残業代が合っているか確かめるには、まず割増賃金の率と、計算のもとになる1時間当たりの賃金を押さえます。割増賃金とは、時間外・深夜・休日に働いたとき、通常の賃金に上乗せして払う賃金のことです。率は労働基準法第37条とその政令が最低ラインを決めています。
この記事は、給与計算の担当の人と、自分の残業代を確かめたい社員に向けて、2026年10月時点の制度を整理しました。計算は架空の月給で、4つの場面を順に試します。個別の判断が必要なときは、社会保険労務士か所轄の労働基準監督署に確かめてください。
割増賃金は、どんなときに上乗せして払うのか
労働基準法第37条は、次の3つの場面で割増賃金を払うよう定めています。
- 法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えて働かせたとき(時間外労働)
- 法定休日に働かせたとき(休日労働)
- 午後10時から午前5時までの間に働かせたとき(深夜労働)
割増賃金は、正社員だけの決まりではありません。契約社員、パート、アルバイトにも同じように払います。派遣社員の分は、派遣元が払う責任を負います(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。
払う額は、1時間当たりの賃金に、時間数と割増率を掛けて出します。
3つの割増率と、重なったときの率
基本の率は、時間外が25%以上、深夜が25%以上、法定休日が35%以上です。時間外が深夜に及べば合わせて50%以上、法定休日が深夜に及べば合わせて60%以上になります。
1か月に60時間を超える時間外労働は、超えた分が50%以上です。大企業は2010年4月から、中小企業は2023年4月1日から適用されています。60時間を超えた分が深夜に及ぶと、50%に深夜の25%を足して75%以上です。
割増率の早見表 時間外・深夜・休日と重なったときの率作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法第37条・割増賃金の率の政令・施行規則第20条・厚生労働省リーフレット
図の内容を表にまとめます。「掛ける数」は、通常の賃金を1としたときの係数で、給与計算ソフトに入れる数字です。
| 場面 |
割増率(下限) |
掛ける数 |
根拠 |
| 時間外(月60時間以内) |
25% |
1.25 |
労働基準法第37条第1項・政令 |
| 時間外(月60時間超) |
50% |
1.50 |
同条第1項ただし書 |
| 深夜(午後10時から午前5時) |
25% |
1.25 |
同条第4項 |
| 法定休日 |
35% |
1.35 |
同条第1項・政令 |
| 時間外 + 深夜 |
50% |
1.50 |
労働基準法施行規則第20条第1項 |
| 月60時間超の時間外 + 深夜 |
75% |
1.75 |
同項かっこ書 |
| 法定休日 + 深夜 |
60% |
1.60 |
同条第2項 |
休日労働に、時間外の割増は重なりません
表の中で見落とされやすいのが、法定休日の行です。法定休日の労働が1日8時間を超えても、時間外の25%は加わりません。厚生労働省のFAQは、法定休日には法定労働時間という考え方がないため、休日労働に時間外の割増賃金は発生しないと説明しています。法定休日の労働は、深夜に及んだときだけ25%が加わり、60%以上になります。
深夜の割増は、所定の時間内でも付きます
夜勤などで、所定労働時間そのものが深夜にかかる場合も、深夜の25%を上乗せします。時間外でも休日でもない、ふつうの所定内の労働なら、深夜の割増だけが付きます。大阪労働局の「あらまし」(令和8年3月版)では、(1時間当たりの賃金)×0.25×深夜労働の時間数を、通常の賃金に加えるとしています。
法定休日と所定休日は、何が違うのか
割増率の判断でいちばん迷うのが、休日の種類です。
法定休日は、労働基準法第35条が与えるよう求めている休日で、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上です。何曜日でも構いません。所定休日は、会社が就業規則などで休みと決めた、法定休日以外の休日です。完全週休2日の会社なら、土曜か日曜の一方が法定休日で、もう一方が所定休日になります。
