(先行き) |
-37 |
-45 |
-50 |
-47 |
出典: 同上。
業種別 建設・宿泊飲食・運輸が特に不足
全規模合計の業種別です。日本銀行の統計表(全容)から、主な業種を取り出しました。
業種別の雇用人員判断DI(全規模・2026年9月調査と12月の先行き)作成: 編集部 / もとの資料: 日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」2026年9月調査
非製造業の中では、建設が-62、宿泊・飲食サービスが-58、運輸・郵便が-56、対個人サービスが-50、対事業所サービスが-47と、不足が強い業種が並びます。製造業の業種は-23から-44の間で、造船・重機等(自動車以外の輸送用機械)が-44、はん用機械が-41と強く、電気機械は-23でした。
| 業種 |
最近(2026年9月) |
先行き(12月) |
1年前(2025年9月) |
| 建設 |
-62 |
-67 |
-60 |
| 宿泊・飲食サービス |
-58 |
-61 |
-62 |
| 運輸・郵便 |
-56 |
-61 |
-59 |
| 対個人サービス |
-50 |
-51 |
-46 |
| 対事業所サービス |
-47 |
-50 |
-48 |
| 小売 |
-42 |
-43 |
-43 |
| 物品賃貸 |
-40 |
-45 |
-37 |
| 情報通信 |
-34 |
-34 |
-39 |
| 卸売 |
-32 |
-35 |
-30 |
| 不動産 |
-25 |
-26 |
-26 |
| 電気・ガス |
-21 |
-25 |
-24 |
| 造船・重機等 |
-44 |
-52 |
-44 |
| はん用機械 |
-41 |
-41 |
-28 |
| 金属製品 |
-37 |
-41 |
-28 |
| 鉄鋼 |
-35 |
-34 |
-22 |
| 輸送用機械 |
-32 |
-37 |
-28 |
| 生産用機械 |
-31 |
-37 |
-19 |
| 食料品 |
-26 |
-31 |
-29 |
| 電気機械 |
-23 |
-28 |
-11 |
| 製造業計 |
-29 |
-34 |
-24 |
| 非製造業計 |
-44 |
-47 |
-44 |
| 全産業 |
-38 |
-41 |
-36 |
出典: 日本銀行「短観(2026年9月調査)全容」統計表a(雇用人員)。1年前は2025年9月調査の「最近」。
1年前と比べると、製造業の多くの業種で不足が強まりました。製造業計は-24から-29、電気機械は-11から-23、生産用機械は-19から-31です。一方、非製造業計は-44のままで、情報通信は-39から-34、宿泊・飲食サービスは-62から-58と、少し和らいだ業種もあります。
大企業と中小企業の差 業種によっては逆になる
規模別に見ると、全産業は中小企業が大企業より13ポイント不足しています。業種別に見ても、多くの業種で中小企業の方が不足が強くなっています。
大企業と中小企業の雇用人員判断DIの差(業種別・2026年9月調査)作成: 編集部 / もとの資料: 日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」2026年9月調査
| 業種 |
大企業 |
中小企業 |
差 |
| 運輸・郵便 |
-42 |
-63 |
中小企業が21ポイント不足 |
| 小売 |
-32 |
-48 |
中小企業が16ポイント不足 |
| 対個人サービス |
-38 |
-52 |
中小企業が14ポイント不足 |
| 対事業所サービス |
-32 |
-46 |
中小企業が14ポイント不足 |
| 物品賃貸 |
-36 |
-48 |
中小企業が12ポイント不足 |
| 情報通信 |
-28 |
-38 |
中小企業が10ポイント不足 |
| 宿泊・飲食サービス |
-54 |
-59 |
中小企業が5ポイント不足 |
| 卸売 |
-26 |
-30 |
中小企業が4ポイント不足 |
| 不動産 |
-22 |
-18 |
大企業が4ポイント不足 |
| 建設 |
-73 |
-60 |
大企業が13ポイント不足 |
出典: 日本銀行「短観(2026年9月調査)全容」統計表a(雇用人員)。差は編集部が計算。
運輸・郵便は、大企業-42に対し中小企業-63と、差が21ポイントで最も大きい業種です。建設は反対に、大企業-73、中小企業-60で、大企業の方が不足と答えた会社が多くなっています。どちらも理由はアンケートの数字からは分かりません。自社の業種で差の向きを確かめておくことが大切です。
過去10年の推移 コロナで一度ほぐれ、また強まった
全産業の規模別の推移です。2016年3月から2026年9月までの実績と、2026年12月の先行きを並べました。
