消費者庁は2026年10月22日、10月23日に開く第9回取引デジタルプラットフォーム官民協議会の資料を掲載しました。議題は、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法(以下、取引DPF法)の運用状況と、財務省による税関の通販貨物の水際取締りの説明です。モールやフリマ、アプリストアなどに出店・出品している会社には、運用状況の中に自社に関わる話があります。
この記事では、資料に載った数字を入口にして、出店している会社のバックオフィスが何を決めておくとよいかを整理します。条文は e-Gov 法令検索の2026年10月22日時点の内容、運用は消費者庁のQ&A・指針・ガイドラインで確かめました。
協議会の資料には何が載っているのか
第9回の議題は2つです。1つ目の取引DPF法の運用状況は、資料1「事務局説明資料」にまとまっています。内容は次の3つです。
- 法第3条に関する取組の状況(モール等の運営会社が、消費者と出店者の連絡や苦情の受付などに取り組んでいるか)
- 法第5条に関する運用の状況(販売業者等情報の開示請求)
- 法第10条に基づく申出の状況と、法第4条に基づく要請(商品の表示の削除等の要請)の状況
2つ目の財務省の説明は税関の水際取締りで、この記事では扱いません。
運営会社の取組は、令和7年9月16日から11月28日にかけて、33社にアンケートを依頼し、28社から回答を得た調査でまとめられています。回答28社のうち、取組の数字は次のとおりです。
| 取組 |
令和7年度調査 |
令和6年度調査 |
| 出店者との連絡専用のメッセージ機能を提供 |
24社 |
22社(25社中) |
| 出店者の連絡先が機能しているかを確認(パトロールか個別確認) |
25社 |
24社(25社中) |
| 苦情の受付窓口を設け、調査を実施 |
28社全て |
25社全て |
| アカウント登録時に公的書類の提出を求める |
25社 |
21社(25社中) |
| 氏名・名称と銀行口座の名義の一致を確認 |
18社 |
12社(25社中) |
| 法に基づく取組を開示 |
17社 |
15社(25社中) |
モール運営会社の取組(28社回答)と、開示請求・申出・要請の件数作成: 編集部 / もとの資料: 消費者庁 第9回取引デジタルプラットフォーム官民協議会 資料1
出店者の側から見ると、この数字は「運営会社が、出店者の身元と連絡先を以前より細かく確かめるようになっている」ことを示しています。登録情報の裏付け資料を求められる場面は、今後も増えると考えて準備しておくと慌てません。
出店している会社は、法律のどこに出てくるのか
取引DPF法で、出店者は「販売業者等」と呼ばれます。法第2条第4項は、販売業者または役務の提供の事業を営む者としています。ただし、自らが運営するプラットフォームで売る場合は除かれるため、自社の直販サイトは対象になりません。法人でも個人事業主でも、事業として出品していれば該当します。
一方、法の保護を受ける「消費者」は、事業を行う場合を除く個人です(法第2条第3項)。この法律は、消費者と販売業者等の間の通信販売を対象にしています。
出店者に直接関わる場面は、次の3つです。
| 場面 |
根拠 |
会社の動き |
| 消費者が会社の情報の開示を請求し、運営会社から意見を聞かれる |
法第5条 |
開示に同意するか、期限までに回答する |
| 商品の表示について削除等の要請が運営会社に出る |
法第4条 |
表示の根拠を説明できるようにしておく |
| 運営会社が登録情報や連絡先を確かめる |
法第3条・指針 |
登録情報を最新にし、裏付け資料を出せるようにする |
運営会社の取組は努力義務で、出店者に罰則が直接かかる規定ではありません。それでも、指針は利用規約に基づく制裁を運営会社の取組例に挙げており、実務では運営会社の求めに応じる体制が要ります。
開示請求の意見照会が届いたら、何をするのか
開示請求はどんな要件で認められるのか
消費者は、出店者との契約に基づく債権を行使するために出店者の情報の確認が必要なときに限り、運営会社に開示を請求できます(法第5条第1項)。債権の額は1万円を超える必要があります(施行規則第4条)。信用を毀損する目的などの不正の目的は認められません。
開示の対象になる情報は、施行規則第5条の6項目です。
| 開示される情報 |
| 氏名・名称(法人は名称と代表者の氏名) |
| 住所 |
| 電話番号 |
| ファクシミリ番号 |
| 電子メールアドレス |
