取引先の契約書に「合同会社〇〇 代表社員 〇〇」とあって、「社員なのに、代表?」と手が止まった経験はありませんか。合同会社の「社員」は、従業員のことではありません。この記事では会社法の条文を確かめながら、社員・業務執行社員・代表社員の意味と、株式会社との違い、取引先として確かめる点を整理します。
合同会社の「社員」は出資した人のことです
会社法は、会社を株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の4つと定めています。このうち合名・合資・合同の3つをまとめて「持分会社」と呼びます(第575条第1項)。
持分会社では、出資した人を「社員」といいます。株式会社の「株主」にあたる呼び名ですが、株主とは違い、出資者が経営にも加わるのが基本の形です。
合同会社では、社員の全員が有限責任社員です。定款にそう書くことが決まっています(第576条第4項)。有限責任社員は、出資の価額を限度として会社の債務を返す責任を負います(第580条第2項)。会社が借金を返せなくなっても、出資した額を超えて自分の財産で返す義務は、原則としてありません。
また合同会社は、設立の登記をするまでに、出資の全額を払い込むか給付しなければなりません(第578条)。
株式会社のしくみは、株式会社とは 株主・株主総会・取締役・監査役の関係を図解で解説で紹介しています。法人の数でみると合同会社は7.2%で、株式会社に次ぐ数です(国税庁の令和6年度分の会社標本調査)。
社員・業務執行社員・代表社員・職務執行者の関係
合同会社の登場人物は、4つの呼び名で整理できます。
合同会社の社員・業務執行社員・代表社員・職務執行者の関係と、登記に載る事項作成: 編集部 / もとの資料: 会社法(e-Gov 法令検索)・法務省「合同会社の設立手続」
| 呼び名 |
意味 |
登記に載るか |
| 社員 |
出資した人。全員が有限責任社員 |
載らない(第914条の登記事項にない) |
| 業務執行社員 |
会社の業務を行う社員 |
氏名または名称が載る(第914条第6号) |
| 代表社員 |
会社を代表する社員 |
氏名または名称と住所が載る(第914条第7号) |
| 職務執行者 |
法人が社員のとき、その職務を行う人 |
代表社員が法人なら氏名と住所が載る(第914条第8号) |
業務執行社員は、定款に別段の定めがなければ全員です
持分会社では、社員は、定款に別段の定めがある場合を除いて業務を執行します(第590条第1項)。つまり出資した人は、特に決めなければ全員が経営に加わります。
定款で「業務を執行する社員」を決めることもできます(第591条)。この場合、ほかの社員は業務を執行する権利を持ちません。それでも、業務と財産の状況を調べる権利は残ります(第592条第1項)。
業務執行社員は、善良な管理者の注意をもって職務を行い、法令・定款を守って会社のために忠実に働く義務を負います(第593条)。また、ほかの社員全員の承認なしに、会社の事業と同じ種類の取引をすることなどは禁じられています(第594条。定款に別段の定めがあれば別です)。
代表社員は、会社の名前で契約を結ぶ人です
業務を執行する社員は、会社を代表します(第599条第1項)。業務執行社員が2人以上いれば、各自が会社を代表します(同第2項)。
人数を絞りたいときは、定款か、定款にもとづく社員の互選で、業務執行社員の中から代表社員を定められます(同第3項)。代表社員は、会社の業務に関する裁判上・裁判外の一切の行為をする権限を持ちます(同第4項)。
その権限に制限をつけても、事情を知らない第三者(善意の第三者)には主張できません(同第5項)。取引先にとっては、登記された代表社員と契約すれば、有効な契約になるということです。
法人が社員のときは「職務執行者」が出てきます
合同会社の社員には、株式会社などの法人もなれます。法人が業務を執行する社員になる場合、その法人は「職務を行うべき者」を選び、氏名と住所をほかの社員に通知しなければなりません(第598条第1項)。この人が職務執行者です。職務執行者にも、業務執行社員と同じ注意義務・忠実義務などの規定が当てはまります(同第2項)。
