トラックの運転者には、一般の労働者とは別に、拘束時間・休息期間・運転時間の上限を定めた「改善基準告示」があります。2024年4月1日に内容が改まり、時間外労働の上限規制も自動車運転の業務に適用されました。この記事は、運行管理者と労務の担当者が、上限の数字と例外を確かめ、運転日報やデジタコの記録から月ごとに点検する手順をまとめたものです。
制度の内容は2026年10月22日時点で、厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」に載る資料(2024年4月適用の内容)で確かめました。個別の運行や協定の扱いは、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確かめてください。
改善基準告示とは 対象と違反したときの扱い
正式な名前は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」です。長時間労働になりやすい自動車運転者について、労働基準法の労働時間の規制とは別に、業務の特性を踏まえて拘束時間・休息期間・運転時間などの基準を定めたものです。
対象は、労働基準法の労働者のうち、四輪以上の自動車の運転を主な業務とする人です。営業用だけでなく、自家用トラック(白ナンバー)で自社の製品を運ぶ運転者も対象です。二輪の運転者や、クレーン車のオペレーターが移動のために走るような場合は、原則として対象になりません。個人事業主は労働基準法の労働者ではありませんが、厚生労働省の資料は、実質的に同じ基準を守ることが求められるとしています。
違反したときの扱いは、公式の資料で次のように書かれています。
- 貨物自動車運送事業輸送安全規則は、事業者が、休憩・睡眠・休息の時間が十分に確保されるよう、国土交通大臣が告示で定める基準に従って運転者の勤務時間と乗務時間を定め、守らせることを求めています(第3条第4項。e-Govで確認)。
- 厚生労働省の学習テキストは、違反の実態に応じて、自動車の使用停止などの行政処分がなされるとしています。
- 時間外労働の年960時間などの上限は労働基準法の規定で、違反には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の罰則があります(厚生労働省の改善ハンドブック。ハンドブックは2023年作成のため「懲役」と書かれていますが、2025年6月1日の刑法の改正で「拘禁刑」になりました)。
上限の早見表
数字は、厚生労働省の学習テキストの「改正前(令和6年3月まで)」と「改正後」の対比のうち、改正後のものです。
トラック運転者の改善基準 上限の早見表(拘束時間・休息期間・運転時間・連続運転)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
| 項目 |
原則 |
例外で延ばせる数字 |
| 1日の拘束時間 |
13時間以内・上限15時間 |
宿泊を伴う長距離貨物運送は16時間まで(週2回まで) |
| 1日の拘束時間が14時間を超える回数 |
週2回までが目安 |
|
| 1か月の拘束時間 |
284時間以内 |
労使協定で310時間以内(年6か月まで・284時間超は連続3か月まで) |
| 1年の拘束時間 |
3,300時間以内 |
労使協定で3,400時間以内 |
| 1日の休息期間 |
継続11時間以上を基本・継続9時間を下回らない |
宿泊を伴う長距離は週2回まで継続8時間以上 |
| 運転時間 |
2日平均で1日9時間以内・2週平均で1週44時間以内 |
|
| 連続運転時間 |
4時間以内 |
SA・PAなどに止められないときは4時間30分まで |
2024年3月までは、1年3,516時間・1か月293時間(協定で320時間)・休息期間継続8時間以上でした。いまも古い管理表を使っていると、数字が合わなくなります。
1日の拘束時間と休息期間の数え方
1日は暦日ではなく始業から24時間
拘束時間は、始業から終業までの時間で、労働時間と休憩時間を合わせたものです。荷待ちや、荷下ろし先での待機も労働時間として含まれます。
改善基準告示の「1日」は、午前0時から数える暦日ではありません。始業時刻から数えた24時間が1日です。ここが数え間違いの出やすい所です。
月曜8時始業・19時終業、火曜6時始業・18時終業のAさんで確かめます(厚生労働省の例)。
- 勤務1の1日は、月曜8時から火曜8時までの24時間です。この中に、火曜6時から8時の2時間が入るので、拘束時間は11時間に2時間を足した13時間です。
- 勤務2の1日は、火曜6時から水曜6時までの24時間で、拘束時間は12時間です。
- 重なった火曜6時から8時の2時間は、2つの日の両方に数えます。ただし1か月の合計では重なりを除くので、13時間と12時間を足して2時間を引いた23時間です。
