最低賃金は、2021年度から5年続けて引上げ額が過去最高を更新しました(1978年度以降の時間額換算で比べた場合)。厚生労働省の資料で全国加重平均をたどると、2007年度の687円から2026年度の1,177円まで、20年で490円上がっています。この記事では、引上げ額と率の推移、都道府県の差、2026年度の都道府県別の額を図と表で整理し、来年度の引上げに備えて人件費を見込む手順をまとめます。
最低賃金の推移 全国加重平均は20年で490円上がった
地域別最低賃金は、都道府県ごとに1つずつ決まる時間額の最低賃金です。全国加重平均は、47都道府県の額を、それぞれが適用される労働者の数で重みづけして平均したものです。額は2002年度(平成14年度)から時間額だけで示され、それまでは日額と時間額を併せて示していました。
最低賃金(全国加重平均)の推移と引上げ額(2007〜2026年度)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「最低賃金(全国加重平均)の引上げ額と引上げ率の推移」
| 年度 |
全国加重平均 |
引上げ額 |
引上げ率 |
| 2026年度(令和8年度) |
1,177円 |
56円 |
5.0% |
| 2025年度(令和7年度) |
1,121円 |
66円 |
6.3% |
| 2024年度(令和6年度) |
1,055円 |
51円 |
5.1% |
| 2023年度(令和5年度) |
1,004円 |
43円 |
4.5% |
| 2022年度(令和4年度) |
961円 |
31円 |
3.3% |
| 2021年度(令和3年度) |
930円 |
28円 |
3.1% |
| 2020年度(令和2年度) |
902円 |
1円 |
0.1% |
| 2019年度(令和元年度) |
901円 |
27円 |
3.1% |
| 2018年度(平成30年度) |
874円 |
26円 |
3.1% |
| 2017年度(平成29年度) |
848円 |
25円 |
3.0% |
| 2016年度(平成28年度) |
823円 |
25円 |
3.1% |
| 2015年度(平成27年度) |
798円 |
18円 |
2.3% |
| 2014年度(平成26年度) |
780円 |
16円 |
2.1% |
| 2013年度(平成25年度) |
764円 |
15円 |
2.0% |
| 2012年度(平成24年度) |
749円 |
12円 |
1.6% |
| 2011年度(平成23年度) |
737円 |
7円 |
1.0% |
| 2010年度(平成22年度) |
730円 |
17円 |
2.4% |
| 2009年度(平成21年度) |
713円 |
10円 |
1.4% |
| 2008年度(平成20年度) |
703円 |
16円 |
2.3% |
| 2007年度(平成19年度) |
687円 |
14円 |
2.1% |
出典: 厚生労働省「最低賃金(全国加重平均)の引上げ額と引上げ率の推移」。
20年の動きは、4つの時期に分けると分かりやすくなります(編集部の整理)。
- 2007〜2015年度: 毎年7〜18円の引上げで、率は1〜2%台でした。
- 2016〜2019年度: 毎年25〜27円に増え、率は3%前後になりました。
- 2020年度: 引上げは1円でした。中央最低賃金審議会は、新型コロナウイルス感染症の拡大による経済・雇用への影響をふまえ、目安を示すことは困難で、現行の水準の維持が適当と答申しました。東京都・大阪府など7都道府県は額が据え置かれました。
- 2021年度以降: 28円、31円、43円、51円、66円と増え、2026年度は56円でした。
2021年度から2026年度までの5年の上げ幅は247円で、2006年度から2016年度までの10年の150円を大きく上回ります。
引上げ額の大きかった年 上位5つはすべて2022年度以降
| 順位 |
年度 |
引上げ額 |
引上げ率 |
全国加重平均 |
| 1 |
2025年度 |
66円 |
6.3% |
1,121円 |
| 2 |
2026年度 |
56円 |
5.0% |
1,177円 |
| 3 |
2024年度 |
51円 |
5.1% |
1,055円 |
| 4 |
2023年度 |
43円 |
4.5% |
1,004円 |
| 5 |
2022年度 |
31円 |
3.3% |
961円 |
厚生労働省の資料では、全国加重平均の引上げ額の最高は2025年度の66円です。引上げ率の最高は1980年度の7.0%で、これは当時の日額での率です(時間額では6.9%)。2026年度の56円は、1978年度に目安制度が始まってから2番目の大きさでした。
