銀行の口座開設や新しい取引先の審査で、「定款の写しをお送りください」と頼まれることがあります。定款は、会社の目的や組織、運営のしかたを決めた基本のルールです。この記事では、定款に書くこと、写しを求められる場面と出し方、定款を変えるときの株主総会から登記までの流れを、会社法の条文と法務局・日本公証人連合会・国税庁の案内で確かめて整理します。
定款は会社の目的・組織・運営を決めた基本のルールです
日本公証人連合会は、定款を「法人の目的、組織、活動に関する根本となる基本的な規則」と説明しています。株式会社をつくるときは、発起人(会社をつくる人)が定款を作り、全員が署名か記名押印をします(会社法第26条第1項)。紙ではなく、PDF などの電磁的記録で作ることもでき、これを電子定款と呼びます(同第2項)。
定款には、会社法に反しない範囲で、会社が自分で決めたルールを書きます(第29条)。マンションの管理規約に少し似ています。住む人みんなに関わる決まりなので、変えるには総会で多くの賛成が要る、という点が共通しています。
株式会社の設立時の定款は公証人の認証を受けます
株式会社の設立のときの定款は、公証人の認証を受けなければ効力が生じません(第30条第1項)。認証できるのは、本店の所在地を受け持つ法務局・地方法務局に所属する公証人だけです(公証人法第62条ノ2・日本公証人連合会)。合同会社などの持分会社の定款は、認証が要りません。
| 項目 |
中身 |
根拠 |
| 公証人の認証 |
株式会社の設立時の定款だけ。手数料は資本金の額などに応じて1万5千円から5万円 |
会社法第30条・公証人手数料令第35条 |
| 収入印紙 |
紙の原本に4万円。電子定款と、会社ができたあとに変えた定款にはかからない |
国税庁 |
| 保存 |
認証した公証役場が1通を20年保存。謄本は1枚250円 |
公証人法施行規則第70条・日本公証人連合会 |
国税庁は、印紙税がかかる定款を、会社の設立のときに作る原本に限るとしています。また、印紙税の対象は課税物件表に掲げた文書で、電磁的記録は文書に含まれないと説明しています。電子定款に印紙が要らないのは、このためです。
定款に書くことは3種類 必ず書く5項目と会社ごとの定め
会社法は、定款に書く事項を3通りに書き分けています。必ず書く事項(第27条)、書かないと効力が出ない事項(第28条など)、法律に反しなければ書ける事項(第29条)です。実務では、これを絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項と呼びます(日本公証人連合会)。
定款に書く事項の3つの種類と、設立のときの認証・印紙税・発行可能株式総数作成: 編集部 / もとの資料: 会社法(e-Gov 法令検索)・日本公証人連合会「定款認証」
| 種類 |
中身 |
主な例 |
| 絶対的記載事項 |
必ず書く。1つでも欠けると定款は無効 |
目的・商号・本店の所在地・設立に際して出資される財産の価額又はその最低額・発起人の氏名又は名称及び住所 |
| 相対的記載事項 |
定款に書かないと効力が生じない |
現物出資などの変態設立事項・株式の譲渡制限・取締役会や監査役の設置・株券の発行・取締役の任期の延長(10年まで) |
| 任意的記載事項 |
法律に反しなければ書ける。書いたら、変えるときに定款変更が要る |
事業年度・定時株主総会の時期・役員の員数・株主総会の議長・基準日・公告方法 |
発行可能株式総数(会社が発行できる株式の総数)は、認証のときには定めていなくてもかまいません。ただし、会社が成立するまでに、発起人全員の同意で定款に定めます(第37条第1項)。登記事項でもあります(第911条第3項第6号)。
迷いやすいのは目的と本店の書き方です
目的は会社の事業を見分けるもとになり、株主や取引の相手にとって大切な事項です(日本公証人連合会)。目的を変えて登記するときは、変えた部分だけでなく、変更後の全部の目的を書きます(法務局の記載例)。
本店は、定款では「所在地」(第27条第3号)、登記では「所在場所」(第911条第3項第3号)と言葉が分かれています。法務局の記載例では、定款の条文は「当会社は、本店を○県○市に置く。」と市までの書き方です。この書き方なら、同じ市の中で移るときに定款を変える必要はありません。
