退職する社員がいるとき、会社がする手続きは、社会保険・雇用保険・税金・社内の後片付けの4つに分かれます。届け出の多くは期限が5日や10日と短く、退職日が決まった時点で段取りを組んでおくと慌てずに済みます。
この記事では、退職前・最終日・退職後に分けて、確かめる項目をまとめました。期限と提出先は、2026年10月時点の日本年金機構・厚生労働省・国税庁の案内と法令で確かめています。
退職の手続きはいつまでに、どこへ出すか
まず全体を一覧にします。期限の数え方は手続きごとに違うため、何の日から数えるかもあわせて確かめてください。
| 手続き |
期限 |
出す先・渡す相手 |
| 健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届 |
事実発生から5日以内 |
事務センターか管轄の年金事務所 |
| 雇用保険の被保険者資格喪失届(離職票が要るときは離職証明書も) |
被保険者でなくなった日の翌日から数えて10日以内 |
事業所を管轄するハローワーク |
| 住民税の給与所得者異動届出書 |
退職した月の翌月10日まで |
住民税を課している市区町村(特別徴収税額の通知を出した市区町村) |
| 退職金から差し引いた所得税の納付 |
原則として翌月10日まで |
税務署(納付書で納める) |
| 給与所得の源泉徴収票 |
退職の日以後1か月以内 |
本人 |
| 退職所得の源泉徴収票(退職金を払ったとき) |
退職後1か月以内 |
本人と税務署 |
| 退職証明書(本人が求めたとき) |
遅滞なく |
本人 |
| 賃金の支払い・金品の返還(本人が求めたとき) |
請求から7日以内 |
本人 |
| 年の途中で退職した人の給与支払報告書 |
翌年1月31日まで(その年の支払いが30万円以下の人を除く) |
退職したときの住所地の市区町村 |
健康保険組合に入っている会社は、健康保険の手続きを組合の案内でも確かめてください。
退職の手続きを期限の早い順に並べ、本人に伝える手続きも添えた早見表作成: 編集部 / もとの資料: 日本年金機構・厚生労働省・国税庁・協会けんぽの案内と関係法令
退職が決まったら確かめること
退職日と退職の理由を書面で確かめる
最初に、退職日と退職の理由を、退職届などの書面で確かめます。雇用保険の手続きでは、離職証明書とあわせて、離職理由が確認できる書類もハローワークへ出します(厚生労働省の手続き一覧表)。自己都合か、契約期間の満了か、会社の都合かを、本人と食い違いのない形で残しておきます。
期間の定めのない雇用について、民法627条は、解約の申し入れから2週間で雇用が終わると定めています。就業規則で申し出の時期を決めている会社もあり、両者の関係で迷うときは社会保険労務士などに相談してください。
退職日で社会保険料のかかる月が変わる
厚生年金保険料は月単位で計算し、資格喪失日が属する月の前月分まで納めます。月末に退職すると翌月1日が資格喪失日になるため、退職した月の分まで保険料がかかります。
| 退職日の例 |
資格喪失日 |
厚生年金保険料がかかる月 |
| 3月31日(月末) |
4月1日 |
3月分まで |
| 4月15日(月の途中) |
4月16日 |
3月分まで(4月分はかからない) |
月末の退職では、給与の締め日によって、最後の給与から前月分と当月分の2か月分を差し引くことがあります。本人が明細を見て驚かないよう、最後の給与の前にひとこと説明しておくと安心です。
入社した月に退職したときは、原則としてその月の保険料が必要です。ただし、同じ月にほかの会社の厚生年金保険や国民年金に入ったときは、納付が不要になります。この場合は、年金事務所から会社へ還付の案内が届きます(日本年金機構のよくある質問)。
離職票が要るか、どう受け取るかを本人に聞く
離職票は、本人がハローワークで雇用保険の給付(基本手当など)を受けるときに使う書類です。本人が希望しないときは、資格喪失届に離職証明書を添えなくてもかまいません。ただし、離職の日に59歳以上の人は、希望にかかわらず離職証明書が必要です(雇用保険法施行規則7条3項)。
2025年1月20日からは、条件を満たす人には、離職票がマイナポータルへ直接届くようになりました。条件は次の3つです。
- 届け出たマイナンバーが、雇用保険の被保険者番号と正しく結び付いている
