同じ部署の人が退職すると決まったとき、送別の品の幹事を任されて、まず「いくら集めるのか」「何を贈るのか」「いつ、どう渡すのか」で手が止まる人は少なくありません。退職の理由によって、贈るかどうかを含めて考え方が変わる点も、悩みを大きくします。
この記事は、退職祝いと送別の品を職場で用意する人に向けて、予算の幅、集め方、品物の選び方、花束を渡す場面の段取りと添える一言、会社の記念品との関係を順に説明します。金額に公的な統計はなく、示す数字は日本郵便の案内に載る「一般的な目安」です。慣習の部分は会社や地域で違います。2026年10月時点の情報です。
退職の理由で変わる 贈るかどうかの判断
最初に確かめるのは、退職の理由です。日本郵便の案内は、退職祝いを「その後の人生で役に立ちそうなもの」を選ぶ贈り物とし、定年退職は長年働いたことへのねぎらい、若い人の退職は新しい門出を祝うものとして分けています。
| 退職の理由 |
贈り方の一般的な考え方 |
品物の方向 |
| 定年 |
長年のねぎらい。「量より質」で、少し良い品を選ぶ |
食器・お酒・日用品・身につける物、花束 |
| 転職・独立 |
円満に送り出すなら、お祝いとして贈ってよい |
新しい職場で使えるビジネスグッズ |
| 結婚・出産 |
新しい暮らしの門出として贈る |
小型家電・リネン類など新生活で使える物 |
| 家庭の事情(介護・転居など) |
本人の気持ちが分からないうちは「お祝い」にしない |
消えものなど、気を使わせない軽い品 |
| 療養・会社都合など |
「お祝い」ではなく「お世話になったお礼」 |
派手でない品。のしも控えめに |
最後の行は、日本郵便の案内にある考え方です。取引先の担当者へ贈る場面を説明したページですが、療養や会社都合などで不本意な退職の可能性があるときは、全面的な「お祝い」にはできないので、「お世話になったお礼」という名目にして、のしを掛けたりお祝いムードの強い派手な品を選んだりするのは避けたほうが無難、としています。社内の同僚に贈るときも、同じ配慮が使えます。
家庭の事情の場合は、案内にそのままの記載がありません。介護や家族の看病などで辞める人に華やかな品を贈ると、かえって重く受け止められることがあります。そのため、ここでは編集部の考えとして、理由を知らされていないうちは「お祝い」と決めず、人事や直属の上司に「どんな形で送り出すか」を先に確かめる進め方を勧めます。
ひとりあたりの集金額と品物の予算の目安
日本郵便の案内は、退職祝いの金額の相場を、退職する人との関係に応じて次のように示しています。
| 贈る相手 |
プレゼントの目安 |
| 同僚 |
3,000円から5,000円 |
| お世話になった人・上司 |
5,000円から10,000円 |
同じ案内には、関係やメンバーによっても変わるので、同僚や先輩にも相談するとよい、とあります。連名の場合の1人あたりの金額は、退職祝いについては案内に書かれていません。参考として、同じ日本郵便の「栄転・昇進」の案内には、職場の全員で食事に行き、贈答品は1人千円程度を出し合って花束と一緒に贈るイメージが紹介されています。これは昇進の場面の例で、退職の目安ではない点に注意してください。
集金額は「総額から人数で割る」考え方で決める
連名で贈るときは、先に品物と花束の総額を決め、人数で割って1人分を出します。次の表は、編集部が割り算で作った例で、出典のある数字ではありません。
| 品物と花束の総額 |
参加10人 |
参加20人 |
参加30人 |
| 10,000円 |
1,000円 |
500円 |
約340円 |
| 20,000円 |
2,000円 |
1,000円 |
約670円 |
| 30,000円 |
3,000円 |
1,500円 |
1,000円 |
