4行の頼む文を用意しておけば、生成AI の校正は「直しの一覧から選ぶ作業」に変わります。直した後の全文ではなく、直した箇所を表で返してもらうからです。元の文と直しを1行ずつ並べて見られるので、どこが変わったのかを探さずに済み、採るか採らないかを自分で決められます。
送信ボタンを押す前に、もう一人だれかに読んでほしい。社外に出すメールや案内文には、そんな気持ちになる日がありますよね。その「もう一人」を生成AIにお願いするなら、頼む文に少しだけ手間をかけておくと、あとの確認がずっと軽くなります。
「校正して」だけでは、範囲が決まらない
元の文と直しの表を並べて、1行ずつ採るかどうかを決める イラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst )
「この文を校正して」とだけ書いて貼ると、どこまで直すかはAIの判断に任せることになります。誤字だけを直すのか、敬語 も見るのか、言い回しや文の順番まで整えるのか。頼んだ側の頭の中にある線引きも、文に書かなければ伝わりません。
直した後の全文だけが返ってくると、少し困ったことになります。変換ミスが2か所直っているのと一緒に、金額の書き方や相手の会社名が変わっていても、全文を読み比べないと気づけないからです。
そこで、直してほしい範囲を先に決めておきます。ここでは3つの段階に分けて考えます。
段階
直すもの
例
向いている場面
1(誤字脱字)
誤字、脱字、変換の誤り
「お願いいたしまします」「日程を調製します」
どの文書も、送る前に毎回
2(敬語)
尊敬語と謙譲語の取り違え、社外あての身内の呼び方
「資料を拝見してください」「田中部長が申しておりました」
社外あてのメールや案内文
3(読みやすさ)
長すぎる文、二通りに読める文、言い回し
主語と述語が離れた、100字を超える1文
時間に余裕のある日に、別に頼む
表で気をつけたいのは3段階目です。読みやすさの直しと、意味や調子まで変わる直しは紙一重。送る直前の校正には混ぜず、段階1と2だけを頼むほうが、返ってきた直しを見る時間も短くなります。
頼む文には、前提と範囲と返し方を書く
頼む文に書くことは4つあります。
だれが、だれに、何の文書を送るのか
直してよい範囲
直さずに知らせてほしいもの
結果の返し方
4つを1つの文にまとめると、こうなります。〈〉の部分を、送る文書に合わせて書き換えてください。
誤字脱字と敬語の点検を頼む文
次の文は、〈営業事務の私〉が〈取引先の担当者〉に送る〈打ち合わせ日程の案内メール〉です。文中の〈部長の田中〉は自社の人です。
この文の誤字脱字、変換の誤り、敬語の誤りだけを直してください。意味や言い回し、文の順番は変えないでください。
人や会社の名前、数字、日付、曜日、金額、URLは直さないでください。おかしいと思う所があれば、直さずに「要確認」として挙げてください。
結果は表にしてください。列は「番号」「元の文」「直した文」「理由」「種類(誤字、敬語、要確認)」です。直す所がなければ「なし」と書いてください。直した後の全文は出さないでください。
〈ここに文を貼る〉
1行目の前提は敬語を見てもらうための材料です。敬語が合っているかどうかは、言葉だけでは決まりません。文化庁の「敬語の指針」は、尊敬語と謙譲語Ⅰを使うときの基本の原則を「自分側は立てない」としています。1 取引先に送る文なら、自社の部長は自分側。「部長の田中が申しておりました」で合っていて、「おっしゃっていました」なら直す対象です。
ところが、同じ一文でも社内の人に送るなら答えが変わります。
貼られた文に書かれていない人間関係を、AIは知りません。だれに送る文で、だれが自社の人か。この2つを書いておくだけで、敬語の指摘はぐっと的を射たものになるはずです。
2行目と3行目で、直す範囲の線を引きます。名前や数字を直させないのには理由があって、会社名の表記や金額が正しいかどうかは、見積書や名刺と照らさなければ分からないからです。
AIに頼むのは、おかしそうな所に気づくところまで。気づいたら知らせてもらい、直すのは自分にしておきます。
4行目の「全文は出さないで」は、地味ですがいちばん効く一文です。
表だけを受け取り、自分の原稿に1行ずつ手で写していけば、表に無い直しが紛れ込むことはありません。手で写すぶん、1件ずつ読むことにもなります。