全国加重平均が初めて1,000円を超えたのは、2023年度の1,004円です。都道府県別に見ると、1,000円以上は2023年度に8都府県、2024年度に16都道府県で、2025年度には47都道府県すべてになりました。
最高額と最低額の差 2018年度の224円から195円へ
地域別最低賃金の最高額は、2002年度から2026年度まで、どの年も東京都です(2008年度は神奈川県と同じ額)。最低額の県は年によって変わり、2026年度は宮崎県の1,085円でした。
都道府県別の最低賃金(2026年度)と最高額・最低額の差の推移作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」
| 年度 |
最高額 |
最低額 |
差 |
最低額÷最高額 |
| 2006年度 |
719円(東京都) |
610円(青森県など4県) |
109円 |
84.8% |
| 2010年度 |
821円(東京都) |
642円(鳥取県など8県) |
179円 |
78.2% |
| 2014年度 |
888円(東京都) |
677円(鳥取県など7県) |
211円 |
76.2% |
| 2018年度 |
985円(東京都) |
761円(鹿児島県) |
224円 |
77.3% |
| 2022年度 |
1,072円(東京都) |
853円(青森県など10県) |
219円 |
79.6% |
| 2024年度 |
1,163円(東京都) |
951円(秋田県) |
212円 |
81.8% |
| 2025年度 |
1,226円(東京都) |
1,023円(高知県・宮崎県・沖縄県) |
203円 |
83.4% |
| 2026年度 |
1,280円(東京都) |
1,085円(宮崎県) |
195円 |
84.8% |
出典: 厚生労働省「平成14年度から令和8年度までの地域別最低賃金改定状況」から編集部が計算(比率は小数第2位を四捨五入)。厚生労働省の格差の推移の資料と同じ値です。
差は2006年度の109円から広がり、2018年度の224円が最も大きくなりました。そのあとは縮み、2026年度は195円です。厚生労働省も、差は2019年度からやや減る傾向、最低額÷最高額は2014年度以降上がる傾向にあるとしています。
2026年度の84.8%は12年連続の改善で、比率では2006年度と同じ水準です。ただし、円で見た差は2006年度より86円大きいままです。
差が縮んだのは、最低額の県の上げ幅が東京都を上回るようになったためです。2018年度から2026年度までに、東京都は985円から1,280円へ295円、宮崎県は762円から1,085円へ323円上がりました。2016年度と比べた10年の伸び率は、徳島県の54.1%が最も高く、東京都の37.3%が最も低くなっています(編集部が計算)。
都道府県別の最低賃金 2026年度の額とランク
中央最低賃金審議会は、都道府県の経済実態に応じて47都道府県をA・B・Cの3つのランクに分け、ランクごとに引上げ額の目安を示します。2026年度は、Aランクが6都府県、Bランクが28道府県、Cランクが13県です。2022年度までは、A〜Dの4つのランクでした。
| ランク(2026年度の目安) |
都道府県と2026年度の額(高い順) |
| A(54円)・6都府県 |
東京都 1,280円・神奈川県 1,279円・大阪府 1,231円・埼玉県 1,196円・千葉県 1,195円・愛知県 1,195円 |
| B(56円)・28道府県 |
京都府 1,180円・兵庫県 1,172円・静岡県 1,154円・三重県 1,143円・広島県 1,141円・茨城県 1,136円・滋賀県 1,136円・北海道 1,131円・栃木県 1,125円・岐阜県 1,121円・群馬県 1,120円・富山県 1,119円・長野県 1,117円・福岡県 1,114円・石川県 1,113円・山梨県 1,113円・福井県 1,112円・新潟県 1,108円・奈良県 1,107円・岡山県 1,104円・徳島県 1,103円・和歌山県 1,101円・山口県 1,101円・宮城県 1,098円・福島県 1,094円・愛媛県 1,093円・島根県 1,092円・香川県 1,092円 |
| C(56円)・13県 |
大分県 1,096円・佐賀県 1,095円・山形県 1,092円・熊本県 1,092円・青森県 1,090円・岩手県 1,090円・秋田県 1,090円・鳥取県 1,090円・鹿児島県 1,090円・長崎県 1,087円・高知県 1,086円・沖縄県 1,086円・宮崎県 1,085円 |
