退職が決まると、社内の人と取引先に挨拶のメールを送ります。形は異動の挨拶と似ていますが、退職では、理由の書き方、最終出社日と退職日の違い、退職後の問い合わせ先に気を配ります。送る順番と相手ごとの文例8つを、文化庁「敬語の指針」と個人情報保護委員会の資料で確かめてまとめました。
退職の挨拶メールが異動の挨拶と違う6つの点
件名・宛名・宛先の欄の使い分けは、異動の挨拶メール 社内・取引先への例文と送る時期、後任紹介と着任の挨拶と同じです。退職ならではの点は次の6つです。
| 退職ならではの点 |
理由 |
| 退職の理由を書かない |
相手が返事に困る。会社が公表していない話を含むことがある |
| 後任と引き継ぎ先を必ず書く |
退職した後は、問い合わせに自分で答えられない |
| 個人の連絡先は会社の決まりで |
取引先との連絡は、会社の窓口に向けるのが基本 |
| 最終出社日と退職日を分けて書く |
有給休暇を消化すると、2つの日がずれる |
| 会社の公表の前に社外へ送らない |
社外に知らせる時期と後任は、会社が決める |
| 一斉に送るときはBCCで |
最終出社日に、多くの相手へまとめて送りがち |
最終出社日と退職日は別の日
退職日は雇用契約が終わる日、最終出社日は最後に出勤する日です。有給休暇の残りをまとめて取ると、最終出社日は退職日より前になります。健康保険・厚生年金の資格を失うのは、退職日の翌日です(日本年金機構)。会社側の手続きは退職の手続き 会社側のチェックリストにまとめています。
挨拶のメールは、会社にいる最後の日である最終出社日を基準に送ります。取引先あてには、退職日と、実際に担当を離れる日の両方を書きます。会社のメールを使える最後の日も確かめ、最終出社日の後に届くメールには、自動応答で後任と部署の連絡先を返します。設定はOutlookの自動応答の設定 休暇前の不在メールと社内・社外向けの文例が参考になります。
送る順番と時期 一般的な流れ
退職の挨拶メールはマナーの一つで、「何日前までに送る」という法律や公的な決まりはありません。一般的には、次の図の順に送ります。
退職の挨拶メール 送る順番と時期の流れ作成: 編集部 / もとの資料: 日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき」ほか・編集部作成
取引先へは、会社が社外に知らせてよいと決め、後任が決まってから送ります。後任と挨拶に伺える時間が残っているうちが目安です。社内の全体向けは最終出社日に送るのが一般的で、届いた返信にその日のうちに応えられます。
公表の前に社外へ送らないのは、知らせる時期と後任を会社が決めるためです。取引先からの問い合わせで、社内の人が初めて退職を知る、ということも避けられます。
誰に何を書くか 相手ごとの早見表
退職の挨拶メール 誰に何を書くかの早見表作成: 編集部 / もとの資料: 文化庁「敬語の指針」・個人情報保護委員会ガイドライン(通則編)ほか・編集部作成
| 相手 |
いつ(一般的な例) |
宛先の欄 |
書くこと |
書かないこと |
| 社内の全体向け |
最終出社日の当日 |
TO(部署のリストなど) |
お礼・最終出社日・退職日・引き継ぎ先 |
退職の理由・会社への不満 |
| お世話になった上司 |
全体向けより前に |
TO(1人ずつ) |
具体的なお礼・最終日に伺うこと |
全体向けの文の使い回し |
| 同じ部署のメンバー |
最終出社日の数日前から当日 |
TO(部署のリスト) |
引き継ぎの一覧・資料の置き場所 |
引き継ぎ先の決まっていない仕事 |
| 取引先(後任の紹介) |
社外への公表と後任の決定の後 |
TO(1社ずつ)・CCに後任 |
担当を離れる日・退職日・後任の連絡先 |
退職の理由・転職先 |
| 取引先(訪問の打診) |
引き継ぎの日程が決まったら |
TO・CCに後任と上司 |
訪問の目的・日程の候補・所要時間 |
こちらの都合だけの日時 |
| 社外へ一斉に |
最終出社日 |
BCC・「関係者各位」 |
退職の要点・後任か窓口・BCCで送っていること |
ほかの相手のアドレス |
| 定年退職 |
最終出社日 |
社内はTO・社外は1社ずつ |
長年のお礼・その後の働き方 |
再雇用の条件など |
| 届いた挨拶への返信 |
相手の最終出社日のうちに |
送り主だけ |
お礼・一緒にした仕事のひと言 |
BCCの一斉メールへの「全員に返信」 |
退職の理由と転職先はどこまで書くか
退職の理由は、書かないのが一般的です。書くとしても「一身上の都合により」までにします。個人の事情は相手が返事に困り、会社への不満は相手の受信箱に残り続けます。転職先を書くかどうかは、会社の決まりと上司の判断に従います。
| 書きがちな文 |
言い換え |
| 人間関係に悩み、退職を決めました |