定款の写しを求められる主な場面
定款は、会社がどんな事業をし、どんな決め方をしているかを示す書類です。そのため、相手が会社の中身を確かめたいときに求められます。
| 場面 |
求められる理由 |
根拠 |
| 銀行の口座開設など |
金融機関は取引のときに法人の事業の内容を確かめる。確かめる書類の1つが定款か、その写し |
犯罪収益移転防止法第4条・同法施行規則第10条 |
| 税務署への法人設立届出書 |
設立の日以後2か月以内に出す届出書に、定款の写しを添える |
国税庁 C1-4 |
| 税務署への異動届出書 |
事業年度・商号・目的などを変えたとき。添付は要らないが、定款の写しを確かめることがある |
国税庁 C1-8 |
| 許認可の申請 |
例えば建設業の許可の申請では、法人は定款を添える |
建設業法施行規則第4条第1項第6号 |
| 株主・債権者からの請求 |
営業時間内はいつでも閲覧や謄本の交付を請求できる |
会社法第31条第2項 |
| 取引先の審査 |
事業の内容や株式の扱いを確かめるため |
法律の決まりではなく、取引先ごとの運用 |
金融機関が事業の内容を確かめる書類として、法令は定款のほかに登記事項証明書なども挙げています(犯罪収益移転防止法施行規則第10条第1項第2号)。どれを出すかは、金融機関の案内に合わせます。
日本公証人連合会は、電子定款について「銀行等の金融機関では紙ベースの定款を求める運用もなされているようです」と案内しています。電子定款で設立した会社は、公証役場で書面による謄本(同一の情報の提供)を受けておくと、求めに応じやすくなります。
融資や補助金・助成金では、求める書類が金融機関や制度で違います。定款が要るかどうかは、それぞれの必要書類の一覧で確かめましょう。
写しを出す前に、現行定款をそろえて原本証明を付けます
現行定款は、変更を全部反映した今の定款です
定款は設立のあとも、株主総会の決議で何度も変わります。設立のときに認証を受けた書面(原始定款)に、あとの変更が書き込まれているとは限りません。この記事では、変更を全部反映した今の定款を「現行定款」と呼びます。
会社は、定款を本店と支店に備え置かなければなりません(第31条第1項)。変更のたびに条文を差し替えた現行定款を作り、いつの総会で何条を変えたかの記録と一緒に保管しておくと、写しを頼まれたときにすぐ出せます。
原本証明は慣習で、決まった様式はありません
写しを出すとき、「原本と相違ない」と書いて代表者印を押すよう頼まれることがあります。一般に原本証明と呼ばれる慣習で、金融機関などが、写しが会社の定款どおりであることを会社に示してもらうために求めます。法令で決まった様式は、確かめた範囲ではありませんでした。提出先に指定があれば、その書き方と印に合わせます。
頼まれた中身があいまいなときは、送る前に短く確かめると二度手間を防げます。
定款を変える手続き 取締役会から変更の登記まで
会社ができたあとの定款は、株主総会の決議で変えられます(第466条)。公証人の認証は要りません。手続きは図の順に進みます。ここでは、取締役会のある会社を例に要点を見ていきます。
定款変更の手続きの流れと、登記・登録免許税の目安作成: 編集部 / もとの資料: 会社法(e-Gov 法令検索)・法務局「商業・法人登記の申請書様式」
変更案を作り、取締役会で総会の招集を決める
まず、今の条文と新しい条文を並べた変更案を作ります。取締役会のある会社では、総会の日時・場所・議題などを取締役会で決めます(第298条第1項・第4項)。定款の変更が議題のときは、変更案の概要も決めます(会社法施行規則第63条第7号)。商号を変えるときは、同じ本店に同じ商号の会社が無いかを、先に登記所で調べます。調べるのは無料です(法務局の記載例)。
株主に招集を通知する
通知は、公開会社なら総会の2週間前まで、公開会社でない会社なら1週間前までに出します(第299条第1項)。書面や電磁的方法で議決権を使えるようにしたときは、2週間前までです。取締役会のある会社は書面で通知します(同第2項)。株主全員が同意すれば、招集の手続きを省いて開くこともできます(第300条)。
株主総会の特別決議で決める