雇用人員判断DIの推移(全産業・規模別・2016年3月〜2026年12月先行き)作成: 編集部 / もとの資料: 日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」2026年9月調査
| 調査 |
大企業 |
中堅企業 |
中小企業 |
全規模 |
| 2016年3月 |
-11 |
-21 |
-20 |
-18 |
| 2018年3月 |
-22 |
-34 |
-37 |
-34 |
| 2019年3月 |
-23 |
-35 |
-39 |
-35 |
| 2020年3月 |
-20 |
-28 |
-31 |
-28 |
| 2020年6月 |
-3 |
-6 |
-7 |
-6 |
| 2021年9月 |
-8 |
-16 |
-20 |
-17 |
| 2022年9月 |
-17 |
-27 |
-32 |
-28 |
| 2023年9月 |
-24 |
-34 |
-36 |
-33 |
| 2024年9月 |
-28 |
-37 |
-38 |
-36 |
| 2025年9月 |
-28 |
-37 |
-39 |
-36 |
| 2026年9月 |
-29 |
-38 |
-42 |
-38 |
| 先行き(2026年12月) |
-31 |
-40 |
-45 |
-41 |
出典: 日本銀行「短観」各年12月調査と2026年9月調査の統計表(雇用人員・全産業の実績)。2026年12月は2026年9月調査の先行き。
流れは次のとおりです。
- 2016年から2019年にかけて、不足が強まりました。中小企業は2016年3月の-20から、2019年3月の-39まで下がりました。
- 2020年6月は、新型コロナの影響で、大企業-3、中堅企業-6、中小企業-7まで、不足感が大きく和らぎました。
- 2021年から再び強まりました。大企業は2021年9月の-8から、2023年9月の-24、2024年9月の-28へと下がりました。
- 2024年以降、大企業は-28から-29と、横ばいに近い動きです。中小企業は-38から-42と、じわじわ強まっています。
この10年で、中小企業は2016年3月の-20から2026年9月の-42へ、22ポイント下がりました。同じ期間に大企業は-11から-29へ、18ポイント下がっています。大企業との差は、2016年3月の9ポイントから、2026年9月の13ポイントに広がりました。
ほかの公的な統計で確かめる 労働経済動向調査と有効求人倍率
短観の数字は、会社の「感覚」です。厚生労働省の統計で、同じ方向かどうかを確かめます。1〜2つに絞ると、次の2つです。
労働経済動向調査 労働者過不足判断DI
厚生労働省の「労働経済動向調査」は、事業所に労働者の過不足を聞く調査です。こちらは短観と符号が逆で、「不足」から「過剰」を引くため、プラスが不足です。
2026年8月1日現在の正社員等の労働者過不足判断DIは、調査産業計で+47ポイントでした。パートタイムは+26ポイントです。
| 産業(2026年8月調査) |
正社員等 |
パートタイム |
| 調査産業計 |
+47 |
+26 |
| 運輸業,郵便業 |
+61 |
+29 |
| 建設業 |
+59 |
+5 |
| 学術研究,専門・技術サービス業 |
+59 |
+10 |
| 医療,福祉 |
+55 |
+31 |
| 情報通信業 |
+52 |
+6 |
| サービス業(他に分類されないもの) |
+51 |
+42 |
| 製造業 |
+45 |
+14 |
| 不動産業,物品賃貸業 |
+42 |
+24 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 |
+38 |
+32 |
| 宿泊業,飲食サービス業 |
+32 |
+34 |
| 金融業,保険業 |
+31 |
+8 |
| 卸売業,小売業 |
+26 |
+32 |
出典: 厚生労働省「労働経済動向調査(令和8(2026)年8月)の概況」表3・表4。
短観と同じく、運輸・建設で不足が強く出ています。違いも見えます。建設は正社員等+59に対しパートタイムは+5で、足りないのは正社員等です。卸売・小売は反対に、パートタイムが+32と、正社員等の+26を上回ります。宿泊・飲食サービスは正社員等+32、パートタイム+34で、どちらも同じくらい不足しています。正社員とパートのどちらが足りないかは、業種で違うと分かります。
一般職業紹介状況 職業別の有効求人倍率
厚生労働省は2026年10月2日に、令和8年8月分の一般職業紹介状況を公表しました。有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍です。求職者1人あたり、1.18件の求人がある計算です。
職業別の数字は、参考統計表にあります。次は、常用(パートを含む)の原数値で、職業計の有効求人倍率は1.06倍でした。
| 職業(令和8年8月) |
