入社が決まった人に何を渡すか、迷う場面があります。労働基準法は、労働契約を結ぶときに労働条件を示すことを会社に求めていて、その書類が労働条件通知書です。この記事では、2026年10月21日時点の条文と厚生労働省の様式にもとづき、書く項目、架空の記入例、雇用契約書との違いと兼ね方、電子で渡す条件をまとめました。
労働条件通知書は何のための書類か
根拠は労働基準法15条です。使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければなりません。そのうち賃金と労働時間などの大事な項目は、書面で示します。
明示した条件が事実と違っていたときは、労働者は即時に労働契約を解除できます(同条2項)。また、明示を怠ると30万円以下の罰金の対象です(同法120条1号)。書類の形を整えるためではなく、「聞いていた話と違う」を防ぐための決まりです。
募集のときの明示とは別の場面
求人票や募集要項で示す内容は、職業安定法にもとづく「募集時の明示」です。入社のときに渡す通知書とは、場面も法律も違います。募集時の書き方は求人票の書き方で説明しているので、ここでは入社時だけを扱います。
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募集時の明示 |
入社時の明示 |
| 場面 |
求人票・募集要項 |
労働契約を結ぶとき |
| 法律 |
職業安定法5条の3 |
労働基準法15条 |
| 書類 |
求人票など |
労働条件通知書 |
| 渡す相手 |
応募する人 |
採用する人 |
求人票と通知書で、賃金や休日がずれていないかは、渡す前に見比べます。入社前後の手続き全体は入社手続きのチェックリストに整理してあります。
書面で示す項目の早見表
労働基準法施行規則5条が、示す項目を決めています。書面で示すものと、制度があれば口頭でもよいものがあります。
労働条件通知書に書く項目の早見表と、渡し方の決まり作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法施行規則5条・パート有期法施行規則2条・厚生労働省モデル様式
全員に書面で示す項目
| 項目 |
書くこと |
| 契約期間 |
期間の定めがあるか。あるときは期間 |
| 更新の基準 |
有期のみ。更新の有無、判断の基準、通算期間や更新回数の上限 |
| 就業の場所と業務 |
雇入れ直後と、将来の変更の範囲 |
| 時間と休み |
始業・終業の時刻、所定時間外労働の有無、休憩、休日、休暇 |
| 賃金 |
決め方、計算と支払の方法、締切日、支払日(昇給は除く) |
| 退職 |
退職の手続、解雇の事由を含む |
パート・有期の人に足す項目
パートタイム・有期雇用労働法6条と、同法施行規則2条は、短時間・有期雇用労働者に次の項目を書面などで示すよう定めています。
| 項目 |
備考 |
| 昇給の有無 |
労働基準法では書面の対象外だが、パート・有期は書面 |
| 退職手当の有無 |
ある・ないを書く |
| 賞与の有無 |
ある・ないを書く |
| 待遇の違いの説明を求められる旨 |
2026年10月1日の施行から加わった項目 |
| 相談窓口 |
雇用管理の改善などの相談を受ける窓口 |
有期契約であれば、フルタイムで働く人もこの対象です。「パートだけの話」と思い込まないようにします。
口頭でもよい項目
退職手当の決め方、臨時の賃金、賞与、最低賃金額、食費や作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰と制裁、休職は、制度を設けているなら明示します。書面までは義務ではありませんが、厚生労働省のモデル様式は「その他」の欄に書けるようにしています。就業規則の条文名を示して足りるものもあります。
2024年4月と2026年10月に変わったこと
2024年4月から
厚生労働省のリーフレットによると、2024年4月に次の項目が加わりました。
| 項目 |
示す場面 |
| 就業場所・業務の変更の範囲 |
すべての労働契約の締結時と、有期契約の更新時 |
| 更新上限の有無と内容 |
有期契約の締結時と更新時 |
| 無期転換を申し込める旨 |
無期転換の申込権が生じる更新のとき |
| 無期転換後の労働条件 |
同上 |
「変更の範囲」は、将来の配置転換などで変わりうる場所や業務の範囲です。Q&Aでは、その労働契約の期間中の範囲を意味すると説明されています。更新上限は、通算の契約期間または更新回数の上限を指します。
最初の契約より後で更新上限を新しく設けるとき、または短くするときは、あらかじめその理由を本人に説明します。納得してもらうことまでは求められていません。すでに働いている人に、あらためて明示する義務はありませんが、有期契約の更新は新しい契約なので、更新のときは新しいルールで示します。
2026年10月から
