月給30万円の人が、大雪で1日仕事を休んだとします。その日の分として受け取る額は、扱いしだいで1万5,000円にも、約5,870円にも、0円にもなります。1
分かれ目は、雪の量ではありません。休むと決めたのが社員か会社か。そして、会社がその日に仕事を回せる状態だったか。この2つです。
雪で電車が止まった朝、「今日は行けそうにありません」という連絡にどう返すか。その一言で、月末の給与計算が変わってきます。
前の日の夕方に、送る文面を決めておく
雪で電車が止まった朝、出勤前に連絡と予定を見直すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
大雪の予報が出た日の夕方は、休みにするかどうかより先に、社員に送る文面を決めておきます。
国土交通省と気象庁は、大雪が見込まれるとき、緊急発表で注意を呼びかけることがあります。2025年2月3日の発表では、公共交通機関で「大規模かつ長時間にわたる遅延や運休」が起こるおそれがあるとして、「テレワークの活用などを含め不要不急の外出を控えてください」と求めました。2注意報や警報をどの時刻に見るかは、建設現場の冬の労災予防 積雪・凍結で作業中止を決める基準と朝礼の点検表に目安があります。
では、なぜ文面がそこまで大事なのでしょうか。
「明日は無理に出社しなくて大丈夫です」。気づかいのつもりの一文ですが、これだと翌日に休んだ人が、自分の判断で休んだのか、会社に休むよう言われたのかがはっきりしません。あとで見るように、この違いで休業手当が要るかどうかが変わります。社員の側は、会社が休みにしたと受け取るかもしれません。
前日の連絡に次の3つを入れておけば、翌朝の判断はぶれにくくなります。
- 明日の会社の動き方(通常どおり営業する、在宅勤務に切り替える、休業にする)
- 来られないときの連絡先と、連絡の締め切りの時刻
- 休んだ日の扱い(欠勤になること、有休や会社の特別休暇を申請できること)
出社を強く求めすぎないことも大切です。会社は、社員が安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をすることになっています。3雪道を急がせるより、始業を遅らせる、在宅勤務に切り替えるといった道を先に用意しておくほうが、あとで休業そのものを避けることにもつながります。
当日の朝は、2つの問いで扱いが分かれる
朝6時、「電車が止まっていて行けません」と連絡が来たら、考えることは2つです。
ひとつは、休むと決めたのが誰か。社員が雪で来られなかったのか、会社が「今日は休み」と決めたのか。もうひとつは、会社がその日、仕事を回せる状態だったかどうか。建物や設備が雪で壊れた、ほとんどの人が来られず業務にならない、といった事情があったかを見ます。
雪で出勤できない日の賃金は、誰が休みを決めたかと、会社が仕事を回せたかで分かれる作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省・北海道労働局・労働基準法
社員が来られなかっただけなら、欠勤から考える
会社が通常どおり動いていて、社員が雪で来られなかった日は、欠勤が出発点です。
働かなかった時間の賃金は、払わなくてよいのが原則。厚生労働省のモデル就業規則の解説にも、欠勤や遅刻、早退で労働しなかった日と時間は「賃金を支払う必要はありません」とあります。4雪のせいで本人に落ち度がなくても、ここは変わりません。
ただし、会社の決まりが先に来ます。就業規則や賃金規程に、災害などで出勤できなかった日の扱いが書いてあれば、それに従います。会社に有給の特別な休暇制度があるなら、その制度を使う手もあるでしょう。災害のときに厚生労働省が出しているQ&Aにも、そう書かれています。決まりがない場合も、賃金の扱いは労使で十分に話し合い、社員の不利益をできるだけ避けることが大切だとされています。5
有休はどうでしょう。本人が申し出れば、欠勤の代わりに有休にできます。けれど、会社が「雪の日は有休で処理しておきます」と決めることはできません。同じQ&Aは、有休を「使用者に命じられて取得するものではありません」と書いています。6
会社が休みにした日は、不可抗力かどうか
会社が「今日は休業」と決めた日は、話が変わります。
会社の都合で社員を休ませたときは、平均賃金の6割以上の休業手当を払う決まりです。7休業手当の基本は、インフルエンザの出勤停止と休業手当 誰の判断で休むかで扱いが変わるで取り上げました。
雪の日に考えたいのは、その休業が「不可抗力」にあたるかどうかです。天災事変などの不可抗力による休業なら、休業手当を払う義務はありません。災害時のQ&Aによると、ここでいう不可抗力とは、「①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすもの」です。8台風や豪雨の日も、考え方は同じです。
大雪にあてはめた例もあります。2025年2月に十勝地方が記録的な大雪に見舞われたあと、北海道労働局の帯広労働基準監督署が、事業者向けのQ&Aを出しました。9そこで引かれている線を、表にしました。
| 雪の日の状況 |
休業の扱い |
休業手当 |
| 雪で建物や設備が直接の被害を受けた |
不可抗力にあたる |
要らない |
| 建物や設備に被害はない |
原則として、会社の責任による休業 |
原則として要る |
| 交通機関が止まり、ほとんどの人が出社できず、来た人だけでは業務にならない |
不可抗力にあたる |
要らない |
3行目の原文は、「ほとんどの者が出社できず、出社できた者だけでは業務を行えず、休業せざるを得ない状況」です。雪で電車が止まっただけでは足りず、その結果として会社が仕事を回せなくなったことまでが条件になっています。