|
法定休日 |
所定休日(法定外休日) |
| 決まり |
労働基準法第35条の休日 |
会社が決めた、法定休日以外の休日 |
| 働いたとき |
休日労働。35%以上 |
ふつうの労働日と同じ扱い |
| 時間外の割増 |
重ならない |
週40時間を超えた分に25%以上 |
| 月60時間の数え方 |
含めない |
含める |
所定休日に働いたときは、休日割増ではなく、その週の労働時間で決まります。週の所定労働時間が40時間なら、所定休日に出勤した分はそのまま週40時間を超えるので、時間外の25%以上が付きます。1日の労働が8時間以内でも、1週40時間を超えれば割増賃金が要ります。
月60時間の数え方にも違いがあります。厚生労働省のリーフレットによると、法定休日に行った労働は60時間の計算に含まれませんが、それ以外の休日に行った時間外労働は含まれます。
振替休日と代休は、休日手当の要不要が変わります
あらかじめ休日を別の日と入れ替えた振替休日は、もとの休日が労働日になるので、休日労働になりません。休日手当は要りません。一方、休日に働いてから後で休みを与える代休は、休日労働の事実が残るので、休日手当が要ります。厚生労働省の資料でも、この区別が示されています。振替で休日を翌週に回した結果、翌週の労働時間が40時間を超えたなら、超えた分に時間外の割増が必要です。
1時間当たりの賃金は、どう出すのか
割増賃金のもとになる1時間当たりの賃金は、賃金の決め方ごとに、労働基準法施行規則第19条が計算の仕方を定めています。
| 賃金の決め方 |
1時間当たりの賃金 |
| 時間給 |
その金額 |
| 日給 |
日給 ÷ 1日の所定労働時間数 |
| 週給 |
週給 ÷ 週の所定労働時間数 |
| 月給 |
月給 ÷ 1年間の1か月平均所定労働時間数 |
| 出来高払制 |
賃金総額 ÷ その期間の総労働時間数 |
月給の会社が多いので、月給の場合を詳しく見ます。
1か月の平均所定労働時間は、(365日 - 年間休日)× 1日の所定労働時間 ÷ 12 で出します。厚生労働省の川崎北労働基準監督署の例では、年間休日が125日、所定労働時間が1日8時間の会社なら、(365 - 125)× 8 ÷ 12 = 160時間です。この記事の計算も、160時間で進めます。
基礎に入れる賃金と、入れない賃金
月給から、割増賃金の基礎に入れない賃金を引いた額を、平均所定労働時間で割ります。除けるのは、労働基準法第37条第5項と施行規則第21条が挙げる次の7つだけです。
| 基礎から除ける賃金 |
一律に払うと |
| 家族手当 |
人数に関係なく一律なら入れる |
| 通勤手当 |
距離や実費に関係なく一律なら入れる |
| 別居手当 |
中身で判断 |
| 子女教育手当 |
中身で判断 |
| 住宅手当 |
家賃などに関係なく一律なら入れる |
| 臨時に支払われた賃金 |
結婚手当など |
| 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
賞与など |
厚生労働省の資料は、この7つは例示ではなく、限定して挙げたものだと説明しています。ここに当てはまらない賃金は、すべて基礎に入れます。役職手当、資格手当、皆勤手当なども入ります。名前が家族手当や住宅手当でも、全員に一律で払っていれば、除けません。
1時間当たりの賃金の出し方と4つの場面の計算の例作成: 編集部 / もとの資料: 労働基準法施行規則第19条・第21条・厚生労働省 確かめよう労働条件
架空の月給で、1時間当たりの賃金を出します
次の条件で、1時間当たりの賃金を計算します。
| 項目 |
金額 |
基礎 |
| 基本給 |
236,000円 |
入れる |
| 職務手当 |
20,000円 |
入れる |
| 通勤手当(実費) |
12,000円 |
除く |
| 月の平均所定労働時間 |
160時間 |
|
基礎になる賃金は、236,000円 + 20,000円 = 256,000円です。1時間当たりの賃金は、256,000円 ÷ 160時間 = 1,600円になります。この金額は、給与計算の流れ 締めから振込までの毎月の段取りと控除の計算の順番の例と同じです。
