同じチラシに「通常価格 9,800円 → 6,980円」と載せる店が2つあるとします。A店は、セール開始の直前8週間のうち6週間、この商品を9,800円で売っていました。B店は、9,800円で売ったのは最初の2週間だけで、残りの6週間は8,000円前後でした。チラシの文字は同じでも、B店の表示は景品表示法の有利誤認表示に当たるおそれがあります。
分かれ目はチラシではなく、販売の記録にあります。小売・EC の広報、営業事務、法務の担当者向けに、比べる価格の種類ごとの条件と、期間の数え方を例で追います。2026年10月時点の公式の資料で書いています。
二重価格表示は禁止ではない 問題になるのは比べる価格の中身
二重価格表示とは、自社の販売価格に、それより高い別の価格(比較対照価格)を並べて示す表示です。「通常価格」「メーカー希望小売価格」「他店価格」などを横に書き、安さを見せます。
消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)は、内容が適正なら、消費者の商品選択と事業者間の価格競争に役立つ面があるとしています。禁止されているのは、比較対照価格が実際と違う、あいまいで何の価格か分からない、といった場合です。景品表示法5条2号の有利誤認表示、つまり価格を実際より著しく有利だと一般消費者に誤認させる表示に当たるおそれが出ます。
判断の枠組みは、ガイドラインの次の3点です。
- 「著しく有利」かどうかは、一般に許容される誇張の程度を超えて、商品の選択に影響するかで決まります。
- 見られるのは、チラシや画面の表示全体です。小さな注記だけで直せるとは限りません。
- 事業者に故意や過失があったかどうかは問われません。知らずに書いた比較価格でも、実際と違えば対象になります。
対象の媒体は、値札、店頭、チラシ、新聞、テレビ、インターネットのどれでも同じです。
「通常価格」と書ける条件 8週間の数え方
価格表示ガイドラインは、過去の販売価格を「当店通常価格」「セール前価格」などと書くとき、消費者は「セールの前から相当の期間、その値段で売っていた」と受け取る、と考えます。そのため、比較対照価格は「最近相当期間にわたって販売されていた価格」でなければなりません。
その目安は、次の3つを同時に満たすことです。
| 見るもの |
目安 |
| 数える範囲 |
セール開始時点からさかのぼる8週間。商品の販売期間が8週間に満たなければ、その期間 |
| 比較価格で売った期間 |
数える範囲の過半を占める(半分ちょうどは過半ではない) |
| 通算の長さと最後の日 |
通算2週間以上あり、その価格で最後に売った日からセール開始まで2週間未満 |
ガイドラインは「一般的には」と断り、個別の事案で判断するとしています。安全の保証ではありませんが、社内の基準には使えます。
「通常価格」と書けるか、直前8週間の数え方4例作成: 編集部 / 出典: 消費者庁 不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
図の4つの行を表にします。9,800円を通常価格にしたい商品の、セール開始前8週間です。
| 行 |
9,800円で売った期間 |
判定 |
理由 |
| A |
8週のうち6週。最後の日はセールの直前 |
書ける |
3つとも満たす |
| B |
8週のうち4週 |
書けない |
半分ちょうどで過半ではない |
| C |
最初の5週。その後の3週は8,800円 |
書けない |
最後に売った日から3週間たっている |
| D |
発売1週目の1週間だけ |
書けない |
通算2週間未満 |
冒頭のB店は、ガイドラインの事例(8週間のうち、その価格で売ったのは最初の2週間だけ)と同じ形です。
数え方には、補足が3つあります。
- 断続的にセールをする場合は、比較価格で売った期間を全体として見ます。連続している必要はありません。
- 「販売されていた」は、通常の販売活動で売っていたことです。買われた実績までは要りません。通常と違う売り場に置いた、比較価格を作るために一時的に売った、というときは、売っていたことになりません。
