社員が300人に届かない会社にも、12月1日の改正は関わります。
内部通報の窓口や担当者を置く義務がかかるのは、今までと同じ常時301人以上の会社です。でも、通報した人を探すことや、通報しないよう約束させることの禁止は、会社の大きさを問わずにかかります。入社のときの誓約書や、退職のときの合意書に、そう読める一文が残っていないでしょうか。まず開いてみてほしい書類が、この2つ。
消費者庁は2026年10月30日、改正法に合わせて見直した指針を説明する動画を公表しました。動画は4本あり、社内にどう知らせるか、だれが新しく守られるか、会社が何を防ぐか、どんな扱いが禁じられるかが、1本4〜5分ほどで説明されています。施行まで、あと1か月です。総務や人事、法務の担当者が開く書類は、窓口の規程と担当者の指定書、誓約書のひな形、フリーランスとの契約書、社内への案内の5つ。働く人にとっても、自分が守られる側なのかを知っておくよい機会になります。
義務の線は今も300人のまま
改正前と改正後の規程を並べて、直すところに印を付けるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
改正のあとも、義務と努力義務の分かれ目は動きません。社員が常時301人以上いる会社は、通報に対応する担当者を決めて、窓口や規程などの仕組みを整え、社員に知らせなければなりません。300人以下の会社では、どちらも努力義務。1 2022年6月から変わっていない線です。
担当者は法律で「公益通報対応業務従事者」と呼ばれ、ふつうは従事者と略されます。通報を受けて調べ、正すところまでを受け持つ人で、だれが通報したのかを知り得る立場です。
数えるときに迷いやすいのは、正社員でない人ですよね。消費者庁のQ&Aによると、パートやアルバイトも、臨時に雇った人でなければ「常時使用する労働者」に入ります。忙しい時期だけ来てもらう人は入りません。派遣で来ている人は派遣元と派遣先の両方で数えるので、正社員は250人でも、パートや派遣の人を足すと300人を超える会社はあるはずです。
301人以上の会社に向けては、従事者を決めないままにしたときの国の措置が強くなります。今までの助言や指導、勧告に、勧告に従わないときの命令と公表、立入検査も加わりました。命令に違反したり検査を拒んだりすると、30万円以下の罰金の対象です。2指定のほかの仕組みが整っていないときも、勧告に従わなければ、そのことを公表されることがあります。
300人以下の会社も、努力義務だから何もしなくてよい、というわけではありません。指針の解説は、規模や業種に合わせて、できるだけ解説に沿った仕組みを整えるよう求めています。それに、規模で分かれない決まりもあるのです。
|
常時301人以上 |
300人以下 |
| 従事者の指定 |
義務 |
努力義務 |
| 窓口や規程などの体制と、社員への周知 |
義務 |
努力義務 |
| 従事者を指定しないときの行政の措置 |
助言や指導、勧告に加えて、命令と公表、立入検査。命令違反などは罰金 |
助言や指導、勧告、報告の求め |
| 通報者探索と通報妨害の禁止 |
あり |
あり |
| 通報を理由にした解雇や懲戒への刑事罰 |
あり |
あり |
表の下の2行は両方の欄が同じです。窓口のない会社ほど、通報は上司や社長に直接届きやすいはず。そこでつい「だれが言ったの?」と聞いてしまう場面は、むしろ小さな会社で起きやすいのかもしれません。
守られる人に、フリーランスが加わる
公益通報をして守られる人に、12月1日からフリーランスが加わります。従業員を雇わずに一人で仕事を請けている人と、ほかに役員も従業員もいない法人の代表者で、業務委託が終わって1年以内の人も対象です。3線の引き方は、いわゆるフリーランス法の定義と同じです。4
今までの対象と合わせると、次のとおりです。5
| 立場 |
通報できる期間 |
禁じられる主な取扱い |
| 労働者(正社員、パート、アルバイト、契約社員など) |
在職中と、退職して1年以内 |
解雇、懲戒、降格、減給、不利益な配置転換など |
| 派遣労働者 |
派遣中と、派遣が終わって1年以内 |
派遣先による派遣契約の解除、派遣労働者の交代の要求など |
| 役員 |
在任中 |
報酬の減額など。通報を理由に解任されたら損害賠償を請求できる |
| フリーランス(新しく対象に) |