人数が多い部署では、1人500円から1,000円ほどでも総額は大きくなります。退職する人がお世話になった上司なら、案内の「5,000円から10,000円」を総額の下限の目安にして、人数で割ると考えやすくなります。個人で別に贈る人は、連名の分と二重にならないよう、先に幹事に伝えておきます。
退職祝いの予算の目安と、連名の割り算・集め方5段階・理由別の品物作成: 編集部 / もとの資料: 日本郵便(郵便局のネットショップ)「【転職・定年】退職祝いのギフトにまつわるマナー」
幹事の集め方 強制しない・端数・記録
集め方で気まずくなる原因は、強制に見えることと、お金の行き先が分からなくなることです。次の順に進めます。
1 退職が公表されてから動く
退職の予定は、本人や会社が知らせる前に周りが広めてはいけません。人事や上司から正式に周知されてから、幹事を決めます。本人に気づかれないように進めたい場合も、公表後に、本人の目に入らない場所と時間で声をかけます。
2 幹事を2人にして、本人から遠い人にする
集めるのは、本人と同じ部署の幹事1人か2人です。管理職が自分で集めると、出さない人が断りにくくなります。幹事は2人にして、お金と買い物の役を分けると、記録も確認しやすくなります。
3 範囲を決めて、金額は幅で示す
集める範囲は、同じ部署、仕事で関わった他部署の人、同じフロアなどから決めます。範囲の外の人が、後から「声をかけてもらえなかった」と感じないよう、決めた範囲を一言伝えます。金額は「500円から1,000円」のように幅で示して、出せる人が出す形にします。
4 端数と余りの扱いを先に決める
集まった額が予算を超えたり足りなかったりします。余りが出たときの扱いを、集める前に決めておきます。
- 余りが少額なら、メッセージカードや花束の追加に使い、報告に書く。
- 余りが大きいなら、参加した人に分けて返す。
- 足りないときは、幹事が立て替えず、品物の範囲を見直す。
5 会計を記録して知らせる
集めた額、使った額、領収書の控えを、簡単な表にして残します。渡し終えたら、参加者に「いくら集まり、何にいくら使ったか」を短く知らせます。個人のお金を預かる役目なので、現金は封筒に入れて名前を書き、幹事の机の鍵付きの引き出しなど、置き場所を決めます。
品物の選び方 消えもの・名入れ・花束・メッセージ
選ぶ軸は「退職の理由」「持ち帰りやすさ」「本人の好み」の3つです。
理由ごとの品物の例
日本郵便の案内に載る例をもとに整理します。
| 退職の理由 |
日本郵便の案内に見られる例 |
| 定年 |
食器・お酒・日用品・身につける物、花束・プリザーブドフラワー、好みに合わせた趣味の品(名入れのエプロンなど)、図書カード、甚平・スリッパ |
| 結婚 |
小型家電・リネン類、ペアグラスや家事用品 |
| 出産・懐妊 |
ベビーグッズ、体を温めるグッズ |
| 転職・起業 |
新しい職場で役立つビジネスグッズ、万年筆・ペンケース |
案内には、相手の好みがつかめていない場合は直接聞くのもよい、とあります。ただ、本人に聞くと内緒にならないため、職場では本人と親しい人にさりげなく聞くか、カタログギフトのように選んでもらえる形にすると安心です。
消えものを選ぶと、お返しや置き場所の負担が軽い
食べ物や飲み物のような消えものは、使うと残らないので、受け取る側に置き場所の負担がありません。送別の場面では、同僚から複数の人が品を贈ることがあり、他の贈り物と重なる心配もあります。日本郵便の案内は、取引先の担当者に贈る場面で、いくつあっても困らないネクタイやカードケースなどを勧めています。社内でも同じ考え方で、重なりにくい物を選べます。
名入れは、本人の好みが分かるときだけ
名前の入った品は、世界に1つの記念になります。一方で、気に入らなかったときに使いにくく、人に譲りにくい弱点もあります。日本郵便の案内の例にも、お酒が好きな定年退職者への名入れの品や、料理が趣味の人への名入れのエプロンが載っています。本人の趣味がはっきり分かっているときに選び、迷うときは名入れなしの上質な品にします。
