同じ用件を、2通りの言い方で書いてみます。
- 「この資料、今日中に確認してください。」
- 「お忙しいところ恐れ入りますが、本日中にご確認いただけますでしょうか。」
頼んでいる中身は同じですが、受け取る側の気持ちは違います。後者の頭にある「お忙しいところ恐れ入りますが」のように、本題の前に置いて言い方を和らげる言葉を、クッション言葉と呼びます。この記事は、依頼・お断り・反論・確認・催促・お詫びの6つの場面で、どの言葉をどう使うかを一覧にしたものです。
クッション言葉は、本題の前に置く気づかいの一言
クッション言葉は、頼みごと、断り、反対意見など、相手に負担をかけたり、耳に痛いことを言ったりする前に添える言葉です。省いても用件は伝わります。その代わり、言い方が直接的になり、相手に「押し付けられた」と感じさせることがあります。
文化庁「敬語の指針」には、「クッション言葉」という語は出てきません。ただ、依頼の仕方を扱った項目に、同じ考え方があります。同僚から突然「これ、お願いします」と書類を置いていかれて失礼だと感じた、という相談に対して、指針は次のように答えています。
何かを頼むということは、相手には負担の掛かることだと考えられる。相手に負担を掛けているのだ、という意識を持って、その気持ちを表明することが、相手に対してより配慮した表現になると言えるだろう。(文化庁「敬語の指針」第3章 5 依頼の仕方の問題)
さらに指針は、「すみませんが」や「忙しいところ申し訳ないけど」などの前置きがあるだけで、随分印象が違ってくると述べています。いつも仕事を頼み合っている関係なら「これ、お願いします」で十分な場合もある、とも書いています。つまりクッション言葉は、守らないと失礼になる決まりではなく、相手の負担を分かっていると示すための慣習です。
クッション言葉の働きは、場面によって3つに分かれます。
| 場面 |
クッション言葉の働き |
代表的な言葉 |
| 依頼する・尋ねる |
相手に手間や時間をかけることへの気づかい |
恐れ入りますが・お手数ですが |
| 断る・お詫びする |
期待に応えられないことへの申し訳なさ |
あいにく・申し訳ございませんが |
| 反論する・催促する |
相手を否定するつもりはないという前置き |
おっしゃることはごもっともですが |
クッション言葉の早見表。6つの場面ごとの言い回しとメールの一文作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」
依頼するとき 恐れ入りますが・お手数ですが
頼みごとは、いちばんクッション言葉を使う場面です。負担の大きさに合わせて、言葉を選びます。
| 言い回し |
向いている場面 |
注意すること |
| 恐れ入りますが |
確認、書類の送付、折り返しなど、幅広い依頼 |
どの場面でも使える。迷ったらこれ |
| お手数ですが |
記入、返送、再提出など、相手に手間のかかる依頼 |
手間のない依頼に付けると大げさに響く |
| お忙しいところ恐縮ですが |
忙しいと分かっている相手への依頼、期限が近い依頼 |
「恐縮」は、ありがたさと申し訳なさの両方を表す |
| ご面倒をおかけしますが |
手続きのやり直しなど、手間が大きい依頼 |
「お手数ですが」より重い。多用しない |
| 差し支えなければ |
都合や事情を尋ねるとき |
相手が断れる余地のある依頼に使う |
| よろしければ |
相手の都合で決めてよい提案や誘い |
必ず応じてほしい依頼には使わない |
メールの例です。
電話では、メールより短く、息継ぎのしやすい形にします。
「よろしければ」は押し付けにならない言葉ですが、使いどころがあります。会議の日程を決める連絡で「よろしければ来週火曜日はいかがでしょうか」と書けば、候補の提案として自然です。一方、期限のある提出物に「よろしければ今週中にご提出ください」と書くと、出さなくてもよいように読めてしまいます。断れない依頼には、「恐れ入りますが」で書き始めます。
指針は、頼み方の例も挙げています。たとえば、責任者でない人が同僚に「この仕事をしていただきます」と言うと、きつい言い方になります。相手に判断をゆだねる「この仕事をしていただけますか」などの形を勧めています。クッション言葉のあとの文末を、指示の形でなく、尋ねる形にそろえるのはこのためです。
断るとき あいにく・せっかくですが
断るときは、先に断りの結論を出すより、気持ちを受け止める言葉から入ると、相手に伝わりやすくなります。ただし、前置きが長すぎて、断りなのか分からないメールにはしません。
| 言い回し |
向いている場面 |
注意すること |
| あいにく |
日程や在庫など、こちらの都合が合わないとき |
