粗利率が29.6%から31.2%になった月に、「粗利率は1.6%上がりました」と書いたら読み違いです。正しくは1.6ポイントの上昇。月次報告の表やグラフに添える説明文は生成AIに下書きを頼めますが、こうした読み違いは、AIの文にも自分の文にも入り込みます。
だから、頼むときは表と一緒に「何と比べた数字か」と単位まで渡し、返ってきた文の数字を1つずつ表に戻して照らす。この2つを押さえておけば、3行の説明に悩む時間は短くなり、読み違いは自分の手元で止められます。
表から書けるのは、5つの部品のうち3つ
表のマスと説明文の数字を、1つずつペンでたどって照らすイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
数字を説明する文を分けてみると、部品はだいたい5つです。何が、どれだけ、前と比べてどうか、なぜそうなったか、次に何をするか。
国の統計の発表でも、前の3つが同じ順に並びます。総務省統計局は10月30日に労働力調査の9月分を公表し、要点の1行目を「就業者数は6896万人。前年同月に比べ33万人の増加。2か月連続の増加」としました。1何が増えたのか、何人か、1年前の9月と比べてどれだけ多いか。この3つがそろえば、ひとまとまりの文になります。
ただ、要点の3行のどこにも、増えた理由は書かれていません。
表のマスには、理由が入っていないからです。だから会社の月次報告でも、部長や役員が知りたい「なぜ」と「次はどうするか」は、表をいくら眺めても出てきません。営業の人から聞いた話や、自分で決めた来月の段取りは、あなたの頭の中かメモにしかないものです。
9月の売上高を例に、架空の会社で5つの部品を組み立ててみます。
「9月の売上高は4,820万円で、前年同月より3.8%減りました。8月からは10.8%増えていますが、8月は毎年お盆の休業で売上が少ない月です。減った主な理由は、大口の取引先1社の発注が10月にずれたこと。10月分に入るかどうかを、月半ばに営業部と確認します。」
最初の2文の数字は、どれも表から計算できます。ただし「8月は毎年少ない」は、表には無い知識。3文目の理由は営業部から聞いた話で、4文目の段取りは自分で決めることです。AIに任せられるのは前の3つの部品までで、後ろの2つはメモで渡すか、自分で書き足すしかありません。
数字の説明文を5つの部品に分けると、表から書けるのは前の3つまで作成: 編集部 / 出典: 総務省統計局「労働力調査」
同じ9月の就業者数が、2つある
労働力調査の9月分は、概要を読み進めると、就業者数がもう一度出てきます。今度は6,868万人で、前月に比べて34万人、率にして0.5%の増加です。2
どちらも正しい数字ですが、比べる相手が違います。6,896万人は原数値で、1年前の9月と比べるための数字。6,868万人は季節調整値で、こちらは8月と比べるための数字です。季節調整値とは、原数値から、季節によって毎年くり返す動きを取り除いた値のこと。完全失業者数も同じで、原数値は169万人で前年同月より15万人少なく、季節調整値は167万人で前月より10万人、率にして5.6%少ない、と2通りあります。
なぜ2つあるのでしょうか。統計局によると、原数値で1年前の同じ月と比べるなら、季節変動を考える必要はありません。ところが前月や前々月と比べるときは、原数値に季節変動による変化分が含まれるため、その影響を除く必要があります。3消費者物価指数の解説書にも、前月比には商品の出回りの変化による季節的な変動も含まれるので注意が要り、前年同月比は同じ月どうしなので季節の要因を考えなくてよい、という説明があります。4
では、2つの数字を区別せずにAIに渡したら、どうなるでしょう。「就業者数は6,896万人で、前月に比べ34万人増えた」のように、数字はどちらも発表にあるのに組み合わせだけが違う文ができかねません。
労働力調査の9月分には就業者数が2つ。原数値は前年同月と、季節調整値は前月と比べる作成: 編集部 / 出典: 総務省統計局「労働力調査」
会社で作る月次の表に、季節調整値はふつうありません。ですから、比べる相手の基本は前年同月です。前月と比べるときは、その月の事情を添えます。統計局の学習サイト「なるほど統計学園」には、家計の消費はボーナスの時期に重なる12月に多く、5月や6月と単純に比べても12月のほうが活発だったとは判断できない、という例が出てきます。5
8月の売上、賞与が出る月の人件費、年度末の残業。あなたの部署にも、毎年決まって上下する月があるはずです。それを知っているのはAIではなく、表を作ったあなたのほう。
表と一緒に、表の外の6つを渡す
AIが文を組み立てる材料は、貼ったものだけです。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインも、AIを使う側が取り組むこととして「正確性・必要な場合には最新性(データが適切であること)等が担保されたデータの入力を行う」を挙げています。6月次報告なら、速報の数字と確定した数字が混ざっていないか、先月の表を開いたまま貼っていないか。渡す前のひと手間が、そのまま文の正しさになります。
表のほかに渡したいのは、次の6つです。
