工場や製造の現場では、けがや健康障害を防ぐための体制を、労働安全衛生法が事業場の業種と人数に応じて決めています。総務や労務の担当者が迷いやすいのは、「何人から誰を選ぶのか」と「選んだ後に何をするのか」の2つです。この記事では、2026年10月時点の労働安全衛生法・施行令・規則の条文で確かめた基準を、製造業の事業場に絞って整理します。
体制は「事業場ごと」に「業種と人数」で決まる
安全衛生管理体制は、会社単位ではなく事業場単位で考えます。本社・工場・支店・営業所など、所在地が違う場所は原則としてそれぞれ一つの事業場です。本社が200人でも、工場が40人なら、工場には50人以上の決まりはかかりません。
人数は「常時使用する労働者」で数えます。労働局の案内では、パートタイマー・アルバイト・派遣労働者なども含みます。名称にかかわらず、常態としてその事業場で使われている人が数に入ります。正社員だけで数えて「まだ50人に届かない」と判断するのは早計です。
製造業(物の加工業を含む)は、施行令で電気業・ガス業・自動車整備業などと同じ区分に入っています。この区分の業種は、50人以上で安全管理者が、100人以上(一部の業種は50人以上)で安全委員会が必要です。「その他の業種」には、この2つの決まりがありません。
製造業の事業場で必要な人と委員会
常時使用する労働者の数ごとに、必要になるものを表にしました。上の段で必要になったものは、人数が増えても続きます。
| 常時使用する労働者数 |
必要になること |
根拠 |
| 10〜49人 |
安全衛生推進者を選ぶ |
法12条の2・規則12条の2 |
| 50人以上 |
安全管理者・衛生管理者・産業医を選ぶ。衛生委員会を設ける |
法11〜13条・18条、施行令3〜5条・9条 |
| 50人以上(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業) |
安全委員会を設ける |
施行令8条1号 |
| 100人以上(上記以外の製造業) |
安全委員会を設ける |
施行令8条2号 |
| 300人以上 |
総括安全衛生管理者を選ぶ |
施行令2条2号 |
| 1,000人以上 |
産業医を専属にする(有害な業務に500人以上が就く場合は500人から) |
規則13条 |
| 1,000人超 |
衛生管理者のうち1人以上を専任にする(有害な業務に常時30人以上が就く場合は500人超から) |
規則7条 |
| 3,000人超 |
産業医を2人以上選ぶ |
規則13条 |
製造業の事業場で人数ごとに必要になる安全衛生管理体制の早見表作成: 編集部 / もとの資料: 労働安全衛生法・同施行令・労働安全衛生規則(e-Gov 法令検索)
衛生管理者の人数と資格
衛生管理者は、事業場の規模に応じて次の人数以上を選びます(規則7条)。原則としてその事業場に専属の人から選びます。
| 事業場の規模(常時使用する労働者数) |
衛生管理者の数 |
| 50人以上200人以下 |
1人 |
| 200人超500人以下 |
2人 |
| 500人超1,000人以下 |
3人 |
| 1,000人超2,000人以下 |
4人 |
| 2,000人超3,000人以下 |
5人 |
| 3,000人超 |
6人 |
製造業では、第一種衛生管理者免許か衛生工学衛生管理者免許を持つ人、または医師・歯科医師・労働衛生コンサルタントなどから選ぶ決まりです。第二種衛生管理者免許で足りるのは、製造業や建設業などを除く「その他の業種」だけです。
衛生管理者は少なくとも毎週1回、作業場を巡視し、有害のおそれがあれば直ちに必要な措置をとります。事業者は、衛生に関する措置をとれる権限を衛生管理者に与える必要があります(規則11条)。
産業医
常時50人以上の事業場では、厚生労働省令で定める要件を備えた医師の中から産業医を選びます。会社の代表者や、その事業場で事業の実施を統括管理する人は、原則として産業医に選べません(規則13条)。
産業医は少なくとも毎月1回作業場を巡視します。衛生管理者の巡視の結果などを毎月受け取り、事業者の同意があるときは、2か月に1回とすることもできます(規則15条)。産業医から勧告を受けたときや、産業医が辞任・解任されたときは、衛生委員会か安全衛生委員会に報告します。辞任・解任は、遅滞なく労働基準監督署長にも報告します(規則13条5項。後任の選任報告で代えることもできます)。
安全管理者・総括安全衛生管理者・安全衛生推進者
安全管理者は、理科系の学歴と実務経験があり厚生労働大臣が定める研修を修了した人や、労働安全コンサルタントなどから選びます(規則5条)。一部の業種では、規模が大きくなると専任の安全管理者が必要です。
| 業種 |
専任の安全管理者が必要になる規模 |
| 有機化学工業製品製造業・石油製品製造業 |
300人以上 |
| 無機化学工業製品製造業・化学肥料製造業 |
500人以上 |
| 紙・パルプ製造業・鉄鋼業・造船業 |
1,000人以上 |
| その他の製造業 |
2,000人以上(過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者の合計が100人を超える事業場に限る) |
総括安全衛生管理者は、工場長など、その事業場で事業の実施を統括管理する人を充てます。10〜49人の事業場で選ぶ安全衛生推進者は、講習を修了した人などから選び、氏名を作業場に掲示するなどして働く人に知らせます。
選任と報告の期限
