請求書に押す印、契約書に押す印、銀行に届ける印。会社の印鑑は何本もあり、新しく総務や経理を任された人が最初に戸惑うところです。この記事では、実印(代表者印)・銀行印・角印・認印の4種類について、役割と届け出る先、押す書類の例を整理します。2026年10月21日時点の法令と、法務省・法務局の案内で確かめました。
先にお伝えしておくと、法令で決まっているのは、法務局に届け出る実印の部分です。銀行印・角印・認印の使い分けは、多くの会社で行われている慣習です。この記事では、慣習の部分を「一般的には」と書き分けます。
会社の印鑑は4種類 役割と届け出る先を見分けます
会社の印鑑は、「どこに届けてあるか」で見分けると整理しやすくなります。法務局に届けたものが実印、金融機関に届けたものが銀行印、どこにも届けていないものが角印と認印です。
会社の印鑑4種類の早見表と、実印の印鑑証明書の手数料作成: 編集部 / もとの資料: 商業登記法・商業登記規則(e-Gov 法令検索)、法務省「登記手数料について」ほか
| 印鑑 |
役割 |
登録先 |
押す書類の例 |
保管 |
| 実印(代表者印) |
会社を代表して意思を示す、最も重い印 |
法務局に印鑑を届け出る |
登記の申請書(書面)、重要な契約書、議事録など |
施錠できる場所に、保管者を決めて |
| 銀行印 |
預金の出し入れなど、金融機関との取引に使う印 |
金融機関に届け出る |
払戻し・届出事項の変更の書類など |
実印とは別の場所に保管する |
| 角印(社印) |
会社が発行した書類であることを示す、社名の四角い印 |
どこにも届けない |
請求書・見積書・納品書・領収書など |
総務や経理の管理者が施錠して保管する |
| 認印 |
担当者が日常の確認に使う印 |
どこにも届けない |
社内の回覧・受領・宅配の受取など |
担当者が持ち、使う範囲を限る |
名前の呼び方は会社によって違います。実印は「代表者印」「会社実印」「丸印」と呼ばれることもあります。ここでは、法務局に届けた印鑑を実印と呼びます。
実印は法務局に届けた1本です
実印は、会社の代表者が、本店の所在地を受け持つ法務局(登記所)に届け出た印鑑です。届出の書類は印鑑届書といい、代表者の氏名や生年月日、会社の商号や本店を書き、届け出る印鑑を押します(商業登記規則第9条)。
届け出られる印鑑の大きさに決まりがあります
印鑑の大きさは、辺の長さが1センチメートルの正方形に収まるものも、3センチメートルの正方形に収まらないものも届け出られません(商業登記規則第9条第3項)。つまり、1センチを超えて3センチ以内です。照合に適する印影であることも求められます(同条第4項)。
印鑑届書には、代表者個人が市区町村に登録した実印を押し、作成後3か月以内の印鑑証明書を添えます(同条第5項。法務局「商業・法人登記の申請書様式」)。会社の印鑑を作る前に、代表者の個人の印鑑登録を済ませておくと、設立の手続きが滞りません。
届出は2021年2月から、オンライン申請なら任意です
2021年2月15日から、登記の申請をオンラインでするときは、登記所への印鑑の提出が任意になりました(法務省)。届け出なくても登記はできます。
一方で、登記の申請を書面でするときは、登記所に提出している印鑑を申請書に押す必要があるため、従来どおり届け出が要ります。また、あとで述べる印鑑証明書は、印鑑を届け出ていなければ請求できません(商業登記法第12条)。オンラインで設立しても、印鑑証明書が要る取引が見込まれるなら、届け出ておくのが一般的です。
オンラインでの印鑑の提出は、オンラインでの登記の申請と同時にするときだけできます。印鑑の提出だけを単独でオンラインですることはできません(法務省)。
印鑑カードは窓口で証明書を取るときに使います