社内で決めた書き方があるなら、1行目の後ろに足しておきます。「お問い合わせ」は送り仮名を付ける、「株式会社 」は略さない、といった決まりです。
校正を頼む文の4行と、直す範囲の3段階、返してもらう表の例 作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」
読みやすさは、別の文で頼む
文そのものを読みやすくしたい日は、校正とは分けて頼みます。
読みやすさの案を頼む文
次の文を、〈取引先の担当者〉が一度で読めるようにしたいです。長すぎる文や、二通りに読める所があれば、直す案を5つまで挙げてください。案ごとに「元の文」「案」「理由」を表にしてください。意味が変わる案と、敬語を足すだけの案は出さないでください。
丁寧さと読みやすさは別のものなので、最後に「敬語を足すだけの案」を断っておきます。敬語の指針も、敬語をたくさん使えば丁寧になるというわけではない、と書いています。2 敬語を重ねるほど、文は長く、回りくどく見えやすくなります。
名前は伏せて、立場は残す
社外に出す文書には取引先の名前や金額が入ります。AIに貼ってよいかは、使っているサービスの設定と会社の決まりしだいです。個人情報 保護委員会は、会社が個人情報を含むプロンプトを入力するとき、利用目的の範囲内かを十分に確認することを、注意点の最初に挙げています。3 社外メールを入れる前の線の引き方を、休み明けのメールを生成AIで要約 優先順位の付け方と社外メールの扱い で詳しく書きました。
校正なら、名前を伏せても困ることはほとんどありません。誤字や敬語なら、相手が「A社」のままでも見てもらえます。ただ、立場まで消してしまうと、敬語の向きが判断できなくなります。名前の代わりに「〈取引先の担当者〉」「〈自社の部長〉」と立場を書いて貼ると、伏せたまま敬語まで見てもらえます。
返ってきた表は、見る順番を決めておく
表が届くと、上の行から「はい、はい」と採りたくなりますよね。でも、行の並びはAIが見つけた順で、確認しやすい順ではありません。順番は自分で決めておきましょう。
返ってきた直しを見る5つの順番と、敬語の行を見る問い、残してよい敬語 作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」、総務省と経済産業省「AI事業者ガイドライン」
表の外で、変わった所はないか
最初に、表に載っていない変化を探します。表だけを受け取ったなら、この段階はほぼ済んでいるでしょう。
全文で受け取ったときや、同僚がAIで直した文を回してきたときに使えるのが、Wordの比較です。元の文と機械で比べると、見落としが減ります。Windows版のWord for Microsoft 365などでは、「校閲」タブの「比較」から「ドキュメントの2つのバージョンを比較する(法的ブラックライン)」を選び、元の文書と直した文書を指定します。違いは変更履歴の形で、3つ目の新しい文書に表示されます。比べた2つの文書はそのまま残ります。4
表に無いのに変わっている所があれば、そこは元の文に戻します。理由の書かれていない直しは選びようがないからです。
要確認の行と、数字と名前
次に、AIが「直さずに知らせた」要確認の行を見ます。ここは元の資料を開いて、自分で確かめます。
日付なら、カレンダーで曜日と合っているか。たとえば「11月5日(水)」と書いた案内が要確認に挙がったら、2026年の11月5日は木曜日なので、日付と曜日のどちらが正しいのかを決め直すことになります。金額は見積書の数字と、会社名は名刺や契約書 の表記と照らします。
要確認の行が無くても、「直した文」の欄に数字や名前があれば、元の文と1字ずつ見比べます。頼んだとおり触らずにいてくれたか、見るのは一瞬です。
敬語の行は、動作をするのはだれかで見る
敬語の行を見るときの問いは1つだけ。
その動作をするのは、だれか。
相手側の動作なら尊敬語、自分側から相手に向かう動作なら謙譲語Ⅰ。社外あての文では、自社の人も自分側に入ります。敬語の指針は、取引先の社員に自社の田中部長のことを話すなら「田中」か「部長の田中」と呼び、「田中部長」はウチ扱いの呼び方にならないので不適切だとしています。5