11月30日付で退職することになりました |
| 家庭の事情で、地元に戻ります |
一身上の都合により、退職いたします |
| 今後は〇〇社でもよろしくお願いします(取引先あて) |
書かない。後任の名前と連絡先を書く |
「退職させていただく」は誤りか 敬語の確かめどころ
文化庁「敬語の指針」(2007年2月2日 文化審議会答申)は、「(さ)せていただく」を、相手の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受ける場面の言い方と説明しています。条件が無ければ「いたします」の方が簡潔だとしつつ、条件を満たすかのように見立てて使う用法もあるとしており、誤りと決めつけてはいません。
| 迷いやすい言い方 |
敬語の指針の考え方 |
書き方の例 |
| 退職させていただきます |
許可と恩恵の条件が無ければ「いたします」が簡潔 |
退職いたします |
| (社外へ)後任の中村さん、高橋部長 |
自社の人はウチ扱い。「高橋部長」は不適切 |
後任の中村 / 部長の高橋 |
| (上司へ)ご苦労様でした |
ねぎらいの言葉で、目上の人には用いない方が良い |
お疲れ様でございました |
| ご挨拶に行きます |
「伺う」は謙譲語Ⅰで、訪ねる先の人を立てる |
ご挨拶に伺います |
社内に送る退職の挨拶メールの文例
社内の全体向け(最終出社日に)
お礼と業務の引き継ぎ先を中心に、短くまとめます。
お世話になった上司へ
一緒にした仕事を1つ挙げると、気持ちが伝わります。個人の連絡先は、会社の決まりを確かめたうえで、こうした個別のメールで伝えます。
同じ部署のメンバーへ
資料の置き場所まで書くと、退職した後に探す手間が省けます。
取引先に送る退職の挨拶メールの文例
後任を紹介するメール
後任の名前の字と読み・電話番号・アドレスは、送る前に後任本人に確かめます。
後任と挨拶に伺いたいときの打診
関係の深い取引先には、上司と相談して、退職の前に後任と伺うこともあります。
最終出社日にBCCで一斉に送るとき
個別に送れなかった社外の関係者には、最終出社日にまとめて知らせることがあります。
定年退職のときは、その後も働くかで書き分ける
高年齢者雇用安定法8条は、定年を定めるなら60歳を下回れないとしています(一部の業務を除く)。定年が65歳未満の会社は、定年の引上げ・継続雇用制度・定年の廃止のどれかで、65歳までの雇用を確保しなければなりません(同法9条)。
厚生労働省の令和7年「高年齢者雇用状況等報告」(2025年6月1日時点、常時雇用する労働者が21人以上の企業237,739社)では、定年の年齢は次のとおりでした。
| 定年制の状況 |
企業の割合 |
| 60歳 |
62.2% |
| 61歳から64歳 |
2.9% |
| 65歳 |
27.2% |
| 66歳から69歳 |
1.2% |
| 70歳以上 |
2.5% |
| 定年制を廃止 |
3.9% |
65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業(99.9%)のうち、65.1%は継続雇用制度で実施しています。定年の後も同じ会社で働くことがあるため、会社を離れるのか残るのかで文面を変えます。
届いた退職の挨拶への返信の書き方
個別に届いたら、相手の最終出社日のうちに短くお礼を返すのが一般的です。BCCの一斉メールに返すときは、送り主だけに返します。
取引先から届いたときは、「〇〇の件では大変お世話になりました。新天地でのご活躍をお祈りしております。」とお礼を返し、後任へのひと言を添えます。
取引先の連絡先は会社に残す
仕事で集めた連絡先は、私用のスマートフォンや個人のアドレスに移しません。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、氏名と組み合わせたメールアドレス帳や、名刺の情報を業務用パソコンの表計算ソフトで整理したものを、個人情報データベース等の例に挙げています。
個人情報保護法179条は、従業者や従業者だった者が、業務で扱った個人情報データベース等を不正な利益を図る目的で提供・盗用したとき、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金としています。会社の決まりや誓約書に沿って、後任に引き継ぎます。
送る前のチェックリスト
今日からできること
- 上司か人事に、最終出社日・社外に知らせてよい日・会社のメールを使える最後の日を確かめる。
- 知らせる相手を、1社ずつ送る取引先、最終出社日にBCCで送る相手、個別に送る社内の人に分ける。
- 後任と、紹介メールの文面・連絡先・挨拶に伺う候補日を合わせる。
- この記事の文例を下書きに入れ、日付と名前を差し替えておく。
- 名刺や連絡先のデータの引き継ぎ方を、会社の決まりで確かめる。