| 法人番号(法人の場合) |
意見照会から通知までの流れ
運営会社は、請求が要件に当たり不正の目的でないと考えるとき、開示するかどうかを出店者に聴かなければなりません(法第5条第3項)。出店者に連絡できない場合は除かれますが、Q&Aは、合理的に期待される手段を尽くせば連絡できたのであれば「連絡できない場合」に当たらないとしています。
販売業者等情報の開示請求から通知までの5段階と出店者の備え作成: 編集部 / もとの資料: 取引DPF法・施行規則・消費者庁Q&A
消費者庁のQ&Aに付いた参考様式では、意見照会書の回答期限は「受領日から二週間以内」です。これは法律の期限ではなく、標準書式の記載です。運営会社ごとに期限は違うので、届いた書面の日付を見てください。
回答しない場合や同意しない場合でも、要件を満たしていれば運営会社が開示することがあると、参考様式に明記されています。連絡が来たら、放置せずに回答するのが基本です。
同意するか、同意しないか
同意するかどうかの判断は、取引の事実関係で決まります。注文の記録を確認し、返金や交換の対応が済んでいるか、消費者の主張する債権があるかを見ます。債権の存否が争いになっていて金額が大きいときは、弁護士に相談してください。
Q&Aの参考様式の回答書は、同意か不同意かを選び、不同意なら理由を具体的に書く形です。「理由の内容が相手方に対して開示を拒否する理由となりますので、詳細に書いてください。証拠がある場合は添付してください」と書かれています。
特商法の表記で連絡が取れているときは
Q&Aは、特定商取引法に基づく表記などで消費者が出店者と連絡できるなど、既に明らかになっている情報が真正であれば、その情報については基本的に「確認を必要とする」に当たらないと考えられるとしています。電話番号について、運営会社やバーチャルオフィスの番号が表示され、そこを通じて連絡が取れている限りは、出店者の電話番号は開示されないと考えられる、という説明もあります。
ただし、連絡が取れない場合や、民事訴訟の提起のために住所を知る必要があるときは、住所が開示されるのが一般的、とされています。連絡を取れる状態を保つことが、結果として開示を避ける実務にもなります。
商品の表示に、削除等の要請が出るのはどんなときか
法第4条は、内閣総理大臣が運営会社に対し、販売業者等の利用の停止などを要請できる仕組みです。要件は2つで、両方を満たす必要があります。
- 商品の安全性の判断に資する事項などの重要事項について、著しく事実に相違する表示、または実際より著しく優良・有利だと誤認させる表示であること
- 表示をした販売業者等が特定できないなど、販売業者等による是正が期待できないこと
重要事項は、施行規則第3条で次の5つとされています。
| 重要事項 |
| 商品・役務の安全性の判断に資する事項 |
| 国・地方公共団体・著名な法人や個人の関与 |
| 原産地・製造地・商標・製造者名 |
| 許可・免許・資格・登録・経験を証する事項 |
| ほか、消費者の判断に通常影響を及ぼす性能・内容の事項 |
運営会社が要請に応じて措置をとった場合、それで出店者に生じた損害について、運営会社は賠償責任を負いません(法第4条第3項)。要請をしたときは、国がその旨を公表できます(同条第2項)。
第9回の資料1には、令和7年12月から令和8年8月までに要請した6件が載っています。リカバリーウェアと称する衣料品の効能と日本製の表示、安全靴の欧州規格、保護眼鏡の米国規格、情報商材の収益の表示などです。商品の販売業者等が中国国内に所在する例が3件、所在地が不明で運営会社に連絡手段がない例が3件あります。
資料に書かれていないのは、国内で連絡が取れる出店者の表示にこの要請が出る場合の扱いです。事例から確かめられるのは、虚偽の表示で、かつ是正が期待できない出品が対象になっていることまでです。
実務の備えは、法令や規格への適合を表示する商品について、根拠の資料(試験成績書や規格の証明書など)を商品ごとに保管しておくことです。広告表示の確認は広告表示のチェックリスト 景品表示法で出す前に確かめることとNo.1表示・ステマにまとめています。
運営会社に登録情報を確かめられたとき
消費者庁の指針は、運営会社が出店者に対し、登録情報を裏付ける資料の提供を求める取組を、望ましい例として挙げています。
- 法人は法人番号や登記事項証明書、個人事業主は住民票や事業証明書などの公的書類の提出を受ける
- 登録情報の変更時にも、変更内容を裏付ける資料の提出を受ける
