「来週の会議までに、資料を1本お願い」。頼まれてパソコンを開いたのに、夕方になっても白紙のまま。そんな日はありませんか。
最初の骨組みなら、ChatGPTに頼んでかまいません。ただ、題だけを渡しても、どの会社にも使えそうな目次が返ってくるでしょう。読み手が読んだあとに何を決めるのかを書き添えて頼み、返ってきた案を5つの手順で直す。そこまでして、ようやく自分の資料になります。
空欄のまま頼むと、案も一般論になる
散らばった章の案から、決めることに要る順に並べ直すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
「業者の見直しの資料の構成案を作って」。この一言でAIに伝わるのは題だけです。だれが読むのか、いくらの話なのか、その場で何を決めるのかは分かりません。空欄を埋めようとすれば、どの資料にも当てはまる「現状と課題」「メリット」「まとめ」が並びやすくなるはずです。
OpenAIが法人の利用者向けに公開しているプロンプトの手引きでは、頼むことを、入ったばかりのインターンへの引き継ぎにたとえています。長く働く同僚のように、足りない事情を補うことはできないからです。うまくいかない原因も単純で、読み手や形式、判断の基準を伝えていないことが多いそうです。1
だから、頼む前に4つだけメモしておきます。
| 場面 |
読むのは |
読んだあとに決めること |
時間と枚数 |
手元の材料 |
| 新しい制度の社内説明 |
全社員 |
自分が対象か、いつまでに何を出すか |
説明10分、A4で1枚 |
規程の案、申請書、公式の案内 |
| 業者の見直しの稟議 |
部長と経理課長 |
今の業者を替えるかどうか |
A4で2枚 |
見積書3社分、故障の記録、今の契約書 |
| 月次の報告 |
部長 |
来月の人の配置を変えるかどうか |
会議で5分、A4で1枚 |
今月の表、去年の同じ月の表、現場で聞いた話 |
見てほしいのは「決めること」の列です。ここが「説明する」「共有する」のままだと、どの章を残せばいいのか判断できません。決めることが何もない月の報告なら、そう分かるだけで長い説明を省けます。
枚数を先に決めておくと、章を削るときの物差しになります。文化審議会の「公用文作成の考え方」は国の文書向けの資料ですが、書き始める前に目的と読み手を整理し、何ページにするかを決めるよう勧めていて、社内の資料にも使えそうです。2
頼み方は、この6行を写して書き換える
〈〉の中を表のメモに入れ替えれば、そのまま使えます。特定のサービスの機能は使わない文なので、ほかの生成AIにも同じように渡せます。
書き換えるのは前の4行だけ。後ろの2行は毎回同じで大丈夫です。
「その章で答える問い」を書いてもらうと、あとで章を削るときに「部長はこの問いを気にするだろうか」と考えられます。「要確認」の行は、もっともらしい数字が紛れ込まないようにするためのもの。OpenAIの手引きにも、確かでないものに印を付けてもらう方法や、足りない情報を推測で埋めないよう伝える例があります。1
本文を断るのは、1回に頼むことを絞るためです。同じ手引きによると、頼むことを増やすほど、1つあたりの答えは薄くなります。1骨組みが決まる前に本文まで届くと、読むだけで疲れてしまいますよね。
返ってきた案を直す5つの手順
コピー機の保守業者を見直す稟議で、「はじめに、現状と課題、業者の比較、市場の動向、導入のメリット、今後のスケジュール、まとめ」の7章が返ってきたとしましょう。文例もこの案も編集部が作ったもので、AIが実際に返した文面ではありません。数字もすべて架空です。
間違いではありません。でも、部長はこの7章から、業者を替えるかどうかを決められるでしょうか。直す順番は次の5つです。
- 読み手の決めることに関係のない章を削る
- 残した見出しを、結論の文に書き換える
- 決める人が知りたい順に並べ替える
- 数字と事実を、自分の材料で埋める
- 上司に聞かれそうなことを足す
削るときの問いは1つです。その章がなくても、部長は決められるか。市場の動向を読まなくても、保守業者を替えるかどうかは決められます。「はじめに」と「まとめ」も、結論を先に書けば出番がありません。
次に、残った見出しを言い切りの文にします。「業者の比較」だと中を読むまで何も分かりませんが、「C社は最も安いものの、駆け付けが週3日のため外しました」なら見出しだけで話が通じます。公用文作成の考え方にも、見出しだけを読めば内容と流れがおおよそつかめるようにするとよい、とあります。3
