給与明細を見ると、健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料が引かれています。この記事では、社会保険と呼ばれる4つの保険の役割、会社と本人の負担の分け方、加入の条件を、日本年金機構・協会けんぽ・厚生労働省の公式の資料で確かめた2026年10月22日時点の内容で整理します。給与から何が引かれているかを知りたい人と、手続きを覚える人事・労務の新人に向けた入口の記事です。
社会保険は、広い意味と狭い意味で含まれる保険が違います
「社会保険」という言葉は、使う場面によって指す範囲が変わります。給与計算や手続きの現場では、次のように分けて呼ぶのが一般的です。
| 呼び方 |
含まれる保険 |
主な手続きの窓口 |
| 狭い意味の社会保険 |
健康保険・介護保険・厚生年金保険 |
年金事務所(日本年金機構) |
| 労働保険 |
雇用保険・労災保険 |
ハローワーク・労働基準監督署 |
| 広い意味の社会保険 |
上の両方をまとめたもの |
|
健康保険の運営者は、協会けんぽ(全国健康保険協会)か、会社や業界ごとの健康保険組合です。協会けんぽに入っている会社は、日本年金機構(年金事務所)に届け出れば、健康保険と厚生年金保険の手続きが一緒に済みます。
労働保険は、雇用保険と労災保険の2つを合わせた呼び方です。労働者を1人でも雇えば、原則として加入が必要です。窓口は保険ごとに違い、最初の「労働保険保険関係成立届」は労働基準監督署、雇用保険の届出はハローワークに出します。
社会保険と労働保険 4つの保険の早見表(役割・負担・加入の条件)作成: 編集部 / もとの資料: 協会けんぽ・日本年金機構・厚生労働省
4つの保険の役割と、給付の例
4つの保険は、守る場面がそれぞれ違います。会社員の暮らしで考えると、病気、老後と万一、失業と育児休業、仕事中のけがの4つに分かれます。
| 保険 |
守る場面 |
給付の例 |
| 健康保険 |
仕事以外の病気・けが・出産 |
傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金 |
| 介護保険 |
介護が必要になったとき |
介護サービスの給付(保険料を払うのは40歳から64歳の人) |
| 厚生年金保険 |
老後、障害、死亡 |
老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金 |
| 雇用保険 |
失業、育児休業、教育訓練 |
失業したときの基本手当、育児休業給付 |
| 労災保険 |
仕事中・通勤中のけがや病気 |
療養、休業、障害、遺族などの給付 |
給付の中身を、協会けんぽと日本年金機構の案内から補います。
- 傷病手当金: 病気やけがで連続3日休んだあとの4日目から、給与が出ない日に支給されます。1日あたりは、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、3分の2を掛けた額です。期間は通算1年6か月までです。
- 出産手当金: 出産のため会社を休み、給与が出なかったときに、出産の日以前42日(双子以上は98日)から産後56日までの休んだ日に支給されます。
- 障害厚生年金: 厚生年金に加入している間に初診日がある病気やけがで、障害等級1級か2級になったとき、障害基礎年金に上乗せして支給されます。3級の障害厚生年金もあります。
雇用保険の失業の給付は、離職票をハローワークに出して受給資格の決定を受け、4週間に1度の失業の認定を受ける流れです。会社が出す離職証明書と離職票が、本人の給付の入口になります。ふだんは給与から引かれるだけに見えても、退職の手続きの期限(あとの表)を守ることが、本人の次の生活に関わります。
誰が払うのか 会社と本人の負担の分け方
保険料は、保険によって負担の分け方が違います。2026年度(令和8年度)の率は、次のとおりです。
| 保険 |
本人 |
会社 |
率(2026年度) |
| 健康保険(協会けんぽ) |
半分 |
半分 |
都道府県ごと。東京都は9.85% |
| 子ども・子育て支援金 |
半分 |
半分 |
全国一律0.23% |
| 介護保険(40歳から64歳) |
半分 |
半分 |
全国一律1.62% |
| 厚生年金保険 |
半分 |
半分 |
18.3%で固定 |
| 雇用保険(一般の事業) |
5/1,000 |
8.5/1,000 |
合計13.5/1,000 |
| 雇用保険(農林水産・清酒製造) |
6/1,000 |
9.5/1,000 |
合計15.5/1,000 |
| 雇用保険(建設) |
6/1,000 |
10.5/1,000 |
合計16.5/1,000 |
| 労災保険 |
なし |
全額 |
業種ごと。2.5/1,000から88/1,000 |
健康保険と厚生年金保険は、労使が半分ずつです
健康保険と厚生年金保険は、保険料を事業主と本人が半分ずつ負担します(労使折半)。協会けんぽの健康保険料率は、2026年度は3月分(4月納付分)から改定され、都道府県ごとに違います。東京都は9.85%で、新潟県が9.21%といちばん低く、佐賀県が10.55%といちばん高い率です。健康保険組合に入っている会社は、組合が決めた率を使います。
