労働政策研究・研修機構(JILPT)は2026年10月23日、調査シリーズNo.270「正社員・非正社員の中間区分と非正社員から正社員への転換の実態」を公表しました(概要のページ)。この記事では、調査で分かったことを短く紹介し、中心はパート・契約社員を正社員に転換する制度の作り方と、無期転換の申込みを受けたときの手続きにします。制度は2026年10月23日時点の内容です。
調査で分かったこと 仕組みはあるのに使われ方は限られる
調査は、従業員10人以上の企業15,000社と、そこで働く無期雇用の人50,000人に、2024年8月6日から9月24日に行われました。有効回収は企業票3,944社(26.3%)です。以下の数字は、本編の図表1-2-29と図表1-2-30からです。
転換者を正社員にする仕組みの有無(JILPT調査の図表1-2-29)作成: 編集部 / もとの資料: JILPT 調査シリーズNo.270
有期雇用から無期雇用に転換した人がいる企業に、その人をさらに正社員に転換する仕組みがあるかをたずねたところ、結果は次のとおりでした。
| 転換の仕組み(複数回答) |
フルタイムの転換者 |
パートタイムの転換者 |
| 「いわゆる正社員」に転換する機会がある |
69.5% |
56.9% |
| 「多様な正社員」に転換する機会がある |
14.4% |
13.0% |
| 正社員に転換する機会はない |
17.0% |
26.8% |
一方で、転換者の活用方針に「いずれ正社員として登用する可能性がある」と答えた企業は、フルタイムで2割強、パートタイムで1割強でした。調査は、仕組みがあることは確かだが、それが活用方針とまではなっていない企業が多い、とまとめています。
もう1つの結果が、限定正社員です。無期雇用の非正社員が正社員への転換を望むとき、職務・勤務地・労働時間に限定のない正社員より、何らかの限定がある正社員を望む人が多いと示されました。インタビューでも、正社員に転換した20人のうち4人が勤務地限定正社員でした。
つまり、制度を「作る」だけでは足りず、誰が・いつ・どの条件で転換できるかを決め、受け皿の区分も用意することが、実務の中心になります。
会社の義務は3つに分かれる 早見表
パート・契約社員の転換には、混ざりやすい3つの決まりがあります。
正社員転換・無期転換・明示 会社の義務の早見表作成: 編集部 / もとの資料: パート有期法13条・労働契約法18条・厚生労働省
|
パート有期法13条 |
労働契約法18条 |
労働条件の明示 |
| 何の決まりか |
正社員への転換を推進する措置 |
無期転換ルール |
書面での知らせ方 |
| 誰の動きで決まるか |
会社が措置を講じる |
本人の申込みで成立 |
会社が書面で示す |
| 条件 |
パート・有期雇用の人を雇う |
通算契約期間が5年を超える |
有期契約の締結時と更新時 |
| 転換後 |
正社員(会社の制度による) |
無期契約(条件は直前と同じが原則) |
更新上限、申込機会、転換後の条件を示す |
パート有期法13条 3つの措置のどれか
事業主は、通常の労働者(正社員)への転換を推進するため、次のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 正社員の募集を行うとき、業務の内容・賃金・労働時間などを、事業所で雇う短時間・有期雇用の人に周知する
- 正社員の配置を新たに行うとき、配置の希望を申し出る機会を与える
- 一定の資格を持つ人を対象にした、正社員への転換のための試験制度を設けるなど、転換を推進するための措置を講じる
どれか1つで条文は満たせますが、後で説明するとおり、実際に使える形にしないと意味がありません。
労働契約法18条 無期転換ルール
同じ会社との通算契約期間が5年を超える有期契約の人が、現在の契約の満了日までに無期契約の申込みをすると、会社は承諾したものとみなされます。契約期間が1年なら5回目の更新後の1年間、3年なら1回目の更新後の3年間に申込権が生じます(厚生労働省の無期転換サイト)。
2024年4月からの明示
厚生労働省のリーフレットによると、2024年4月から、有期契約の締結時と更新時に更新上限の有無と内容を、無期転換の申込権が生じる更新のときに申込機会と転換後の労働条件を、書面で示すことになりました。書き方は労働条件通知書の書き方にまとめています。
正社員転換制度の作り方 6つを決める
転換制度は、就業規則に条文として書くのが基本です。就業規則の義務や届け出は就業規則とはで確かめられます。決めることは6つです。
| 決めること |
判断のしかた |
決め方の例 |
| 対象 |