- 本人が、マイナポータルと雇用保険WEBサービスの連携を設定している
- 会社が、雇用保険の離職の手続きを電子申請で行う
厚生労働省は、マイナンバーの登録に時間がかかることがあるため、資格喪失届を出す2週間ほど前までに準備するよう案内しています。条件に当てはまらないときは、これまでどおり会社に届いた離職票を本人へ送ります。
本人に伝える退職後の手続き
退職後の健康保険と年金は、本人が自分で切り替えます。会社の手続きではありませんが、期限が短いので退職前に伝えておくと親切です。
| 本人の手続き |
期限・窓口 |
| 健康保険の任意継続(協会けんぽ) |
資格喪失日から20日以内(20日目が土日・祝日なら翌営業日)に住所地の協会けんぽ支部へ。郵送は20日以内に届くことが必要 |
| 国民健康保険に入る |
被保険者になったときから14日以内に、住所地の市区町村の国民健康保険の窓口 |
| 国民年金の加入(第1号被保険者。20歳以上60歳未満の人) |
退職日の翌日から14日以内に住所地の市区町村 |
| 家族の健康保険の被扶養者・国民年金の第3号被保険者になる |
家族の勤務先を通して届け出る |
任意継続には、資格喪失日の前日までに被保険者期間が継続して2か月以上あるという条件もあります。
最終日に回収するもの・止めるもの
最終日は、会社が貸していた物を返してもらい、会社の情報が外に残らないようにする日です。入社のときに渡した物の一覧があると、漏れなく回収できます。
従来の健康保険証は、2025年12月1日で有効期限が終わっています(厚生労働省)。マイナ保険証を使っていない人などには、加入している医療保険者から資格確認書が交付されています。
協会けんぽの場合は、交付している資格確認書などを資格喪失届に添えます。紛失などで回収できないときは「資格確認書回収不能届」を付けます(日本年金機構)。
アカウントの停止や端末の初期化は、情報システムの担当と分担を決めておきます。総務・人事は「いつ止めたか」「誰が確かめたか」を記録に残すことに集中すると、進めやすくなります。
退職後の届け出と期限
健康保険・厚生年金保険は5日以内に資格喪失届
会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を、事実発生から5日以内に、事務センターか管轄の年金事務所へ出します。出し方は電子申請・郵送・窓口への持参から選べます。資格喪失年月日の欄には、退職日ではなく退職日の翌日を書きます。
雇用保険は10日以内に資格喪失届と離職証明書
雇用保険の被保険者資格喪失届は、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から数えて10日以内に出します(雇用保険法施行規則7条1項)。ハローワーク飯田橋(東京)の案内では、3月31日に離職した人なら4月11日までが目安として示されています。日の数え方で迷うときは、早めに出しておくと安心です。出す先は、事業所を管轄するハローワークです。離職票を交付するときは離職証明書を添え、労働者名簿・出勤簿・賃金台帳など、離職の日と賃金を確かめられる書類も用意します。
ハローワーク阿倍野(大阪)の案内では、離職日の当日は本人がまだ在籍しているため、届け出はできないとしています。書類の準備は前もって進め、提出は退職日の翌日以降にします。
住民税は翌月10日までに異動届出書
給与から住民税を差し引いている(特別徴収)人が退職したときは、「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を出します。期限は退職した月の翌月10日、出す先はその住民税を課している市区町村です(地方税法施行規則9条の24)。残りの税額の扱いは、退職した時期で変わります(地方税法321条の5第2項)。
| 退職した時期 |
残りの住民税の扱い |
| 6月1日から12月31日 |
本人の申し出があれば、最後の給与や退職金から残りをまとめて差し引く(一括徴収)。申し出がなければ本人が自分で納める(普通徴収) |
| 1月1日から4月30日 |
5月31日までに払う給与や退職金が残りの税額を超えるときは、まとめて差し引く(一括徴収) |
一括徴収した住民税は、差し引いた月の翌月10日までに市区町村へ納めます。