業務委託の期間中と、終わって1年以内 |
契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額など |
退職した人は辞めてから1年以内に通報すれば対象です。Q&Aによると、1年以内に通報していれば、その後もずっと守られます。退任した役員はこの「退職者」に入りません。
あとで触れる刑事罰と「1年以内の推定」は、労働者を雇う会社がした解雇と懲戒に限った決まりです。フリーランスへの不利益な取扱いも禁じられますが、刑事罰はありません。
何を伝えれば守られるかにも、線があります。対象になるのは、人の命や体、財産などを守るための約500本の法律で、刑事罰か過料の対象になる行為です。消費者庁のパンフレットには、不正の例として粉飾決算や産地偽装、品質データの改ざん、不法投棄が並びます。経理の不正を仕組みで早く見つける方法は、横領・不正経理を防ぐ仕組み 担当を分けて、月次の照合で早く気づくで紹介しました。なお、不正な利益を得るためや、人に損害を与えるための通報は守られません。
消費者庁の説明では、職場のパワハラやセクハラは、それだけでは公益通報に当たりません。行為そのものには、刑事罰も過料もないからです。暴行や脅迫など、犯罪に当たる行為なら対象になり得ます。
通報先は3つあり、守られる条件が少しずつ違います。勤め先には窓口だけでなく上司への報告も含まれ、不正が起きている、または起きようとしていると「思料する」場合、つまりそう考えれば足ります。行政機関へは、そう信じるに足りる相当の理由があるか、氏名や住所、通報の中身などを書いた書面を出すことが条件。相当の理由の例として、消費者庁の概要は、目撃したり証拠があったりする場合を挙げています。報道機関などへは、相当の理由に加えて、勤め先に言うと不利益を受けると信じる理由や、証拠を隠されるおそれといった事情のどれかに当たることが条件です。6どこから先に伝えるか、順番の決まりはありません。
通報して守られる人と通報の中身、3つの通報先ごとの条件(2026年12月1日施行)作成: 編集部 / 出典: 公益通報者保護法・消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」
通報した人を探さない、止めない
12月1日からは通報した人を特定しようとすることも、通報を止めようとすることも、法律で禁じられます。正当な理由がない限り、という条件つきです。7
消費者庁のQ&Aが挙げる「通報者探索」の例は2つ。通報したかもしれない人に、通報したのかどうかを問うこと。通報者を割り出すために、社員のパソコンやサーバーの中身を見ること。目的を伏せたアンケートで探るのも、当たり得るとされます。報道で社内の不正が表に出たときも同じで、情報の漏れを調べるなら、無記名のアンケートにしたり、質問を資料の保管場所のような一般的なことに絞ったりする工夫が要ります。
正当な理由はごく限られた場面にとどめるべきだとされます。Q&Aの例は、匿名の通報で、どんな場面で不正に気づいたのかが分からないと調べようがないとき、守秘義務を負う従事者が尋ねる場合。通報した人がそれでよいなら、従事者が折り返しの連絡先を聞くのも、探索には当たりません。聞かれた側は答えずに匿名のままでもかまいません。
「通報妨害」の例は、社内の不正に気づいた社員に、通報しないという誓約書を書かせることです。退職のときに、知った不正を窓口や役所に通報しないことを条件に退職金を払う合意も挙がっています。正当な理由もなく、こうした約束を求めることはできません。それに反して結んだ合意は無効です。7ただし、無効になるのは12月1日より後に結んだものに限られます。8
規程の書き方も見落とせません。「社外に通報する前に、必ず社内の窓口へ」と順番を強いる条文は、通報妨害に当たり得るとQ&Aは答えます。一方で、窓口の従事者が通報者に「こちらの窓口にご相談いただいたことは、社内のどなたにもお伝えしないようお願いします。」と伝えるのは、通報者を守るためなら通常は問題ないとされますが、役所や報道への通報まで止める意味に受け取られない言い方を選びたいところです。
この2つの禁止は従事者でない上司や同僚にもかかります。部下から直接打ち明けられたら、どう返せばいいでしょうか。消費者庁の内部規程例では、上司が自分で調べるのが難しいときは、本人の承諾を得てから窓口に伝えることになっています。