計算の例 4つの場面
1,600円を使って、4つの場面を計算します。所定労働時間は午前9時から午後6時まで(休憩1時間・実働8時間)とします。
例1 平日に3時間の残業をした
午後6時から9時まで、3時間働きました。法定労働時間を超えているので、時間外の25%です。
1,600円 × 1.25 × 3時間 = 6,000円
1時間当たり2,000円、3時間で6,000円です。
例2 平日の残業が深夜に及んだ
午後6時から午前0時まで、6時間働きました。午後10時までの4時間は時間外、午後10時以降の2時間は時間外かつ深夜です。
| 時間帯 |
時間数 |
掛ける数 |
計算 |
金額 |
| 午後6時から10時 |
4時間 |
1.25 |
1,600 × 1.25 × 4 |
8,000円 |
| 午後10時から午前0時 |
2時間 |
1.50 |
1,600 × 1.50 × 2 |
4,800円 |
| 合計 |
6時間 |
|
|
12,800円 |
例3 法定休日の日曜に、午前9時から午後11時まで出勤した
休憩は1時間で、実働は13時間です。法定休日の労働なので、8時間を超えても時間外は加わらず、午後10時までは35%です。午後10時以降の1時間だけ、深夜の25%が加わって60%になります。
| 時間帯 |
時間数 |
掛ける数 |
計算 |
金額 |
| 午前9時から午後10時 |
12時間 |
1.35 |
1,600 × 1.35 × 12 |
25,920円 |
| 午後10時から11時 |
1時間 |
1.60 |
1,600 × 1.60 × 1 |
2,560円 |
| 合計 |
13時間 |
|
|
28,480円 |
例4 月の時間外が72時間になった
法定休日の労働を除いて、時間外労働が72時間になった月です。60時間目までは25%、61時間目からは50%です。そのうち2時間は、61時間目以降で深夜に及んだとします(60時間目までに深夜はないものとします)。
| 区分 |
時間数 |
掛ける数 |
計算 |
金額 |
| 60時間まで |
60時間 |
1.25 |
1,600 × 1.25 × 60 |
120,000円 |
| 61時間目以降で深夜でない |
10時間 |
1.50 |
1,600 × 1.50 × 10 |
24,000円 |
| 61時間目以降で深夜 |
2時間 |
1.75 |
1,600 × 1.75 × 2 |
5,600円 |
| 合計 |
72時間 |
|
|
149,600円 |
60時間を数える1か月の起算日は、就業規則に書いておく必要があります(あらまし)。起算日から時間外労働を足していき、60時間を超えた時点から50%以上で計算します。
所定休日の出勤は、週40時間を超えたら時間外
完全週休2日(土曜が所定休日・日曜が法定休日)の会社で、月曜から金曜まで毎日8時間働いた週の土曜に、午前9時から午後4時まで(休憩1時間・実働6時間)出勤した場合です。その週は40時間を超えるので、時間外の25%が付きます。
1,600円 × 1.25 × 6時間 = 12,000円
端数は、どこまで切り捨てられるか
1日の労働時間は、1分単位で計算するのが原則です。端数を切り上げるのは構いませんが、1日ごとに切り捨てて賃金を払わないことはできません。通達(昭和63年3月14日基発第150号)で認められているのは、次の方法です。
| 端数の場所 |
認められている処理 |
| 1か月の時間外・休日・深夜それぞれの時間数の合計に1時間未満がある |
30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる |
| 1時間当たりの賃金額・割増賃金額に1円未満がある |
50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる |
| 1か月の割増賃金の合計に1円未満がある |
同じく50銭未満を切り捨て、以上を切り上げる |
たとえば、月の時間外が12時間20分なら12時間、12時間40分なら13時間として計算できます。この処理は、1か月の合計に対してだけ使えます。