1日の拘束時間・休息期間の数え方と月の点検表の列の例作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
休息期間は睡眠を含む生活の時間
休息期間は、使用者の拘束を受けない期間で、睡眠を含む生活時間として、その使い方が運転者の自由に任される時間です。休憩時間や仮眠時間とは性質が違います。
休息期間は、始業から24時間以内に終わらなくてもかまいません。9時始業で拘束が15時間なら、24時に終業します。その後の休息期間は、継続11時間を基本に、9時間を下回らなければ足ります。ただし、始業から24時間以内に、1日の拘束時間が上限を超えていないこと、休息期間が下限を下回っていないことの確認は必要です。
例で確かめる
厚生労働省の例を、次の表に写します(宿泊を伴う長距離ではない場合)。
| 運行 |
拘束時間・休息期間 |
判定 |
| 月曜7時始業・23時終業。次は火曜10時始業 |
拘束16時間・休息11時間 |
違反(拘束が上限15時間を超える) |
| 月曜7時始業・18時終業。次は火曜5時始業 |
休息11時間。月曜の11時間と火曜の2時間を合わせた13時間 |
満たしている |
| 月曜から金曜。14時間の日はなく、休息は10時間・11時間・12時間 |
休息が9時間を下回らない |
満たしている(11時間以上を与える努力は要る) |
宿泊を伴う長距離貨物運送の例では、東京と兵庫の往復で、拘束が両日とも16時間、月曜終業後の休息が8時間、火曜終業後が11時間でした。1運行が終わった後の休息期間が12時間を下回るので、違反です。
1か月・1年の拘束時間は、足し方で違反が決まる
1か月は、起算日を決めた1か月間で、原則は暦月です。就業規則や労使協定で特定の日(たとえば6日)を起算日にしていれば、その日から数えた1か月でもかまいません。
厚生労働省の資料は、次の2つの例で違反を示しています。
- 労使協定を結んでおらず、毎月284時間の拘束時間でした。1か月ごとの上限は守れていますが、284時間に12か月を掛けると3,408時間で、年の上限3,300時間を超えます。違反です。
- 労使協定を結んでおり、6月・7月・8月・9月・11月の5か月が310時間でした。月数は6か月以内で、年は3,353時間と3,400時間以内に収まっています。しかし、6月から9月は4か月連続で284時間を超えています。284時間を超えられるのは連続3か月までなので、違反です。
運転時間と連続運転時間
運転時間は、2日を平均した1日当たりが9時間以内、2週間を平均した1週間当たりが44時間以内です。
2日平均は、特定の日を起点に、前日との平均と翌日との平均を出し、どちらも9時間を超えたときに違反になります。たとえば火曜9時間・水曜9時間・木曜10時間なら、火水の平均は9時間、水木の平均は9.5時間で、違反ではありません。火曜10時間・水曜9時間・木曜10時間なら、どちらの平均も9.5時間で違反です。
2週平均は、特定の日を起算日にして2週間ずつ区切って計算します。1週目42時間・2週目46時間なら平均44時間で満たし、1週目46時間・2週目44時間なら平均45時間で違反です。
連続運転時間は4時間以内です。運転開始後4時間以内か、4時間を過ぎた直後に、30分以上の運転の中断が必要です。中断は原則として休憩を与えます。中断は、1回おおむね連続10分以上にして分けてかまいません。ただし、10分未満の中断が3回以上続くのは、「おおむね連続10分以上」に当たりません。
| 運転の様子 |
判定 |
| 4時間運転して30分の中断 |
満たしている |
| 2時間40分・中断20分・1時間20分・中断10分 |
満たしている |
| 1時間20分ごとに10分の中断を3回 |
満たしている |
| 1時間20分ごとに10分未満の中断を3回 |
違反 |
例外の一覧 使えるのは条件を満たしたとき
| 例外 |
内容 |
条件の要点 |
| 分割休息 |
継続9時間(宿泊を伴う長距離は8時間)の休息期間が与えにくいとき、休息期間を分割 |
1回3時間以上・2分割は合計10時間以上・3分割は合計12時間以上。一定期間(1か月程度)の全勤務回数の2分の1が限度。3分割が連続しないよう努める |
| 2人乗務 |
車内に身体を伸ばして休める設備があれば、拘束時間を20時間まで延長・休息期間を4時間まで短縮 |
条件を満たす車内ベッドで、休息11時間以上を与えれば拘束24時間まで。8時間以上の仮眠なら28時間まで |
| 隔日勤務 |
始業と終業が同じ日に属さない業務 |
2暦日の拘束時間は21時間以内・勤務終了後に継続20時間以上の休息。仮眠施設で夜間4時間以上の仮眠なら、2週間に3回まで24時間に延長(2週の総拘束は126時間まで) |
| フェリー |
乗船時間は原則として休息期間 |
休息期間からフェリー乗船時間を減らせるが、減らした後はフェリー下船から終業までの時間の2分の1を下回らない |