- 色やサイズが違っても同じ価格の衣料品などは、同一の商品です。新品と中古品、展示品、旧型は同一ではありません。
期間を書けば使える場合と、使えない場合
「通常価格」の名前を付けず、「○月○日〜○月○日の販売価格」のように、いつ、どのくらいの期間売った価格かを正確に書く方法があります。ガイドラインは、相当期間といえない価格でも、その内容を正確に表示しない限り不当表示のおそれがある、と書いています。裏返せば、正確に表示していれば、通常価格と読み違えられるおそれは小さくなります。
ただし、次の場合は期間を書いても足りません。
- セール実施を決めたあとに売り始めた商品。 売り始めた時点でセール価格が決まっているため、「セール前価格」は実績づくりとみられ、販売期間を正確に書いても不当表示のおそれがあります。
- 書いた期間が実際と違う。 ガイドラインの事例に、「新作ダブルスーツ ○月1日〜20日までの販売価格48,000円」と書きながら、その価格で売ったのは2日間だけ、という例があります。
- 期間を書いていない。 「5月人形 72,000円の品 セール期間中43,000円」の事例は、72,000円で売ったのは2日だけでした。
- ずっと前に終わった価格。 ネットショップの「定価380,000円」が、4年前に終わった直営店の販売開始時の価格だった例があります。
「いつ、どれだけ売ったか」を言い切れる記録がなければ、期間を書く方法も使えません。
比較対照価格の種類ごとの条件
二重価格表示で比べる価格は、大きく5種類あります。どの種類でも、前提は同じ商品(銘柄、品質、規格が同一)を比べることです。
二重価格表示で比べる5種類の価格と、使える条件・問題になる例作成: 編集部 / 出典: 消費者庁 価格表示ガイドライン・将来の販売価格の執行方針
| 比較する価格 |
使える条件 |
問題になる例 |
| 過去の販売価格 |
直近8週間の目安を満たす。または期間を正確に書く |
実際は45,000円で売る商品を「通常価格58,000円」と書く / 発売直後の価格を通常価格にする |
| 将来の販売価格 |
販売計画があり、セール後に実際にその価格で売る |
「○月○日以降は6,000円」と書き、以降も4,800円で売る |
| メーカー希望小売価格 |
製造業者などが設定し、あらかじめ公表している |
設定のない商品や撤廃後の価格 / PB商品の自社設定価格 / 一部の小売店にだけ示された価格 |
| 競争事業者の価格(市価・他店) |
最近の価格を調べ、特定の店と比べるなら店名を書く |
市価を調べずに書く / 商圏外の店の価格 / 後継機種の価格 |
| 他の顧客向けの価格 |
適用される顧客の条件を正確に書く |
誰でも会員になれて、非会員価格でほとんど売れていないのに比べる / 繁忙期の料金を「標準料金」と書く |
将来の販売価格は、原則として避ける
「セール後は9,800円」のように将来の価格を比べる表示は、特に慎重に扱います。消費者庁の「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」(2020年12月25日)は、将来の価格は変わりうるため、その価格で売ることが確かな場合以外は、基本的に行うべきではないとしています。
執行方針の要点を、実務の言葉でまとめます。
- セール後に、比べた価格で売っていなければ、原則として表示を始めた時点から有利誤認として扱われます。
- 例外は、合理的で確実な販売計画の資料があり、地震や台風、感染症、仕入先のミスなど、事業者の責任でない特段の事情が起きたときです。事情が起きたら、速やかに表示をやめ、顧客に告げます。
- 顧客に求められた、売上目標に届かない、他社が値下げした、季節の需要が変わった、という理由でセールを延ばすのは、特段の事情に当たりません。
- セール直後から2週間以上その価格で売れば、ごく短期間とは考えません。クリスマスケーキなど特定の日に需要が集まる商品は、2週間未満でも通常は問題にしません。
