エンジニアを客先に常駐させる会社では、契約書は準委任でも、現場では客先の社員とエンジニアが毎日やり取りをします。そのやり取りが指揮命令になると、実態は労働者派遣と判断され、いわゆる偽装請負になります。この記事では、2026年10月時点の厚生労働省の告示・疑義応答集と条文をもとに、法務・労務の担当者が押さえる線引きをまとめます。契約書と現場の運用の注意点も扱います。
SESは法律の言葉ではない 契約の型は4つ
「SES(システムエンジニアリングサービス)」は業界の呼び名です。民法や労働者派遣法に、SESという契約の種類はありません。契約書の題がSESでも、法律の上では請負・準委任・労働者派遣のどれに当たるかを、実態で判断します。
準委任は、法律行為でない事務の処理を任せる契約で、委任の決まりが使われます(民法643条・656条)。仕事の完成を約束する請負(民法632条)とは目的が違います。それでも、発注者と受注者側の労働者の間に指揮命令の関係が生じない点は同じだと、厚生労働省の疑義応答集(第3集Q1)は説明しています。
| 契約の型 |
約束すること |
エンジニアを雇うのは |
指揮命令するのは |
許可 |
根拠 |
| 請負 |
仕事の完成 |
受注者 |
受注者 |
不要 |
民法632条 |
| 準委任 |
事務の処理 |
受注者 |
受注者 |
不要 |
民法643条・656条 |
| 労働者派遣 |
派遣先の指揮命令を受けて働かせる |
派遣元 |
派遣先(客先) |
厚生労働大臣の許可 |
労働者派遣法2条・5条 |
| 労働者供給 |
供給契約で他人の指揮命令の下に働かせる |
供給元と雇用関係がない場合など |
供給先 |
原則禁止(許可を受けた労働組合等の無料のものだけ可) |
職業安定法4条・44条・45条 |
請負・準委任・労働者派遣・労働者供給で、誰がエンジニアを雇い、誰が指揮命令するかを比べた図作成: 編集部 / もとの資料: 民法・労働者派遣法・職業安定法(e-Gov 法令検索)、厚生労働省、東京労働局
偽装請負とは、書類の上では請負や準委任なのに、実態は労働者派遣であるものをいいます。東京労働局は、派遣元と派遣先の責任があいまいになり、雇用や安全衛生などの基本的な労働条件が守られにくくなると説明しています。
同局が挙げる典型は、次の4つです。
- 代表型: 客先が細かい指示を出したり、出退勤や勤務時間を管理したりする
- 形式だけ責任者型: 責任者はいるが、客先の指示を個々の労働者に伝えるだけ
- 使用者不明型: 再委託先の社員が、元の発注者などの指示で働く
- 一人請負型: 個人事業主として契約させ、実態は客先の指示で働かせる
テレワークの労務や入退社、SaaSの管理など、IT企業のバックオフィス全体はIT企業のバックオフィスにまとめています。この記事は、客先常駐の契約と運用に絞ります。
判断の物差しは37号告示 4つの見方
請負か派遣かの判断には、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号。以下37号告示)を使います。請負の形で働かせる事業主でも、次の2つを両方満たさなければ、労働者派遣事業を行う事業主とされます(2条)。
- 自分の雇う労働者の労働力を、自ら直接利用すること
- 請け負った業務を、自分の業務として相手から独立して処理すること
2つを満たしていても、法律を免れるため故意に偽装したもので、真の目的が派遣なら、派遣事業とされます(3条)。
疑義応答集は、この物差しが準委任にも当てはまるとしています(第3集Q1)。2021年5月13日の厚生労働省の事務連絡は、発注者の技術指導についての第1集Q10・Q11が、システム開発にも当てはまると示しました。
2026年5月25日には第3集にQ8が加わりました。アジャイル型開発についての考え方(Q1〜Q7)が、それ以外のシステム開発にも当てはまると明記されています。
| 見方 |
受注者が自ら行うこと |
37号告示 |
| 業務の遂行の指示 |
仕事の割り付け・順序・緩急の調整、業務の評価 |
2条1号イ |
| 労働時間の管理 |
始業・終業・休憩・休日・休暇、残業や休日労働の指示 |
2条1号ロ |
| 服務規律と配置 |
職場の規律・服装などの決まり、勤務場所や担当の決定と変更 |
2条1号ハ |
| 独立した処理 |
資金の調達、事業主としての法律上の責任、自社の設備か企画・専門的な技術や経験で処理 |
2条2号 |
業務の遂行の指示 客先は受注者に注文する
客先が受注者に注文し、受注者の責任者がエンジニアに指示する、という経路が基本です。不具合が見つかったとき、客先が受注者に作業のやり直しを求めるのは、契約の当事者どうしの注文なので問題ありません。客先がエンジニアに直接、作業工程の変更ややり直しを指示すると、偽装請負と判断されます(第1集Q2)。
口頭でなくても、客先が作業の内容・順序・方法を文書で細かく示し、そのとおりに作業させていれば同じです(第1集Q7)。一方、客先の開発責任者がバックログの内容を詳しく説明しても、それだけで偽装請負とはされません(第3集Q4)。対等な立場での技術的な議論・助言・提案も同様です(第3集Q5)。
