経理の仕事で生成AIが役立つのは、勘定科目の候補を挙げる、領収書を一覧にする、問い合わせへの返事を下書きする、といった場面です。一方で、仕訳を確定する判断と、税の金額の基準の確認は、人が公式の情報で行います。AIの答えは自然に読めても、古い基準のままだったり、数字を読み違えていたりすることがあるからです。
任せられる場面と、人が決める場面を分ける
経理の生成AIの任せ方(編集部の見立て)作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会
分け方の目安は、間違えたときに帳簿や申告まで届くかどうかです。返事の下書きなら読み直せば防げますし、勘定科目の候補も確認する人がいれば役に立つでしょう。でも、仕訳の確定や税区分の判断では、間違いがそのまま帳簿に残ります。
読み取りの結果は、元の領収書と照らして確認するイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
入力する情報にも線を引きましょう。個人情報保護委員会は、個人データを含む内容を入力するなら、利用目的の範囲内かを確認し、そのデータが機械学習に使われないことも確認するよう呼びかけています1。領収書や請求書には、取引先の担当者名や口座番号、社員の名前が載っています。入れてよい範囲は、生成AIに入力してはいけない情報の記事で確認できます。
仕訳の相談は、答えより候補と確認点を聞く
「この仕訳は何ですか」と聞くと、AIは1つの答えを言い切りがちです。ですが、経理で欲しいのは、判断の材料です。自社の勘定科目と決まりを渡して、候補と確認点を出してもらいましょう。
返ってきた候補は、そのまま使わず、自社の科目表と過去の処理に合わせて選びます。この例なら、確認する点は参加者と1人あたりの金額、残しておく書類です。交際費から除ける飲食費には、1人あたりの金額のほかに、参加者などを書いた書類の保存といった条件があります2。
金額の基準は、AIの答えのまま使わない
近年変わった基準の例作成: 編集部 / 出典: 国税庁
税の基準は改正で動きます。AIが学んだ時期より後の改正は、答えに入っていないことがあります。図の3つは、どれも近年変わった例です。
飲食費の基準は2024年4月から1人あたり1万円以下で、それより前の支出は5,000円以下でした2。中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、2026年4月以後の取得から40万円未満に上がり、従業員数の基準は400人以下に下がりました3。
免税事業者からの仕入れで控除できる割合は、2026年10月から70%です。当初の予定の50%とは違う数字なので、2026年度の改正より前の情報を読むと間違えます4。しかも、割合は仕入れの時期で変わるので、9月と10月をまたぐ取引では、それぞれの時期を確認します。
AIに聞くなら、金額そのものより「どのページを見ればよいか」を聞くほうが安全です。出てきたページが本当にあるかも、自分で開いて確認してください。答えの見分け方は、生成AIの間違いの見つけ方の記事でも確認できます。
領収書の整理は、読み取りと突き合わせまで
領収書の画像から、日付と支払先、金額の一覧を作る作業は、AIの得意な分野です。ただし、読み取りの間違いは起こります。特に、数字の1と7、0と6のような似た字や、かすれた印字には注意が要ります(編集部の見立て)。
合計を電卓やExcelで出し直すと、読み間違いに気づきやすくなります。8%と10%が混ざったレシートなら、税率ごとの金額も列を分けてもらいましょう。インボイスには税率ごとの金額と税額を書く決まりなので、後で帳簿と合わせやすくなります5。登録番号も要注意です。書いてあることと、登録されていることは別の話なので、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認してください6。
AIで読み取っても、元の領収書の保存が不要になるわけではありません。紙のまま取っておくか、スキャナ保存の要件を満たす形で残す必要があります。保存の決まりは、電子帳簿保存法の記事で確認できます。
問い合わせの返事や月次のコメントにも使える
毎月同じ質問に答える時間も、AIで短くできるはずです。社員からの「この経費は精算できますか」という質問なら、自社の経費規程の該当部分を貼り、やさしい言葉で返事を下書きしてもらいましょう。規程にない質問には、規程にないと答えるよう頼んでおくと、作り話を防ぎやすくなります。
月次の増減のコメントでは、数字を渡すと文章は整います。ただ、増えた理由まではAIにはわかりません。理由は担当者に聞いて入力し、AIには言い回しだけを任せましょう。
小さく始めて、浮いた時間を別の仕事へ
いきなり全部を任せる必要はありません。最初の1か月は返事の下書きだけ、次の月に勘定科目の候補、その次に領収書の一覧と、確認の手間が小さい順に広げていくと、社内の理解も得やすくなります(編集部の例)。
続けるなら、かかった時間を一度測ってみてください。確認に時間がかかって、かえって遅くなる作業も見つかるはずです。そして、短くなった時間を数字の説明や改善の提案に回せると、経理の仕事の幅が広がっていきます。
帳簿に入れる前に確認すること
- 会社が認めたサービスか確認した。
- 個人名や口座番号を消してから入力した。
- 勘定科目を、自社の科目表と過去の処理に合わせた。
- 金額の基準と税区分を、国税庁の最新のページで見直した。
- 読み取った日付と金額を、元の領収書と1件ずつ照らした。
- 登録番号を公表サイトで確認した。
- 迷う取引は、上司か顧問税理士に聞いた。
- 確定した人と確認した資料を残した。
金額の基準は、2026年11月4日に国税庁のページで確認したものです。