- 「セール終了後は500円」のようにセールの期間を示さない表示は、販売計画がなかったことが強く疑われます。執行方針は、期間や期限を書くよう勧めています。
この考え方で判断された例が、2025年9月12日の措置命令です。通販会社の自社サイトが、おせち商品に「通常価格29,980円が1万円値引き 7/22〜11/23 値引き後価格19,980円」と表示しました。この「通常価格」はセール後の将来の価格と読まれる表示で、その価格で売る合理的で確実な販売計画がなかったとして、有利誤認と認定されています。
割引率・割引額の表示と「最大○%OFF」
「3割引」「最大50%OFF」も、二重価格表示と同じ考え方で見られます。割引率は、比較対照価格と販売価格の差を言い換えたものだからです。何を元に何%引くのかが実際と違う、あいまいな場合は、不当表示のおそれがあります。
ガイドラインが不当表示のおそれがあるとする書き方を、表にまとめます。
| 書き方 |
何が問題か |
| 「家具5割引セール」と大きく書くが、5割引は一部の商品だけ |
適用される商品の範囲を書いていない |
| 「表示価格から3割引」だが、直前に表示価格を引き上げている |
いったん引き上げた価格が元になっている |
| 「全品3割引」だが、一部はセールを決めたあとに売り始めた商品 |
セール決定後に売り始めた商品が入っている |
| 「5〜20%値引き」の20%だけを大きく強調する |
多くの商品が20%引きに見える |
| 「80,000円の品 3割引」の80,000円が、任意に決めた価格 |
計算の元の価格に根拠がない |
全商品や商品群を一括して割引するときは、元になる価格、適用される商品の範囲、条件を書きます。ポイント還元率も同じ扱いです。商品に付けた表示価格を元にした一括の割引表示は、上の例に当たらなければ、通常は不当表示のおそれはないとされています。
期間限定・いつでも割引・タイムセール
「期間限定」「本日限り」なのに、期間のあとも同じ価格
期限を言い切る表示は、実際の期限と合っているかが見られます。消費者庁の「景品表示法における違反事例集」に、2015年3月20日の措置命令の例があります。通信講座のサイトが「1万円割引実施中」「期間限定 2014年6月1日〜6月30日」と書きました。消費者は、その期間に申し込んだときだけ値引きされると受け取ります。ところが実際は、平成22年5月から26年7月までのほとんどの期間、同じ値引きをしていました。
毎月「今月限り」と書いて同じ価格で売るのは、これと同じ形です。期限を書くなら、期限が来たら価格を戻すのが基本です。通常の期間限定表示で、延長をどう判断するかを直接定めた資料は、確かめた範囲では見つかりませんでした。延ばすなら、元の期限が販売計画と合っていたかを、社内で説明できる記録を残してください。
「いつでも割引」「常時セール」
セールをほぼ常時続けている店は、元の価格で売った期間が短くなります。前の節の目安を当てはめると、直近8週間のほとんどがセール価格なら、元の価格は過半を占めず、「通常価格」と書けません。この場合は「当店通常価格」と書かず、期間を正確に書いた過去の価格や、メーカーが公表した希望小売価格(設定があるときだけ)を、正しい名称で並べます。
ガイドラインは、「大幅値下げ」「他店より安い」などの言葉も、特に安い商品がない、一部に限られるのに全体が安いかのように強調すると、不当表示のおそれがあるとしています。
タイムセールとカウントダウン
特定の商品を一定の営業時間に限って値下げする、生鮮食品などが売れ残る前に営業時間の後半で値下げする、という場合に、値下げ前の表示価格と並べる二重価格表示は、通常は不当表示のおそれはないとされています。商品の同一性が明らかで、比べる価格が、その日に実際に表示していた価格だからです。
カウントダウンの表示そのものを取り上げた消費者庁の資料は、確かめた範囲では見つかりませんでした。「あと2時間」と出しながら終了後も同じ価格で売るなら、期間限定の表示と同じ問題になるはずです。終了の時刻に価格を戻せているかを、運用の側で確かめてください。