有効求人倍率 |
| 保安職業従事者 |
6.99倍 |
| 建設・採掘従事者 |
5.10倍 |
| うち建設躯体工事従事者 |
8.25倍 |
| うち土木作業従事者 |
6.71倍 |
| 建築・土木・測量技術者 |
5.71倍 |
| 介護サービス職業従事者 |
3.89倍 |
| 医療技術者 |
3.21倍 |
| 自動車運転従事者 |
2.54倍 |
| 社会福祉専門職業従事者 |
2.50倍 |
| 接客・給仕職業従事者 |
2.31倍 |
| 保健師,助産師,看護師 |
2.00倍 |
| 販売従事者 |
1.85倍 |
| 生産工程従事者 |
1.60倍 |
| 情報処理・通信技術者 |
1.33倍 |
| 事務従事者 |
0.37倍 |
| 職業計 |
1.06倍 |
出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表(常用・パートを含む・原数値)。
事務従事者は0.37倍で、求人より求職者の方が多い職業です。バックオフィスの事務職は、人が集まりやすい一方、建設や介護、運転の職種は、求人を出しても応募が少ない状況です。事務職の詳しい数字は、事務職の有効求人倍率・賃金・人数 データで見る2026年の今にまとめています。
中小企業白書は人手不足をどう見ているか
中小企業庁の「2026年版中小企業白書」は、2026年4月に閣議決定されました。中小企業基盤整備機構の情報サイトJ-Net21の紹介記事(2026年4月28日)によると、白書は次の点を指摘しています。
- 労働力人口の減少に伴い、中小企業の人手不足はさらに深刻化するおそれがある。
- 大企業と比べて賃上げの余力が乏しい中小企業は、賃上げの原資を確保することが課題になっている。
- 対策は、労働生産性を高めること。価格転嫁や高付加価値化で付加価値額を増やすことと、AIの活用・デジタル化で労働投入量を最適にすることが挙がっている。
短観の数字と合わせると、次のように読めます。中小企業は大企業より不足が強く、その差が広がっています。人を増やすだけでは追いつかないため、一人あたりの付加価値を上げる方向(仕事の見直しとデジタル化)も、同時に考えたいところです。白書の全文は中小企業庁の白書のページで読めます。人手不足の章は、全文で確かめてください。
賃上げの実態は、賃上げ率の推移 2026年の賃金引上げ実態調査の改定額と規模別・業種別のデータで、規模別・業種別に見られます。
数字を読むときの注意
- 回答は経営者や担当者の判断です。景気の見方が変わると、同じ人員でも答えが変わることがあります。
- 規模は資本金で分けています。従業員数の規模とは一致しません。
- 日本銀行は調査対象の会社を定期的に見直しています。長い期間を比べるときは、同じ資料(時系列統計データ検索サイト)で取り出した系列で見るのが確かです。この記事の10年の推移は、各年12月調査の公表表から転記しました。
- 先行きは見通しです。実際の12月調査は、次回の短観(2026年12月調査)で確かめられます。
今日からできること 自社の業種・規模の値を採用計画に使う手順
- 自社の業種と規模区分を決める。 日本銀行の統計表の業種名(建設、運輸・郵便、小売など)と、資本金による規模(大企業・中堅企業・中小企業)のどれに当たるかを確かめます。
- 短観の統計表で値を引く。 2026年9月調査の全容のExcel(all2609a.xlsx)で、雇用人員の表を開き、自社の業種×規模の「最近」と「先行き」を読みます。
- 前年と並べる。 前年同月の値と比べて、強まっているか和らいでいるかを見ます。1回の値ではなく、3〜4回分を並べます。
- 職種の有効求人倍率を見る。 一般職業紹介状況の参考統計表で、採りたい職種の倍率を確かめます。倍率が高い職種ほど、求職者1人あたりの求人が多く、応募が集まりにくくなります。目安として、3倍を超える職種は、募集の段取りを早めにします。
- 採用計画に落とす。 不足が強い業種・職種なら、募集の開始時期を早める、募集期間を長くする、待遇や条件を見直す、定着の施策に重点を置く、のどれを取るかを決めます。
- 毎期、更新する。 短観は年4回です。次の調査が出たら、同じ表の値を差し替えます。
採用は、人数を増やす話に見えますが、採ったあとに辞めない職場かどうかも同じくらい大切です。新卒の離職率は規模や産業で差があります。採用と定着を、一緒に計画に入れます。
まとめ
- 雇用人員判断DIは、マイナスが大きいほど人手が足りない。2026年9月調査は全産業-38、先行きは-41。
- 業種では建設-62、宿泊・飲食サービス-58、運輸・郵便-56が特に不足。規模では大企業-29、中小企業-42で、差は10年前の9ポイントから13ポイントに広がった。
- 業種だけでなく、職種の有効求人倍率と、正社員・パートの別も見ると、自社の採用の難しさが具体的に分かる。