女性の係長級の月給には、残業代などの超過労働給与が平均で3万円ほど含まれています。課長級では1万6千円ほどで、およそ半分です。1その一方で、基本給や役職手当などの所定内給与は、課長級のほうが10万円ほど高くなっています。
昇進すると、給与の額だけでなく、中身の組み立てが変わります。働く時間の決まりや、使える両立の制度まで変わることもある。打診を受けて迷っているなら、その迷いは、引き受けたあとに何が変わるのかが、まだ見えないせいかもしれません。
返事はその場で決めなくて大丈夫です。役割と評価、働く時間と残業代、給与、異動と両立、返事の期限。この5つを上司に聞いてから決めても、遅くはありません。
迷うのは、引き受けたあとの姿が見えないから
返事の前に時間をもらい、役割や働き方を聞いてメモに残すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
昇進をためらう気持ちは、数字にも表れています。労働政策研究・研修機構が2012年に行った調査で、従業員300人以上の企業の係長・主任に聞くと、課長以上への昇進を望む人は女性で29.4%、男性で71.0%でした。2
少し前の調査ですが、昇進を望まない人に理由を聞いた結果は、今の迷いをほどく手がかりになります。女性の係長・主任でいちばん多かったのは「仕事と家庭の両立が困難になる」の42.5%で、「責任が重くなる」35.2%、「自分には能力がない」33.9%と続きました。
| 昇進を望まない理由 |
女性の係長・主任 |
男性の係長・主任 |
| 仕事と家庭の両立が困難になる |
42.5% |
19.7% |
| 責任が重くなる |
35.2% |
38.8% |
| 自分には能力がない |
33.9% |
29.1% |
| メリットがないまたは低い |
27.8% |
50.3% |
| やるべき仕事が増える |
18.6% |
27.8% |
| 周りに同性の管理職がいない |
17.1% |
なし |
責任と能力の行は男女でそれほど変わりません。開きが大きいのは両立とメリットの行で、男性の係長・主任では半数が「メリットがないまたは低い」と答えました。
昇進を望まない理由と、理由ごとに上司に聞けること作成: 編集部 / 出典: 労働政策研究・研修機構「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」
並んだ理由を読み返すと、どれも「引き受けたら、どうなるのか」が分からないままでは決めにくいものばかりです。両立が心配なら、働く時間と両立の制度がどう変わるか。責任や能力が気になるなら、任される範囲と、評価や支えの仕組み。メリットが見えないなら、給与と手当。迷う理由は、そのまま上司への質問に置き換えられます。
周りに同性の管理職がいない、という理由を挙げた女性も17.1%いました。女性の管理職の割合は女性管理職の割合の記事で詳しく紹介しています。社内に手本が見つからないなら、「子育てをしながら管理職をしている方と、話せる機会はありますか」と聞いてみる手もあります。
返事の前に、上司に聞く5つのこと
打診の場では、お礼と、前向きに考えたい気持ちを伝えるだけでかまいません。話を聞く時間は別にもらうと、落ち着いて聞けます。聞く順番は役割から始めて、働く時間とお金、両立、最後に期限。仕事の中身を知りたいという姿勢が伝わりやすい順です。5つは、法令と統計をもとに編集部がまとめたものです。
返事の前に上司に聞く5つのことと、答えを確認する書類作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」ほか
役割と権限、評価のされ方
最初に聞きたいのは、何を任されて、どこまで自分で決められるかです。同じ「課長」という肩書でも、部下の人数や、仕事の割り振りと人の配置にどこまで関われるかは、会社によって違います。
受け持つ範囲が分かると、「責任が重くなる」という漠然とした不安が、具体的な仕事の一覧に変わります。重そうな仕事があっても、それが最初の半年に来るのか、慣れてからでよいのかで、受け止め方はずいぶん違うはずです。