法務省の合同会社設立登記申請書の記載例でも、代表社員が法人のときは、申請人の下に「代表社員 ○○商事株式会社」「職務執行者 ○○○○」と並べて書く形です。
意思決定のしかたは、定款で変えられます
株式会社では、株主総会の決議で決めることが法律で決まっています。合同会社は、社員の話し合いで決めるのが基本で、定款で自由に変えられる部分が多いのが特徴です。
| 決めること |
原則 |
定款で変えられるか |
| 日常の業務 |
社員の過半数(第590条第2項) |
変えられる |
| 業務執行社員が2人以上のときの業務 |
業務執行社員の過半数(第591条第1項) |
変えられる |
| 会社の常務 |
各社員が単独で行える。完了前にほかの社員が異議を述べたときは別(第590条第3項) |
変えられる |
| 定款の変更 |
総社員の同意(第637条) |
変えられる |
| 解散 |
総社員の同意などで解散(第641条) |
存続期間や解散の事由を定款に書ける(第641条第1号・第2号) |
「社員の過半数」は、一般的には社員1人を1票として数えると説明されます。ただ定款で別の定めを置けば、出資額に応じた票にするなど、会社ごとに違いが出ます。取引先が大きな決定をしたと言っているときは、定款の定めを確かめたくなる場面です。
新しい社員を迎えるときも定款の変更です
社員の加入は、その社員に関する定款の変更をした時に効力を生じます(第604条第2項)。定款の変更は総社員の同意が原則なので、既存の社員の承諾が欠かせません。
持分の譲渡も同じ考え方で、社員は、ほかの社員の全員の承諾がなければ持分を譲れません(第585条第1項)。株式会社で株を譲りやすいのとは対照的です。業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾で譲れます(同第2項)。いずれも、定款で別の定めができます(同第4項)。
株式会社との違いを9項目の表で比べる
株式会社と合同会社の違い 出資者・経営・決め方・任期・決算公告・認証・税・利益・譲渡作成: 編集部 / もとの資料: 会社法(e-Gov 法令検索)・国税庁 タックスアンサー No.7191
| 項目 |
株式会社 |
合同会社 |
| 出資者の呼び名 |
株主 |
社員(全員が有限責任社員) |
| 経営する人 |
株主総会で選ぶ取締役 |
原則として社員。定款で業務執行社員を決められる |
| 決め方 |
株主総会の決議。普通決議は出席した株主の議決権の過半数(第309条第1項) |
社員の過半数(第590条第2項)。定款の変更は総社員の同意(第637条)。どちらも定款で別の定めができる |
| 役員の任期 |
取締役は原則2年、監査役は原則4年。公開会社でなければ定款で最長10年(第332条・第336条) |
任期の定めはない |
| 決算公告 |
義務がある(第440条) |
義務はない。債権者は計算書類を閲覧できる(第625条) |
| 定款の認証 |
公証人の認証が必要(第30条) |
要らない(法務省の案内) |
| 設立の登録免許税 |
資本金の0.7%。15万円に満たないときは15万円 |
資本金の0.7%。6万円に満たないときは6万円 |
| 利益の分け方 |
株式の内容と数に応じて平等(第109条第1項)。公開会社でなければ定款で株主ごとに変えられる(同第2項) |
定款で定める。定めがなければ出資の価額に応じる(第622条第1項) |
| 持分・株式の譲渡 |
株式は譲渡できる(第127条)。譲渡制限の定めがあれば会社の承認が要る |
ほかの社員全員の承諾が必要(第585条第1項)。定款で変えられる |
数字は、2026年10月24日時点で国税庁(No.7191)と会社法の条文を確かめたものです。
役員の任期がないと、登記はどうなるか
株式会社は、取締役の任期が来るたびに役員の変更登記をします。変更があった日から2週間以内に、本店のある場所で登記しなければなりません(第915条第1項)。
合同会社の業務執行社員には、任期の定めがありません。このため、任期が満了したことによる改選の登記は起こりません。ただ、代表社員が替わったり、住所や名称が変わったりしたときは、同じ2週間以内の変更登記が必要です(第914条・第915条第1項)。登記を放っておくと、登記上の代表社員と実際の代表者が食い違うことがあります。