解雇と懲戒は、通報から1年が分かれ目
通報してから1年以内の解雇と懲戒は、裁判では通報を理由にしたものと推定されます。行政機関や報道機関への通報なら、会社がそれを知った日から1年。通報を理由にした解雇と懲戒は無効で、推定が働くと、通報が理由ではないことを会社の側が示さなければなりません。9人事の資料は会社の手元にあるので、働く人の側から理由を明かすのは難しい。Q&Aはその差を埋めるための決まりだと説明しています。
懲戒には戒告やけん責のような軽いものも入ります。通報を理由に働く人を解雇したり懲戒したりした人は、6か月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金。会社にも3,000万円以下の罰金が科されることがあります。10
罰せられ得るのは、決裁した代表者だけではありません。Q&Aでは処分の案を書いた部署の社員や、人事の責任者も当たり得るとされます。ただし、故意がなければ罰せられません。通報があったことを本当に知らないまま決裁した代表者は、一般には対象にならない、という説明です。
配置転換や人事上の減給は、刑事罰の対象ではありません。けれど、通報を理由にすれば禁じられることに変わりはありません。改正後の指針は、どんな扱いが禁じられるかを4つに分けて、例を並べました。
- 地位の面では、退職を迫ること、雇い止め、更新できる回数を減らすこと、本採用しないことなど
- 人事の面では、降格、不利益な配置の変更や出向、昇進や昇格で不利に評価すること、自宅待機など
- お金の面では、減給、賞与や退職金を不利に計算すること、業務委託の取引や報酬を減らすことなど
- 心や暮らしの面では、事実上の嫌がらせ
以前から問題のあった社員を、通報のあとに処分するときはどうでしょう。通報と関係のない理由での処分まで、この法律が禁じているわけではありません。それでもQ&Aは、あとで争いになったときに備えて、通報が理由ではないことを客観的で合理的な根拠で示せるようにしておくよう勧めています。日ごろの注意や指導を、日付と中身つきで残しておく。その記録が、会社と担当者の両方を守ります。
規程の直しどころは、指針の新旧にある
規程と指定書を直すときの物差しは、3月31日に改められた法定指針。新旧の対照表を読み比べると、主に次のところが変わりました。
| 項目 |
改正前 |
改正後 |
| 不利益な取扱い |
「解雇その他不利益な取扱い」とだけ書く |
地位、人事、経済的な待遇、精神上や生活上の4つに分けて例を並べる |
| 通報者探索 |
やむを得ない場合を除き、通報者の探索を防ぐ |
法律の「正当な理由」がある場合を除き、通報者探索を防ぐ |
| 通報妨害 |
定めなし |
通報妨害行為を防ぐ措置を加える |
| 従事者の指定 |
従事者になることを本人に明らかにする |
守秘義務と、罰則の対象になり得ることまで明らかにする |
| 窓口を通らない通報 |
窓口で受けた通報への措置として定める |
上司や外部への通報で調査や是正が要るときも、幹部からの独立と利益相反の排除の措置をとる |
| 周知の相手と中身 |
労働者、役員、退職者に、法と体制を教育し周知する |
フリーランスと元フリーランスにも、窓口の連絡先など9つの事項を周知する |
表の上から3行と「窓口を通らない通報」の行は規程の条文にそのまま関わります。内部規程例を手元に置いて、次の順に足していけば、漏れは出にくいはずです。
- 通報妨害と通報者探索をしてはならないと書き、例外になる正当な理由の例も添える。
- 違反した人を懲戒などの対象にすると書く。懲戒の理由は就業規則に書いておくものなので、就業規則の懲戒の理由で読めるかも見ておく。
- 不利益な取扱いの例を、指針の4つの分け方で並べる。
- 上司や社外に届いた通報を調べるときも、幹部から切り離し、事案に関わる人を外すと書く。
- 通報を受け付ける相手に、フリーランスと元フリーランスを入れる。
- 「社外への通報は社内のあと」と読める条文があれば消す。
従事者の指定書で見るのは2つ。守秘義務があること。そして、通報者が分かる情報を漏らすと30万円以下の罰金の対象になり得ること。11指定書のサンプルには、この2点に加えて、指定が外れたあとも守秘義務が続くことまで書いてあります。今の従事者に渡した指定書に足りないところがあれば、12月1日までに書き直して渡し直しておくと確実です。案件ごとに調査へ加わる部長なども、そのつど従事者に指定します。