雇用区分と勤続で決める |
フルタイム勤務の契約社員とパートで、勤続1年以上 |
| 要件 |
仕事の実績と本人の意思 |
直近の評価が基準以上、所属長の推薦、本人の希望 |
| 時期 |
年に何回、いつ |
年2回(4月1日付と10月1日付) |
| 選考 |
試験か面接か |
面接と、小論文か業務の確認 |
| 転換後の条件 |
賃金・職務・勤務地・時間 |
正社員の賃金表を適用。限定の有無を明示 |
| 手続き |
誰が・いつまでに |
募集を周知し、締切、結果通知の日を決める |
金額や期間は作例です。自社の実情に合わせて決めてください。
対象と要件は、はっきり書く
「会社が必要と認めた者」だけでは、誰が対象かが分からず、13条の措置としても弱くなります。雇用区分、勤続の長さ、勤務の状況は、できるだけ数えられる形で書きます。評価の基準を使うときは、正社員の評価の項目と対応させます。
時期は年に1〜2回、募集と合わせる
随時では、人事の負担が読めません。年に2回など、時期を決め、前の月に社内で周知します。13条の1つ目の措置(正社員の募集の周知)とも合わせられます。
選考は、仕事の内容で確かめる
試験や面接で確かめることは、転換後の仕事を担えるかです。性別・年齢・家庭の事情で選別しないことは、前提になります。結果の通知には日付を決め、不合格の人に理由を聞かれたときの答えも用意します。
転換後の労働条件を先に見せる
正社員になると、転勤や残業、職責が変わることがあります。JILPTの調査でも、転勤や教育訓練、賞与などは正社員が最も実施割合が高く、次いで多様な正社員、フルタイムの非正社員、パートタイムの非正社員の順でした。転換の前に、変わる点を一覧にして見せます。
就業規則への書き方の例
次は作例です。条の番号、期間、日付は自社に合わせて直してください。
就業規則を変えたら、労働者の過半数を代表する人の意見を聞き、労働基準監督署に届け出て、周知します。
無期転換の申込みを受けたときの手続き
無期転換は、本人が申し込むと成立します。会社の手続きは、数える、知らせる、受ける、通知する、の4つです。
無期転換の申込みを受けるまでの流れと、数え方の注意作成: 編集部 / もとの資料: 労働契約法18条・厚生労働省 無期転換サイトQ&A
通算契約期間を数える
数え方は、2013年4月1日以降に始まった契約からです。契約期間が6か月から1年に変わっても通算します。空白の期間(契約がない期間)が6か月以上あると、前の契約は通算されません(クーリング)。前の通算が1年未満の場合は、前の期間に応じて、より短い空白でもクーリングされます。管理表には、開始日・終了日・空白の有無を記録します。
申込権が生じる更新のときに書面で示す
更新の契約書または通知書に、無期転換を申し込める旨と、転換後の労働条件を書きます。厚生労働省のQ&Aにある記載例は、次のとおりです。
最初に申込権が生じた後も、有期契約を更新するたびに明示が必要です。
申込みを受けて通知する
申込みがあれば無期契約が成立し、会社は断れません。始まりは、申込み時の契約が満了する日の翌日です。受け付けたことと転換後の条件を、書面で本人に知らせます。次は作例です。
転換後の労働条件を決めておく
厚生労働省のQ&Aによると、転換後の労働条件は、就業規則などで別段の定めがない限り、直前の有期契約と同じです。別の条件を適用するなら、就業規則にその旨を定めておきます。ただし、職務が変わらないのに、無期転換後の労働条件を下げるのは、無期転換を円滑に進める観点から望ましくない、とされています。
定年を決めるときは、60歳を下回ることはできません。就業規則の「退職に関する事項」に必ず書きます。
特例の対象
高度な専門知識を持つ人が、期間が決まっているプロジェクトに従事する場合と、定年後に引き続き雇われる場合は、都道府県労働局長の認定を受けると、特例で申込権が生じない期間があります。認定が必要で、書面での明示も別に求められます。該当しそうなときは、労働局の窓口に先に確かめます。
限定正社員の設計 勤務地・職務・時間を限る
JILPTの調査では、正社員への転換を望む人の中に、限定のある正社員を望む人が多くいました。限定正社員は、勤務地、職務、労働時間のどれかを限る正社員で、厚生労働省は「多様な正社員」として導入の資料を公開しています。
| 種類 |
限るもの |
設計で決めておくこと |
| 勤務地限定 |
転居を伴う異動の有無・範囲 |
通える範囲、事業所が閉じるときの扱い |
| 職務限定 |
担当する仕事の範囲 |
範囲、職務がなくなるときの扱い |
| 時間限定(短時間正社員) |
所定労働時間 |