労働時間の管理 残業を決めるのは受注者
始業・終業・休憩・休日と、残業や休日出勤の指示は、受注者が自ら管理します。厚生労働省と都道府県労働局の「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」(以下ガイド)が挙げる判断の材料は、次のとおりです。
- 実施する日時を前もって客先と打ち合わせ、業務中に客先から直接指示を受けないよう書面にしているか
- その書面にもとづき、受注者の責任者を通じて具体的に指示しているか
- 業務時間の実績を、受注者が自ら把握しているか
客先の施設管理などの理由で、結果として客先と同じ就業時間になっても、それだけでは問題とされません(第2集Q11)。受注者の規則として決めていることが前提です。
服務規律と配置 誰を常駐させるかは受注者が決める
誰をどの現場に置くかは受注者が決めます。客先が職務経歴書を求めたり事前面談をしたりすると、一般的には配置の決定に影響します。
そのため、派遣や労働者供給と判断されることがあります(第2集Q13)。面談の結果で特定の人を指名したり断ったりすれば、配置に関与したと判断されます。
技術力を確かめるため、個人を特定できない「スキルシート」を求めるのは、直ちに偽装請負とはされません(第3集Q7)。入館の手続きのため氏名を前もって出すことも同様です(第2集Q12)。氏名などを渡すときは、エンジニア本人の了解を得ます。
客先の作業服やセキュリティのルールに合わせることもあります。理由が機密保持や安全衛生などで、前もって契約で合意していれば、それだけで偽装請負とはされません(第1集Q9)。客先がエンジニアに直接、服装などを指示するのは偽装請負と判断されます。
独立した処理 会社として仕事を引き受けているか
受注者は、資金を自分の責任で調達し、事業主として法律上の責任を負います。そのうえで、自社で用意した設備や材料で処理するか、自社の企画や専門的な技術・経験で処理する必要があります(37号告示2条2号)。ガイドは、この技術や経験は企業として持つものを指し、個々の労働者の技術ではないとしています。
契約上、受注者に裁量の余地がなく、客先の細かい指示どおりに動くだけなら、単なる労働力の提供とされやすくなります(第2集Q14)。完成ではなく、投入した人数の単価をもとに精算する請負も、単なる労働力の提供とされます(第1集Q8)。
ただし、完成品を引き渡さない販売・サービスなどの業務では、人数や時間に比例して料金を決めることに合理的な理由がある場合もあります。その場合は、精算の形だけで派遣とはされません(第2集Q7)。前提は、受注者が自ら労働者を使い、独立して業務を処理していることです。
1人で常駐させるときの責任者
エンジニアが1人だけの現場では、その人が自分の管理責任者を兼ねることはできません(第1集Q4・第2集Q8)。常駐しない責任者が巡回などで指示を出し、客先との連絡の体制と、出退勤を含む労働時間の管理を受注者が確実に行えるようにします。
責任者がすべての会議に出ていなくても、対等に協働していれば直ちに偽装請負とはされません(第3集Q3・Q6)。進み具合が遅れて割り振りや順序を変える必要があるときは、受注者が自ら指示します。
客先常駐が偽装請負になるかを、37号告示の5つの問いで順に確かめる判定の流れ作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「37号告示」「37号告示に関する疑義応答集」「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
二重派遣と多重下請で気をつけること
二重派遣は、派遣で受け入れた人を、さらに別の会社へ派遣することです。受け入れた会社はその人を雇っていないため、派遣事業ではなく労働者供給事業に当たります。職業安定法44条で禁止されています(厚生労働省「労働者供給事業業務取扱要領」)。
44条は、供給する側だけでなく、供給された人を自分の指揮命令の下で働かせる側も禁じています。違反すると1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金です(64条)。なお、派遣労働者を雇う会社と、直接指揮命令する会社の間だけで派遣契約を結んでいれば、二重派遣には当たらないと要領は説明しています。
準委任の再委託が重なる商流では、エンジニアを雇う会社と、指示を出す会社がずれやすくなります。たとえば客先のA社がB社に頼み、B社がC社に再委託して、C社の社員がA社に常駐するとします。その人に指揮命令できるのは雇い主のC社だけで、A社やB社が指示すれば、東京労働局のいう「使用者不明型」の偽装請負です。
再委託先がフリーランスなど雇用関係のない個人なら、労働者派遣法の問題にはならないとガイドは説明しています。ただし、契約の名前にかかわらず、実態から労働者性があると認められれば労働基準法などの「労働者」です。そのうえ注文主の指揮命令を受けていれば、偽装請負になります。