出典: 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」。
1,200円以上は東京都・神奈川県・大阪府の3都府県で、1,100円以上は29都道府県です。1,100円未満の18県には、Cランクの13県のほか、Bランクの宮城県・福島県・愛媛県・島根県・香川県が入ります。ランクは目安を示すための区分で、額の順位とは一致しません。
発効日は都道府県ごとに違います。2026年度の発効日の一覧と、これから上がる府県は最低賃金の改定額と発効日一覧 2026年度は全国加重平均1,177円にまとめています。
最低賃金の決まり方と例年の時期
地域別最低賃金は、地域の労働者の生計費と賃金、通常の事業の賃金支払能力の3つを考えて定めると、最低賃金法第9条に書かれています。毎年の改定は、次の順で進みます。
- 6月下旬〜7月上旬: 厚生労働大臣が中央最低賃金審議会に、引上げ額の目安を諮問します。
- 7月下旬〜8月上旬: 中央最低賃金審議会が、ランクごとの目安を答申します。
- 目安のあと〜9月上旬: 都道府県の地方最低賃金審議会が、目安や地域の賃金の実態調査、参考人の意見をふまえて審議し、答申します。答申の要旨の公示から15日以内は、関係する労働者と使用者が異議を申し出られます(第11条)。
- 都道府県労働局長が額を決定し、公示します(第14条第1項)。
- 公示の日から数えて30日を過ぎた日か、決定で定めたそれより後の日に発効します(第14条第2項)。
| 年度 |
諮問 |
目安の答申 |
ランクごとの目安 |
発効日の幅 |
| 2022年度 |
6月28日 |
8月2日 |
A・B 31円、C・D 30円 |
10月1日〜10月20日 |
| 2023年度 |
6月30日 |
7月28日 |
A 41円、B 40円、C 39円 |
10月1日〜10月14日 |
| 2024年度 |
6月25日 |
7月25日 |
A・B・C 50円 |
10月1日〜11月1日 |
| 2025年度 |
7月11日 |
8月4日 |
A・B 63円、C 64円 |
10月1日〜2026年3月31日 |
| 2026年度 |
6月26日 |
7月28日 |
A 54円、B・C 56円 |
10月1日〜12月2日 |
出典: 厚生労働省の各年度の「地域別最低賃金額改定の目安について」。発効日は「平成14年度から令和8年度までの地域別最低賃金改定状況」による。
発効日は、ここ2年で後ろへ広がりました。2024年度は46都道府県が10月中に発効しましたが、2025年度に10月中に発効したのは20都道府県でした。福島県・徳島県・熊本県・大分県は2026年1月1日、群馬県は3月1日、秋田県は3月31日です。2026年度は、10月が37都道府県、11月が7府県、12月が3県です。
月給の人も時間額に直して比べる
最低賃金は時間額なので、月給制の人は月給を時間額に直して比べます。厚生労働省が示す式は次のとおりです。
- 月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金(時間額)
- 1か月平均所定労働時間 = 年間の所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12
比べる月給からは、通勤手当・精皆勤手当・家族手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与、臨時の賃金を除きます。年間の所定労働時間が2,000時間(250日×8時間)の会社では、最低賃金を満たす月給(対象の賃金)の下限は次のとおりです。
| 都道府県 |
2026年度の最低賃金 |
月給の下限 |
2025年度の額での下限 |
増えた額 |
| 東京都 |
1,280円 |
213,334円 |
204,334円 |
9,000円 |
| 大阪府 |
1,231円 |
205,167円 |
196,167円 |
9,000円 |
| 福岡県 |
1,114円 |
185,667円 |
176,167円 |
9,500円 |
| 宮崎県 |
1,085円 |
180,834円 |
170,500円 |
10,334円 |
出典: 厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」の式で編集部が計算(最低賃金 × 2,000時間 ÷ 12。1円未満は切り上げ)。
下限は1年で9,000円から10,334円上がりました。確かめ方のくわしい手順は、先の記事の「最低賃金を下回っていないかの確かめ方」にまとめています。
