生成AIに1年分のメモを渡したら、自己評価の下書きはどこまで任せられるでしょうか。仕事を種類ごとに並べ、評価項目に振り分けて、文の形に整えるところまでは、AIがかなりこなしてくれます。
自分の手に残したいのは、何を渡すかを決めることと、出てきた文が本当に自分のしたことかを確かめること。この2つさえ押さえておけば、下書きを一から書く時間を、事実を見直す時間に回せます。
渡す前に、会社の決まりで確認すること
メモの名前や数字にふせんを貼って伏せてから、生成AIに渡すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
総務省の令和8年版情報通信白書によると、2025年度の調査で、仕事や暮らしで生成AIサービスを使ったことがある人は58.8%。前年度は26.7%だったので、1年で大きく増えました。1
一方で、会社の決まりづくりは、まだ追いついていないようです。同じ白書の企業向け調査では、生成AIのリスク対策として「全社的な指針やガイドラインを整備している」と答えた割合が41.1%でした。大企業で44.9%、中小企業では29.1%にとどまります。2
決まりが文書になっていない職場も、珍しくないということ。でも、決まりが見当たらないから何を入れてもよい、とはなりません。
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しました。会社が本人の同意を得ずに個人データをプロンプトに入れ、それが応答を出す以外の目的で扱われると、「個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある」という内容です。そのため、サービスを提供する事業者が入力を機械学習に使わないことなどを、十分に確認するよう求めています。3
総務省と経済産業省が2026年3月に改めたAI事業者ガイドラインにも、事業でAIを使う側への留意点として、個人情報や機密情報を「不適切に入力することがないよう注意を払う」とあります。4
自己評価のメモには、取引先や同僚の名前、社外秘の数字が混ざりがちです。渡す前に社内ポータルや情報セキュリティ規程を開いて、次の4つを見ておきましょう。
決まりが見つからないときは、情報システム担当か上司に、どのサービスなら使ってよいかを聞いておきます。個人で契約したサービスを使う場合も、委員会は利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認するよう呼びかけています。3
メモは、名前と数字を伏せてから渡す
渡すメモは走り書きでかまいません。1行に1つの出来事を書き、日付と数字を残す。AIに渡す材料としては、これで十分です。月ごとに振り返りを書いているなら、キャリアの棚卸しの1段目のような行を、そのまま貼ればよいでしょう。
伏せるのは、AIに渡さなくても下書きの中身が変わらない情報です。取引先名を「A社」にしても、「A社との契約更新に要る書類を2週間でそろえた」という実績の重さは変わりませんよね。
| メモにあるもの |
AIに渡すときの書き方 |
下書きができたら |
| 取引先名や顧客名 |
A社、B社 |
置き換え表を見て正式な名前に戻す |
| 同僚や上司、お客さまの名前 |
Cさん、課長、営業の担当者 |
評価に要るときだけ部署名か役職で書く |
| 社外秘の金額や売上 |
〇〇万円か、前の年より1割増 |
手元のメモから金額を書き入れる |
| 案件名や開発中の製品名 |
案件1、新しいシステム |
評価シートの書き方に合わせて戻す |
| 社員番号やメールアドレス |
消す |
戻さない |
| 同僚の休職や病気のこと |
入れない |
戻さない |
表でまず見てほしいのは、いちばん右の列です。置き換えた名前と元の名前の対応表は、手元のメモ帳か紙に残し、AIには渡しません。対応表まで一緒に貼ってしまうと、伏せた意味がなくなるからです。
自分で数えた件数や回数なら、多くの場合そのまま渡せるでしょう。「請求書の発行遅れを、月4件から1件に減らした」の4と1は評価の材料そのもの。ただ、売上や原価のように社外秘に入る数字は伏せておき、下書きができてから書き入れます。
生成AIに渡す前の確認 公的な注意喚起、社内で見る4つ、名前と数字の伏せ方作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会・総務省・経済産業省
頼み方は、3回に分ける
いきなり「自己評価を書いて」と頼むと、AIはメモに無いことまで埋めて、それらしい文に仕上げることがあります。「関係部署と連携し」「業務の効率化に大きく貢献」のような言葉です。どこまでが本当にしたことか、あとから見分けるとなると、手間はかなりのもの。
だから、頼みごとを整理、振り分け、下書きの3回に分けます。1回ごとに出てきたものを見て、違っていればその場で直せるからです。
〈〉の中を自分のものに入れ替えれば、次の文はそのまま使えます。