残り3つの書類の点検表
残る3つの書類は、人事、発注を受け持つ部署、総務で分けると進めやすいでしょう。
誓約書と合意書のひな形は、入社と退職、懲戒、和解の場面ごとに開いて、「通報しない」と読める条項を探します。秘密を守る約束の条項まで、消さなくてかまいません。内部規程例では、秘密を守る義務に「法令に基づく場合等の正当な理由がない限り」という限定があります。ひな形にも同じひと言があれば、通報まで縛る書き方には読まれにくいでしょう。
労働紛争の和解に入れる守秘の条項はどうか。Q&Aは、個別に判断されるとしたうえで、一律に無効になる可能性は高くないと答えています。
フリーランスとの業務委託契約書や発注のメールには、窓口の連絡先を書き入れます。Q&Aが周知の方法の例に挙げるやり方です。契約の期間中に「契約が終わっても1年は通報できる」と伝えておけば、元フリーランスへの周知にもなります。契約書のほかの見どころは、契約書のチェックポイント 法務がいない会社でも見落とさない12か所が参考になるはずです。
社内への案内は法律の概要と、指針が挙げる9つの事項で作り直します。概要には、守られる中身と通報先、通報先ごとの条件が欠かせません。退職した人と元フリーランスへは、9つのうち記録と運用の実績の項目を除いた8つを知らせます。
退職する人には、在職中に「退職しても1年は通報できる」と伝えておく。これがQ&Aの示す例です。12月1日の時点ですでに辞めている人には、無理を強いる趣旨ではないとしつつ、前倒しで知らせたり、分かっている連絡先に連絡したりして、できる範囲で伝えることが考えられるとしています。退職の手続きで渡す書類に一文入れておけば、毎回の伝え漏れも防げます。
窓口がハラスメントの相談も受けているなら、ハラスメントだけの窓口だと思われない書き方にします。国のパンフレットも、ここに注意を促しています。法律の対象より広く受け付けている会社は、その違いも案内に書いておきます。
12月1日までに総務、人事、法務が開く5つの書類と、規模で分かれる義務作成: 編集部 / 出典: 消費者庁「法定指針」新旧対照表・公益通報者保護法
声を上げる側が、先に知っておくこと
ここからは働く人の側の話です。だれが、何を、どこへ伝えれば守られるかは、先の図のとおり。そのうえで動く前に、名前を伏せたときにできないこと、書面で伝えるわけ、困ったときの相談先の3つを知っておくと迷いません。
まず、匿名でも通報はできます。ただ、勤め先が連絡を取れないと、調べた結果や是正の知らせは受け取れません。不利益を受けて実際に守ってもらうには、裁判などで自分が通報した本人だと明かす必要がある、とQ&Aにあります。
次に、書面で伝えておくわけ。勤め先に書面で通報して20日たっても、調査をするという知らせがない。これも、報道機関などへの通報が守られる事情に入ります。相当の理由があることが前提なのは変わりません。6ここでいう書面にはメールのような電子の記録も含まれます。
そして、迷ったら先に相談できること。消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤルは、電話番号03-3507-9262で、平日の9時30分〜12時30分と13時30分〜17時30分に受け付けています。どこへ伝えればよいか、どうすれば守られるかを、名前を言わずに相談できます。ただ、通報そのものはここでは受け付けていません。通報のあとで解雇などの不利益を受けたときは、都道府県労働局のほか、弁護士会の相談窓口や法テラスが相談先です。
あなたの会社の窓口の連絡先を、今すぐ言えるでしょうか。担当者なら、社員のだれもがそれを言える状態にすることが、12月1日までの仕事です。社員の側も、イントラネットや就業規則のつづりで一度探しておくだけで、いざというときの迷いがひとつ減ります。規程と指定書を、指針のどの改正に合わせてどう直したか。それを日付つきで説明できる担当者なら、監査でも上司への報告でも、話はぐっと早く進むでしょう。
この記事は、2026年10月30日に、12月1日からの改正後の法律と、消費者庁の指針やQ&Aを確かめて書きました。自社の決まりや契約書の書き方に迷ったら、弁護士や社会保険労務士に相談してください。