たとえば「資料を拝見してください」が「資料をご覧ください」に直っていたら、採ってよい直しです。「拝見する」は謙譲語Ⅰで、見るのは相手だからです。6 逆に、社外あての文で「部長の田中が申しておりました」が「田中部長がおっしゃっていました」に変わっていたら、前提がうまく伝わっていない印。その行は採らずに、頼む文の1行目を書き足して頼み直します。
尊敬語と謙譲語の言い換えの早見表を、敬語の使い方 誰の動作かで尊敬語と謙譲語を選ぶ、言い換えの早見表 に載せています。
最後に、意味と依頼の強さ
誤字や敬語の直しのつもりでも、言葉を替えれば文の意味が動くことがあります。見るところは3つ。期限と否定、それに依頼の強さです。
「12月10日までにご返送ください」が「12月10日頃までにご返送いただけますと幸いです」になっていたら、敬語としては丁寧でも、期限の重さが変わっています。「ご確認ください」と「ご承認ください」では、相手にしてほしいことそのものが違います。
理由の欄に「より丁寧にするため」と書かれた直しは、段階1と2の範囲を越えている印です。採るなら、意味が変わっていないことを確認してからにします。
採るかどうかは、自分の理由で決める
表のすべての行を採る必要はありません。個人情報保護委員会の注意喚起は、生成AIの応答結果に不正確な内容が含まれることがある、と書いています。7 校正の指摘も例外ではないでしょう。
たとえば二重敬語。敬語の指針は、同じ種類の敬語を二重に使った形を一般に適切ではないとしながら、習慣として定着しているものもあるとして、「お召し上がりになる」「お見えになる」「お伺いする」「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」を挙げています。8 「明日、お伺いいたします」に二重敬語だという指摘が付いても、採らずに残してかまいません。
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインには、「自動化バイアス」という言葉が出てきます。自動化されたシステムや技術を、過度に信頼したり頼ったりしてしまう現象のことです。ガイドラインは対策の例として、AIの判断を人が承認するときは、承認する理由や根拠を自分で考えてから承認すること、を挙げています。9
校正に置き換えると、表の行ごとに「なぜ採るのか」を一言で言えるか、ということ。言えない行は採らない。それだけで、表は「AIの直し」から「自分で選んだ直し」に変わります。
「敬語の使用は、飽くまでも『自己表現』であるべきだ」。敬語の指針の第1章には、こんな一文もあります。相手との関係や場の状況への自分の気持ちを踏まえて、その都度、自分で選んで表すという考え方です。10 AIの案が文法として正しくても、相手との距離に合わないと感じたら、元の言い方を選んでいいのです。
送る前10分の進め方
ここまでを、送信の前の10分に並べると次のようになります。頼む文はメモ帳に保存しておき、毎回〈〉の所だけを書き換えます。
送る文の写しを作り、名前を立場に置き換える
保存した頼む文の〈〉を、今回の相手と文書に書き換える
写しを貼って、誤字脱字と敬語の点検を頼む
要確認の行と、数字や名前のある行を元の資料と照らす
敬語の行を、動作をするのはだれかで1行ずつ見る
採ると決めた行だけを、元の原稿に手で反映する
声に出して1回読み、宛名と日付をもう一度見てから送る
直しの表は、自分の癖の記録になる
表は、採らなかった行も含めて捨てずに残しておくのがおすすめです。月に一度ほど見返すと、同じ変換ミスがくり返し出ていたり、「させていただく」が毎回のように直されていたり。表には自分の書き方の癖が、そのまま残っています。
癖が見えたら、頼む文の前提に「特に〇〇を見てください」と1行足します。毎回採らない指摘があるなら、「〇〇は直さないでください」と書いておく。そうして頼む文が、少しずつ自分専用になっていきます。
自分で選んだ直しだけが入った文は、上司に「なぜこの言い方にしたの?」と聞かれても、理由を答えられる文。AIに頼む時間を、自分の書き方を磨く時間にもできたら、送信ボタンの前で迷う時間も、少しずつ短くなっていくと思います。
敬語の指針、注意喚起とガイドラインの記述、Wordの操作の手順は、いずれも2026年10月29日に公式の資料で確認しました。