引き上げへの備え 来年度の人件費の見込みの立て方
引上げの影響を受ける人は増えています。厚生労働省の「影響率」は、最低賃金を改定したあとに、新しい額を下回ることになる労働者の割合です。30人未満(製造業などは100人未満)の事業所を調べる「最低賃金に関する基礎調査」では、2015年の9.0%が2025年は27.7%になりました。5人以上の事業所を対象にした賃金構造基本統計調査の特別集計でも、4.0%から10.8%に上がっています。
最低賃金の決まる流れと、引き上げに備える人件費の計算例作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「目安審議及び地域別最低賃金審議の流れ」「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
来年度の人件費は、次の順で見込むと、経営への説明もしやすくなります。
- 事業場ごとに、適用される最低賃金と発効日を確かめます。派遣労働者は、派遣先の事業場の所在地の額です。
- 時給の人と、月給・日給を時間額に直した人を一覧にし、今の時間額を並べます。
- 来年度の引上げ率を仮に置きます。直近3年の全国加重平均の引上げ率は5.1%・6.3%・5.0%でした。たとえば5.0%と6.0%の2通りを置くと、幅を持たせられます。
- 新しい額に届かない人ごとに、人数 × 差額 × 月の労働時間 × 月数を計算します。月給の人は、月給の下限との差 × 月数です。
- 発効日から期末までの月数で、今期の分と来期の分に分けます。
計算例は、今の最低賃金が1,100円の地域で、来年度に5.0%上がって1,155円になると仮に置いたものです(編集部の試算。人数・時間・率は仮の数字)。月給の人は、年間の所定労働時間を2,000時間としています。
| 対象 |
差額 |
計算 |
発効から1年の増加 |
| 時給1,100円・5人・月80時間 |
55円 |
55円 × 5人 × 80時間 × 12か月 |
264,000円 |
| 時給1,130円・3人・月100時間 |
25円 |
25円 × 3人 × 100時間 × 12か月 |
90,000円 |
| 月給185,000円(時間額1,110円)・1人 |
月7,500円 |
下限192,500円との差 × 12か月 |
90,000円 |
| 時給1,180円・2人 |
不要 |
新しい額を上回る |
0円 |
| 合計(5.0%と置いた場合) |
|
|
444,000円 |
| 参考: 6.0%と置いた場合の合計 |
|
|
558,408円 |
6.0%なら新しい額は1,166円です。発効日が10月1日で期末が3月なら、今期の分は6か月で、5.0%の場合は222,000円です。
一緒に見直したい費用と段取り
- 割増賃金: 時間外・休日・深夜の割増賃金は、通常の労働時間の賃金をもとに計算します(労働基準法第37条)。時給が上がると、残業代なども一緒に増えます。
- 社会保険: 時給の引上げで月の賃金や働く時間が変わると、社会保険の加入の判断にも関わります。パート・アルバイトの加入条件はパート・アルバイトの社会保険 加入の条件と適用拡大の予定にまとめています。
- 時給の差: 最低賃金に近い人だけを上げると、少し上の人との差が縮みます。計算例では、時給1,180円の人と1,155円になる人の差は25円です。差をどう保つかも決めておきます。
- 業務改善助成金: 中小企業・小規模事業者が事業場内で最も低い時給を引き上げ、設備投資などを行うと、費用の一部が助成されます。引上げと設備投資は、これから行うものが対象です。申請期間は先の記事の業務改善助成金の節にまとめています。
今日からできること
- 事業場ごとに、2026年度の最低賃金と発効日を厚生労働省の全国一覧で確かめます。まだ発効していない府県の事業場は、発効日の前日までに時給と月給の時間額を見直します。
- 時給・日給・月給の人を一覧にし、対象の賃金を時間額に直した表を作ります。最低賃金の改定のたびに、年に一度更新します。
- 来年度の引上げ率を5.0%と6.0%のように2通り置き、人数 × 差額 × 時間 × 月数で人件費の増加を見込んで、予算に入れます。
- 7月下旬〜8月上旬の目安の公表、そのあとの地方の答申、発効日の公示を、年間の予定表に入れておきます。
- 時給の差の付け方と、割増賃金・社会保険への影響を、給与計算の担当と確かめます。
この記事は、2026年10月19日時点の厚生労働省の資料と法令にもとづいています。個別の判断は、都道府県労働局・労働基準監督署や社会保険労務士に確かめてください。