建設業で残業できる上限は2024年4月から、ほかの業種とほとんど同じ形になりました。原則は月45時間と年360時間。特別条項を付けても、年720時間までです。
例外は、災害のあとの復旧や復興の工事だけ。それも、外れるのは「月100時間未満」と「2〜6か月の平均80時間以内」の2本の線だけです。年720時間と、月45時間を超えられるのは年6回まで、という線は、被災地の工事でも残ります。1
「災害の工事なら上限はない」と聞いたことがある人も、いるかもしれません。そのつもりで集計していると、年の途中で線を越えてしまいます。しかも、特例に当たるかどうかは、工事の名前では決まらないのです。
特例で外れる線は2本だけ
災害の復旧・復興の特例で外れる上限と残る上限、当たる工事と手続き作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A」・労働基準法
特例が付くのは人ではなく、工事の時間です。同じ月に、ふつうの工事と復旧工事の両方に入った人なら、100時間と80時間の線はふつうの工事だけで見ます。
厚生労働省が挙げる例を借りると、こうなります。9月にふつうの工事で80時間、復旧工事で40時間の残業をした人は、合わせて120時間。それでも月100時間未満かどうかは80時間で見ますし、4月から6か月の平均も60時間に収まります。ただし、年720時間と年6回を数えるときは、復旧の40時間も足します。
ですから勤怠は、工事番号ごとに分けて残すのが基本です。厚労省のQ&Aにも、特例を使う時間はふつうの時間と分けて管理する、とあります。復旧工事だけに入った月は、平均を出す6か月から外して数えます。
名前が「復旧工事」でも当たらない
特例に入るのは、災害で傷んだ道路や鉄道などを、直したり建て直したりするために発注を受けた工事です。国庫負担法の災害復旧事業や、自治体と結んだ災害協定による復旧のほか、ふだんの維持管理を請け負う中で、発注者に言われて行う復旧も入ります。この場合の発注者は、民間でもかまいません。
反対に、古くなった道路の補修のように、災害を防ぐための工事は当たりません。復旧や復興の計画が終わったあとに追加で出た工事や、もともと十分な工期を取れる工事も同じです。特例を使いたいからと、わざと短い工期を組むことも認められません。
専用の36協定がなければ使えない
特例を使うには、専用の様式で36協定を届け出ておく必要があります。様式は特別条項がないときとあるときの2つ。2ふつうの様式しか出していない会社だと、いざ復旧工事に入っても、特例を使えません。書き方は36協定の書き方で説明しています。
よく混ざるのが、災害などで「臨時の必要がある」ときの残業です。3こちらは労働基準監督署長の許可を受けて(急ぐときはあとから届け出て)、36協定とは別に働いてもらう仕組みで、上限規制そのものがかかりません。ただ、復旧工事で使えるのは、がれきを片づけたり応急に補強したりする急ぎの対応まで。元の形に戻していく段階や、復興の工事には使えません。
どちらの仕組みを使っても、割増賃金はふだんどおり払います。月80時間を超えた人から申し出があれば、医師の面接指導にもつなぎます。
どこまでが労働時間かは、指示しだい
工事事務所で、工程の予定に休みの日を書き込むイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
朝礼の10分は、労働時間に入るのでしょうか。会社が出るよう決めている朝礼なら、答えは「入る」です。厚労省のパンフレットは、作業前の朝礼や準備体操、KYミーティング、新しく現場に入る人への教育を、労働時間になる例に挙げています。
物差しはほかの業種と変わりません。会社の指揮命令の下にいるかどうかで決まり、はっきり言われていない「黙示の指示」で働いた時間も入ります。国土交通省の「工期に関する基準」でも、書類を作る時間や、会社の指示で営業所と現場を行き来する時間は、数える時間に入ります。迷いやすい場面は、次の3つでしょう。
| 場面 |
労働時間になる |
労働時間にならない |
| 会社から現場への移動 |
社用車の乗り合いや、出発前の資材の積込みを指示している。車内で上司と打合せをしている |
直行直帰が自由で、社員どうしが任意に乗り合っている |
| 熱中症対策の作業中断 |
暑さ指数が下がったらすぐ再開できるよう、待機させている |
昼休みと同じように自由に過ごせ、呼び戻されることもない |
| 除雪などに備えた自宅待機 |
すぐ出られるよう求め、自由に過ごせない |
呼び出しがまれで、食事や入浴、外出を特に制限していない |
