副業で開業届を出すかどうかは、得か損かより先に、その副業が「事業」かどうかで決まります。事業として始めたなら出す決まりがあり、そうでなければ出さなくてかまいません。
迷うのは、その先ですよね。開業届を出しただけで、税金が安くなるわけではありません。控除が大きくなる青色申告は、もう1枚の申請書で決まります。しかも2026年から、この2枚の期限がずれました。
出す決まりがあるのは、事業を始めた人
届出書を手に、始めた日と申請の期限をカレンダーで確認するイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
開業届は正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。出すように決めているのは所得税法で、事業所得や不動産所得、山林所得が生まれる事業を始めた人が対象です。1
届出書を開いてみると、それがよく分かります。「所得の種類」の欄で選べるのは、不動産所得と山林所得、事業(農業)所得の3つだけ。雑所得や給与所得には、印をつける場所がないのです。
だから副業なら、その所得が事業所得になるかどうかが分かれ目です。どちらになるかは、届け出をしたかではなく、副業の大きさや続け方、帳簿を残しているかで決まります。国税庁の解説が示す目安は、副業の雑所得と事業所得の違いで詳しく取り上げました。
裏返すと、届け出は区分を決めるものではなく、事業を始めたことを税務署に知らせるもの。出せば事業所得になるわけではなく、出さなければ雑所得で済むわけでもありません。
給与の副業や不用品の売却なら、出さなくていい
出す決まりがないのは、たとえば次のような副業です。
- 副業先と雇用契約を結んで、給与を受け取るアルバイトやパート
- ふだん使っていた服や家具を、フリマアプリで売った代金
- 事業と言えるほどの大きさではなく、業務に係る雑所得になる原稿料や講演料
1つ目は給与所得なので、そもそも開業届の対象外です。2つ目のような暮らしの物の売却には、原則として所得税がかかりません。2迷いやすいのは3つ目でしょう。線引きは、さきほどの記事の図に当てはめると見当がつきます。
ただ、開業届がいらないことと、申告がいらないことは別の話です。給与を1か所からもらっている人でも、給与所得と退職所得を除いた所得が20万円を超えれば、確定申告をします。320万円以下のときの住民税の話は、副業が20万円以下でも住民税は申告に書きました。
2026年から、期限は確定申告の日まで
開業届の期限は2026年から変わりました。前は事業を始めた日から1か月以内。今は始めた年の確定申告の期限までに出せばよくなりました。1変わったのは2026年1月1日以後に始めた事業で、2026年中に始めた副業なら、2027年3月15日までに出せば間に合います。
「開業届は1か月以内」と覚えていた人もいるかもしれません。その1か月は2025年までに始めた事業の決まりです。
期限が延びたのは、出す側にはありがたい変更でした。ただ、ここに落とし穴があります。青色申告の承認申請書の期限は、変わっていないのです。
青色申告にするなら、2か月が先に来る
青色申告の承認申請書は、青色申告にしたい年の3月15日までに出すのが基本です。その年の1月16日以後に事業を始めたときは、始めた日から2か月以内です。4
開業届の期限だけを見ていると、どうなるでしょう。たとえば2026年6月に副業を始めて、開業届は年明けに確定申告の準備と一緒に出すつもりでいたとします。開業届はそれで間に合いますが、2026年分を青色申告にする申請は、8月中に締め切られているのです。
副業を事業として始めた日から、開業届と青色申告の申請、ほかの窓口の期限が来る順番作成: 編集部 / 出典: 国税庁、e-Gov法令検索、厚生労働省、東京都主税局
申請書を出したあと、税務署から何も届かないと不安になりますよね。青色申告にしたい年の12月31日までに却下の通知がなければ、承認されたものとみなされます。11月1日以後に始めた年は、翌年2月15日が区切りです。5
1年目に間に合わなかった年は白色申告になりますが、翌年分からなら、その年の3月15日までに申請すれば青色申告にできます。4