「あいにく」だけでは冷たい。理由か代案を続ける |
| せっかくですが |
誘いや提案を断るとき |
相手の好意が前提なので、商談の断りには合わない |
| ありがたいお話ですが |
依頼や提案をいただいたが引き受けられないとき |
お礼の気持ちが伝わる分、断りがはっきりしないと期待させる |
| 申し訳ございませんが |
断りの定番。幅広い場面 |
謝る必要のない断りに付けすぎると、非があるように聞こえる |
| 大変残念ですが |
取引や参加を見送るとき |
相手が気持ちを込めた提案に使う |
「あいにく」は、都合が悪いときにだけ使う言葉です。こちらの判断で断るときに使うと、都合のせいにしているように聞こえることがあります。その場合は「今回は見送らせていただきます」のように、理由を短く添えます。
反論・意見を言うとき おっしゃることはごもっともですが
相手と違う意見を言うときは、クッション言葉の力がいちばん試されます。相手を否定する前に、相手の考えを受け止めたことを示します。
| 言い回し |
向いている場面 |
注意すること |
| おっしゃることはごもっともですが |
相手の言い分に理があるが、別の方法を提案したいとき |
本当に理があると思うときだけ使う |
| 私の理解が足りないかもしれませんが |
自分の勘違いかもしれないと断って、疑問を出すとき |
繰り返すと頼りなく見える。1通に1回まで |
| 差し出がましいようですが |
頼まれていない助言や指摘をするとき |
同僚には大げさ。目上の人や社外向け |
| お言葉を返すようですが |
相手の発言にはっきり反対するとき |
強く響く。目上や社外には避け、別の言い回しにする |
| 念のため確認させてください |
相手の判断を疑っていると受け取られたくないとき |
理由も添える |
「お言葉を返すようですが」は、これから反対意見を言うと宣言する言葉です。丁寧な形をしていても、受け取る側は身構えます。社外の相手や目上の人には、「おっしゃることはごもっともです。そのうえで、一点だけ確認させてください」のように、受け止める文と確認の文に分けると、角が立ちにくくなります。
尋ねる・確認するとき 失礼ですが・念のため
尋ねるクッション言葉は、相手の名前や事情に踏み込むときに使います。聞かれる側が構えないように、理由を添えるのがコツです。
| 言い回し |
向いている場面 |
注意すること |
| 失礼ですが |
名前、所属、用件を尋ねるとき |
「失礼ですが、どちら様でしょうか」が定番 |
| 念のため |
確認済みと思うことを、もう一度確かめるとき |
相手を信用していないように聞こえないよう、理由を添える |
| つかぬことを伺いますが |
話の流れに関係ない質問をするとき |
突然の質問に使う言葉。大事な確認には軽く聞こえる |
| 差し支えなければ |
個人的な事情や、答えにくいことを尋ねるとき |
答えなくてもよいという余地を残す |
| 恐れ入りますが |
聞き取れなかったときの聞き直し |
「恐れ入りますが、もう一度お願いいたします」 |
「よろしかったでしょうか」のように、過去の形で確認する言い方の是非は、敬語の使い方 尊敬語・謙譲語・丁寧語の違いと二重敬語・間違えやすい言い換え一覧で説明しています。電話での名乗りや取り次ぎの言い方は、電話応対の基本と例文 取り次ぎ・不在・折り返し・伝言メモの書き方にまとめました。
催促するとき その後いかがでしょうか
催促は、相手の落ち度を責める形になりやすい場面です。相手が忙しいだけかもしれないし、こちらの連絡が届いていないのかもしれません。その可能性を残した言い方にします。
| 言い回し |
向いている場面 |
注意すること |
| その後いかがでしょうか |
返事や進み具合を軽く尋ねるとき |
1回目の催促向き。期限は別の文で添える |
| 行き違いでしたら申し訳ございません |
すでに送られていたかもしれないとき |
本当に行き違いの可能性があるときだけ使う |
| お忙しいところ恐れ入りますが |
2回目以降の催促 |
期限を具体的な日付で書く |
催促は、1回目は軽く尋ね、返事がなければ日を置いて2回目に期限を書く、という進め方が一般的です。たとえば見積書なら、送って1週間ほどたっても返事がないときに「その後いかがでしょうか」と尋ね、それでも届かなければ期限を決めて頼みます。電話をかけるときは、先にメールで知らせておくと、相手が資料を手元に出して待てます。
お詫びのときは、謝る言葉そのものがクッションになる