- 氏名・名称が登録された銀行口座の名義と一致しているか確認する
- 販売に許認可等が必要な商品は、許認可を受けた証明書の提出を受ける
- 登録情報と異なる情報に接したときは、個別に事実確認をして正しい情報の記載を求める
資料1によると、28社全てが、登録情報と異なる情報に接したときに出店者へ事実確認を行っています。本店の移転や代表者の交代、社名変更があったのに登録を直していないと、この確認の対象になります。登記の変更があった日に、モールの登録も直す手順を入れておくと安心です。
特商法の表記とモールの表示は、どう分担するか
通信販売の広告に出す事業者の名称・住所・電話番号などは、特定商取引法第11条の定めです。モールに出店する会社でも、表示義務そのものがなくなるわけではありません。指針も、運営会社が出店者向けに特商法第11条の専用ページを設けることを、望ましい取組の例に挙げています。
また指針は、出店者が連絡先を広告に載せない場合は、消費者の請求があり次第、遅滞なく連絡先を書面か電磁的記録で提供する旨の表示を徹底する、という例も挙げています。省略の条件は特定商取引法に基づく表記の書き方 ネットショップの記載項目と返品特約の例で整理しています。
社内の決めごととしては、モールごとに、次の3つを一覧にしておくと抜けが出ません。
| 確認すること |
担当の目安 |
| 各モールに登録した事業者情報が、自社サイトの表記ページと同じか |
営業事務・法務 |
| 連絡先の対応可能日時を表示しているか(指針の望ましい例) |
営業事務 |
| 利用規約の改定で出店者の義務が変わっていないか |
法務 |
規約の読み方は契約書を受け取ったら確認すること 法務がいない会社のチェックポイントが使えます。
個人の出品や社員のアカウントは、販売業者等になるのか
事業として出品していても、会社の名義でなく社員の個人アカウントで出品している例があります。販売業者等に当たるかどうかについて、消費者庁のガイドライン(最終改正は令和7年7月18日)は、営利の意思をもって反復継続して取引を行うかどうかで判断するとしています。一定の量や金額以上なら該当、という画一的な基準は定めていません。
該当を推認させる事情の例は、ガイドラインにあります。
- 新品や新古品を相当数販売している(購入して自分では使わず転売している場合を含む)
- 同じ型番の商品を複数出品している
- 酒類のように許可を前提とする商品を継続して販売している
- 一定の期間に相当数の口コミがある
逆に、もらった贈答品が不要で単発的に売るなどは、推認させる事情にならないとされています。
会社が業務で行う転売や副業の出品を、社員の個人アカウントで行うと、運営会社の確認や開示請求の対象が個人になります。個人の出品は会社の責任の外のように見えますが、業務の一部であれば会社の問題です。就業規則の副業の扱いと合わせて、業務での出品は会社名義のアカウントに限る、と決めておくのが分かりやすい方法です。
なお、会社が不要になった備品を会社名義で一度だけ出品する場合に販売業者等に当たるかは、資料に書かれていません。迷うときは、運営会社の規約と消費者庁の窓口に確かめてください。
会社が買う側のときは、どうなるのか
取引DPF法の「消費者」は、事業を行う場合を除く個人です。そのため、会社が事業のためにモールで備品や資材を買うときは、法第5条の開示請求を使えません。同じ理由で、会社の購入は、この法律が守る取引の外にあります。
資料で確かめられたのは、ここまでです。会社の購入でトラブルが起きたときの対応については、公式の資料に書かれていませんので、この記事では扱いません。購買の担当は、出品者の連絡先と注文の記録を、トラブルが起きる前から経理の証憑と一緒に残しておくとよいでしょう。
今日からできること
- 出店・出品しているモールとアプリストアを全て書き出し、アカウント名義(会社か個人か)を確かめます。
- 各アカウントの登録情報を、登記事項と照らして直します。代表者、住所、電話、メール、口座の名義を見ます。
- 通知の宛先を、担当者個人でなく部署の共有アドレスに変えます。
- 意見照会が届いたときの流れを1枚にします。受け取る人、注文記録を調べる人、回答を決める人、期限をカレンダーに入れる人を決めます。
- 法令や規格への適合を表示している商品について、根拠の資料を商品ごとに保管します。
- 特商法の表記ページと、各モールの事業者情報が同じか、年に1回見直す日を決めます。
- 業務の出品を社員の個人アカウントで行っていないか、就業規則と合わせて確かめます。