採用面接では、場をなごませようとして「ご実家はどちらですか」「お父さんのお仕事は?」と聞いてしまうことがあります。厚生労働省は、こうした質問が就職差別につながるおそれがあるとして、14の事項を示しています。この記事では、2026年10月21日時点の厚生労働省の資料と法令にもとづいて、聞いてはいけない事項、聞き方の言い換え、面接官に渡す注意事項の文例、応募書類と記録の扱いをまとめました。
面接で聞いてはいけない質問とは何か
厚生労働省の「公正な採用選考の基本」は、採用選考で大切なことを2つ挙げています。応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適性・能力に基づいた基準で行うことです。
そのうえで、本籍地や家族の職業のような「本人に責任のない事項」と、宗教や支持政党のような「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」は、仕事ができるかどうかに関係がないので、採用基準にしないよう求めています。
ここで見落としやすいのが、「採用基準にしないつもりなら聞いてもよい」という考えです。厚生労働省は、応募用紙に書かせたり面接でたずねたりすれば、結果として採否の決定に影響し、就職差別につながるおそれがあると書いています。応募者からすると、たずねられたことは選考の基準にされていると受け取ってしまいます。たずねられたくない人には精神的な負担になり、面接で実力を出せないこともあります。
なお、求職者の個人情報については、法律にも決まりがあります。職業安定法5条の5は、募集を行う人が求職者の個人情報を集めるとき、業務の目的の達成に必要な範囲で、目的を明らかにして行うよう求めています。指針(平成11年労働省告示第141号)は、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地などの社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想と信条、労働組合への加入状況は、原則として集めてはならないとしています。例外は、特別な職業上の必要性があるなど、業務の目的の達成に必要不可欠で、収集目的を示して本人から集める場合に限られます。
就職差別につながるおそれのある14事項の早見表
厚生労働省は、14事項を3つに分けています。(a)(b)は、応募用紙に書かせる、面接でたずねる、作文の題材にするなどで把握しないもの。(c)は、実施しないものです。
就職差別につながるおそれのある14事項の早見表と、聞いてはいけない理由作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考時に配慮すべき事項」
| 分類 |
事項 |
| (a) 本人に責任のない事項(4つ) |
本籍・出生地/家族(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)/住宅状況(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)/生活環境・家庭環境など |
| (b) 本来自由であるべき事項(7つ) |
宗教/人生観・生活信条/思想/購読新聞・雑誌・愛読書/支持政党/尊敬する人物/労働組合(加入状況や活動歴)・学生運動などの社会運動 |
| (c) 採用選考の方法(3つ) |
身元調査などの実施/合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断/本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用 |
厚生労働省は、これらに限られるわけではない、とも書いています。戸籍謄本や本籍が記載された住民票を出させることは、本籍・出生地の把握にあたります。現住所の略図は、住宅状況や生活環境の把握、身元調査につながる可能性があります。
実際に多いのは家族の質問
厚生労働省の特設サイトによると、令和6年度にハローワークが把握した854件(応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があったもの)の内訳は次のとおりです。
| 内容 |
割合 |
| 家族に関すること |
41.8% |
| 思想・信条 |
9.4% |
| 住宅状況 |
8.4% |
| 本籍・出生地 |
7.1% |
| 健康診断 |
0.7% |
| その他 |
32.6% |
家族の質問が多い理由について、厚生労働省は、面接の空気を和らげるために聞いてしまうケースが多いようだ、と注意を促しています。
うっかり聞きがちな質問と言い換え
ここからは、面接官がうっかり聞きがちな質問と、言い換えの例です。言い換えは編集部の例で、公式の文言ではありません。確かめたいことが仕事の条件なら、その条件を直接、全員に聞く形にするのがコツです。
家族の職業や人数を聞かなくても、確かめたいのが残業や休日出勤の可否なら、それをそのまま聞けば足ります。
| 聞きがちな質問(NG) |
確かめたいこと |
言い換えの例(編集部の例) |
| 「ご出身はどちらですか」「本籍は?」 |
通勤の事情 |
「通勤にかかる時間が長い場合は、会社の宿舎も使えます。希望はありますか」 |
| 「ご実家は持ち家ですか」「どんな所にお住まいですか」 |
勤務地への配慮 |
「勤務地について、配慮してほしいことがあれば教えてください」 |
| 「結婚の予定は」「お子さんは」 |
長く働く意欲、勤務の条件 |
「当社では出張や緊急対応があります。対応は可能でしょうか」(全員に) |
| 「尊敬する人は」「愛読書は」「どんな新聞を読みますか」 |
仕事への姿勢 |
「これまでの仕事で、工夫してうまくいった経験を教えてください」 |
