「来年の目標は、生成AIに『決めて』と頼めば出てくる」。そう思われがちですが、目標を決める材料を持っているのは自分だけです。
AIは、あなたが今年どの仕事に時間を使い、何に疲れ、何を面白いと感じたかを知りません。材料を渡さずに頼めば、誰にでも当てはまる目標になるのは当然ですよね。一方で、材料を整理したり、考えていなかった角度から質問したりする役なら、AIはかなり頼れる相手になります。これが壁打ちです。
年末の作業は、前後でつながっています。1年の出来事を整理するなら生成AIで1年の振り返り、紙1枚で棚卸しするならキャリアの棚卸し、会社に出す目標シートの書き方は目標設定の立て方に載せました。ここで扱うのは、その手前にある「何を目標にするか、まだ決まっていない」時間です。
決めてもらうより、質問してもらう
ノートに自分の言葉で書きながら、横のパソコンで壁打ちするイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
壁打ちは、壁にボールを投げ、跳ね返りを見て次の一球を決める練習です。目標づくりなら、頭の中のぼんやりした考えを言葉にして投げ、返ってきた質問や候補を見て、自分の反応を確認します。
AIに頼む役は、3つに絞ります。
- 考えを引き出す質問を出してもらう
- 方向の違う候補を並べてもらう
- 決めた目標の弱いところを、反対側から指摘してもらう
3つとも、「選ぶ」を含みません。選ぶ作業まで渡した時点で、目標は自分のものではなくなります。
時間は1回30分ほど。一度に全部を終えなくても、2〜3日に分けてかまいません。
入れる前に、名前と事情を外しておく
壁打ちに要るのは、自分の気持ちと優先順位です。取引先や同僚の実名は、なくても中身は変わりません。
ところが、目標を考えるときは本音も出したくなります。上司への不満、家のこと、体調、お金の悩み。自分や家族のことも個人情報なので、入れる前に一度立ち止まりたいところです。
個人情報保護委員会は、一般の利用者に向けて、入力した個人情報が生成AIの機械学習に使われることがあり、ほかの情報と結びついて出力されるリスクがある、と呼びかけています。あわせて、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを十分に読み、入れる情報の内容を踏まえて判断するよう求めています。1
仕事で使う側の指針も同じ方向です。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは、AIを使う側に、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを挙げています。2会社のパソコンやアカウントで壁打ちするなら、社内の決まりが先です。
大まかな言い方にしても、壁打ちは成り立ちます。「同僚のCさんが休職して仕事が増えた」は「同じチームで仕事が増えた」で十分に伝わり、質問や候補も変わりません。
壁打ちの進め方は、広げてから絞る
順番が大事です。いきなり候補を出してもらうと、眺めて終わりになりがちです。質問、広げる、絞る、反対から見る、小さくする、の順に頼むと、毎回「次に自分が考えること」が残ります。
〈〉の中を自分の言葉に入れ替えれば、そのまま使えます。
まずは、質問から始める頼み方です。最初に渡すのは目標ではなく材料で、走り書きの箇条書きでかまいません。今年いちばん楽しかった仕事、疲れた仕事、来年はやめたいこと、使える時間の上限などです。
この段階がいちばん大事です。AIの質問は、自分では当たり前だと思って書かなかったことを引き出します。答えるのは自分なので、書くうちに「来年は、人と関わる仕事を減らしたい」のような本音が文になって出てくることがあります。
質問に答え終えたら、候補を出してもらいます。ここで「どれがいいか」まで聞かないのがコツ。選ぶ基準は自分で書いて渡します。基準まで任せると、決める役がAIに移ってしまうからです。
出てきた候補がどれもしっくりこないときは、条件を足して頼み直します。「在宅の日は週2日」「平日の夜に使える時間は週3時間まで」のように、自分の事情を1行足すだけで、候補の向きは変わります。頼み直すたびに自分の条件がはっきりしていくので、これも壁打ちの成果です。
目標がひとつに近づいたら、あえて反対側から見ます。うまくいかない理由を先に挙げておくと、立てる前に弱いところに気づけるからです。そのあとで、最初の一歩を小さくします。1月に30分でできる形なら、始めやすくなります。
最後に、自分で書いた1行をAIに読ませ、あいまいな所の指摘だけを頼みます。書き直しを頼まないのは、言葉を自分の手に残すためです。