印鑑を届けた人は、印鑑カードの交付を請求できます(商業登記規則第9条の4)。窓口で印鑑証明書を請求するときは、このカードを提示します(同規則第22条第2項)。オンラインで請求するときは、カードの送付は要りません(法務省)。
本店を別の登記所の管轄へ移すときは、2025年4月21日から印鑑は新しい登記所に引き継がれますが、印鑑カードは引き継がれません。詳しい手順はオフィス移転の手続きにまとめています。
銀行印・角印・認印は慣習で使い分けます
ここからは、法令に決まりがなく、会社と取引先の慣習で行われている使い分けです。
銀行印は金融機関に届ける印です
銀行印は、口座を開くときに金融機関に届け出る印鑑で、一般的には払戻しや届出内容の変更の書類に押します。どんな印鑑を届けられるか、届出印をどの書類に使うかは金融機関ごとの案内に従います。実印と別にして、保管する場所も分けるのが一般的です。
角印は「会社が出した書類」の目印です
角印は、社名を彫った四角い印鑑で、社印と呼ばれることもあります。一般的には、請求書・見積書・納品書・領収書など、会社が日常の取引で発行する書類の社名の横に押します。
注意したいのは、角印は届出がないため、実印のような証明の手段がないことです。押印Q&Aも、認印や企業の角印は、印影が作成者の印章と一致することを相手が争ったとき、その一致を証明する手段が確保されていないと、後述する推定が及ぶことは難しいと説明しています(問5)。
認印は社内の確認と受取に使います
認印は、担当者の名字などを彫った印鑑で、社内の回覧や決裁の確認、荷物や書類の受領に使います。押印Q&Aは、認印について、そのような押印が本当に必要なのかを考えてみることが有意義だと述べています(問5)。社内の確認印は、承認の記録が残る別の方法に変えられるか、見直す余地があります。
どの書類にどの印を押すか 判断の流れ
書類を前にして迷ったときは、次の順に確かめます。
どの書類にどの印を押すかの判断の流れと、押す前に確かめる3点作成: 編集部 / もとの資料: 商業登記規則・消費税法(e-Gov 法令検索)、押印についてのQ&A
| 順 |
確かめること |
「はい」のときの印 |
| 1 |
法令で、登記所に届けた印鑑を押すと決まっている書類か(書面の登記申請書など) |
実印 |
| 2 |
相手が印鑑証明書を求める、金額や期間が大きい契約か |
実印(印鑑証明書を添える) |
| 3 |
金融機関に出す書類か |
金融機関に届けた銀行印 |
| 4 |
会社が取引先に発行する請求書・見積書などか |
角印(相手の指定があれば従う) |
| 5 |
社内の確認や、荷物・書類の受取か |
認印(または押印を省く) |
1か2で実印を使うときは、署名か記名とあわせて押すのが一般的です。契約書の中身の確かめ方は契約書の確認ポイントに書きました。原本証明のように、定款の写しに代表者印を押す場面は定款とはで扱っています。
迷ったときは、押す前に二つのことを確かめます。相手から押す印を指定されていないか、そしてその書類に押してよい権限を、自分(または決裁者)が持っているかです。
印鑑証明書が要る場面と取り方
印鑑証明書は、登記所に届けた印鑑が会社の印鑑であることを、登記所が証明する書面です。請求できるのは、印鑑を届け出た代表者と支配人などに限られます(商業登記法第12条)。誰でも取れる登記事項証明書とは違うので、取り違えないでください。登記事項証明書の取り方は登記事項証明書の取り方にまとめています。
| 請求の方法 |
手数料(1通) |
印鑑カード |
| 登記所の窓口 |
500円 |
提示が要る |
| オンライン請求・郵送で受け取る |
450円 |
送付は要らない |
| オンライン請求・窓口で受け取る |
420円 |
送付は要らない |
手数料は法務省の案内(2026年10月時点)によります。書留や速達で送ってもらうと、その実費が加わります。
確かめられる範囲で、要る場面は次のとおりです