社会保険料・離職票・住民税・退職金の税が、退職日や本人の事情で分かれる点作成: 編集部 / もとの資料: 日本年金機構・雇用保険法施行規則・地方税法・国税庁・労働基準法
源泉徴収票は1か月以内に本人へ
年の途中で退職した人には、「給与所得の源泉徴収票」を退職の日以後1か月以内に渡します(国税庁 No.7411)。本人の承諾を得るなど一定の要件のもとでは、書面に代えて電子データで渡すこともできます。
退職金を払ったときは、所得税の扱いが加わります。本人から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っていれば、勤続年数に応じた退職所得控除をして税額を計算します。受け取っていなければ、支給額の20.42%を差し引きます。
差し引いた税は、原則として翌月10日までに納めます(国税庁 No.2732)。
| 区分 |
扱い |
| 申告書あり・勤続20年以下 |
退職所得控除額は40万円×勤続年数(80万円に満たないときは80万円) |
| 申告書あり・勤続20年超 |
退職所得控除額は800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
| 申告書なし |
支給額の20.42%を差し引く |
「退職所得の源泉徴収票」は、退職後1か月以内に本人へ渡し、税務署にも出します。2026年(令和8年)1月1日以後に支払う退職金は、役員に限らず全員分を税務署へ出すことになりました。
税務署の分は、その年に退職した人の分をまとめて翌年1月31日までに出してもかまいません。市区町村への特別徴収票は、当分の間、出すのを省略できます(国税庁 No.7421)。
年明けには、年の途中で退職した人の給与支払報告書も、退職したときの住所地の市区町村へ1月31日までに出します。その年の支払いが30万円以下の人は除きます。2027年(令和9年)1月以後は、市区町村へ給与支払報告書を出せば、税務署へ源泉徴収票を出したものとみなされます(国税庁 No.7411)。
退職証明書と金品の返還は、求められたら応じる
労働基準法22条により、本人が退職の際に証明書を求めたときは、会社は遅滞なく渡さなければなりません。書くのは、使用期間・業務の種類・その事業での地位・賃金・退職の事由(解雇のときはその理由も)のうち、本人が求めた項目だけです。本人が求めていない項目は書いてはいけません。
退職証明書は、ハローワークを通す離職票とは別の書類で、会社が本人に直接渡します。様式は決まっていないので、社内でひな形を用意しておくと、求められたときにすぐ出せます。
労働基準法23条により、本人などの権利者から請求があったときは、7日以内に賃金を払わなければなりません。積立金・保証金など、本人の権利に属する金品も7日以内に返します。金額に争いがあるときは、異議のない部分を7日以内に払います。
マイナンバーの書類と記録の保存
退職した人のマイナンバーは、手続きに使う必要がなくなり、法令の保存期間も過ぎたら、できるだけ速やかに廃棄か削除をします。個人情報保護委員会のガイドラインが求めている扱いです。たとえば扶養控除等申告書は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年が保存期間です。
労働者名簿や賃金台帳など、退職者の記録にも保存期間があります。書類ごとの期間は会社の書類の保存期間にまとめています。
今日からできること
退職の手続きは、毎回ゼロから調べると漏れが出やすい仕事です。次の5つを先に整えておくと、急な退職にも落ち着いて対応できます。
- 退職日を書き込むと、資格喪失日と各手続きの期限の目安が並ぶ台帳(表計算のシート)を作る
- 入社のときに渡した貸与品とアカウントの一覧を、社員ごとに残す(入社手続きのチェックリストと対にする)
- 電子申請の準備をし、離職票のマイナポータル受け取りを退職予定者に案内できるようにする
- 本人への案内文と退職証明書のひな形を用意する
- 役員の退職、外国籍の社員、退職後すぐの再雇用など、例外の多い場面は、所轄の窓口や社会保険労務士・税理士に確かめる
この記事の期限と提出先は、2026年10月18日に確かめた日本年金機構・厚生労働省・国税庁・協会けんぽの案内と法令によります。個別の事情の判断は、社会保険労務士・税理士か所轄の窓口に確かめてください。