偽装請負と判断されたときの影響
実態が派遣と判断されると、労働基準法などの責任の分担も、派遣と同じ扱いになります(ガイド)。行政の対応と罰則、民事の効果は次のとおりです。
| 影響 |
内容 |
根拠 |
| 報告・立入検査と指導 |
厚生労働大臣が報告を求め、立入検査をし、指導・助言をすることができる |
労働者派遣法48条・50条・51条 |
| 受け入れ側への勧告・公表 |
許可のない会社から派遣を受けたことなどに是正を勧告し、従わなければ公表できる |
同24条の2・49条の2 |
| 罰則(派遣) |
許可なく派遣事業を行うと1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金。法人にも罰金 |
同5条・59条・62条 |
| 罰則(供給) |
労働者供給事業を行う・受け入れると1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金 |
職業安定法44条・64条 |
| 労働契約申込みみなし |
受け入れ側が、その時点と同じ労働条件で労働契約を申し込んだとみなされる |
労働者派遣法40条の6 |
労働契約申込みみなし制度
違法な派遣を受け入れた会社が、その時点で、派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなす制度です(2015年10月1日施行)。労働条件は、その時点で雇い主との間で決まっているものと同じです。対象は、禁止業務への従事、無許可の会社からの受け入れ、事業所単位と個人単位の期間制限の違反、いわゆる偽装請負等の5つです。
偽装請負等は、法律の適用を免れる目的で、請負など派遣以外の名目で契約し、派遣契約で定める事項(26条1項)を定めずに派遣を受けることです。受け入れた会社は、その行為が終わった日から1年間は申込みを撤回できず、その間に労働者が承諾すれば労働契約が成立します。違法に当たると知らず、知らなかったことに過失もない場合は適用されません。
厚生労働省の通達(2015年9月30日)は、指揮命令をして偽装請負の状態になったことだけで、免れる目的を推定はしないとしています。一方で、契約したときに目的がなくても、偽装請負に当たると認識した後に改めて指揮命令をすれば、その時点でみなされるとしています。
契約書に入れる項目
契約書を整えても、実態が派遣なら派遣と判断されます。それでも、どう運用するかを双方で決めた記録になり、現場が迷ったときの拠り所になります。準委任の契約書(個別契約や仕様書を含む)で決めておく項目をまとめました。
| 項目 |
書くこと |
根拠 |
| 業務の内容と報告 |
任せる事務の範囲、報告の方法と頻度 |
民法645条・656条 |
| 双方の責任者と窓口 |
受注者の管理責任者と代理の人、客先の窓口。依頼や変更は責任者どうしで |
第1集Q4・Q11、第2集Q8 |
| 勤務日と時間 |
実施する日時を前もって決め、残業・休日労働は受注者の責任者が判断 |
37号告示2条1号ロ・ガイド |
| 作業場所と設備 |
客先の場所・設備を使う範囲。作業場所や光熱費は利用を認めることを包括的に書けば足りる |
第1集Q12・Q13 |
| 服務規律 |
従ってもらう客先のルールと、その理由(機密保持・安全衛生など) |
第1集Q9・第2集Q11 |
| 要員の決め方 |
受注者が決め、客先は指名・面接・拒否をしない。スキルシートは個人を特定しない形 |
第2集Q13・第3集Q7 |
| 個人情報 |
氏名やメールアドレスなどを渡すときは本人の了解を得る |
第2集Q10・Q12・Q13 |
| 損害賠償 |
受注者が事業主として責任を負う範囲 |
37号告示2条2号ロ |
| 再委託 |
可否と事前の承諾、再委託先の社員への指示の経路 |
東京労働局(使用者不明型) |
| 緊急時 |
安全や健康を守るための直接の指示はありうること |
第2集Q3 |
客先がエンジニアに直接指示したい事情があるなら、準委任のまま運用でしのがず、派遣の許可を持つ会社と労働者派遣契約を結びます。派遣契約には、業務の内容、就業の場所と組織単位、指揮命令する人、期間、始業・終業の時刻、安全衛生、苦情の処理などを定めます(労働者派遣法26条1項)。派遣でも、受け入れる側は派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないよう努めます(同条6項)。
契約書の確認の手順や収入印紙は、契約書を受け取ったら確認することを参考にしてください。
今日からできること
この記事は、2026年10月19日時点の37号告示・疑義応答集(第3集は2026年5月25日更新)と条文で確かめた内容です。自社の契約や運用が適正か迷うときは、都道府県労働局の需給調整事業の窓口に相談できます。個別の契約書の書き方は、弁護士や社会保険労務士にも確かめてください。