もうひとつ、青色申告を選べるのは事業所得や不動産所得などがある人だけです。副業の所得が雑所得なら、申請の対象になりません。控除の段階と、令和9年分からの変わり方は、さきほどの記事の表にまとめてあります。
出さないままでも罰則はない。困るのは別のところ
所得税法の罰則の条文に、開業届を出さなかったことへの罰則はありません。6とはいえ、事業を始めた人が出す決まりであることは変わりません。
出していなくても、事業としての決まりは同じようにかかります。国税庁の記載要領にも、事業所得などが生まれる業務をする人は、申告の要らない人も含めて、みな帳簿をつけて残す必要があるとあります。
出さないままで困りやすいのは、むしろ次の2つです。1つは前の節で見た青色申告の期限。もう1つは事業を始めた日を示す書類が手元に残らないことです。
たとえばハローワークの受給期間の特例では、事業を始めた事実と日を示す書類の例として、「開業届の写し」が挙がります。国税庁は、受付印のある控えを求めないよう、金融機関や補助金・助成金を担当する行政機関などにお願いしたと説明しています。わざわざ頼んだのは、こうした場面で控えが求められてきたからでしょう。
出す前に、3つの場面では立ち止まる
開業届そのものは税の手続きです。ただ、事業を始めること自体が、ほかの制度の扱いを変える場面があります。次の3つに当てはまる人は、出す前に窓口に聞いておくと安心です。
副業の開業届を出すかどうかを決める順番と、出すと変わること、出しても変わらないこと作成: 編集部 / 出典: 国税庁、e-Gov法令検索、厚生労働省、日本年金機構
退職して失業給付を受けるつもりのとき
厚生労働省とハローワークのパンフレットを開くと、原則として求職者給付を受けられない人の例に、「自営を開始、または自営準備に専念する方」と「自分の名義で事業を営んでいる方」があります。どちらも、届け出の有無ではなく、事業をしているかどうかで書かれています。一方で、「求職活動中に創業の準備・検討を行う方は支給可能な場合があります」ともあります。
自営や自営の準備を申告しないまま受け取ると、不正受給として厳しい処分の対象になります。だから、副業を続けたまま退職する予定なら、離職票を持っていく前に、副業の状況をどう申告するかハローワークに相談しておくと、落ち着いて手続きを進められます。
退職をきっかけに、副業を本業にして独立する人もいるでしょう。そんなときのために、2022年7月から特例ができました。離職したあとに事業を始めた人は、事業をしている期間を最長3年まで、基本手当の受給期間に数えないよう申請できます。事業をたたんで再就職を目指すことになっても、基本手当を受けられる道が残るわけです。
申請は、事業を始めた日か、事業やその準備に専念し始めた日の次の日から2か月以内にします。在職中から続けていた副業でも、辞めたあとそれに専念するなら対象に入ります。
家族の健康保険の扶養に入っているとき
配偶者や親の健康保険で扶養に入っている人は、副業の収入しだいで、扶養から外れることがあります。日本年金機構の案内では、協会けんぽの場合、年間の収入の見込みが130万円未満で、一緒に住んでいるなら扶養している家族の収入の半分未満であることが基準です。60歳以上か、障害のある人は180万円未満になります。
見るのは去年までの実績ではなく、これから1年の見込みです。自営の収入なら、その事業に要る経費を引いたあとの額で考えます。
2026年4月からは、収入が給与だけの人なら、労働条件通知書などに書かれた賃金をもとに、年間の収入を見てもらえるようになりました。ただ、この方法を使うには「給与収入のみである」と申し立てます。副業で事業の収入がある人は、この方法の対象外です。
家族が入っているのが健康保険組合や共済組合なら、その組合の案内を見てください。扶養を外れて、勤め先の厚生年金にも入らないときは、国民年金の手続きもいります。
勤め先が副業のルールを決めているとき
開業届を出しても、会社に届け出たことにはなりません。就業規則で副業が許可制や届出制になっているなら、会社の手続きはそれとは別です。規則のどこを読めばいいかは、副業の就業規則の確認に書きました。