決算公告がなくても、計算書類は作られています
合同会社も、各事業年度の計算書類を作り、10年間保存しなければなりません(第617条第2項・第4項)。社員は営業時間内にいつでも、計算書類の閲覧や謄写を請求できます(第618条第1項)。債権者も、作成から5年以内の計算書類について、閲覧などを請求できます(第625条)。
つまり「公告はしないが、請求すれば見られる」という形です。取引を始める前の与信では、取引先に直近の決算書の提出をお願いするのが、一般的な進め方です。
利益の配当には歯止めがあります
合同会社は、利益の配当で渡す金額が、配当の日の「利益額」を超える場合は配当できません(第628条)。社員は、定款で定めた方法で利益の配当を請求できます(第621条)。自由に分けられるといっても、会社の財産を守る上限は決まっています。
取引先が合同会社のときの実務
契約書の署名欄の書き方
一般的には、署名欄は次のように書きます。会社の決まりや契約書の様式によって違うことがあります。
肩書きに「代表取締役」と書かないよう注意します。合同会社に取締役はいません。株式会社と同じ感覚で「代表取締役」と書いてしまった契約書は、署名者の権限が分かりにくくなります。新しく契約を結ぶときは、相手に表記を確かめるのが安心です。
登記事項証明書で代表社員を確かめる
相手が本当に代表社員なのかは、登記事項証明書(登記簿謄本)で確かめます。合同会社の登記には、次の事項が載ります(第914条)。
- 目的・商号・本店の所在場所
- 資本金の額
- 業務を執行する社員の氏名または名称
- 代表社員の氏名または名称と住所
- 代表社員が法人のときは、職務執行者の氏名と住所
- 公告の方法についての定款の定め
資本金の額も載るので、会社の規模の目安になります。取り方や見方は、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)とは 取り方と手数料・見方・使う場面にまとめています。定款で業務執行社員を絞っていない会社では、社員の全員が業務を執行するので、全員が業務執行社員として載ることになります。
請求書・インボイスの登録番号の確かめ方
請求書に登録番号があるときは、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで、「T」を除く13桁の数字を入力して検索します。法人の場合、番号は「T」と法人番号の13桁です。名称が「合同会社〇〇」と一致するか、登録の取消や失効がないかを見ます。
合同会社から株式会社に変えるときは「組織変更」
合同会社は、手続きを踏めば株式会社になれます。これを組織変更といいます(第743条・第746条)。組織変更をする持分会社は、効力発生日の前日までに、組織変更計画について総社員の同意を得なければなりません。定款に別段の定めがあれば別です(第781条第1項)。効力発生日に、持分会社は株式会社になります(第747条第1項)。
社員は、組織変更の計画に従って株式を取得し、株主になります(第747条第3項)。取引先が組織変更したときは、商号や代表者の表記が変わるので、請求書の宛名や契約書の見直しが必要です。手続きの中身は専門家に確かめてください。
今日からできること 合同会社の取引先を確かめる
- 取引先の登記事項証明書を取る 代表社員の氏名・住所、代表社員が法人のときは職務執行者も確かめます。
- 契約書の署名欄を見直す 「代表社員」の肩書きで書かれているかを確かめます。法人が代表社員なら、職務執行者の名前も入れてもらいます。
- 請求書の登録番号を公表サイトで検索する 取引先の一覧に「登録番号」と「確かめた日」の欄を作ると、見直しが速くなります。
- 決算の情報が必要なときは、お願いする 合同会社に決算公告はないので、与信の判断に使う決算書は、取引先に提出を頼みます。
この記事は、2026年10月24日時点の会社法(e-Gov 法令検索)・法務省・国税庁の公表資料にもとづいています。個別の契約や登記の判断は、司法書士・弁護士などの専門家や法務局に確かめてください。