ECの「参考価格」「通常価格」をどう書くか
ECの商品ページでは、価格の横の言葉が曖昧になりがちです。ガイドラインは、根拠のある価格でも、どんな内容の価格かを正確に書かないと、あいまいな表示として不当表示のおそれがあるとしています。
- 「参考価格」だけを書かない。 過去の販売価格なのか、メーカー希望小売価格なのか、他店の価格なのかを、名前で分けます。メーカーが小売業者向けのカタログなどで広く示した「参考小売価格」なら比較に使えますが、「メーカー希望小売価格」とは別の名前で書き、消費者が誤認しないようにします。
- 「定価」は、いつ、どこで付けた価格かを確かめる。 古い販売開始時の価格を「定価」と書くのは問題になります(前の節)。
- 価格の履歴を残す。 通常価格と書く商品は、直近8週間の価格の変更記録が要ります。価格を自動で変えるシステムでも、商品ごとに、いつ、いくらで売ったかを後から出せるようにします。
- 色・サイズ違いは、同じ価格なら同一商品。 色やサイズ違いで同じ価格で売るものは、まとめて同じ商品として数えます。
- モールの出店者も自社の表示。 商品ページの価格表示は自社の表示です。出店者が備える別の法律は、モール出店者に開示請求の意見照会が来たら 取引DPF法の対応と準備にまとめています。
違反したときに何が起きるか
有利誤認表示が疑われると、消費者庁(都道府県も)が調査し、次の手続になります。
| 手続 |
内容 |
根拠 |
| 措置命令 |
誤認を排除すること、再発防止策、今後同じ表示をしないことなどを命じ、公表する |
景品表示法7条 |
| 課徴金納付命令 |
違反した期間の対象商品の売上額の3%。150万円未満なら命じない(売上額の目安で5,000万円未満) |
8条 |
| 課徴金の加算 |
10年以内に課徴金納付命令を受け、その後にまた違反した場合は4.5% |
8条5項 |
| 減額 |
違反の事実を自主的に報告すると半額。返金措置の実施でも減額 |
9条・10条 |
| 確約手続 |
疑いを通知されてから60日以内に是正措置の計画を出し、認定されれば、その行為に措置命令や課徴金は出ない(2024年10月1日施行) |
26条から28条 |
| 罰則 |
有利誤認表示そのものに100万円以下の罰金。措置命令に違反すると2年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金(法人は3億円以下) |
48条・46条・49条 |
課徴金の対象期間は、違反した期間にやめた後6か月以内の取引を加えたもので、最長3年です。
確約手続で認定を受けても、計画のとおり実施しなければ認定は取り消され、課徴金の手続に戻ります(29条)。個別の判断は、弁護士など専門家に相談してください。
景品の上限は、既存の記事で
セールに景品類を付けるときの上限は、もれなく付ける総付景品が取引価額の10分の2(1,000円未満なら200円)、抽選などの一般懸賞が取引価額の20倍(5,000円以上は10万円)で、総額は売上予定総額の2%です。表と計算例は広告表示のチェックリスト 景品表示法で出す前に確かめることとNo.1表示・ステマに載せています。
出す前の確認表 価格の根拠を残してから公開する
広報や営業事務が起案し、法務や表示の管理担当が確かめる会社が多いはずです。確認は、図の順に進めると書き直しが減ります。
セール価格を出す前の確認の流れと、止まる合図作成: 編集部 / 出典: 消費者庁 価格表示ガイドライン・執行方針・景品表示法
まず、価格を変えた日を台帳に残すところから始めます。記録がなければ、「売っていた」と説明できません。表示に迷うときは、公開前に消費者庁の表示対策課(03-3507-9233)にも相談できます。
この記事は2026年10月26日時点の資料で書いています。目安や運用は変わることがあるため、最新の内容は消費者庁のページで確かめ、個別の判断は弁護士など専門家に相談してください。