端数が出る例として、基礎に入れる一律の住宅手当15,000円が加わった月給を考えます。基礎は256,000円 + 15,000円 = 271,000円です。271,000円 ÷ 160時間 = 1,693.75円で、50銭以上なので1,694円になります。時間外1時間は1,694円 × 1.25 = 2,117.5円で、50銭以上なので2,118円です。
固定残業代と管理監督者で、気をつけること
固定残業代は、超えた分を追加で払います
固定残業代は、一定時間分の時間外労働などの割増賃金を、定額で払う仕組みです。決まりは次の3つです。
- どの手当が何時間分の固定残業代かを、就業規則や労働条件通知書に書く
- 実際の残業が固定の時間数を超えたら、差額を追加で払う
- 求人票にも、時間数と金額、超過分を別に払うことを書く
求人票の書き方は、求人票の書き方 ハローワークと求人サイトで必ず書く労働条件と記入例で整理しています。何時間分の固定なのかを書面に残しておくことが、厚生労働省の労働基準監督署のパンフレットでも求められています。
管理監督者にも、深夜の割増は払います
労働基準法第41条第2号の管理監督者には、労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。そのため、時間外と休日の割増賃金は要りません。ただし、深夜の割増賃金の規定は除外されないので、午後10時から午前5時に働いたときは払います。
管理監督者かどうかは、肩書でなく実態で決まります。厚生労働省は、次の3点で判断するとしています。
- 経営の決定に参画し、労務管理の指揮監督の権限がある
- 自分の出退勤を含め、労働時間に裁量がある
- 地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を受けている
「課長以上は管理職だから残業代なし」と決めている会社でも、この実態がなければ、残業代と休日の割増が必要です。
よくある間違い
| 間違い |
正しくは |
| 法定休日の8時間超に、35%に25%を足している |
休日労働に時間外の割増は重ならない |
| 法定休日の深夜を、35%のままで計算した |
深夜の25%が加わって60% |
| 通勤手当を割増の基礎に入れている |
実費の通勤手当は除く。一律なら入れる |
| 住宅手当を、名前だけで全部除いている |
一律の分は基礎に入れる |
| 基本給だけで1時間当たりの賃金を出している |
役職手当などの手当も入れる |
| 日ごとに15分未満を切り捨てている |
切り捨ては1か月の合計だけ |
| 所定休日の出勤を、割増なしにしている |
週40時間を超えれば時間外の25%以上 |
| 60時間に法定休日の労働を含めている |
含めない。所定休日の分は含める |
代替休暇という選び方もあります
月60時間を超えた時間外労働には、50%以上の割増賃金を払います。労使協定を結べば、50%と25%の差にあたる分の割増賃金を払う代わりに、有給の休暇(代替休暇)を与えることができます。労働基準法第37条第3項と施行規則第19条の2が定めています。
たとえば例4で、61時間目以降の12時間なら、換算率は50%から25%を引いた25%なので、12時間 × 0.25 = 3時間分の休暇です。そのうえで、25%の割増賃金は払います。代替休暇の単位は1日か半日で、与えられる期間は、60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内です。深夜の25%の部分は、代替休暇に置き換えられません。
今日からできること
残業代が合っているか確かめる順番です。
給与計算の担当の人は、毎月の工程のどこで割増を計算するかを、給与計算の流れで見直せます。社員の人は、明細の読み方を給与明細の見方で確かめてください。時間外の上限と36協定は、36協定の書き方と届け出にまとめています。
なお、割増賃金は最低賃金の判定には含めません。最低賃金との比べ方は、最低賃金2026年度の発効日にあります。合わないと感じたら、まず勤怠の記録と明細を持って、会社の給与担当に聞いてみてください。それでも解決しないときは、労働基準監督署の総合労働相談コーナーで相談できます。