時間数、残業の有無、時間の変更 |
設計の考え方は4つです。
- 限定の中身を書面で示す: 勤務地や職務の限定は、後で食い違いやすい点です。労働条件通知書に「変更の範囲」を書き、就業規則にも区分と定義を置きます。
- 限定がなくなるときの扱いを決める: 事業所の閉鎖や職務の廃止があったとき、他の仕事に就いてもらうのか、話し合うのかを、あらかじめ決めて伝えます。
- 賃金の差は説明できるようにする: 賃金は、仕事の内容や責任に応じて決め、限定のない正社員との差の理由を説明できるようにします。パート有期法14条2項は、求めがあったときの待遇の相違の説明を義務づけています。
- 区分の間を行き来できるようにする: 限定正社員と限定のない正社員の間の転換も、就業規則に書いておきます。
社会保険の加入の条件が変わっていく時期なので、短時間正社員を作るときは、パート・アルバイトの社会保険も確かめてください。
助成金の確かめ方 キャリアアップ助成金(正社員化コース)
有期雇用や短時間の人を正社員に転換した事業主に、キャリアアップ助成金の正社員化コースが使える場合があります。2026年10月23日に確かめた厚生労働省の令和8年4月8日版のリーフレットでは、1人当たりの額は次のとおりです。
| 転換前の区分 |
企業規模 |
重点支援対象者 |
それ以外 |
| 有期雇用 |
中小企業 |
80万円(40万円×2期) |
40万円 |
| 有期雇用 |
大企業 |
60万円(30万円×2期) |
30万円 |
| 無期雇用 |
中小企業 |
40万円(20万円×2期) |
20万円 |
| 無期雇用 |
大企業 |
30万円(15万円×2期) |
15万円 |
条件は主に3つです。
- 正社員に転換する前日までに、キャリアアップ計画を作って提出している
- 転換する制度を、就業規則などに定めている
- 転換後の6か月間の賃金が、転換前の6か月間より3%以上増えている
申請は、転換後の6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内です。新規学卒者で、雇い入れから一定の期間が経っていない人は対象外です。無期雇用の区分に、通算5年を超える有期雇用の人も含まれる扱いがあるなど、細かい決まりが多く、重点支援対象者の定義も別にあります。
この助成金には、加算もあります(1事業所につき1回)。転換制度を新しく定めると20万円(大企業15万円)、勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれかの制度を新しく定めると40万円(大企業30万円)、転換の情報をウェブサイトや職場情報総合サイトに公表すると20万円(大企業15万円)です。
金額と要件は取組の日で変わります。必ず厚生労働省のページで最新の案内を確かめ、労働局かハローワークに問い合わせてください。社員のキャリア面談と助成金の全体は、中高年社員のキャリア面談も参考になります。
よくある間違い
- 無期転換を「正社員にすること」と説明する: 変わるのは契約期間です。社員にそう伝えてしまうと、後で食い違います。
- 13条の措置を「掲示した」だけで終わらせる: パートの人に届いたか、申出を受ける窓口があるかを確かめます。
- 更新上限を決めたから安心と考える: 厚生労働省は、上限を一方的に定めても雇止めが許されない場合があるとしています。
- クーリングで通算を切れると考える: 形だけの空白期間を置いて再雇用を約束した雇止めは、客観的に合理的な理由を欠くとされる可能性があります。
- 申込みの期限を就業規則に書けば足りると考える: 「満了の1か月前まで」と定めること自体は禁止されていませんが、満了日までの申込みが有効になる可能性があります。
- 無期転換後の定年を、転換時の年齢に合わせて段階的に決める: 無期転換の趣旨を没却するもので、望ましくないとされています(厚生労働省のQ&A)。
今日からできること
- パート・有期契約の人の、契約の開始日・終了日・更新回数を、1枚の管理表にまとめる
- 通算契約期間が5年を超える更新の時期を、今後1年半分、拾い出す
- 就業規則に、13条の措置(周知・申出・試験のどれか)が書かれているかを確かめる
- 更新の通知書に、更新上限と、無期転換の申込機会・転換後の条件の欄があるかを確かめる
- 転換制度の対象・要件・時期・選考・転換後の条件の6つを、案として表にする
- 助成金を使うなら、キャリアアップ計画の提出日が転換日の前日までになる工程にする
個別の判断は、社会保険労務士や都道府県労働局の無期転換ルール特別相談窓口に確かめてください。
制度は2026年10月23日時点のものです。