| 「支持している政党は」「信仰はお持ちですか」 |
なし |
聞かない。休日や勤務時間の条件は、求人票の内容として全員に示す |
| 「持病はありますか」「健康診断の結果は」 |
業務に必要な作業ができるか |
「当社で勤めるにあたり、配慮すべきことで、うかがっておいたほうがよいことはありますか」 |
| 「親御さんの介護はありますか」 |
転勤・勤務の事情 |
「転勤をお願いする場合があります。対応は可能でしょうか」 |
表のうち、出身地の行(通勤時間)、勤務地への配慮、持病の行、転勤の行は、厚生労働省の履歴書様式例の資料に載っている質問例の言い回しを、もとにしています。同じ資料は、転勤や残業などの質問を面接者全員に行うこと、必要な質問は、あらかじめ求人票や募集要領にも関係する情報を書いておくことを求めています(求人票は求人票の書き方で詳しく書きました)。
年齢も同じです。労働施策総合推進法9条は、募集・採用で年齢にかかわりなく均等な機会を与えることを求めています(例外は厚生労働省令に定められた場合に限られます)。
面接の前に面接官に渡す注意事項(文例)
厚生労働省は、採用選考の担当者のうち一人でも不適切な対応をすれば、企業全体の信頼を失いかねないとして、担当者全員に考え方を周知することを求めています。複数の面接官で行うときは、全員で改めて確認するようにとも書いています。次の文例は、面接の前に渡す1枚の紙の例です(編集部の作例。会社の名前と文言は直して使ってください)。
1から4は厚生労働省の資料にある考え方を平易にしたもの、5は編集部の運用の提案です。報告を受けた採用担当が、記録の扱いを決めます。
面接の前から後までの段取り(募集・直前・最中・あと)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考の具体的な方法」
応募書類は何を書かせるか
応募書類にも、14事項が入り込みます。厚生労働省は、応募者から出させる書類やエントリーシートの入力画面に、就職差別につながるおそれのある項目を入れないよう求めています。
| 応募者 |
使う様式 |
| 新規中学校卒業予定者 |
職業相談票(乙) |
| 新規高等学校卒業予定者 |
全国高等学校統一用紙 |
| 新規大学等卒業予定者 |
「新規大学等卒業予定者用標準的事項の参考例」または「厚生労働省履歴書様式例」を参考にした様式 |
| 上記以外の求職者 |
「厚生労働省履歴書様式例」を推奨 |
厚生労働省履歴書様式例の特徴は次の2点です。
- 性別欄は任意記載欄で、男・女の選択ではありません。記載したくない人は未記載にできます。
- 「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の4つの欄は設けません。
様式例の資料は、性別の把握が必要な場合(法令上特定の性別の人を就業させられない業務、男女別の採用状況の把握、女性が少ない会社での積極的な採用など)は、理由を説明し、応募者が十分に納得したうえで行うよう求めています。
外国籍の応募者については、厚生労働省のよくある質問が、選考の段階で在留カードや特別永住証明書を出させることは避け、在留資格などは口頭か書面で確認し、採用内定後に在留カードで就労できることを確かめるよう示しています。
面接の記録の取り方
厚生労働省は、面接の評価をあらかじめ評価基準を決めたうえで、できるだけ客観的かつ公正に行うよう示しています。この考え方を、記録に当てはめると次のようになります(記録の書式は編集部の例です)。
- 質問と、応募者が答えた事実を書く(「前職で月200件の入力を担当」など)。
- 事実とは別の行に、評価基準に沿った評価を書く(「入力の正確さ: 4/5」など)。
- 14事項にあたる内容は、応募者が話したとしても書き残さない。
- 「雰囲気が合う」「育ちがよさそう」など、基準にない印象で採否を書かない。
指針は、個人情報の保管と使用を収集目的の範囲に限るよう定め、収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報は、破棄または削除する措置を講じるよう求めています。保管の期間は、会社の規程で決めます(書類の期間の考え方は書類の保存期間の一覧も参考になります)。
面接官にハラスメントの注意も添える
厚生労働省の「男女均等な採用選考ルール」には、就職活動中の学生等の求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防ぐために必要な措置を講じることが、事業主の義務となる(令和8年10月1日施行)と書かれています。2026年10月21日時点では、すでに施行されています。具体的な措置の内容は、厚生労働省の指針で確かめてください。面接官への注意事項に、1項目足しておくと確実です。
今日からできること
- 面接で使っている質問のリストを集め、14事項に当てはまるものがないか1つずつ見ます。
- 当てはまる質問は、確かめたい仕事の条件に言い換えて、全員に聞く質問に直します。
- 上の文例をもとに、面接官に渡す注意事項を1枚作り、面接の前に全員で読み合わせます。
- 履歴書とエントリーシートの項目を見直し、通勤時間・扶養家族・配偶者などの欄があれば、厚生労働省履歴書様式例に合わせて削ります。
- 面接の記録の書式を、事実と評価を分ける形に変え、14事項は書かない約束にします。
- うっかり聞いたときの報告先(採用担当)を決めて、注意事項に書きます。
この記事は、2026年10月21日時点の厚生労働省の資料と、職業安定法・男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法にもとづいています。個別の質問や選考の適否は、社会保険労務士、または都道府県労働局・ハローワークの窓口に確かめてください。