評価の物差しも、立場が変わると変わります。これまでは自分の仕事の成果が中心でも、これからはチームの成果や、メンバーを育てたかどうかが加わるかもしれません。最初の評価がいつで、何を見るのかを聞いておけば、「自分には能力がない」という迷いも、何を身につければよいかという問いに変えられます。研修があるか、困ったときにだれに相談できるかも、ここで聞いておくと安心です。
働く時間と、残業代の扱い
管理職になると残業代が出なくなる、と聞いたことはありませんか。でも、残業代が出るかどうかは、肩書では決まりません。
労働基準法は「監督若しくは管理の地位にある者」、いわゆる管理監督者には、労働時間や休憩、休日の規定を適用しないと定めています。3管理監督者に当たれば、時間外や休日の割増賃金は出ません。ただ、当たるかどうかについて、厚生労働省のパンフレットは「肩書や職位ではなく、その労働者の立場や権限を踏まえて実態から判断する必要があります」と書いています。
判断の物差しは4つあります。重要な職務を任されているか、それに見合う責任と権限があるか、労働時間を厳しく管理される働き方になっていないか、地位にふさわしい待遇か。パンフレットによると、「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自分の裁量で使える権限が少なく、多くのことで上司の決裁が要る人は、管理監督者とは言えません。会社が管理職として扱っていても実態が伴わない、いわゆる「名ばかり管理職」の問題です。
管理監督者になっても変わらない決まりもあります。午後10時から午前5時までの深夜の割増賃金と、年次有給休暇です。4長時間労働になれば、労働安全衛生法にもとづく医師の面接指導などが必要になる場合もある、とパンフレットは書いています。
つまり、上司に聞いておきたいのは、肩書より扱いのほう。会社はこのポストを管理監督者として扱うのか。勤怠はどう記録するのか。今の課長たちは、どんな時間の使い方をしているのか。この答えで、次の給与の比べ方も変わってきます。
女性の役職別の給与の内訳と、管理監督者で外れる決まり作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」ほか
給与と手当の変わり方
給与は合計の額より、何がどう変わるかを見ます。賃金構造基本統計調査から、女性の月給を役職ごとに並べると、次のとおりです。1
| 区分 |
所定内給与額 |
超過労働給与額 |
平均年齢 |
平均勤続年数 |
| 部長級 |
578.3千円 |
10.6千円 |
53.0歳 |
20.0年 |
| 課長級 |
470.3千円 |
16.5千円 |
49.4歳 |
19.0年 |
| 係長級 |
365.7千円 |
30.9千円 |
45.7歳 |
16.7年 |
| 非役職 |
280.1千円 |
19.2千円 |
41.3歳 |
9.7年 |
所定内給与額は基本給や役職手当などで、残業代を含みません。超過労働給与額は残業や休日出勤、深夜勤務などの手当です。統計の「きまって支給する現金給与額」から所定内給与額を引いて出しました。
まず見たいのは、係長級と課長級の2行です。所定内給与額は課長級が104.6千円高く、超過労働給与額は14.4千円低い。差し引きすると、月に9万円ほど高くなります。
ただ、これは同じ人が昇進したときの変化ではありません。課長級の女性は平均49.4歳で、係長級より4歳ほど年上、勤続も2年ほど長い人たちです。年齢と経験の差も含んだ数字なので、自分の場合は会社の給与規程で計算し直したほうが、実際に近くなります。役職ごとの年収の目安は、管理職の年収の記事にまとめています。
自分の分は1年分で比べます。今の1年と、昇進した場合の1年を、同じ式で並べてみてください。
聞いた額は給与規程や賃金規程の条文でも確認しておくと、あとで食い違いません。新しい給与がいつの分から始まるかも、あわせて聞いておけます。
異動や転勤と、育児や介護との両立
両立は今の暮らしだけでなく、数年先の予定も含めて考えたいところです。昇進と同時に、勤務地や担当が変わることもあります。
管理監督者と育児の制度の関係も、知っておきたいところ。厚生労働省の通達によると、管理監督者は、3歳になるまでの子を育てる人に会社が設ける短時間勤務の措置の義務と、小学校に入るまでの子を育てる人が請求できる残業の免除、つまり所定外労働の制限の対象外です。5月24時間、年150時間までに残業を抑える時間外労働の制限も同じ。労働時間の規定が適用されない立場だからです。