総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医・安全衛生推進者は、どれも「選任すべき事由が発生した日から14日以内」に選びます。人数が増えて基準を超えたときだけでなく、担当者が退職や異動でいなくなったときも事由にあたります。
総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医を選んだら、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します。2025年1月1日からは、この選任報告や定期健康診断結果報告などを、原則として電子申請で出す決まりです(労働安全衛生規則)。
委員会の開き方と記録
衛生委員会(業種と規模によっては安全委員会も)は、事業者に意見を述べるための場です。議長は総括安全衛生管理者か、事業の実施を統括管理する人などから事業者が指名した1人です。衛生委員会には、衛生管理者・産業医・衛生に関する経験のある労働者が入ります。
議長以外の委員の半数は、労働者の推薦にもとづいて指名します。推薦するのは、労働者の過半数で組織する労働組合か、組合がなければ過半数を代表する人です(法17条4項・18条4項)。会社が選んだ人だけで固めることはできません。その事業場で作業環境測定をしている作業環境測定士がいれば、委員に指名することもできます。
運営の決まりは規則23条にあります。
- 毎月1回以上開く。 安全委員会と衛生委員会の両方が必要なら、安全衛生委員会として一つにまとめられます。
- 議事の概要を働く人に知らせる。 開くたびに遅滞なく、掲示・書面の配布・電子ファイルのいずれかで知らせます。
- 記録を3年残す。 委員会の意見と、それを踏まえてとった措置、そのほかの重要な議事を記録します。
安全衛生の仕事の頻度と、人が替わるときの手続き・記録の保存期間作成: 編集部 / もとの資料: 労働安全衛生法・労働安全衛生規則・厚生労働省
決まった頻度でする仕事と、記録の保存期間をまとめると次のとおりです(常時50人以上の事業場の場合)。
| 仕事 |
頻度・期間 |
根拠 |
| 衛生管理者の巡視 |
少なくとも毎週1回 |
規則11条 |
| 委員会の開催 |
毎月1回以上 |
規則23条 |
| 産業医の巡視 |
毎月1回(条件を満たせば2か月に1回) |
規則15条 |
| 定期健康診断 |
1年以内ごとに1回 |
規則44条 |
| 定期健康診断結果の報告 |
実施後遅滞なく(電子申請) |
規則52条 |
| ストレスチェック |
1年以内ごとに1回 |
規則52条の9 |
| ストレスチェックの結果等の報告 |
1年以内ごとに1回(電子申請) |
規則52条の21 |
| 委員会の記録 |
3年保存 |
規則23条 |
| 健康診断個人票 |
5年保存 |
規則51条 |
| ストレスチェック結果の記録・面接指導の記録 |
5年保存 |
規則52条の13・52条の18 |
委員会の議題に困ったときは、法律が挙げる調査審議の事項から選ぶと外れません。衛生委員会なら、健康障害を防ぐ基本の対策、健康の保持増進の対策、衛生に関する労働災害の原因と再発防止策などです。定期健康診断(1年以内ごとに1回)やストレスチェックの結果を受けた対策も、ここで話し合います。
製造業で一緒に確かめたい教育と作業主任者
人数とは別に、教育と作業の種類で決まる義務もあります。
- 雇入れ時と作業内容を変えたときの安全衛生教育: 業種や人数にかかわらず必要です(法59条)。
- 職長教育: 新しく職長など現場で直接指導・監督する立場に就く人への教育です(法60条)。製造業は対象です。ただし、たばこ製造業、繊維工業(紡績業と染色整理業を除く)、衣服その他の繊維製品製造業、紙加工品製造業(セロファン製造業を除く)は除かれます(施行令19条)。
- 作業主任者: 決められた危険な作業では、免許を持つ人や技能講習を修了した人から作業主任者を選びます(法14条・施行令6条)。たとえば、ボイラー(小型ボイラーを除く)の取扱い、動力プレス機械を5台以上持つ事業場でのその機械による作業、アセチレン溶接装置などを使う金属の溶接が当たります。
決まっている今後の変更
2025年5月14日に公布された改正法(令和7年法律第33号)で、次の変更が決まっています。
| 時期 |
変わること |
| 2026年4月1日(施行済み) |
高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置が事業者の努力義務に |
| 公布日から2027年4月1日にかけて段階的に |
個人事業者などへの安全衛生対策。製造業などの注文者が行う混在作業の連絡調整の対象に、個人事業者などを含む作業従事者を加える |
| 2028年4月1日 |
常時50人未満の事業場でもストレスチェックが義務に(2026年10月時点は努力義務) |
ストレスチェックの日付は、厚生労働省の「こころの耳」の案内によります。厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しており、50人未満の工場もそれを使って準備できます。
今日からできること
この記事の基準は、2026年10月18日時点の条文と厚生労働省の資料で確かめたものです。自社の業種の区分や、有害な業務に当たるかの判断に迷うときは、所轄の労働基準監督署に確かめてください。社会保険労務士や、労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントにも相談できます。健康診断の記録などの保存期間は会社の書類の保存期間にまとめています。