| 渡すもの |
書かないと起きやすいこと |
書き方の例(架空) |
| 表の数字を文字で |
画像だと、読み取りの誤りが入る |
Excelの範囲をコピーして貼る |
| 単位 |
千円を円や万円と取り違える |
売上高は千円単位、文では万円で |
| 期間と時点 |
月の値と累計、速報と確定が混ざる |
2026年9月の確定値で、累計ではない |
| 比べる相手 |
前年同月比と前月比が入れ替わる |
前年同月を先に、前月はあとに |
| 社内の言い方と季節の事情 |
社内で通じない語や、季節の上下を伸びと読む |
売上総利益率は粗利率と呼ぶ、8月は毎年少ない |
| 理由のメモと、使わない言葉 |
表に無い理由や「過去最高」が足される |
理由はメモの範囲だけ、「大幅」は使わない |
手間に見えるのは最後の行かもしれません。でも、理由のメモを渡さずに「説明文を書いて」とだけ頼むと、文を締めるための理由まで書き足されることがあります。「前年同月より3.8%減りました」のあとに、だれからも聞いていない理由が続いていたら、会議の前に1つずつ消して回ることに。最初から「理由は確認中」と空けて返してもらうほうが、ずっと早く片づきます。
もう一つ、貼る前に見ておきたいのが、その数字を社外のサービスに入れてよいかどうか。発表前の売上高や原価は、会社によっては外に出せない情報です。入れてよい範囲は会社ごとに違うので、生成AIに入力してはいけない会社の情報、個人情報と機密の線引きで、線の引き方を確認できます。
本物の数字を入れられないなら、増減の向きと大きさが近い架空の数字で文の型だけ作ってもらい、あとで本物に入れ替える手もあります。入れ替えたあとは、「増えた」「減った」の言葉が本物の数字と合っているかを、もう一度見ます。
確認用の文も、一緒に頼んでおく
頼む文に一つ足すと、あとの照らし合わせがぐっと楽になります。報告に使う文とは別に、数字ごとに出どころを書き添えた「確認用の文」も出してもらうのです。
たとえば「4,820万円〔売上高・2026年9月〕」「3.8%減〔計算:48,200÷50,100−1〕」のような形。〔〕の中を見れば、表のどのマスと比べればいいか、電卓でどの式をなぞればいいかがすぐ分かります。もっとも、書き添えた出どころが間違っていることもあるので、最後は表のマスと照らします。
ここまでを1つにした頼む文の例です。部署名や読み手、メモの中身は、自分の報告に合わせて書き換えます。
管理部の月次報告に載せる、表の下の説明文の下書きをお願いします。読むのは部長と役員です。項目ごとに2〜3文で書いてください。
表は2026年9月の確定値で、累計ではありません。売上高の単位は千円です。文では万円にしてください。売上総利益率は、社内で「粗利率」と呼んでいます。
比べる相手は前年同月を先に、前月はそのあとにしてください。8月は毎年、お盆の休業で売上が少ない月です。
増減率は「%」、率どうしの差は「ポイント」で書いてください。どちらも小数第2位を四捨五入して、第1位までにします。
理由は、下のメモにあることだけを使ってください。メモに無い項目は、理由の代わりに「(理由は確認中)」と書いてください。「過去最高」「大幅」「好調」のように、表から言えない言葉は使わないでください。
最後に、同じ内容で確認用の文も出してください。数字のすぐあとに、表のどの行と列から取ったかを〔 〕で添え、計算した数字には計算の式を書いてください。
(ここに表を貼る)
(ここに理由のメモを貼る)
理由のメモは「売上高:大口の取引先1社の9月の発注が、10月にずれた(営業部から聞いた話)」のように、1項目1行で足ります。頼んだとおりに書かれていれば、メモに無い粗利率と残業時間は「理由は確認中」で返ってきます。その空欄は、会議までに自分で埋める宿題です。
返ってきた文は、数字の出どころを1つずつたどる
AI事業者ガイドラインは、AIの出力について「精度及びリスクの程度を理解し、様々なリスク要因を確認した上で利用する」ことも求めています。6説明文でいえば、文の中の数字と言葉を、1つずつ表に戻すことです。
例に使っている架空の表は、次のとおりです。
| 項目 |
2026年9月 |
前月(8月) |
前年同月(2025年9月) |
| 売上高(千円) |
48,200 |
43,500 |
50,100 |
| 売上総利益率(%) |
31.2 |
30.4 |
29.6 |
| 1人あたりの残業時間(時間) |
18.4 |
15.2 |
21.0 |
返ってきた文の中に、次のような文があったら直します。どんな読み違いが起きるかを示すために、編集部が作った例です。
| 部品 |
こんな文なら |
表に戻すと |
| どれだけ(単位) |
売上高は4億8,200万円でした |
48,200千円は4,820万円 |
| 前と比べて(相手) |
売上高は前年同月より10.8%増えました |
10.8%増は8月との比較。前年同月より3.8%減 |
| 前と比べて(率とポイント) |
粗利率は前年同月より1.6%上がりました |
29.6%から31.2%は1.6ポイントの上昇 |
| 前と比べて(桁) |