定款の変更は、特別決議で決めます(第309条第2項第11号)。株主総会のしくみは株式会社とは 株主・株主総会・取締役・監査役の関係で紹介しています。
| 決め方 |
決まる条件 |
根拠 |
| 特別決議(ふつうの定款変更) |
議決権の過半数をもつ株主が出席し、出席した議決権の3分の2以上が賛成。出席の条件は定款で3分の1まで下げられる |
第309条第2項 |
| 株式の譲渡制限を新たに設ける変更 |
議決権を使える株主の半数以上で、その議決権の3分の2以上が賛成 |
第309条第3項第1号 |
| 書面による決議 |
総会を開かず、議決権を使える株主の全員が書面か電磁的記録で同意 |
第319条第1項 |
書面による決議では、総会を開かなくても決議があったものとみなされます。同意の書面は、本店に10年間備え置きます(第319条第2項)。
議事録を作る
総会の議事録を作り、本店に10年間備え置きます(第318条第1項・第2項)。支店には写しを5年間置きます(同第3項)。議事録は、変更の登記の添付書類にもなります。記載事項は議事録の書き方 決定事項と宿題が伝わる型の「法律で書き方が決まった議事録」でまとめています。
登記が要る変更だけ、2週間以内に登記する
定款を変えても、いつも登記が要るわけではありません。登記が要るのは、商号・目的・本店など、登記事項(第911条第3項)が変わったときです。変更が生じてから2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をします(第915条第1項)。
| 変える定め |
登記 |
登録免許税 |
ほかの手続き |
| 商号 |
要る |
3万円 |
税務署に異動届出書 |
| 目的 |
要る(変更後の全部の目的を書く) |
3万円 |
税務署に異動届出書 |
| 本店の所在地(ほかの市区町村へ) |
本店移転の登記 |
管轄の中なら3万円、管轄の外なら6万円 |
税務署に異動届出書 |
| 発行可能株式総数・公告方法など |
要る |
3万円 |
内容による |
| 事業年度 |
要らない |
なし |
税務署に異動届出書 |
| 定時株主総会の時期・役員の員数 |
要らない |
なし |
なし |
添付書類は、株主総会議事録と株主リストです(法務局の記載例)。株主リストは、議決権の多い順に上位10名か、議決権の割合が3分の2に達するまでの、少ない方の人数の株主を書いた書面です(商業登記規則第61条第3項)。代理人に頼むときは委任状も要ります。商号と目的を同時に変えても、登録免許税は申請1件につき3万円です(登録免許税法 別表第一の第24号)。
本店をほかの登記所の管轄へ移すときは、旧本店あてと新本店あての申請書を、そろえて旧本店の登記所に出します。登録免許税は3万円ずつで、合わせて6万円です。本店移転の登記は、実際に移った日より前には申請できません(法務局の記載例)。
定款の変更は、決議で効力が生じます。一方で、登記すべき事項は、登記をするまで善意の第三者に主張できません(第908条第1項)。登記を怠ると、取締役などが100万円以下の過料に処されることもあります(第976条第1号)。
現行定款を直し、関係先に届け出る
決議や登記が済んだら、現行定款の条文を差し替え、変えた日を書き添えます。事業年度・商号・目的・本店などを変えたときは、異動前の納税地の税務署に異動届出書を出します(国税庁 C1-8)。許認可を受けている会社は、その許可の手引きで、変更の届出が要るかどうかを確かめます。
今日からできること 定款の写しをすぐ出せるようにする
定款は、ふだんは出番が少ないぶん、頼まれたときに慌てやすい書類です。次の順で、今の状態を確かめておきましょう。
- 現行定款のデータと紙の置き場所を確かめ、最後に変えた日を控える
- 原始定款の保管場所と、電子定款なら書面の謄本があるかを確かめる
- 定款を変えた総会の議事録を並べ、現行定款に全部反映されているか照らし合わせる
- 登記事項証明書と現行定款で、商号・目的・本店の書き方が合っているか確かめる
- 原本証明の文と押す印、社外に出すときの承認の流れを決めておく
この記事は、2026年10月20日時点の会社法などの法令と、法務局・法務省・日本公証人連合会・国税庁の公表資料にもとづいています。定款の変更や登記の個別の判断は、司法書士・弁護士や法務局に確かめてください。