消費者庁は2026年10月21日、適格消費者団体の消費者被害防止ネットながさきと、太陽光発電システム等を販売する事業者との間で、差止請求に関する協議が調ったことを公表しました。契約書にあった「引渡し日を含む3日以内に通知がなければ、数量不足・破損・汚損がなかったものとみなす」という条項が、消費者契約法10条に当たり無効だとして、削除などを求めた事案です。この記事では、消費者に商品やサービスを売る会社の法務・営業事務の担当が、利用規約・申込書・契約書を見直すときに確かめる点を整理します。
今回の公表では、何が問題とされたのか
消費者庁の公表資料に書かれている事実は、次のとおりです。特定の会社を評価する記事ではないため、事実は短くとどめます。
| 項目 |
公表資料の内容 |
| 問題とされた条項 |
商品・工事完成物の引渡し日を含む3日以内に会社へ通知がないときは、「数量不足」「破損」「汚損」がなかったとみなす |
| 根拠の条文 |
消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項) |
| 理由1 |
民法566条は、通知の期間を「買主がその不適合を知った時から1年以内」とする。3日に限ると、消費者が追完請求・代金減額請求・解除を使うことを妨げ、民法より消費者の権利を制限する |
| 理由2 |
機器内部の破損は外観だけでは分からず、受け取ってすぐ確認できるとは限らない。数量不足が引渡し後に消費者の責任で起きることは通常想定できない |
| 経過 |
2026年7月14日に申入れを開始し、申入れの趣旨に沿う対応がなされたとして、同年8月25日に申入れを終了 |
| 改善措置情報 |
なし(公表資料の記載) |
通知の期限を極端に短くする条項は、販売、工事、レンタルなど、業種を問わず契約書に入りやすいものです。自社の書式にないか、まず探してみてください。
消費者契約法は、何を決めている法律か
消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報や交渉力の差を踏まえ、不当な勧誘による契約の取消しと、不当な条項の無効を定めた法律です(消費者庁の説明による)。対象は、消費者と事業者との間で結ぶ契約です(2条)。
- 消費者: 個人。ただし、事業として、または事業のために契約する場合を除く
- 事業者: 法人その他の団体と、事業のために契約する個人
会社の担当者が押さえておくルールは、大きく3つあります。
- 勧誘のルール: 不実の説明などで誤認させたり、困惑させたりして結ばせた契約は、消費者が取り消せる(4条)
- 条項のルール: 8条から10条に当たる条項は無効になる
- 努力義務: 条項を明確で平易にする、勧誘のときは消費者の年齢や知識・経験も考えて情報を示す、消費者の求めに応じて解除に必要な情報を示す、など(3条)
条項と勧誘は、適格消費者団体の差止請求の対象でもあります(12条)。つまり、無効になるだけでなく、「その書式を使うのをやめてください」と団体から求められる仕組みがあります。
2023年6月1日に施行された令和4年の改正で、次の点が加わりました。規約を最後に見直したのがそれより前なら、見直しの対象になります。
| 改正の内容 |
条文 |
| 取り消せる勧誘に、退去困難な場所への同行、相談の連絡の妨害、契約前に目的物の現状を変えて元に戻しにくくする行為などを追加 |
4条3項 |
| 解約料の算定根拠の概要を、消費者から求められたら説明する努力義務 |
9条2項 |
| 適格消費者団体から求められたら、解約料の算定根拠を説明する努力義務 |
12条の4 |
| 免責の範囲が不明確な条項を無効にする |
8条3項 |
| 解除に必要な情報の提供など、事業者の努力義務を拡充 |
3条1項 |
無効になりやすい条項の早見表
消費者契約法で無効になりやすい条項と取り消せる勧誘の早見表作成: 編集部 / もとの資料: 消費者契約法(e-Gov 法令検索)、消費者庁
図の内容を表にしました。条項の書き方は架空の例で、実際に無効かどうかは、契約の中身と全体の状況で決まります。
| 条文 |
無効になる条項 |
規約で見かける書き方(架空) |
見直しの方向 |
| 8条1項1号・3号 |
会社の賠償責任を全部免除する条項、責任の有無を会社が決める条項 |
「当社は、本サービスに関して一切の責任を負いません」 |
全部免責をやめ、責任の範囲と限度を具体的に書く |
| 8条1項2号・4号 |
会社の故意・重過失による損害の賠償責任を一部免除する条項、責任の限度を会社が決める条項 |
「損害賠償は、利用料の1か月分を上限とします」(故意・重過失にも適用される書き方) |
上限は軽過失の場合に限ると書く |
| 8条3項 |
一部免責の条項で、軽過失の場合にだけ適用すると明らかにしていないもの |
「法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します」 |