来年の目標の壁打ち 質問から始めて広げ、基準で絞り、反対から見て小さくする5回の頼み方作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会
返ってきた答えは、3つの目で読む
質問も候補も、返ってきたものは下書きの材料であって、結論ではありません。個人情報保護委員会は、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがある、と指摘しています。自然な文章を出せるサービスでも、文章は確率的な相関関係に基づいて作られるためです。3
しかも、読みやすい文は正しそうに見えます。AI事業者ガイドラインは、AIに過度に頼ってしまう「自動化バイアス」に注意を払い、必要な対策を講じるよう求めています。4では、何を見ればよいのでしょう。
| 目 |
見ること |
見直す先 |
| 事情の目 |
自分の時間、体力、会社の状況に合っているか。AIはあなたの職場の事情を知らない |
合わない候補は消す。惜しいものは、条件を変えて頼み直す |
| 事実の目 |
資格、制度、期限、費用、数字が出てきたら、そのまま信じない |
主催団体、官公庁、会社の規程など、公式の案内で見直す |
| 気持ちの目 |
読んだときに、やる気が出たか、気が重くなったか |
気が重い候補は理由を1行書く。「人に言われたから」なら外す |
表でいちばん見てほしいのは、3行目です。目標は、1年間続けるものです。やる気が出るかどうかは、AIには出せない材料になります。
同じ質問を言い換えて、もう一度頼むのも手です。2回の答えで同じ点が出てきたら、自分の考えにも引っかかっている点かもしれません。食い違った点は、どちらが自分の事情に近いかを、自分の言葉で書いて決めます。
「継続が大切です」のように、誰にでも当てはまる一般論が返ってきたら、目標の根拠にはなりません。自分の場合なら何かを一文で書き換えられるか考え、書けなければ捨ててかまいません。
任せてよいこと、自分で決めること
目標づくりでAIに任せてよいこと、自分で決めること、入れない情報と、答えを読む3つの目作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会・総務省・経済産業省・厚生労働省
任せてよいのは、考えるための作業です。質問を出す、方向の違う候補を並べる、基準ごとに見比べる、うまくいかない理由を挙げる、あいまいな言葉を指摘する。どれも、出てきたものを自分が取捨選択できます。
自分で決めるのは、答えが人によって違うことです。何を大事にするか、どの候補を選ぶか、やるかやめるか、誰に話すか、会社に出す文面。AI事業者ガイドラインも、人がAIを使いこなして能力を発揮できる社会を基本の理念に置き、5AIを使う側の項目では、人の判断を介在させることで「人間の尊厳及び自律」を守れる、と書いています。6
入れないのは、前の節で外した実名、家族や健康の細かい事情、社外秘の数字です。
迷う理由が、AIの知らないところにあるときもあります。会社の制度、体調、家庭の状況などです。そんなときは人に聞くほうが早く進みます。厚生労働省の委託事業では、個人の人がキャリアコンサルティングを無料で受けられます。時間は60分で、対面かオンラインです。職業生活の設計について、専門家と対話しながら自分の考えを整理する場で、「自分自身の考えを整理してみたい」というときの利用も案内されています。申し込みの前に、ジョブ・カードの作成が要ります。
壁打ちで1行にした目標を、会社に出す形へ直すときは、目標設定の立て方の「何を・どれだけ・いつまでに」の書き方が使えます。
最初の質問に、10分だけ答えてみる
目標が決まっていなくても、始められます。今週のどこかで30分の枠を取り、1回目の頼み方だけ試してみてください。
渡すメモは5行で足ります。実名は外し、家のことは大まかな言い方にして貼る。返ってきた質問のうち、答えやすいものから紙に答えを書いていきます。全部に答えなくてもかまいません。
2回目以降は、2〜3日あけて頼んでも間に合います。1年の目標を決めるのに、その日のうちに答えを出す必要はありません。
最後に残るのは、自分の言葉で書いた1行です。AIが出した候補がいくつ並んでも、その1行に「なぜこれにしたか」を言えるのは自分だけ。質問してくれる相手がいると、考えは前に進みます。進んだ分だけ、来年の最初の一歩が軽くなります。
個人情報保護委員会の注意喚起、AI事業者ガイドライン、厚生労働省委託事業の案内は、2026年10月28日に確認した内容です。