一方で、同じ通達は、職場で「管理職」として扱われていても、管理監督者に当たらなければこれらの対象になる、としています。管理監督者であっても、会社が短時間勤務に準じた制度を設けることはでき、仕事と子育ての両立の点からは「むしろ望ましい」とも書いています。
今は子育てや介護をしていなくても、数年のうちに考えそうなら、管理職が使える両立の制度を聞いておくと安心です。就業規則や育児・介護休業の規程で、管理職が対象に入っているかも見ておけます。
転勤を伴う異動では、会社は子育てや介護が難しくなる人の状況に配慮しなければなりません。6通達は配慮の例として、子育てや介護の状況を把握することや、本人の意向をくむことを示しています。ただし、転勤させないことまでを会社に求めるものではありません。打診はこうした事情と希望を伝えておける場でもあります。
返事の期限と、断った場合の扱い
最後に、いつまでに返事が要るかを聞きます。期限が分かれば、家族と話す日や、給与を計算する時間を逆算できます。
断った場合にどうなるかは、聞きにくいですよね。でも、分からないままだと、断るという選び方を最初から外して考えてしまいがちです。「今回お受けしなかった場合、次の機会や評価に影響はありますか」と、事実として聞いてかまいません。扱いは会社の規則や運用で違うので、上司の答えそのものが判断の材料になります。
迷っていることや条件の希望は、辞令が出る前の、打診のうちに伝えておくほうが話し合いやすいでしょう。
聞いた答えを、自分の判断表に並べる
5つの答えがそろったら、次の表に、分かったことと、自分にとってどうかを書き出してみます。印はこのままで大丈夫なら○、条件しだいなら△、今のままでは難しいなら×の3つで十分です。
| 聞いたこと |
書き出すこと |
自分にとって |
| 役割と権限 |
任される仕事と、自分で決められる範囲 |
○ △ × |
| 評価と支え |
評価の時期と物差し、研修や相談できる人 |
○ △ × |
| 働く時間 |
管理監督者として扱うか、勤怠の記録、今の課長の働き方 |
○ △ × |
| 給与 |
1年分の差、役職手当と賞与の計算 |
○ △ × |
| 異動と両立 |
勤務地の変化、管理職でも使える両立の制度 |
○ △ × |
| 期限 |
返事の期限と、断った場合の扱い |
○ △ × |
書いたら、まず×の行を見てください。×はそのまま断る理由にしなくてもいいのです。「在宅勤務を週2日続けられるなら」「最初の半年は今の担当と兼ねないなら」のように、条件を付けると△に変わらないかを考えます。条件で動くなら、それは上司に相談できる材料になります。
判断は印の数で機械的に決めなくてかまいません。目安にするなら、分かれ道は次の3つです。
- ×が無く、△の条件もはっきりしている。引き受ける方向で、気になる点を伝える。
- ×があり、条件しだいで△に変わりそう。条件を相談してから決める。
- 条件を付けても×が残る。今回は見送るか、時期をずらせないかを相談する。
どの道を選んでも、聞いたうえで決めた返事なら、それはあなた自身の判断です。
保留するとき、断るときの伝え方
返事を待ってもらうなら、いつまでに返すかを自分から伝えると、相手も予定を立てやすくなります。条件を付けて引き受けたいときは、引き受けたい気持ちを先に言ってから、相談を一つずつ。断るときは、お礼と理由を短くし、次の機会への気持ちがあれば一言添えます。理由を細かく説明しすぎなくても大丈夫です。
迷った数日を、聞いて比べる時間に
冒頭の統計で見たように、昇進で変わるのは給与の額だけではありません。中身の組み立ても、働く時間の決まりも変わります。だから、返事までの数日は、聞いて、書いて、比べる時間に使えばいいのです。
引き受けると決めたら、最初の1か月の進め方は初めてリーダーを任されたときの記事で紹介しています。見送ると決めても、5つの質問で聞いたことは、次に打診を受けたときに比べる材料として残ります。
記事の制度と数字は、2026年10月29日時点の法令と、厚生労働省などの資料で確認した内容です。管理監督者に当たるかどうかや、残業代の扱いで迷ったときは、都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーに、無料で相談できます。