控えには、受付の日付印が押されない
2025年1月から、税務署は申告書や届出書の控えに、受付の日付印を押さなくなりました。紙で出すときは正本だけを出します。控えが要るなら自分で作り、出した日も自分で書き留めておきます。
あとから「いつ出したか」を示したいときは、出し方によって手段が変わります。
- e-Taxで出したなら、メッセージボックスに届く受信通知で、氏名と受付番号、受付日時を見られます。受信通知からは、電子申請等証明書を出してもらうこともできます。
- 窓口で出したなら、当分のあいだ、頼めば受付の日付と税務署名を書いたリーフレットをもらえます。郵送でも、切手を貼った返信用封筒を入れておけば、同じものが返ってきます。
- どちらでも、税務署での閲覧や保有個人情報の開示請求で、出した書類をあとから見られます。開示請求の手数料は300円、オンラインなら200円です。
控えを作るとき、マイナンバーは書き写しません。記載要領にも、控えには個人番号を書かないようにとあります。控えを人に見せる場面を考えても、番号のない控えのほうが扱いやすいはずです。
開業届を出すまでの段取り
- 副業が給与なのか、事業として続けるものなのかを、さきほどの順番で見極める。
- 事業を始めた日をカレンダーで見つけて、メモに残す。
- 青色申告にするかどうか決めて、するなら承認申請書も用意する。
- 失業給付や扶養、勤め先のルールに当てはまるなら、先にそれぞれの窓口へ相談する。
- 届出書の「所得の種類」で、事業(農業)所得に印をつける。
- 「事業の概要」の欄に、何をだれに、どう届けるかを書く。
- e-Taxか紙で出して、受信通知か、自分で作った控えをとっておく。
- 住んでいる都道府県にも、出すものがないか見ておく。
e-Taxで出すなら、国税庁の案内では、パソコンのe-Taxソフトで届出書を作って送信します。初めてe-Taxを使う人は、先に利用者識別番号を取っておきます。青色申告の承認申請書のほうは、e-Taxソフト(WEB版)を使えばスマートフォンからも出せます。
紙なら、住所地などの納税地を受け持つ税務署に、持っていくか郵送します。持っていくなら時間に気をつけて。2026年10月1日から、総合窓口の受付は原則として9時から15時までになりました。マイナンバーを書いた紙を出すときは本人確認書類を見せるか写しを付けますが、e-Taxなら要りません。
2027年1月からはe-Taxで開業届と青色申告の承認申請などを、まとめて出せるようになる予定です。国税庁が2026年10月20日に知らせた新しい機能で、画面のイメージは西のITメディアの記事で紹介しています。今年のうちに始める人は、今の出し方で2枚を同じ日に出しておけば足ります。
税務署のほかに、都道府県へ出すものもあります。個人事業税のための届け出で、東京都なら、都内で事業を始めた日から15日以内に「事業開始(廃止)等申告書」を都税事務所へ。期限も出し方も住んでいるところで違うので、都道府県のページを一度見ておくと安心です。
「事業の概要」の欄には、「できるだけ具体的に」としか書かれていません。内容と相手、届け方が分かれば、たとえば次のくらいで伝わります。
始めた日を、自分の言葉で言えるように
開業届を書くと、いつから副業を事業として始めたのかを、一度は自分の言葉にすることになります。その日付が受信通知や控えに残っていれば、次の取引先と話すときも、職務経歴書に副業を書くときも、「〇年から個人で請け負っています」と迷わず言えます。
出すと決めたなら、最初の一歩は小さくてかまいません。始めた日をカレンダーで見つけて、青色申告の2か月がいつ終わるかを書き込むところからです。
この記事の制度と期限は、2026年10月30日の時点で確認したものです。もとにしたのは、所得税法と国税庁の手続きの案内、厚生労働省とハローワークのパンフレット、日本年金機構と東京都主税局の案内です。自分の副業が事業に当たるかや青色申告のことは、所轄の税務署か税理士へ。失業給付はハローワーク、扶養は家族が入っている健康保険の窓口が相談先です。