昇給したのに手取りが減った気がする。その原因は、たいてい数か月遅れて上がる社会保険料です。固定給が上がって標準報酬月額が2等級以上変わると、4か月目から保険料が上がります1。つまり、昇給の直後に増えた手取りが、あとから少し戻る形です。昇給の前より減ったわけではないことが多いので、まずは給与明細の保険料の欄を見比べてみましょう。
保険料は、給与そのものでは決まらない
健康保険と厚生年金の保険料は、毎月の給与の額に直接かかるのではありません。給与を区切りのよい幅に当てはめた「標準報酬月額」に、料率を掛けて決まります2。たとえば東京の協会けんぽなら、報酬が27万円以上29万円未満の人は、みな標準報酬月額28万円です。
この標準報酬月額が変わるタイミングは、主に2つあります。毎年1回の定時決定と、大きく給与が変わったときの随時改定です。だから、給与が変わった月に保険料は動かず、遅れて変わります。
昇給のときは、4か月目に上がる
随時改定には、3つの要件があります。昇給や固定的な手当の変更で固定的な賃金が変わったこと、その月から3か月の報酬の平均で標準報酬月額が2等級以上変わること、そしてその3か月の支払基礎日数が足りていることです1。
4月の給与から昇給したなら、4月から6月の平均を見て、7月の標準報酬月額から改定されます1。保険料は前の月の分を給与から引く決まりなので3、翌月に引く会社では、明細の額が変わるのは8月の給与からです。
月給28万円の人が3万円昇給して31万円になった例で見てみましょう(東京の協会けんぽ、40歳未満、編集部の計算)。社会保険料は月39,732円から45,408円へ、5,676円増えます2。
月給28万円が4月から31万円になった例の手取りの変化(編集部の計算)作成: 編集部 / 出典: 全国健康保険協会・日本年金機構・厚生労働省
昇給前の238,868円から見れば、手取りは24,174円増えています(所得税と住民税を除いた額)。けれど、昇給直後の268,718円と比べると5,676円減るので、そこで「減った」と感じるのです。
本当に減りやすいのは、4月から6月の残業
昇給前より手取りが減りやすいのは、むしろ定時決定のほうです。毎年7月1日に在籍する人について、4月、5月、6月の報酬の平均で標準報酬月額を決め直し、9月から翌年8月まで使います4。
ここでいう報酬には、残業代や通勤手当も入ります5。基本給28万円の人が、4月から6月に毎月4万円の残業をすると、平均は32万円で、標準報酬月額は32万円です。9月以降に残業がなくなっても、保険料は翌年8月まで5,676円多いまま。手取りは238,868円から233,192円に下がります(編集部の計算)。
4月から6月の平均で算定するのが著しく不当といえる場合は、年間の報酬の平均で算定する手続きもあります4。心当たりがあれば、人事に聞いてみましょう。
標準報酬月額が変わる2つの場面、随時改定と定時決定作成: 編集部 / 出典: 日本年金機構
手取りが変わる理由は、ほかにもある
保険料のほかにも、手取りが動く時期があります。住民税は前の年の所得で決まるので、6月に額が変わります。40歳になると介護保険料が加わり、東京の協会けんぽなら健康保険の料率が9.85%から11.47%になります2。
2026年4月分からは、子ども・子育て支援金も始まりました。標準報酬月額28万円なら本人の負担は月322円です2。雇用保険料は標準報酬ではなく毎月の給与にかかるので、昇給した月から少し増えます。一般の事業の本人負担は、2026年度は1,000分の5です6。
減った分は、損ばかりではない
厚生年金の保険料が増えれば、将来の年金の土台も増えます。老齢厚生年金は、平均の標準報酬と加入月数で決まるからです。どれくらい変わるかは、老齢厚生年金はいくらもらえる?計算の仕組みと給与・加入期間で変わる額の早見表で見られます。
2枚の明細を並べると、変わった欄がすぐわかるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
手取りが減ったときに確認すること
- 給与明細の健康保険料と厚生年金保険料が、前の月と変わっているか
- 昇給した月から数えて、4か月目のあたりか
- 9月分から変わったなら、4月から6月に残業が多くなかったか
- 6月分なら、住民税の額が変わっていないか
- 40歳になった月の前後なら、介護保険料が加わっていないか
- 昇給の前の明細と比べて、本当に減っているか
- 説明がつかないときは、人事か給与の担当者に聞く
明細のほかの欄の読み方は、給与明細の見方 手取りが思ったより少ない理由を、項目ごとに読み解くで確認できます。
この記事の内容は、2026年11月5日時点の日本年金機構、全国健康保険協会、厚生労働省の資料にもとづいています。計算の例は東京の協会けんぽの料率を使った目安で、健康保険組合や地域で額は変わります。