たとえば要約に「日当は1日2,000円」とあり、原文のその続きに「ただし、研修への参加には支給しない」とあったら。研修で出張する人に「日当は出ますか」と聞かれて、どちらを見るかで答えは逆になります。
長い規程をすばやくつかみたいとき、生成AIの要約は頼りになりますよね。ただ、こういう短い一文は、要約から消えることがあります。
防ぐ方法は2つです。頼むときに、条番号と例外の一覧も付けてもらうこと。返ってきたら、原文と4つの点で照合すること。
間違いのない要約でも、答えは変わる
付箋を付けた原文と、短い要約を並べて見比べるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
架空の出張旅費規程で見てみましょう。ここから先の規程、要約、文例はどれも編集部が作った例で、AIが実際に返したものではありません。
条番号を除いて231字のこの規程を要約すると、たとえば「出張の日当は1日2,000円、宿泊料は1泊12,000円までの実費です。精算書は帰着後10営業日以内に出します。」の56字になります。
間違ったことは書いていません。それでも、聞かれることによって答えが変わります。
| 聞かれたこと |
要約で答えると |
原文では |
| 役員の出張にも使えますか |
使えそうに読める |
対象は社員だけ(第2条) |
| 研修の出張で日当は出ますか |
出る |
出ない(第3条のただし書) |
| 大阪で1泊14,000円でした。全額出ますか |
12,000円まで |
全額出る(第4条の上限15,000円) |
| 精算の期限を過ぎました。もう出せませんか |
出せない |
理由書があれば出せる(第5条) |
| 海外出張の日当も2,000円ですか |
2,000円 |
海外旅費細則による(第6条) |
| 転勤の移動にも日当は出ますか |
書いていない |
第3条と同じ条件で出る(第7条) |
いちばん怖いのは2行目でしょう。要約のとおりに答えると、出ないはずの日当を「出ます」と伝えてしまいます。
最後の行の準用は、ある条の決まりを、似た別の場面にも当てはめることです。第7条はたった1行ですが、転勤する人の日当も宿泊料も精算もまとめて決めています。
架空の旅費規程で、要約から消えた6か所と、質問ごとの答えの違い作成: 編集部 / 出典: ベンチャー・スピリット!編集部(架空の例)
短くするほど、どこかが削られる
なぜ、こうした文が消えやすいのでしょうか。
OpenAIが2024年に公開した資料に、手がかりがあります。長い文書を1回で要約させると、長さに見合わない短い要約が返りやすいそうです。2万トークンの文書でも、要約は1万トークンの文書の2倍にはなりません。1別の手引きによると、出力の量はたいてい似たようなもので、頼むことが増えるほど1つあたりの答えは薄くなります。2
つまり、文書が長くなっても要約の長さがあまり変わらないなら、どこかを削るしかありません。例外は本筋のあとに短く添えられていることが多く、削っても文として自然に読めてしまう。残りにくいのは、そういう文でしょう。人が要約しても、きっと同じです。
「別に定める」の先は、もっと単純な話です。細則を貼っていなければ、AIはその中身を読めません。
例外そのものも、珍しくはありません。厚生労働省のモデル就業規則は全70条で、解説を除いた規程例を検索して数えると、「ただし」が24回、「かかわらず」が10回、「別に定める」が4回ありました。3給与の支払日の条にも「ただし、支払日が休日に当たる場合は、その前日に繰り上げて支払う」と続きます。
読む人と判断を、最初に書いて頼む
同じ規程でも、精算書を差し戻すかを決める経理と、全体をつかみたい新任の担当者では、残してほしい文が違いますよね。だから、だれが何を判断するために読むのかを先に伝えます。OpenAIの手引きにある要約の例でも、読む人とその目的を最初に書いています。2
貼るのは1章ずつ。先ほどの2024年の資料によると、文書を分けて要約すれば、細かさを調整できます。1
読み落としを防ぐ中心は、次の2つです。要約の文ごとに条番号を付けてもらえば、原文に戻る目印になります。例外の文を原文のまま一覧にしてもらえば、言い換えで意味がずれる心配も減るはずです。手引きにも、正確さが要るときは出典を求め、渡した資料からそのまま引用してもらう方法が載っています。2
〈〉を入れ替えれば、どの生成AIにも同じように渡せます。場面に合わせて、最後に一文足してもいいでしょう。
ただ、貼ってよい文書かどうかは社内ルールが先です。e-Govで公開されている法令と、社外秘の規程や秘密保持の定めがある契約書では、扱いが違います。線の引き方は入力してよい情報の線引きに書きました。
原文と照合する手順は、軽いものから4つ
要約と一覧が返ってきたら、手間の軽い順に進めます。
- 原文を「ただし」「除」「限り」「限る」「かかわらず」「別に」「準用」で検索し、一覧の件数と合わせる
- 原文の金額と日数、期限が、要約か一覧に出ているかを1つずつ照合する
- 貼った章の条番号を書き出し、要約に出てこない条を探す
- 質問や判断に関わる条は、条番号から原文に戻って全文を読む
「除」を1字にしているのは、「除く」も「除き」もまとめて拾うため。古い規程なら「但し」もあります。件数が合わなければ、その差が読み落としの候補です。スキャンしただけのPDFは検索できないので、文字認識をかけてから進めます。
4つの確認で、要約から消えた6か所のどれが見つかるかの対応表作成: 編集部 / 出典: デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」
先ほどの規程に当てはめると、6か所のうち語の検索で見つかるのは4か所、数字の照合は2か所、条番号の抜けは3か所です。第4条の15,000円には「ただし」も「除く」も付いていないので、数字を照合して初めて見つかります。第2条の対象者には語も数字もなく、条番号の抜けを探さないと気づけません。どれか1つで済ませないのは、このためです。
3つ目の考え方は、行政の仕事にもあります。デジタル庁のガイドブック(α版)には、パブリックコメントをAIで分類する例があり、ラベルが付かなかったコメントは「見落とした意見である可能性が高い」として、職員が改めて精読する工程を置いています。4
社員に答える根拠は、要約にしない
要約で決めてよいのは、どの条を読むかまでです。
たまったメールなら、読む順番が決まれば十分なこともあります。でも規程は違います。答えた内容が、相手のお金や働き方を左右するからです。
社員に答えるときは、原文を読んだうえで、条番号と読める場所を添えます。就業規則なら会社に周知の義務があるので、社員も同じ条文を開けるはずです。5
解雇や懲戒、賃金の控除、契約の解除のように法律の判断がからむ場面は、要約も自分の読みも結論にしません。原文を持って、法務か社会保険労務士、弁護士に相談してください。
要約を渡すなら、確認した範囲も渡す
チームで要約を共有するなら、次の3行を添えておくと、受け取った人が続きから確認できます。規程が改定されたときに、古い要約だと気づく目印にもなります。
次に規程のことを聞かれたら、要約を読み上げる前に、その条を開いてみてください。「第3条のただし書です」と答えられると、聞いた人は自分で条文を開けますし、上司にも後任にも同じ根拠をそのまま渡せます。仕事を任されるのは、たぶんそういう人です。
モデル就業規則、労働基準法、OpenAIとデジタル庁の資料は、2026年10月31日に確認しました。