「軽過失の場合は1万円を上限として賠償します」と書く(消費者庁の資料の有効例) |
| 8条の2 |
会社の債務不履行で生じた消費者の解除権を放棄させる条項 |
「サービスが提供されなくても、お客様は契約を解除できません」 |
解除できる場合を明示する |
| 8条の3 |
消費者が後見開始・保佐開始・補助開始の審判を受けたことだけを理由に、会社に解除権を与える条項 |
「お客様が後見開始の審判を受けたときは、当社は契約を解除できます」 |
解除の理由から外す |
| 9条1項1号 |
解約に伴う賠償額や違約金のうち、同種の契約で会社に生ずる平均的な損害を超える部分 |
「中途解約の場合、残りの期間の料金は返金しません」 |
解約の時期ごとに区分して、根拠のある額にする |
| 9条1項2号 |
支払いが遅れたときの損害金のうち、年14.6%を超える部分 |
「遅延損害金は年20%とします」 |
年14.6%以内にする |
| 10条 |
法令の規定より消費者の権利を制限し、義務を重くする条項で、信義則に反して一方的に消費者を害するもの |
「引渡しから3日以内に通知がなければ、破損がなかったものとみなします」 |
民法の期間を下回る通知期限を設けない |
10条は、特定の言葉で判断する条文ではありません。条文には、消費者の何もしないこと(不作為)を申込みや承諾とみなす条項が例として挙がっています。「期限までに連絡がなければ更新に同意したものとみなします」の型は、見直す優先度が高い条項です。
解約料・キャンセル料はどう決めるのか
9条1項1号は、解約に伴う賠償額や違約金を、「解除の事由、時期等の区分に応じ」、同種の契約の解除に伴い会社に生ずべき平均的な損害の額と比べます。超える部分が無効になります。時期を分けずに一律の額にすると、時期によっては超える部分が出ることがあります。
決め方の段取りは、次のとおりです。
- 解約の時期で区分を作る(例: 申込み直後、サービス開始前、開始後の1か月目、2か月目以降)
- 区分ごとに、解約によって会社に実際に生じる費用や損失を洗い出し、数字にする
- 洗い出した数字と、その計算の根拠(帳簿、見積り、過去の実績)を、解約料の一覧と一緒に保存する
- 規約には、区分と金額(または計算式)を書く
- 消費者に説明を求められたら、算定根拠の概要を説明する(努力義務)
消費者庁の成果事例集(令和8年3月)に、マッチングアプリの事例があります。条項は「途中で解約しても、返金や未利用期間の日割り計算による精算は行わない」というものでした。6か月プラン1万3,000円を一括で前払いし、1〜2か月で退会した場合、未利用期間の料金が返らず、会社に生ずる平均的な損害の額を超えると、全国消費生活相談員協会が9条1項1号を根拠に申入れをしました。
会社は条項を改訂し、「実際に支払った額から、利用した月数(1か月未満は切り上げ)に1か月プランの割引前の金額を乗じた額と、事務手数料3,000円を引いた額」を返金する形になりました。団体は、切り上げや事務手数料の控除を許容範囲と判断し、2024年8月13日に申入れを終了しています。
この考え方を、架空の数字で計算します。月額3,000円、6か月プランが1万5,000円(一括前払い)、事務手数料1,000円とします。
| 解約の時期 |
計算 |
返金額 |
| 1か月半後(2か月分とみなす) |
15,000円 − 3,000円 × 2 − 1,000円 |
8,000円 |
| 4か月後 |
15,000円 − 3,000円 × 4 − 1,000円 |
2,000円 |
事務手数料の1,000円にも、会社に生じる費用という根拠が要ります。
支払いが遅れたときの損害金は、年14.6%が上限の目安です(9条1項2号)。1万円が30日遅れたとき、日割りで約120円(10,000円 × 14.6% × 30日 ÷ 365日)になります。
勧誘では、何をすると契約を取り消されるのか
営業事務の担当は、申込書の文言だけでなく、営業トークや案内文も確かめる立場です。4条が取り消せるとする勧誘の主な型を、表にしました。
| 型 |
条文 |
会社の側で確かめること |
| 事実と違う説明(不実告知) |
4条1項1号 |
品質・用途・価格など、判断に影響する事項に誤りがないか |
| 断定的な判断の提供 |
4条1項2号 |
将来の価額や受取額など、変動が不確実な事項を「必ず」と言っていないか |
| 利益だけを告げ、不利益を告げない |
4条2項 |
不利になる事実(解約できない期間など)を、故意または重過失で伝え漏らしていないか |
| 退去しない・退去させない |
4条3項1号・2号 |
「帰ってください」「帰ります」と言われたときの対応を決めているか |
| 退去困難な場所への同行、相談の妨害 |
4条3項3号・4号 |
家族などに相談したいという申し出を、遮っていないか |
| 不安をあおる |
4条3項5号・7号・8号 |