避けるとされる物は、一般的な考え方として知っておく
日本郵便の案内には、次の品は避けたほうが無難、とあります。根拠のある決まりではなく、慣習です。
| 避けるとされる物 |
一般的に言われる理由 |
| 下着 |
生活に困っていることを暗に示すと受け取られるため |
| 履物など踏みつけて使う物 |
目上の人に「踏みつけて上へ行く」と受け取られるため |
| 刃物・ハンカチ |
「切れる」「別れ」を連想させ、縁が切れる意味に取られかねないため |
| 文房具・ベルト |
「仕事に励め」「気を締めてかかれ」と上から目線に取られるといわれるため |
文房具やベルトは、取引先の方に贈るときに避けたほうが無難、とされる品です。同僚に贈るときも、迷うなら別の品にしておくと安心です。
花束・メッセージカード・寄せ書き
花束は、定年のような大きな節目で華やかに祝うときの例として案内に載っています。選ぶときは、次の点を見ます。
- 本人が帰りに電車やバスで持ち帰れる大きさ。両手で抱える大きさは、荷物が多い日には負担になる。
- 花粉やにおいが強い花、本人が好まない花がないか。迷うときは、家族や親しい同僚に聞く。
- 渡すまでの間の置き場所と水。冷蔵庫に入れられない場合は、渡す直前に受け取る。
寄せ書きやアルバムのように、今までの感謝が伝わる物を添えると、より気持ちが伝わる、と案内にもあります。色紙やメッセージカードは、回覧に1週間から2週間ほどかかります。本人の席から遠い場所に置き、書き終えた人が内容を見せ合わないように、最後に幹事がまとめます。
渡す場面の段取り 最終出社日・送別会・朝礼
渡す場面は、日本郵便の案内に「連名なら送別会で」「個別なら人目につかないように」とあります。最終出社日でもよいが、職場から持ち帰る荷物が多いので、かさばる物や重い物は避けたい、とも書かれています。
場面ごとの向き不向き
| 場面 |
向いている贈り方 |
注意すること |
| 送別会 |
連名の品・花束 |
日本郵便の案内が「ベストなタイミング」とする場。会の終わりごろに渡す |
| 最終出社日の終業時 |
軽い品・花束・寄せ書き |
本人の荷物が多い。大きな花束や重い品は避け、持ち帰り用の袋を用意する |
| 朝礼・終礼 |
短い挨拶と花束 |
全員が集まるので、5分以内で終える |
| 個人で贈るとき |
小さな品・カード |
贈り物を用意していない人が気まずくならないよう、人目につかない時に渡す |
花束を渡す場面の順番
次の順番は、案内の考え方をもとに、編集部が組んだ段取りの例です。会社や会の形で調整してください。
- 渡す前に、花束と品を目立たない場所に置き、持ち帰り用の紙袋と花束用の袋を近くに用意する。
- 司会(幹事)が、退職する人の名前と、勤務の年数など事実だけを短く紹介する。
- 上司が、一言あいさつをする。
- 代表者が前に出て、品と花束を渡しながら、一言を添える。渡すときは、花束は両手で相手に向けて渡す。
- 退職する人があいさつをする。
- 写真を撮る。花束を持った姿は記念になる。
- 会が終わったら、花束を袋に入れて、持ち帰りやすくする。
花束を渡す場面の選び方と順番、立場別の一言の例作成: 編集部 / もとの資料: 日本郵便(郵便局のネットショップ)「【転職・定年】退職祝いのギフトにまつわるマナー」
添える一言の文例 立場別・退職の理由別
一言は短くし、事実と感謝を1つずつ入れるだけで十分です。お祝いの言葉を使うか、お礼の言葉にするかは、先の表で決めた退職の理由に合わせます。避けたほうがよい言葉は、「また会いましょう」のような、本人の予定が決まっていない約束と、辞める理由をたずねる言葉です。
立場別
退職の理由別
最後の例は、「おめでとう」を使わず、お礼と気づかいだけにしています。日本郵便の案内にある「お世話になったお礼」という名目と同じ考え方です。