| 予期し得ない事象 |
故障・欠航・災害や事故での道路の封鎖や渋滞・警報時の異常気象の対応時間を、拘束・運転・連続運転から除く |
勤務後は通常の休息期間を与える。運転日報の記録に加え、修理明細書・運航情報・道路交通情報・気象情報の写しなど、客観的な記録が必要 |
休日の扱いも、運転者では独特です。休日は、休息期間に24時間を連続して足した時間で、いかなる場合も30時間を下回ってはいけません。休日労働は2週間に1回が限度です。月曜23時に終業し、火曜8時から9時間を休息期間とした後、水曜6時に始業するなら、24時間を確保できず、休日としては数えません。
時間外労働の上限(年960時間)との関係
2024年4月から、自動車運転の業務にも、労働基準法の時間外労働の上限規制が適用されました。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合も、時間外労働の上限は年960時間です(一般の労働者とは異なり、月100時間未満などの上限の対象外です)。
改善基準告示の拘束時間は、これとは別の物差しです。拘束時間は休憩時間を含み、時間外労働は労働時間から法定労働時間を引いたものです。36協定で定めた時間外労働の範囲にいても、拘束時間が月284時間を超えれば違反になります。36協定の届け出や特別条項は、36協定の書き方と届け出の記事で確かめてください。
運転日報・デジタコの記録から点検する手順
運行管理者は、点呼のほか、運転者ごとの業務の記録をとります。貨物自動車運送事業輸送安全規則(第8条。e-Govで確認)は、運転者の氏名・車両・業務の開始と終了の地点と日時・主な経過地点・交替の地点と日時・休憩や睡眠の地点と日時などの記録を求め、1年間の保存を定めています。荷主の都合で待機した場合は、到着の日時・荷役作業の開始と終了・出発の日時なども記録します。この記録が、点検の基になります。
月の点検は、次の順に進めます。
- 記録をそろえる: 日報とデジタコの始業・終業の日時が合っているか。空欄と食い違いを先に直す。
- 1日の拘束時間を出す: 始業から24時間で区切り、13時間を超える日、15時間を超える日、14時間超の週ごとの回数を数える。
- 休息期間を出す: 前の終業から次の始業まで。9時間未満は違反、11時間未満は注意として色を付ける。
- 運転時間を出す: 2日平均と2週平均。連続運転が4時間を超える箇所と、10分未満の中断が3回続く箇所も拾う。
- 月と年に足し上げる: 重なりを除いて月の合計を出し、284時間・310時間・3,300時間・3,400時間と、310時間の月数・連続月数を見る。
- 対策を決める: 赤になった運転者・日・荷主ごとに原因を書き、次の月の配車や荷主との交渉に生かす。
点検表の列は、図の例のとおり、始業・終業、1日の拘束時間、休息期間、2日平均の運転時間、連続運転、月の拘束合計、年の累計です。表にすると次のようになります。
| 列 |
入れる値 |
赤にする条件 |
| 始業・終業 |
日報とデジタコの日時 |
空欄・食い違い |
| 1日の拘束時間 |
始業から24時間で数える |
15時間超(宿泊を伴う長距離は16時間超)・14時間超が週3回以上 |
| 休息期間 |
前の終業から次の始業まで |
9時間未満(宿泊を伴う長距離は8時間未満)・11時間未満は注意 |
| 2日平均の運転時間 |
前日と翌日との平均 |
どちらも9時間超 |
| 連続運転 |
中断の時刻と長さ |
4時間超・10分未満の中断が3回連続 |
| 月の拘束合計 |
重なりを除く |
284時間超(310時間は年6か月・連続3か月まで) |
| 年の累計 |
当月まで |
3,300時間超(協定があっても3,400時間超) |
荷待ち・荷役の時間は荷主の協力が要る
拘束時間の中には、荷主の施設での荷待ちや荷役の時間が入ります。運送会社だけでは、時間を短くできないことも多くあります。荷主への働きかけ方や、荷主が守る取適法・物流効率化法の決まりは、荷主の会社が運送の発注で守ることで整理しています。この記事では繰り返しません。運行管理の側では、荷待ち・荷役の時間を日報に残しておくことが、荷主と話すときの根拠になります。
今日からできること
- 点検表の上限の数字を、2024年4月の改正後のものに直す(1年3,300時間・1か月284時間・休息継続11時間を基本)。
- 直近1か月分の日報とデジタコの始業・終業を並べ、食い違いを洗い出す。
- 運転者ごとに、1日の拘束時間15時間超・休息9時間未満・14時間超の週の回数を数える。
- 月の拘束時間の累計を、月の半ばに見る日を決める。
- 例外(分割休息・2人乗務・隔日勤務・フェリー・予期し得ない事象)を使った日は、条件を満たす記録が日報に残っているか確かめる。
- 労使協定と36協定の内容が、310時間・3,400時間・年960時間の範囲か、労務担当と確かめる。