残業時間は前年同月より12%減りました |
頼んだ桁なら12.4%減で、2.6時間の減少 |
| 言い過ぎ |
粗利率は過去最高になりました |
表にあるのは3つの月だけで、過去とは比べていない |
| なぜ(付け足し) |
新商品が好調で、粗利率が上がりました |
メモに理由は無い。「確認中」のまま |
いちばん気をつけたいのは2行目と3行目です。どちらも数字そのものは表にあるか、表から正しく計算できるので、ぱっと見では間違いに見えないんですよね。
2行目は、比べる相手のすり替わり。たとえば前月より増えて、前年同月より減った月は、比べる相手によって増減の向きが逆になります。「増えた」とだけ書かれた文を見つけたら、何と比べて増えたのかを読み直してください。
率とポイントの使い分けは、国の発表を見るとよく分かります。労働力調査の9月分では、就業者数が「前年同月に比べ33万人の増加」で、本文にはその増加率の0.5%も添えてあります。一方、就業率は「前年同月に比べ0.4ポイントの上昇」、完全失業率は「前月に比べ0.1ポイントの低下」。つまり、人数の増減は人数と%、率の差はポイント、という書き分けです。7冒頭の粗利率でいえば、「1.6%上がった」は29.6%の1.6%ぶん、0.5ポイントほどの上昇を指してしまいます。
増減率どうしの差も、ポイントです。消費者物価指数の解説書には、2026年1月の前年同月比が1.5%の上昇、2月が1.3%の上昇で、「前年同月比は0.2ポイント上昇幅が縮小しています」という例があります。8物価は2月も上がっていて、上がり方が小さくなっただけ。これを「物価が0.2%下がった」と書けば、向きまで逆になります。月次報告なら、「売上の伸びが鈍った」と「売上が減った」の違いです。
四捨五入にも、小さな落とし穴があります。労働力調査の表には、表章単位未満の位で四捨五入していることなどから、総数と内訳の合計とは必ずしも一致しない、という統計局の注意書きがあります。9会社の表も同じで、部門ごとの売上を万円に丸めると、足した数が合計と1だけずれることがあります。AIの文がそのずれを「直して」、合計の数字を変えていないか。増減率も、丸めたあとの数字から計算し直すと、小数第1位が表の値と違ってくることがあります。迷ったら、丸める前の数字で計算した元の表のほうを正とします。
返ってきた説明文の数字を表に戻して照らす。相手、%とポイント、単位を先に見る作成: 編集部 / 出典: 総務省統計局「労働力調査」「消費者物価指数のしくみと見方」
グラフは画像より、元の数字を渡す
画像を読める生成AIなら、グラフの画像を貼って説明文を頼むこともできます。ただ、画像から読んだ値は、棒の高さや線の位置から見当をつけた値です。数字を写すだけなら起きない誤りが、ここで入り込むわけです。
人が見ても、グラフは作り方で印象が変わります。なるほど統計学園によると、グラフは縦横比を変えたり、波形で省略したりすると、見る人に与える印象が変わります。折れ線グラフでは縦軸の目盛りをゼロから始めるのが普通で、変化が小さく見にくいときは波線を入れて途中を省略することもある、という説明もあります。10途中を省略したグラフでは、小さな差も大きく見える。その見た目のまま「大きく増えた」と書かれてしまうかもしれません。
目盛りが左右に2つあるグラフも要注意です。労働力調査の概要に載った図には、就業者数の増減を左目盛り(万人)で、就業率の差を右目盛り(ポイント)で読む形で、1枚に重ねたものがあります。11どの線がどちらの目盛りかを取り違えれば、数字がまるごと別のものになります。
元の数字が手元にあるなら、画像ではなく数字を渡すのがいちばんです。ほかの部署から届いたPDFのグラフしかないときは、文を頼む前に、読み取った値を表にしてもらいましょう。
来月の月次報告で使う段取り
- 社外のサービスに入れてよい数字かを、会社の決まりで確認する
- 表の範囲をコピーし、単位と期間、確定値かどうかを書き添える
- 前年同月と前月のどちらを先に書くかを決め、季節の事情を1行足す
- 理由のメモを1項目1行で書き、使わない言葉を決める
- 頼む文に貼り、報告用の文と確認用の文を出してもらう
- 確認用の文の〔〕をたどり、数字と増減の向き、%とポイントを表で照らす
- 「理由は確認中」の所を自分で埋め、次にすることを書き足す
- 頼む文を保存し、次の月は表とメモだけを入れ替える
報告の文そのものの組み立ては、報連相とは?上司への報告の仕方と相談のタイミングで、結論から話す形を例文つきで取り上げました。
統計局の要点は、何が、どれだけ、前と比べて、の3つで止まっていました。月次報告で残りの2つ、なぜと次の手を書けるのは、表を作ったあなただけです。前の3つをAIに任せて浮いた時間は、その2文に回せばいい。会議で「前年同月より3.8%少ないのは、大口の発注が10月にずれた分です」と言えたとき、その数字はもう、あなた自身の言葉になっています。
労働力調査の結果と統計局の解説、なるほど統計学園、AI事業者ガイドラインは、いずれも2026年10月30日時点の公式ページと資料で確認しました。売上高などの表と文の例は、説明のために作った架空のものです。