並べ替えは、決める人が知りたい順で。同じ資料には、結論はできれば最初の段落で示し、次の段落から理由や根拠を説明する、という順番も出てきます。2稟議なら、先頭は承認のお願いです。
埋める段階で、案の様子が変わることもあります。見積書を開いたら、差額が思ったより小さかった。そんなときは数字だけでなく、結論の文も書き換えます。埋まらない見出しは材料を取りに行くか、外すかのどちらかです。
最後に、上司の顔を思い浮かべて質問を足します。「なぜ今なの?」「ほかの会社は見たの?」「切り替えのあいだ、コピー機は止まるの?」。抜けがないかは、稟議書の8項目と見比べると分かります。
直す前と後を並べると、こうなります。
| もとの順 |
直す前の章 |
直した後の見出し(この順に並べた) |
| 7 |
まとめ |
保守業者をA社からB社に替えることを承認してください |
| 5 |
導入のメリット |
B社に替えると、年間の保守費用は84万円から72万円に減ります |
| 2 |
現状と課題 |
故障の駆け付けは、翌営業日から当日に早まります |
| 3 |
業者の比較 |
C社は最も安いものの、駆け付けが週3日のため外しました |
| 6 |
今後のスケジュール |
今の契約は3月末で満了し、解約の連絡は12月末が期限です |
| なし |
足した |
切り替えの日も、コピー機は止まりません |
| 1と4 |
はじめに、市場の動向 |
削った |
左の列の番号を見ると、もとの順番のまま残った章は1つもありません。AIの案は材料として使い、順番は自分で決めた結果です。
同じ稟議の構成案を直す前と後。削り、文にし、並べ替えて6行にした例作成: 編集部 / 出典: 文化審議会「公用文作成の考え方(建議)」
残りの2つの場面に同じ手順を当てはめると、残る章はかなり違ってきます。
3つの場面で、決めることから組み直した見出しの例と、削る章、聞かれそうなこと作成: 編集部 / 出典: 文化審議会「公用文作成の考え方(建議)」
制度の説明で試してほしいのは、2行目に「手続きが要らない人」を書くことです。する必要のないことも示すと読み手の不安を軽くできる、という助言が公用文作成の考え方にもあります。2月次の報告なら、骨組みが決まったあとの説明文に数字の説明文の頼み方が使えます。
1回で終えず、直した案を貼って聞き直す
OpenAIの手引きにも、最初のプロンプトが完ぺきだとは思わないように、とあります。1おすすめは、自分で直した案を、業者名や金額を伏せて貼り、聞き直すこと。返ってくる答えも、自分の資料に沿ったものになるはずです。
「別の案を3つ」は手順に入る前、残りは直したあとに向いています。どの案を選ぶかは、最初のメモの「決めること」で判断できます。
反対する人の質問のうち、手元の材料で答えられないものは、次に集める材料の一覧になります。会議で初めて聞かれるより、ずっと気持ちが楽ですよね。
貼る前と使う前に、2つの線を引く
構成案の段階では、材料の中身を貼らなくても頼めます。文例に書いたのは「見積書3社分」という材料の名前だけで、金額も業者名も入っていません。会社の情報をどこまで入れてよいかは、社内のルールがあればそれが先です。線の引き方は、入力してよい情報の線引きに詳しく書きました。
もう1つは、案の中の数字や制度名を事実と思わないこと。個人情報保護委員会の注意喚起によると、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがあります。自然な文章でも、確率的な相関関係に基づいて作られているからです。4「法律で義務づけられています」「助成の上限は〇万円です」といった見出しは、法令や公式の案内で確認するまで残しません。
スライドまで作る機能が気になる人は、姉妹メディアTECHNOVAのChatGPT Slidesの記事をどうぞ。
白紙の前では、決めることを1行だけ
次に資料を頼まれたら、スライドを開く前に「読んだあとに何を決めてもらうか」を1行書いてみてください。書けなければ、頼んだ人に聞くことです。「この資料で、部長に何を決めてもらえばいいですか」と聞ければ、白紙で悩む時間はかなり減ると思います。
「なぜこの順番にしたの?」と聞かれて、「決めていただくのはこの1点なので、そこから書きました」と答えられる人に、次の大事な資料は回ってくるはずです。
OpenAIの手引き、公用文作成の考え方、個人情報保護委員会の注意喚起は、2026年10月31日に確認しました。