お詫びの場面は、謝罪の言葉が前置きを兼ねます。「申し訳ございません」「ご迷惑をおかけしました」が先頭に来るので、別のクッション言葉は要りません。ミスの種類別の文例や、再発防止策の書き方は、お詫びメールの書き方 取引先へのミスの謝罪と再発防止の伝え方・例文にまとめています。ここでは、頼みごとやお断りの文頭の「申し訳ございませんが」が、軽いお詫びのクッション言葉として働くことだけ押さえてください。
相手によって響き方が変わる言い回し
同じ言葉でも、相手との関係で響き方が変わります。次の表は、一般的な受け止め方をまとめたものです。会社や業界で違うことがあるので、職場の習慣を優先してください。
| 言い回し |
社外・目上 |
社内の同僚 |
響き方 |
| 恐れ入りますが |
使える |
少し硬い |
幅広く使える。迷ったらこれ |
| お手数ですが |
使える |
使える |
手間のある依頼に |
| よろしければ |
使える |
使える |
押し付けにならない。断れない依頼には不向き |
| お言葉を返すようですが |
避ける |
場合による |
強く響く。反対の宣言に聞こえる |
| 差し出がましいようですが |
使える |
大げさ |
目上への助言向き |
| 私の理解が足りないかもしれませんが |
使える |
使える |
低姿勢。重ねると頼りなく見える |
| つかぬことを伺いますが |
軽く響く |
使える |
重要な確認には向かない |
| 念のため |
理由を添えれば使える |
使える |
疑っているように聞こえる場合がある |
「お言葉を返すようですが」は、言葉そのものは丁寧です。それでも、読む側は「これから反論される」と感じます。意見の中身が穏やかでも、前置きが強くて損をすることがあります。
1文に重ねるとかえって回りくどくなる
クッション言葉は、丁寧にしようとして重ねるほど、本題が遠くなります。同じ気持ちを表す言葉を、1文に2つ以上入れるのが典型です。
「恐れ入りますが」「恐縮ですが」「お手数ですが」は、どれも相手への負担を詫びる言葉です。1文に1つで十分に伝わります。直すときは、次の順で見ます。
- 文頭のクッション言葉を数える。2つ以上あれば、いちばん合うものを1つ残す。
- 同じ意味の言葉が、文の途中や文末に残っていないか見る。
- 「いただけますでしょうか」と「よろしいでしょうか」のように、文末が重なっていないか見る。
文末の重ねすぎも多いです。「ご確認いただけますでしょうか」に「と存じます」まで付けると、何を頼まれているのか分かりにくくなります。指針も、許可を求める形の言い方(「書いていただいてもよろしいですか」など)は、本来なら依頼や指示で済むところを変えている分だけ、回りくどい印象を与えると説明しています。簡潔に頼める状況なら、その形は使わないほうがよいとしています。
クッション言葉を重ねすぎたときの直し方3つと、直す順番作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」
メール全体で見たときの数
1文に1つを守っても、メール全体にクッション言葉があふれると、読みづらくなります。編集部の目安として、1通のメールで3つほどまでにし、頼みごとや断りのような重い場面に絞ります。冒頭のあいさつ(「お世話になっております」)と、結びの「よろしくお願いいたします」は、クッション言葉の数に入れません。
社内・社外・チャットの使い分け
相手との距離によって、使う量を変えます。
| 場面 |
使う量 |
例 |
| 社外のメール・電話 |
頼みごと、断り、反論には付ける |
お忙しいところ恐れ入りますが |
| 上司・目上の人への依頼 |
付ける。ただし長くしない |
お手すきのときにご確認をお願いできますか |
| 同じ部署の同僚 |
軽い用件には省く。重い頼みごとには付ける |
すみませんが、これお願いできますか |
| 社内チャット |
短くする。クッション言葉は1語まで |
お手すきのときに、確認をお願いします |
指針の説明によると、いつも仕事を頼み合う関係なら「これ、お願いします」で十分な場合もあります。ただし、同じ同僚でも、急ぎの頼みごとや休日に近い時間の連絡には、「すみませんが」を付けます。
チャットで「恐れ入りますが」を毎回付けると、読む側が疲れます。一方、社外の相手とのチャットは、相手の書き方に合わせるのが安全です。相手が「お世話になっております」と書き始めるなら、こちらもメールに近い丁寧さで返します。
送る前の確認表 クッション言葉は足りているか、多すぎないか
送る前に、次の4つを確認します。
迷ったときは、「恐れ入りますが」を1つ使い、文末を尋ねる形にするだけで、たいていの場面は整います。表の言葉は、すべてを覚える必要はありません。まず依頼の「恐れ入りますが」「お手数ですが」、断りの「あいにく」「申し訳ございませんが」、反論の「おっしゃることはごもっともですが」の3組を、自分の言葉にしてください。