パートタイム・有期雇用労働法施行規則2条が改正され、2026年10月1日から、書面で示す項目に「待遇の違いの説明を求めることができる旨」が加わりました。e-Govで比べると、2020年4月からの条文は、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の4つでした。現在の条文は、これに説明を求められる旨を加えた5つです。
厚生労働省の様式のページでは、2026年10月1日以降は新しい様式を使うよう案内されています(9月30日までは旧様式も使えます)。新しい様式には、説明を求める窓口の欄があります。説明を求める窓口と相談窓口が同じ部署なら、「同上」と書いてよいと記載要領にあります。
なお、労働基準法15条と施行規則5条の項目は、2026年10月21日時点のe-Govでは、2024年4月の内容のままでした。
書き方の例1 正社員(無期)
株式会社みなと文具(架空)が、一般事務の正社員を迎える例です。会社名・金額・日付はすべて作例で、求人票の記入例(求人票の書き方の例)と同じ条件にしています。モデル様式の欄の順に並べました。
| 欄 |
記入例 |
| 契約期間 |
期間の定めなし |
| 就業の場所 |
(雇入れ直後)本社 (変更の範囲)本社と都内の営業所 |
| 従事すべき業務 |
(雇入れ直後)受注の入力・請求書の作成・電話と来客の応対 (変更の範囲)営業事務と総務の庶務 |
| 始業・終業・休憩 |
9時00分から18時00分・休憩60分・所定時間外労働は有 |
| 休日 |
土日・祝日・年末年始(年間120日) |
| 休暇 |
年次有給休暇は6か月継続勤務で10日・時間単位年休は無・夏季休暇は有給3日 |
| 賃金 |
月給24万円・固定残業手当3万円(時間外労働の有無にかかわらず15時間分。超えた分は追加で支給)・通勤手当は実費(月3万5千円まで) |
| 割増賃金率 |
時間外25%(月60時間超は50%)・法定休日35%・深夜25% |
| 締切日・支払日 |
毎月20日締め、25日払い・銀行振込 |
| 昇給・賞与・退職金 |
昇給は有(年1回4月)・賞与は有(年2回、6月と12月)・退職金は無 |
| 退職に関する事項 |
定年60歳・継続雇用は65歳まで・自己都合は30日以上前に届け出る・解雇の事由は就業規則第○条から第○条 |
| その他 |
健康保険・厚生年金に加入・雇用保険は有・試用期間3か月(条件は同じ)・就業規則は総務部と社内ポータルで確認できる |
書くときの注意
- 賃金は具体的な金額で書きます。就業規則の賃金等級で金額が決まるなら、等級を示して足ります。
- 休日・休暇・退職の欄は、内容が多いときは就業規則の条文名を並べて足ります(記載要領)。
- 「就業規則を確認できる場所や方法」の欄があります。就業規則は労働者がいつでも確認できる状態にしておきます。
- 固定残業手当は、求人票と同じく、何時間分で何円か、超えた分は追加で払うことを書きます。
- 試用期間は専用の欄がないので、「その他」に書きます。
書き方の例2 有期契約のパート
同じ会社が、事務補助のパートを1年の契約で迎える例です。短時間・有期の人に足す項目と、有期の項目を中心に示します。
| 欄 |
記入例 |
| 契約期間 |
2026年11月1日から2027年10月31日(期間の定めあり) |
| 契約の更新 |
更新する場合があり得る・判断は契約期間満了時の業務量、勤務成績、態度、能力、会社の経営状況による |
| 更新上限 |
有(通算契約期間は4年まで) |
| 就業の場所・業務 |
(雇入れ直後)本社 (変更の範囲)本社 / (雇入れ直後)書類の整理・データ入力 (変更の範囲)事務補助全般 |
| 始業・終業・休憩 |
9時30分から16時00分・休憩45分・所定時間外労働は無 |
| 休日 |
勤務は月・水・金。火・木・土・日・祝日が休み |
| 休暇 |
年次有給休暇は6か月継続勤務で5日(週3日勤務の場合) |
| 賃金 |
時給1,350円・通勤手当は実費・毎月20日締め25日払い |
| 昇給・賞与・退職手当 |
昇給は無・賞与は無・退職手当は無 |
| 説明を求められる窓口 |
総務部 ○○(通常の労働者との待遇の違いの内容と理由を聞ける) |
| 相談窓口 |
同上 |
契約の更新を重ねて通算5年を超える契約を結ぶときは、その更新のたびに、無期転換を申し込める旨と、転換後の労働条件を示します(様式の無期転換の欄、または別様式)。この例は上限が4年なので、該当しません。上限を設けても、あとから延ばしたり、無期転換を避ける目的で更新を止めたりすることには注意が要ります。厚生労働省は、申込権が生じる前の雇止めは労働契約法18条の趣旨に照らして望ましくないとしています。
年次有給休暇の日数は、週の所定労働日数で決まります。週3日勤務の人は、6か月の継続勤務で5日です(労働基準法施行規則24条の3)。
雇用契約書との違いと「兼ねる」作り方