3つの文に共通するのは、「メモに無いことは足さない」と先に断っている点です。AIは頼まれた形を埋めようとするので、してほしくないことも言葉にして渡しておくと、余計な文が入りにくくなります。
3回目に入れた「質問として並べて」の一言は、下書きに足りない事実を見つける手がかりになります。「この件は一人で担当しましたか」と聞き返されたら、それはメモに書き足すとよい事実の印。答えをメモに足して、もう一度3回目を頼めば、推測の混ざらない下書きに近づきます。
評価シートの説明を貼ってよいかは社内資料の扱いしだい。貼れないなら、項目名だけでも振り分けはできます。1項目を事実、工夫、次の一手の3文で書く型と例文は、評価面談の自己評価の書き方に載せています。3回目の頼み方に「この3文の順で」と足せば、その型で書くよう頼めます。
下書きは、4つの点で自分の言葉に戻す
出てきた下書きは評価シートに貼る前に、元のメモと並べて読みます。個人情報保護委員会の注意喚起も、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがある、と書いていました。3見るのは次の4つです。
数字は、メモと1つずつ照らす
AIは数字を丸めたり、頼んでいない計算をしたりすることがあります。たとえば「14件」が「約15件」に、「12回のうち11回」が「毎月」になっていても、ぱっと読んだだけでは気づかないかもしれません。
下書きに出てくる数字すべてに印を付け、メモにある同じ数字と照らします。割合が出てきたら、電卓で計算し直す。合わない数字は、メモにある数字に戻します。
盛った言葉は、した動作に戻す
下書きに入りやすいのが、「主導」「推進」「大幅に」のような強い言葉。言葉ごとに、自分が実際にしたことへ戻していきます。
| 下書きに出やすい言葉 |
自分に聞くこと |
戻した例 |
| 主導した、牽引した |
自分が決めたのか、手伝ったのか |
担当した、手伝った、提案した |
| 大幅に、劇的に |
数字で言えるか |
月4件から1件に |
| 全社の、組織全体の |
範囲はどこまでか |
課の、経理の3人の |
| 貢献した、寄与した |
誰の何が楽になったか |
営業事務の入力が締め日に間に合った |
| 推進した、取り組んだ |
実際に何をしたか |
手順書を2つ作り直した |
盛った言葉を消すと文は少し控えめになりますが、面談で「主導したのはどの部分ですか」と聞かれて詰まるより、した動作をそのまま書いておくほうが、話はずっと進めやすいはずです。
していないことが紛れていないか
AIはメモの行と行のあいだを、もっともらしい話でつなぐことがあります。「関係部署と調整し」「お客さまの声を集め」のように、言われるとしたような気がする一文が、いちばん見落としやすい。下書きの文ごとに、メモのどの行から来たのかをたどります。
たどれない文は消してかまいません。本当にしたことなら、先にメモへ書き足してから残します。
チームでした仕事も要注意。「課で」が「私が」に変わっていたら、自分が受け持った範囲に書き直します。
評価項目の言葉に合わせる
評価シートには「業務改善」とあるのに、下書きでは「生産性の向上」になっている。そんな言い換えも起こります。上司が読むのは評価シートの言葉なので、項目名と、段階の説明にある言葉にそろえましょう。字数の上限や、箇条書きでよいかといった書式も、このときに見ておきます。
4つを直したら、最後は声に出して読んでみてください。面談で「これはどういうことですか」と聞かれて、自分の言葉で説明できない文は、まだAIの文。言い慣れた言い方に直すか、思い切って削るかのどちらかです。
自己評価の下書きを3回に分けて頼む流れと、下書きを直す4つの点、提出までの段取り作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会
置き換え表と頼み方は、年明けにも使う
置き換え表と3つの頼み方はメモ帳に保存しておきます。あとは新しいメモを貼るだけなので、次の振り返りはずっと早く進むでしょう。
1月に来年の目標を考えるときは、1回目で整理してもらった1年分の出来事が、そのまま材料になります。
案から1つを選ぶのは自分です。上司との目標設定には、選んだ1行と、それにつながる今年の出来事を持っていけば、話の筋が通ります。
半年後の中間面談なら、同じ置き換え表を開いて、半年分のメモを1回目から渡し直す。異動を希望するときや職務経歴書を書き直すときは、2回目の評価項目を「希望する仕事で求められること」に替えるだけ。
12月の面談の前夜に、慌てて「自己評価を書いて」と打ち込む代わりに、11月のうちにメモを伏せて、1回目だけ頼んでおく。それだけで面談の前週には、メモと照らしながら直せる下書きが手元にそろいます。
調査の数字と、注意喚起やガイドラインの文は、総務省と個人情報保護委員会の公表資料で2026年10月27日に確認したものです。