のしの表書きは、同じ案内に「御退職祝」「御退任祝」「御礼」などが挙がっています。お世話になった気持ちを伝えるなら「御礼」もよい、とされています。水引や名入れの書き方は、のしの書き方 表書き一覧と水引の種類・名入れ・内のしと外のしの使い分けにまとめています。「御餞別」については、確かめられる公的な資料が見つからなかったため、この記事では扱いません。
会社として贈る記念品・慶弔規程との関係と税の扱い
有志で集めて贈る品と、会社が出す記念品は別のものです。次の表のように分けて考えます。
|
有志の送別の品 |
会社の記念品・祝い金 |
| 出す人 |
同僚・上司・部署の有志 |
会社 |
| 根拠 |
慣習・気持ち |
慶弔見舞金規程・記念品の取り決め |
| お金の出どころ |
参加者が出し合う |
会社の経費 |
| 金額 |
一般的な目安の幅 |
規程で決めた額 |
会社の記念品や祝い金は、人によって差がつかないよう、規程で対象と額を決めておきます。決め方は会社の慶弔対応 社員の結婚・出産・弔事の規程の作り方と手配の流れで扱っています。有志の送別の品が会社の記念品の代わりになることはなく、会社の記念品が出たからといって、有志の送別の品をやめる必要もありません。
永年勤続の記念品は、要件を満たせば給与として課税されない
国税庁のタックスアンサー(No.2591)は、永年勤続者を表彰するときの記念品や旅行・観劇への招待費用について、次の要件をすべて満たせば、給与として課税しなくてもよいとしています。
| 要件 |
内容 |
| 金額 |
その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内 |
| 対象 |
勤続年数がおおむね10年以上の人 |
| 間隔 |
同じ人を2回以上表彰するときは、前の表彰からおおむね5年以上あける |
同じページには、記念品の代わりに現金や商品券を支給するとその全額が給与として課税されること、本人が記念品を自由に選べる場合も、その価額が給与として課税されることが書かれています。たとえば、定年退職者への記念品を「カタログから好きに選んでもらう」形にすると、課税の対象になる点に気をつけてください。
法人税については、同じく国税庁のタックスアンサー(No.5261)が、従業員等(従業員等であった者を含む)やその親族のお祝いやご不幸などに際して、一定の基準に従って支給される金品の費用を、福利厚生費としています。例として、結婚祝・出産祝・香典・病気見舞いが挙がっています。退職祝いや送別の品が、この例に当たるかどうかは、これらのページからは確かめられませんでした。実際の経理処理は、顧問の税理士か所轄の税務署に確かめてください。有志が集めたお金で買う品は、会社の経費ではないので、これらの話の外にあります。
今日からできること
- 人事か上司に、退職の理由の伝え方と公表の時期、送別の場の有無を確かめる。
- 部署の先例を確かめる。過去の送別の金額・品・渡し方を、先輩か総務に聞く。
- 幹事を2人決め、集める範囲と1人あたりの幅を決める。総額は、同僚あてなら3,000円から5,000円、上司やお世話になった人あてなら5,000円から10,000円を下限の目安にする。
- 退職の理由に合わせて、品物の方向を決める。迷うときは、消えものか上質な日用品にする。
- 渡す場面を決め、花束の大きさと持ち帰り用の袋を用意する。
- 一言の文例から選び、渡す代表者に短く練習してもらう。
- 渡し終えたら、収支を参加者に知らせる。
退職は、本人にとっても残る人にとっても節目です。贈る物の値段より、関わった時間への感謝がまっすぐ伝わるように、無理のない形で整えてください。退職の手続きや挨拶メールは、退職の挨拶メール 社内・取引先への例文と送るタイミング 最終出社日の流れも参考になります。