労働条件通知書は、労働基準法にもとづいて会社が渡す書類です。雇用契約書は、会社と本人が取り交わす合意の記録です。労働契約は、お互いの合意で成り立つので(労働契約法6条)、契約書を作ることは法律で義務づけられていません。ただ、同法4条2項は、契約の内容をできる限り書面で確認するよう求めています。
労働条件通知書と雇用契約書の違いと、兼ねるときの作り方作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法15条・労働契約法4条・6条・12条
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労働条件通知書 |
雇用契約書 |
| 根拠 |
労働基準法15条・パート有期法6条 |
労働契約法4条2項(確認) |
| 作る義務 |
あり |
法律に決まりなし |
| 署名・押印 |
法律上は不要 |
双方が署名・押印する形にする |
| 役目 |
条件を本人に知らせる |
合意した記録を残す |
兼ねる作り方
別々に作ると、内容がずれたり、片方の更新を忘れたりします。そこで、通知書の項目を全部入れた書類の末尾に、同意の一文と署名欄を足して、「労働条件通知書兼雇用契約書」にする方法があります。これは法律で決まった作り方ではなく、実務の工夫です。
- 厚生労働省のモデル様式を土台にし、欄を削らない。
- 表題を「労働条件通知書兼雇用契約書」にする。
- 末尾に「上記の内容に同意します」と日付、会社の記名押印、本人の署名欄を付ける。
- 2部作り、1部を本人に渡し、1部を人事で保存する。
いつ・どう渡すか
渡す時期
条文は「労働契約の締結に際し」です。契約を結ぶときに示し、入社日の当日に初めて見せる形は避けます。厚生労働省のQ&Aも、15条の明示は労働契約の締結に際して行うものだと説明しています。入社承諾書を取り交わす時点で書面を添えるのが、行き違いを防ぎます(編集部の考えです)。
パート・有期の人への文書は、法律上は「雇い入れたとき速やかに」です。労働基準法の項目とあわせて、同じ書面で渡せば足ります。モデル様式には、この通知書がパート有期法6条の文書の交付を兼ねる、と書かれています。
電子で渡すとき
労働者が希望した場合に限り、FAXや、電子メールその他の方法でも示せます。施行規則5条の条文は、出力して書面を作成できるものに限ると定めています。
| 条件 |
内容 |
| 本人の希望 |
会社の都合ではなく、本人が希望したとき |
| 方法 |
FAX、メール(Webメールを含む)、SNSのメッセージ機能など |
| 形 |
出力して書面にできるもの。個人のブログへの書き込みは認められない |
| 会社がやること |
希望を個別に確かめる・届いたか確かめる・出力して保存するよう伝える |
厚生労働省のリーフレットは、メールやSNS本文に条件を細切れに書くより、PDFなどを添付ファイルで送り、明示した日付、担当者名、会社名などを入れるよう勧めています。SMSは禁止されていませんが、望ましくないとされています。本人が希望していないのに電子だけで示すと、法令違反になります。
電子契約のサービスで送るときも、本人の希望の確認と、出力して書面にできる形を満たしているかを確かめます(条文への当てはめは編集部の考えです)。
変更があったとき
契約の途中で労働条件を変えるときは、本人と合意するのが原則です(労働契約法8条)。会社が就業規則を変えて、本人の不利益に変えることも、原則はできません(同法9条)。
- 「変更の範囲」の中の異動: 通知書の作り直しは不要です。
- 範囲を超える異動、賃金や時間の変更: 本人と合意し、変更の内容を書面で残します。
- 有期契約の更新: 更新のたびに、新しい契約として通知書を渡します。
よくある誤り
| 誤り |
直し方 |
| 昔の雛形のまま |
変更の範囲、更新上限の欄を足す |
| 「勤務地 本社」だけ |
変更の範囲まで書く |
| 昇給・賞与の有無がない(パート・有期) |
有無を書く |
| 新様式の欄がない |
説明を求める窓口の欄を足す |
| 渡した記録がない |
受領のサインか、送信の記録を残す |
| 電子で一方的に送った |
本人の希望を確かめ、記録する |
今日からできること
- 今使っている通知書の雛形を、厚生労働省の新しい様式と見比べます。
- 変更の範囲、更新上限、無期転換の欄があるか確かめます。
- パート・有期用に、昇給・賞与・退職手当の有無と、窓口の欄があるか確かめます。
- 契約書を別に作っているなら、兼ねるか、内容がずれていないかを見直します。
- 電子で渡す場合の手順(希望の確認・添付・保存)を決めます。
- 渡した日と受け取りの記録を残す場所を決めます。
この記事は、2026年10月21日時点の労働基準法・同施行規則・パートタイム・有期雇用労働法・労働契約法と、厚生労働省の資料にもとづいています。個別の書類の適否は、社会保険労務士、または都道府県労働局・労働基準監督署の窓口に確かめてください。