生成AIに「取引先への年末の挨拶メールを書いて」と頼めば、整った文がすぐに返ってきます。でも、読み返してみてください。宛名を別の会社に替えても、そのまま送れてしまいませんか。
定型に聞こえるのは、敬語の誤りより、この「だれにでも送れる」ところのせいです。相手と今年あった出来事を1つ渡して頼めば、宛名を替えたら送れない1通に変わります。
宛名を替えても送れる文が、定型に聞こえる
たとえば、こんな挨拶です。
言葉づかいに誤りはありませんが、この相手でなければ書けない1文が、どこにもありません。
文化庁の「敬語の指針」も、いつでも、どんな相手にも限られた表現だけを使うと、その場にそぐわない言葉づかいになりやすいと指摘します。メールで多くの人に一度に送るときの、画一的な表現への批判にもふれていました。1
ただ、型を全部捨てなくてもかまいません。「公用文作成の考え方」は、決まりきった挨拶が長いと文書の本質がぼやけるとしつつ、紋切り型が読み手を安心させる場合もあると認めています。2
だから、手を入れるのは書き出しと結びにはさまれた真ん中です。「いつもお世話になっております」と「よいお年をお迎えください」は型のまま。その間の1〜2文を、相手との出来事に入れ替えます。
頼む前に、相手ごとのメモを4行で
送る前に、その相手と今年あった出来事を1つ思い出すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
AIはその相手とのあいだに、今年何があったかを知りません。知らないことは書けないので、材料はこちらから渡すしかないのです。
渡すのは、次の4行のメモです。
- 相手がどんな立場で、どんな仕事で関わったか
- 今年あった出来事を1つ。いつ、何があって、相手が何をしてくれたか
- 来年の予定のうち、もう決まっていること
- AIに渡す前に伏せる名前や数字
いちばん効くのは2行目です。「いろいろお世話になった」と書いたのでは、AIはまた定型の言葉で埋めるでしょう。月と、相手がしてくれた動作まで書くと、真ん中の文の材料になります。
出来事が1つも浮かばない相手もいるはずです。そのときは無理に作らず、定型の挨拶で送ればいいのです。作った思い出話は、受け取った本人がいちばんよく分かります。
4行目の線は、会社の決まりで変わります。個人情報保護委員会は2023年6月、個人情報を生成AIに入れるなら利用目的の範囲内かを確認し、機械学習に使われないかを確かめるよう呼びかけました。3総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインも、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう、AIを使う側に求めます。4
たとえば社名を「A社」、担当者を「担当の方」に置き換えても、挨拶の中身は変わりませんよね。数量や金額は書かずに渡し、正式な名前は送る前に自分で戻します。どこまで伏せるかは、入力してはいけない情報で詳しく説明しています。
生成AIに渡す前に、相手ごとに書く4行のメモ。2行目の出来事を月と動作まで書く作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」・個人情報保護委員会
頼む文には、書かないことも入れる
メモができたら、頼む文に貼ります。〈〉の中を入れ替えれば、そのまま使えます。
要は最後の段落です。書かないことを断っておかないと、足りない字数を「多大なるご尽力」のような飾りで埋めた文が返ってくることがあります。空けたままの〈〉は、送る前に自分で埋める所の目印。1行目に送る日を書いた理由は、あとで出てきます。
上司やチームあてなら、相手の行を「4月の配属から、見積もりの作り方を教えてくれた課長」に替え、条件に「力量をほめる言葉は使わず、教わったことへのお礼を書く」と足します。
「敬語の指針」によると、教えを受けた立場なら、上司の腕前をほめるより、教えてもらったことへの感謝を伝えるほうが適切です。決まった言い方の代わりに「おかげ様で仕事が少し分かるようになってきました」と伝える例も載っています。5社内の挨拶では、教わって身についたことが、出来事の1文になります。
直すのは、出来事と季節と敬語の3か所
返ってきた案は、メモと並べて読みます。見るのは次の3か所です。
出来事の文が、メモの言葉のままか
最初は真ん中の文から。「3日早めて」が「迅速にご対応いただき」に、「品切れを出さずに済んだ」が「売上が大きく伸びた」に変わっていたら、メモの言葉に戻します。してもらっていないことまで書かれていないかも、ここで見ます。
書き出しと結びは最初の例とほぼ同じですが、A社の担当の方にしか送れない1通になりました。
年末の言葉になっているか
年末と年始の言葉が混ざるのも、見落としやすい所です。とくに「旧年中は大変お世話になりました」。日本郵便の年賀状の手引きは、前の年を表すときは「昨年」か「旧年」と書くよう案内しています。6つまり、12月に「旧年中は」と書くと、お礼が去年の分になってしまうのです。年内に送るなら「本年は」か「今年は」にします。
結びの「本年もよろしくお願いいたします」も、12月なら「来年も」。終わりかけの年によろしく、では話がかみ合いません。頼む文の1行目に送る日を書いたのは、こうしたずれを減らすためでした。
敬語が重なっていないか
丁寧にしようとして、敬語が重なることもあります。指針は「お読みになられる」のような二重敬語を、一般に適切ではないとしています。「担当させていただきました」も、相手の許しを受ける場面でなければ「担当いたしました」のほうが簡潔です。7
「誠に」「心より」「格別の」のような改まった言葉が1通に何度も出てきたら、1つを残して削ります。相手を立てようと敬語を重ねすぎると、伝えたいことが分かりにくくなる。公用文作成の考え方にも、そう書かれています。8ほかの言い回しと直し方は、1枚の早見にまとめました。
年末の挨拶で定型に聞こえる言い回しと直し方の早見。だれにでも送れる文、季節のずれ、重なった敬語作成: 編集部 / 出典: 文化庁「敬語の指針」「公用文作成の考え方」・日本郵便
宛名と出来事を照らし合わせる、送るまでの段取り
何通もまとめて作る日に、いちばん気をつけたいのは出来事の取り違えです。A社の担当の方に、B社との出来事を書いたメールが届いたら、定型の挨拶よりずっと気まずいですよね。
- 送る相手の一覧を作り、名前の横に今年の出来事を1行ずつ書く。
- 出来事が書けた相手から、1通ずつ頼む。
- 返ってきた案を、その相手のメモと並べて読む。
- 「A社」「担当の方」を、正式な社名と名前に戻す。
- 休業期間と年明けの営業開始日を、社内の決まりと照らし合わせる。
送る時期や休業のお知らせの書き方は、年末年始の挨拶メールの例文にあります。一斉に送る休業の案内は、むしろ定型のままがいい連絡です。
相手ごとに出来事を1行ずつ書いた一覧は、そのまま今年の仕事の記録です。だれに助けられ、だれの役に立てたか。年明けの評価面談の前に1年の振り返りをするとき、思い出す手間がかなり省けるはずです。
宛名を別の会社に替えたら、もう送れない。そんな1通なら、下書きをAIに頼んでいても、受け取った人には自分あての挨拶です。
敬語と公用文の考え方、生成AIの注意喚起とガイドライン、年賀状の手引きの内容は、各機関の公表資料で確認しました。確認したのは2026年10月31日です。