決め手は就業規則の書き方ではなく、実態です。家に持ち帰って仕上げる書類のように、建設業向けのQ&Aに答えが見当たらない場面もありますが、ガイドラインの物差しに当てはめると、仕上げるよう求められた書類の時間は、労働時間と見られる可能性があります。迷ったら、監督署や社労士に聞いておくと、あとで揉めずに済みます。
出面も給与も、ひとつの記録から
厚労省のガイドラインは、始業と終業の時刻を、会社が自分の目で確かめるか、タイムカードやICカードのような記録をもとに確認するよう求めています。日報の自己申告に頼るなら、入退場の記録など、現場にいた時間が分かるデータと見比べます。大きくずれていたら、実際の時間を調べて直します。
給与計算のほうでは、賃金台帳に一人ずつ、働いた時間と、そのうち時間外や休日に働いた時間を書きます。4出面表の日数と、台帳の時間。この2つが同じもとの記録から出ているか、一度たどってみてください。
下請の会社で働く人の時間は、その人を雇っている会社がつけます。36協定を結ぶのも、その会社。元請の出番は工期のほうです。下請が上限を守れるような工期にして、違反のもとを作らないこと。これが「工期に関する基準」に書かれた、元請の役目です。
厚労省が公表した監督の事例を、ひとつ紹介します。電気設備工事の会社で、働く人は約20人。現場の7人が上限を超え、いちばん長い人は1か月237時間でした。休憩中に働いた時間の一部も、つかめていなかったそうです。この会社は14人を増やし、スマートフォンで始業と終業を入れる仕組みを入れ、現場に労務管理の責任者を置きました。あと何時間で上限に届くかを、その場で見られるようにしたのです。3か月後には、違反がなくなったといいます。
週休2日は、見積りに書いておく
技能者の4週8休以上の割合は、受注先と請負の立場で大きく違う作成: 編集部 / 出典: 国土交通省「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査(令和6年度)」ほか
国交省の調査では、技能者がふだん4週8休以上を取れている、と答えた会社は29.4%でした。いちばん多い答えは4週6休程度。公共工事がほとんどの会社と、民間工事がほとんどの会社とでは5倍以上の開きがあり、下請の立場が深くなるほど低くなっていました。民間や下請の仕事が多い会社では、自分たちの工夫だけで休みを増やすのは難しい、と見たほうがよさそうです。
公共工事では、市区町村が出す工事にまで週休2日が広がってきました。国がみずから発注する工事は、2026年4月の公告分から、週休2日か交替制かを現場に合わせて選ぶ形に変わり、工期や作業時間を変えたいという受注者の申し出には、発注者が丁寧に協議に応じることになりました。公共工事を受ける会社なら、休みの取り方を相談する入口があるわけです。
民間工事なら、頼りは建設業法です。2025年12月12日に改正が全面施行され、著しく短い工期で契約することは、発注者だけでなく受注者にも禁じられました。5国交省のガイドラインは、上限を超える長時間労働を前提にした工期での契約を、違反になる例に挙げました。「その工期では受けられません」と伝える根拠が、受ける側にもできました。
発注者や元請と話すときは、次の材料をそろえておくと、話が具体的になります。
- 工程ごとの作業と、準備に要る日数を書いた見積書。建設業法で、作るよう努めることになった形です。6
- 「工期に関する基準」が挙げる、休日、猛暑日や雨と雪の日に作業できない日、現場への移動時間。
- 資材が手に入りにくいなど、工期に響きそうな事情。契約の前に伝えておけば、起きたときに工期を変える協議を申し出られます。7
- 天気で作業を止めた日の記録。冬の現場で作業を止める基準を決めておけば、止めた日がそのまま根拠になります。
今週開く3つの書類のチェックリスト
上限を超えて働かせると、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です。8厚労省は2025年度、長時間労働が疑われる事業場に監督に入りました。建設業では、2,421のうち865の事業場で違法な残業が見つかりました。もともと疑いのある所を選んだ数字です。でも、少しどきっとしますよね。11月は過重労働解消キャンペーンの月で、監督にも力が入ります。
勤怠を工事ごとに分けておくと、工期の打合せで「この工期だと、技能者の残業は月何時間になります」と数字で言えるようになります。労務の担当者が出したその数字が、現場の休みを守る交渉で効いてくるのです。
ここまでの制度の話は、法律と、厚労省と国交省の資料で確認しています(2026年10月31日現在)。自社の工事が特例に当たるか、災害のときの許可が使えるか。そこは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に相談してみてください。