就職、容姿、生活の維持などの不安に乗じた勧誘をしていないか |
| 恋愛感情の利用 |
4条3項6号 |
好意に乗じ、契約しなければ関係が壊れると告げていないか |
| 契約前に義務の実施、現状の変更 |
4条3項9号・10号 |
申込み前に作業を始めたり、費用の補償を求めたりしていないか |
| 通常の分量を著しく超える契約 |
4条4項 |
顧客の生活の状況から見て、多すぎる量や回数を勧めていないか |
取り消せる期間は、追認できる時から1年間(4条3項8号は3年間)、契約の締結から5年(同号は10年)です(7条)。代理店や紹介を頼んだ会社が勧誘した場合も、4条の対象になります(5条)。委託先の営業トークの確認も、社内の確認項目に入れてください。
広告の表示は景品表示法の領域です。景品表示法の広告チェックにまとめました。ネットショップの表記は特定商取引法に基づく表記の書き方で、取引先との契約書は契約書を受け取ったら確認することで扱っています。
規約を見直すときのチェックリスト
見直しは、次の順に進めると抜けが減ります。
- 消費者に使っている書式を全部集める(申込書、利用規約、見積書の裏面、注文確認メール)
- 上のチェックリストで条項に印を付ける
- 印を付けた条項を、法務または弁護士に見てもらう
- 直した版に日付と版数を付けて保存する
- 営業の台本や案内文も、同じ表で確認する
適格消費者団体から申入れを受けたら、どうなるのか
差止請求をするのは、内閣総理大臣が認定した適格消費者団体です。消費者個人ではなく、不特定かつ多数の消費者の利益のために、団体が事業者に求めます(消費者庁の説明による)。
適格消費者団体の差止請求の流れと、今回の事案の日付作成: 編集部 / もとの資料: 消費者庁の公表資料、消費者契約法
流れは、次のとおりです。
| 段階 |
内容 |
会社の動き |
| 1 条項の開示や説明の要請 |
団体は、8条から10条の条項を使っていると疑う相当の理由があるとき、条項の開示を求められる(12条の3)。解約料が平均的な損害を超えると疑う理由があるときは、算定根拠の説明も求められる(12条の4) |
応じる努力義務。営業秘密などの正当な理由がある場合は別 |
| 2 申入れ |
団体が、条項や勧誘の停止、予防に必要な措置を求める(12条) |
申入れの書面を法務と経営に渡し、回答の期限を社内の期限にする |
| 3 協議 |
条項の削除や修正について、団体と事業者が話し合う |
修正案と、直す理由を準備する |
| 4 終了または訴訟 |
申入れの趣旨に沿う対応がなされれば、申入れは終わる。折り合わなければ、書面で差止請求をし、到達から1週間を経過すると訴えを起こせる(41条) |
事業者が拒んだときは、1週間を待たずに訴えられる(41条ただし書) |
| 5 措置の開示要請 |
差止請求により措置をとる義務を負うとき、団体は講じた措置の内容の開示を求められる(12条の5) |
開示に応じる努力義務 |
| 6 公表 |
判決や裁判外の和解の概要、団体名、相手方の名称などが、消費者庁によって公表される(39条) |
公表されることを前提に、広報や顧客対応を準備する |
今回の事案は、2026年7月14日から8月25日まで、約6週間(42日)の協議でした。消費者庁の事例集では、レンタカーの事案で、裁判上の和解により、問題の条項を含む書式と電子データの破棄、従業員への周知と研修などが定められています。条項を直すだけでなく、古い書式を残さない運用まで求められることがあります。
会社が普段からしておくこと
| やること |
中身 |
| 書式の一覧と版の管理 |
消費者に使う書式、最終更新日、担当者を一覧にし、古い書式を配らない |
| 解約料の根拠の保存 |
区分ごとの金額と、その計算の資料を一緒に残す |
| 窓口の決定 |
団体や消費者からの説明の要請を受ける部署と、回答する人を決める |
| 営業の確認 |
台本、LP、案内メールに、断定的な言い方や不利益の伝え漏れがないか年に1回確かめる |
| 委託先への周知 |
代理店、紹介会社に、同じ決まりを書面で渡す |
| 相談先の確保 |
顧問の弁護士や、商工会議所などの相談窓口を決めておく |
今日からできること
- 消費者に使っている書式(利用規約、申込書、見積書、注文確認メール)を全部集め、一覧を作る
- 通知や申出の期限が民法より短い条項、「一切責任を負わない」「みなします」の文言を検索して印を付ける
- 解約料とキャンセル料が、時期ごとに根拠のある額か、担当部署に確かめる
- 営業の台本と案内文を、勧誘の表と照らして読む
- 団体から要請が届いたときの受け付け先と回答者を決める
- 印を付けた条項は、弁護士に見てもらう日を決める
この記事は、2026年10月21日に確かめた消費者契約法(e-Gov 法令検索)と、消費者庁の公表資料によります。個別の条項が無効かどうかは、契約の全体と状況で判断されます。判断に迷うときは、弁護士や消費生活センターなどの窓口に確かめてください。