2026年4月分(5月納付分)からは、全国一律0.23%の子ども・子育て支援金が、医療保険の保険料に加わりました。支援金の額は標準報酬月額に支援金率を掛けて出し、基本的に半分を企業が負担します(こども家庭庁)。40歳から64歳の人は、健康保険料と支援金に加えて、全国一律1.62%の介護保険料も払います。
厚生年金保険料率は、平成29年9月を最後に引き上げが終わり、18.3%で固定されています。
雇用保険は、会社の負担のほうが大きい保険です
雇用保険料率は、2026年4月1日から2027年3月31日まで、一般の事業で13.5/1,000です。このうち本人が5/1,000、会社が8.5/1,000を負担します。会社の負担が大きいのは、会社だけが負担する雇用保険二事業の分(3.5/1,000、建設は4.5/1,000)が含まれるためです。2025年度は、一般の事業で本人5.5/1,000、会社9/1,000(合計14.5/1,000)でした。
労災保険は、全額が会社の負担です
労災保険の費用は、原則として事業主が負担する保険料でまかなわれます。厚生労働省の労災保険率表(令和6年4月1日施行)では、率は事業の種類ごとに決まっています。いちばん低い2.5/1,000は金融業・保険業・不動産業や通信業・出版業などで、卸売業・小売業・飲食店・宿泊業は3/1,000、建築事業は9.5/1,000、いちばん高い金属鉱業などは88/1,000です。
労災保険は、アルバイトやパートも含め、事業に使用されて賃金を支払われる人すべてが対象です。本人が保険料を払わないので、給与明細にも出ません。
給与明細のどこに出るのか
給与明細の「控除」の欄には、次の4つの保険料が並びます。労災保険は先ほど書いたとおり、明細に出ません。
| 明細の項目 |
何の保険か |
計算の元になる額 |
| 健康保険料 |
健康保険(支援金を含めて表示する会社もあります) |
標準報酬月額 × 率 ÷ 2 |
| 介護保険料 |
介護保険(40歳から64歳のみ) |
標準報酬月額 × 率 ÷ 2 |
| 厚生年金保険料 |
厚生年金保険 |
標準報酬月額 × 率 ÷ 2 |
| 雇用保険料 |
雇用保険 |
賃金の総額 × 本人負担の率 |
| (出ない) |
労災保険 |
会社が賃金総額 × 率で納める |
所得税と住民税も同じ控除の欄にありますが、これは税で、社会保険ではありません。社会保険料は、所得税を計算するときに課税の対象から引かれます。給与計算の順番は給与計算の流れで書いています。
架空の給与明細で計算します
東京都の協会けんぽに入っている会社で、基本給296,000円と通勤手当12,000円(総支給308,000円)の人を考えます。数字はすべて架空です。報酬月額308,000円は、標準報酬月額300,000円の区分に当たります。労災保険率は3/1,000の業種とします。
| 項目 |
計算 |
本人(35歳) |
会社 |
| 健康保険料 |
300,000 × 9.85% ÷ 2 |
14,775円 |
14,775円 |
| 子ども・子育て支援金 |
300,000 × 0.23% ÷ 2 |
345円 |
345円 |
| 厚生年金保険料 |
300,000 × 18.3% ÷ 2 |
27,450円 |
27,450円 |
| 雇用保険料 |
308,000 × 5/1,000(会社は8.5/1,000) |
1,540円 |
2,618円 |
| 労災保険料 |
308,000 × 3/1,000 |
なし |
924円 |
| 合計 |
|
44,110円 |
46,112円 |
40歳から64歳の人は、介護保険料(300,000 × 1.62% ÷ 2 = 2,430円)が本人と会社の両方に加わり、同じ条件の45歳なら本人は46,540円、会社は48,542円です。
このほか、会社だけが負担する「子ども・子育て拠出金」があります。標準報酬月額と標準賞与額に拠出金率をかけて計算し、令和8年度の率は1,000分の3.6(0.36%)です。この例では300,000 × 0.36% = 1,080円で、上の表と図の会社の負担には入れていません。本人の給与からは引かないので、給与明細には出ません。本人と会社が半分ずつ負担する「子ども・子育て支援金」とは別のものです。
給与明細のどこに何が出るか 控除の内訳と会社の負担(架空の例)作成: 編集部 / もとの資料: 協会けんぽ・日本年金機構・厚生労働省
折半した額に1円未満の端数が出たときの扱いは、日本年金機構の案内で決まっています。事業主が給与から控除する場合は、50銭以下を切り捨て、50銭を超えたら切り上げて1円とします。ただし、事業主と被保険者の間に特約があれば、それに従えます。
健康保険料と厚生年金保険料は、前月分を当月の給与から引くのが一般的です。納付の期限は、納付対象月の翌月末日です。
保険料はどう決まるのか
健康保険と厚生年金保険は標準報酬月額で決まります
標準報酬月額とは、基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた、税引き前の給与を一定の幅で区分した額です。厚生年金保険では、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。健康保険にも同じ考え方の区分があります。
標準報酬月額は、決まったあとも見直されます。
- 定時決定: 毎年7月1日現在の被保険者について、4月から6月の報酬の平均をもとに、9月から翌年8月までの額を決めます。届出が算定基礎届です。