- 代表取締役が就任したときの変更登記では、議事録などに押した印鑑の証明書を添えます(商業登記規則第61条第6項)。変更前の代表取締役が登記所に届けている印鑑と同じ印鑑を押したときは、添えなくて構いません。
- 取引先や金融機関が、融資、不動産の取引、取引基本契約などで求めることがあります。これらは法令の決まりではなく、相手ごとの運用なので、必要書類の一覧で確かめます。
印鑑証明書は、押印の証拠としても役立ちます。押印Q&Aは、相手から文書への押印を得るときにその印影の印鑑証明書を得ておけば、印影と印章の一致を証明するのが容易になると説明しています(問5)。
押印は必須か 押印Q&Aの考え方
2020年6月19日、内閣府・法務省・経済産業省が「押印についてのQ&A」を公表しました。要点は次の3つです。
- 契約は当事者の意思が合えば成り立ちます。書面の作成と押印は、特段の定めがある場合を除き必要な要件ではなく、押印がなくても契約の効力に影響はありません(問1)。
- 民事訴訟法第228条第4項は、私文書に本人またはその代理人の署名か押印があるときは、真正に成立したものと推定すると定めています。押印があれば、本人が作った文書として使いやすくなります(問2)。
- ただし、この推定は反証で破られることがあり、効果は限定的です。実印なら印鑑証明書で印影の一致を示しやすい一方、認印は難しいとされています(問4・問5)。
押印の代わりに、取引先とのメールの記録の保存、契約前の本人確認の記録、電子署名の活用などで、文書の成立を示す方法もあります(問6)。
電子契約・電子署名とのつながり
電子署名法第3条は、電磁的記録に本人による電子署名が行われているとき、真正に成立したものと推定すると定めています。紙の押印の推定(民事訴訟法第228条第4項)と並ぶ考え方です。
電子契約にした場合も、書面の登記申請の押印や、金融機関の所定の手続きのように、印鑑が残る場面があります。登記のオンライン申請では、押印の代わりに電子署名を付け、商業登記電子証明書のほか、マイナンバーカードの電子証明書も使えます(法務省)。紙と電子のどちらを使うかは、手続きごとに確かめます。
押印の記録と保管のルール 要点だけ
印鑑の保管と押印の記録を定めた法令は、確かめた範囲では見つかりませんでした。会社が自分で決める管理のルールです。要点は次の4つです。
- 保管者を決める。実印と銀行印は、施錠できる場所に、別々に保管します。持ち出しには承認を要する、といった決めを置きます。
- 押印の前に承認を取る。押す書類の内容を確かめた人が、承認の記録を残します。稟議の承認と結び付けると運用しやすくなります。
- 押印簿に残す。一般的には、日付・書類名・相手先・押印した印の種類・押印した人・承認した人を1行で書きます。
- 紛失は早く動く。印鑑カードをなくしたときは、廃止の届出ができます(商業登記規則第9条の5第3項)。実印そのものをなくしたときの改印や廃止は、管轄の法務局に確かめます。
押印簿は紙でも表計算でも構いません。あとから「いつ、誰が、何に押したか」が追えることが目的です。規程そのものの作り方は、会社の規模と取引に合わせて決めます。
今日からできること
- 社内にある印鑑を全部出して、実印・銀行印・角印・認印に分け、保管している場所と人を書き出す
- 実印が法務局に届けてあるか、代表者が変わったあとの届出が済んでいるかを、登記事項証明書と印鑑証明書で確かめる
- 印鑑証明書を何通使うかを見込み、オンライン請求(450円か420円)にするか決める
- 押印簿の様式(日付・書類名・相手先・印の種類・押印者・承認者)を1枚作る
- 認印を押している社内書類のうち、押印を省ける書類を1つ選び、上長に相談する
この記事は、2026年10月21日に確かめた法令と法務省・法務局の案内によります。個別の判断は、弁護士・司法書士や所轄の法務局に確かめてください。