迷いやすいのは、仕事は回せたのに、社員の安全を考えて会社が休みにした日でしょう。建物に被害がなく、来られる人で業務ができたなら、表の2行目にあたります。Q&Aでは、例外を認めるかどうかの材料として、ほかの代替手段の可能性や、休業を避けるための具体的な努力が挙がっています。在宅勤務で回せる仕事だったのに休業にしたなら、不可抗力とは言いにくいはずです。
安全を優先した判断そのものは、間違いではありません。ただ、休業手当が要らなくなるかは別の話で、要る側に寄ると考えておくのが無難です。個別の事情で判断が分かれるところなので、迷ったときは所轄の労働基準監督署に聞いてみると確実です。
もう一点、会社の決まりや慣行も見ておきます。これまで不可抗力の休業でも賃金を払ってきた会社が、今回の雪の日だけ払わないとすれば、労働条件の不利益変更にあたります。10労使の合意など正式な手続きを踏まずに、扱いを変えることはできません。6割は法律の最低線で、就業規則でそれより手厚く決めることもできます。11
遅れて着いた人、早めに帰した人
運休で遅れて着いた時間も、働いていない時間です。モデル就業規則では、遅刻と早退の時間分の賃金を、基本給から差し引く形になっています。4ただ、差し引くかどうか、遅延証明書を出してもらうかは、会社が規程で決められる部分。雪の日だけ扱いを変えたいなら、当日の朝に決めるより、規程に書いておくほうがもめません。
本人の判断で早めに帰った場合も、早退として扱います。
会社が早めに帰らせた場合は、1日の一部を休ませたことになります。その日に払う賃金が平均賃金の6割に届かなければ、差額を払う決まりです。12
冒頭の月給30万円の例で計算すると、平均賃金の6割は約5,870円です。8時間のうち4時間働いて帰した日なら、その日の賃金は7,500円で、6割を超えているので差額はありません。2時間で帰した日は3,750円なので、約2,120円を休業手当として足します。
午後に雪が強まる予報を見て、運休の前に帰した判断が不可抗力にあたるか。これをはっきり書いた公的な資料は、見当たりませんでした。安全のための判断でも、この差額は払う前提で見積もっておけば、あとで慌てずに済みます。
帰り道のけがにも触れておきます。東日本大震災のときに厚生労働省が出したQ&Aは、普段の電車が使えず「歩いて帰らざるを得ない状況であれば、通勤と認められます」と答えています。13電車が動かず職場に泊まり、翌朝帰る途中のけがも、通勤災害として認められます。当日の交通事情で回り道をした経路も、通勤の合理的な経路に入ります。ただし、途中で経路を外れて用事を済ませると、通勤と認められない部分が出てきます。
6割は、1日分の給与の6割ではない
給与計算の前に、雪の日の1日を扱いごとに並べてみます。月給30万円の人の例です。1
月給30万円の人の雪の日1日、扱いごとに受け取る額と、休業手当の最低額の出し方作成: 編集部 / 出典: 労働基準法・厚生労働省
| その日の扱い |
その日の分として受け取る額 |
よりどころ |
| 在宅勤務に切り替えた |
1万5,000円 |
働いた日なので通常どおり |
| 有休、または有給の特別休暇 |
1万5,000円 |
本人の申し出、会社の制度 |
| 会社が休業にした(不可抗力にあたらない) |
約5,870円(最低額) |
休業手当は平均賃金の6割以上 |
| 欠勤(本人が来られなかった) |
0円 |
働かなかった分を差し引く |
| 会社が休業にした(不可抗力にあたる) |
0円(規程や慣行があればそれに従う) |
休業手当の義務はない |
意外なのは3行目です。休業手当は「6割」と聞くと、1日分の給与1万5,000円の6割、9,000円を受け取れる気がしますよね。でも、もとになる平均賃金は、直前3か月の賃金を、休日も含めた暦の日数で割った額です。14この例では約9,783円で、その6割が約5,870円。1日分の給与の4割ほどにとどまります。
社員から「休業手当は6割ですよね」と聞かれたら、この差を先に伝えておくと、給与明細を見たときの行き違いを防げます。
記録は、雪の日のうちに残しておきます。あとで不可抗力にあたるかを説明するとき、よりどころになるのは当日の事実だけだからです。
次の雪が降る前に確認すること
雪の朝に迷う時間を短くするには、決めごとを先に済ませておくのがいちばんです。12月に入る前に、次の順で進めてみてください。
- 就業規則と賃金規程を開き、欠勤と遅刻の控除、災害のときの特別休暇の有無を確認する
- 在宅勤務に切り替えられる仕事と人を、部署ごとに書き出す
- 前日の夕方に連絡を送る基準を決める(大雪の警報、鉄道会社の運休の発表など)
- 当日の朝の連絡先と、締め切りの時刻を社員に知らせる
- 記録の様式を作り、勤怠システムに雪の日の区分を足せるか確認する
大雪の前の日から給与の締めまで、労務の担当者がやることと残す記録作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省・北海道労働局・国土交通省
返事のない社員をどう追うかまで決めておくなら、安否確認の方法 送る基準と、返事のない人を誰が追うかを先に決めるの連絡網の組み方がそのまま使えます。
規程を書き換えるときは、社員の過半数を代表する人の意見を聴き、常時10人以上の事業場なら労働基準監督署へ届け出ます。15災害の日の特別休暇や、遅延による遅刻の扱いを書き足すなら、雪の季節の前が書きどきです。
雪の朝の判断は、毎年のように同じ迷いをくり返しがちです。前日の文面と当日の記録を一度残しておけば、次の冬には「去年はこの基準で、こう扱いました」と根拠を添えて説明できます。担当が替わっても引き継げる、労務の仕事の形にもなるはずです。
2026年10月時点の労働基準法と労働契約法、厚生労働省と北海道労働局、国土交通省の資料をもとに書いています。確認したのは2026年10月29日です。個別の事情で迷ったときは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に相談してください。