- 随時改定: 昇給や降給で固定的な賃金が変わり、変動月以後の3か月の平均で2等級以上の差が出たときに改めます。届出が月額変更届です。
賞与にも保険料がかかります。厚生年金保険では、賞与の額から1千円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率を掛けて計算し、1回の支給の上限は150万円です。年4回以上支給される賞与は、賞与でなく報酬として標準報酬月額の対象になります。
雇用保険と労災保険は賃金の総額で決まります
雇用保険は、賃金の総額に本人負担の率を掛けて、給与から引きます。労災保険は、年度の賃金の総額に業種ごとの率を掛け、会社が労働保険料として納めます。労災保険料と雇用保険料(本人の天引き分も含む)は、労働保険料として、年に1度の年度更新でまとめて申告と納付をします。
加入の条件のあらまし
事業所の側の条件
健康保険・厚生年金保険は、事業所単位で適用されます。株式会社などの法人は、常時雇用される人が事業主を含めて1人以上いれば、加入が必要です。個人事業所は、常時5人以上の従業員がいれば加入が必要ですが、旅館、飲食店、理容店などのサービス業等は除かれます。
雇用保険と労災保険は、労働者を雇う事業に、原則として強制的に適用されます。労災保険は1人でも労働者を使用すれば、業種や規模にかかわらず適用されます。
働く人の側の条件
| 働き方 |
健康保険・厚生年金保険 |
雇用保険 |
労災保険 |
| 正社員・フルタイム |
対象(厚生年金は70歳未満) |
週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みで対象 |
対象 |
| パート・アルバイト |
所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3以上なら対象。4分の3未満でも、特定適用事業所などで週20時間以上かつ学生でなければ対象 |
週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みで対象 |
雇用形態にかかわらず対象 |
| 法人の役員 |
報酬を受けて常用的に使用されていれば対象 |
原則として対象外 |
労働者でなければ対象外(特別加入の制度あり) |
パート・アルバイトの社会保険は、2026年10月1日に月額8.8万円の賃金要件が撤廃され、企業規模や週の時間で判断するようになりました。条件の全体と今後の予定はパート・アルバイトの社会保険に書いています。雇用保険の対象が週10時間以上に広がる2028年10月の予定も、同じ記事にあります。配偶者の扶養に入っている人の判断は扶養の記事で確かめられます。
役員は、保険ごとに扱いが変わります。雇用保険は、取締役などの役員は原則として被保険者になりません。ただし、役員と同時に部長や工場長などの従業員の身分を持ち、労働者的性格が強く雇用関係があると認められる場合に限り、加入できます。この場合は、賃金台帳や出勤簿など雇用の実態が分かる書類を、ハローワークに出します。
労災保険は、事業に使用される労働者が対象です。中小事業主、一人親方、海外派遣者などは、特別加入という制度で任意に加入できます。
会社の手続きの一覧
会社の手続きは、人の出入りのときと、年に決まった時期のものがあります。期限は公式の案内で確かめた内容です。
| 手続き |
出す先 |
期限 |
対象の保険 |
| 被保険者資格取得届(入社) |
年金事務所 |
事実の発生から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険 |
| 被保険者資格喪失届(退職) |
年金事務所 |
事実の発生から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険 |
| 雇用保険被保険者資格取得届 |
ハローワーク |
被保険者となった日の属する月の翌月10日まで |
雇用保険 |
| 雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書 |
ハローワーク |
被保険者でなくなった日の翌日から10日以内 |
雇用保険 |
| 算定基礎届 |
年金事務所 |
毎年7月10日まで(土日の場合は翌営業日) |
健康保険・厚生年金保険 |
| 月額変更届 |
年金事務所 |
速やかに |
健康保険・厚生年金保険 |
| 賞与支払届 |
年金事務所 |
賞与の支払日から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険 |
| 労働保険の年度更新 |
労働局・労働基準監督署ほか |
2026年度は6月1日から7月10日 |
雇用保険・労災保険 |
| 社会保険料の納付 |
日本年金機構 |
納付対象月の翌月末日 |
健康保険・厚生年金保険 |
7月は、算定基礎届と年度更新の期限が7月10日に重なります。毎年のカレンダーは総務の年間スケジュールで、入社時の書類は入社手続きのチェックリストで確かめてください。
今日からできること
この記事は、2026年10月22日時点の協会けんぽ、日本年金機構、こども家庭庁、厚生労働省の公式の資料にもとづいています。保険料率は年度ごとに改定されるため、毎年2月から3月に、翌年度の率を各機関の案内で確かめてください。個別の人の加入の判断や、保険料の計算は、年金事務所、ハローワーク、社会保険労務士に確かめるのが確実です。