5年後の肩書きを言い当てられなくても、キャリアプランは書けます。続けたいこと、減らしたいこと、今から少しずつ積むこと。この3つに答えてつなげば、向かう方向が1行になるからです。
「5年後、どうなっていたいですか」。面談でそう聞かれると、頭が真っ白になりませんか。「特にありません」とは言いにくいし、「主任になりたいです」と答えても、自分の言葉ではない感じが残りますよね。
5年後を言えないのは、普通のことです
答えに詰まる人は少なくありません。厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査で、仕事の学び(自己啓発)に問題があると答えた正社員の女性に中身を聞くと、26.5%が「自分の目指すべきキャリアがわからない」を選びました。1任される仕事が増え、選べる道も見えてくる30代は、かえって1つに絞りにくいのかもしれません。
5年という長さも、予想には向いていません。雇用動向調査によると、2025年の1年間に転職で職場に入った女性の割合は、30〜34歳で13.1%、35〜39歳で9.3%でした。2これは1年間の数字です。同じ会社に残っていても、異動や組織の変更はあります。
5年前の自分を思い出してみてください。今の部署も、今の仕事の中身も、言い当てられていたでしょうか。
当てなくていいのです。
国の決まりを読んでも、求められているのは予想ではありません。職業能力開発促進法が定める「職業生活設計」は、キャリアプランに近い言葉で、働く人が自ら「職業に関する目的を定める」ことと、そのための計画を指します。3肩書きの話は出てきません。厚生労働省のキャリア・プランシートでも、5年後や10年後といった時期を書くのは、補助シートで「できれば」の扱いです。4
だから決めるのは、行き先の駅の名前より、歩いていく方角。方角なら、今の気持ちと手元の経験から言葉にできます。
行き先の駅は見えなくても、歩く方角は決められるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
3つの問いは、続ける、減らす、積む
ここからは編集部が考えた組み立てで、国の手法や学説ではありません。言葉は自分に合うように変えてかまいません。
続けたいことは、仕事の一部でいい
1つ目の問いは「この先も続けたいことは何ですか」。仕事の名前でなくても答えられます。たとえば、月次の締めは好きではないけれど、数字のずれに気づく瞬間は好き。そのくらいの大きさで十分です。
浮かばないときは、聞き方を変えます。「明日から別の人に渡してくださいと言われたら、惜しいと思う仕事はどれですか」。惜しい理由を一言足すと、続けたい動きが見えてきます。今までの仕事を広く見直したいなら、キャリアの棚卸しが下書きになるでしょう。
減らすことを決めると、時間が生まれる
2つ目は「この先、減らしていきたいことは何ですか」。増やす話だけの計画は、続きにくいものです。先ほどの調査で正社員の女性がいちばん多く挙げた問題点は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」で、52.4%でした。積む時間は、どこかを減らさないと出てこないのです。
作業でも、働き方でも、人との関わり方でもいいでしょう。この紙は誰にも見せないので、「少し減らせたら楽」くらいの書き方で大丈夫。出てこなければ、こう聞いてみます。「今の働き方があと5年続くとしたら、いちばん困ることは何ですか」。
積むものは、資格とは限らない
3つ目は「5年後の自分のために、今から少しずつ積むものは何ですか」。1つ目の答えを続けるのに足りないものを考えます。ある分野の知識や場数、社外に話を聞ける相手も、積めるものです。
思いつかなければ、「続けたい仕事を社外の人に説明するとしたら、どこで言葉に詰まりますか」と聞いてみてください。詰まったところが、積むものの候補です。月に数時間で続く大きさにしておくと、忙しい月も途切れません。
紙1枚に書き出す手順
用意するのはA4の紙1枚か、スマートフォンのメモだけ。15分あれば書けます。
- 紙を縦に3つに分け、上に「続ける」「減らす」「積む」と書く。
- それぞれの問いに、箇条書きで3つまで答える。
- 各列でいちばん気になる答えに、1つずつ丸を付ける。
- 丸を付けた3つを、下の文の型に入れる。
- 右上に書いた日付を入れる。
書き上がった1行に、肩書きが残っていませんか。残っていたら、動きの言葉に直します。「人事のプロ」と書くと、何をする人なのかがぼやけますし、異動で人事を離れた時点で1行ごと使えなくなります。「社員の相談を聞いて、制度の改善案にまとめる」なら、別の部署でも別の会社でも持ち越せます。
手ごわいのは「管理職」の一語でしょう。管理職を目指すのは、もちろんいい方向です。ただ、それだけでは、人を育てたいのか、決める側に立ちたいのかが自分でも分かりません。「3人のチームの仕事の配分を決める」のように、したいことまでほどいておきます。
続ける、減らす、積むの3つの問いを1行につなぐ紙1枚の書き方(編集部の提案)作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「ジョブ・カード」(マイジョブ・カード)
総務、人事、経理の書く前と書いた後
編集部が作った例で見比べてみましょう。実在の人の話ではありません。
総務、人事、経理の書く前と書いた後(編集部が作った架空の例)作成: 編集部 / 出典: ベンチャー・スピリット!編集部
まず見たいのは人事の段です。採用か労務かは決まらないままなのに、1行は書けています。どちらに進んでも「話を聞く」は続くので、決めなくても歩き出せるのです。
経理の段では、書く前の不安が消えたわけではありません。「減らしたいこと」に置き場所が変わっただけです。それでも、手入力を減らすと書いてあれば、次に打てる手が見えてきます。
「5年後は?」と聞かれたときの言い方
1行を、そのまま読み上げる必要はありません。変えるのは、減らしたいことの部分だけです。「残業を減らしたいです」と切り出すと、仕事を減らしたい話に聞こえることがあります。「締め日前の作業を前に寄せる工夫をしたいです」なら、向かう先は同じでも、上司は一緒に手を考えやすくなるでしょう。
「決めきれていません」だけで終えると、話はそこで止まります。でも、決めていないことと考えていないことは別です。決めていないこと、続けたいこと、次に試すこと。3つをそろえて言えば、十分に考えている人の答えになります。
話す範囲は自分で決めてかまいません。転職の考えや家庭のことまで、この場で言わなくてもいいのです。1on1での切り出し方は、1on1の準備メモに載せています。
来週やることは、1つだけ
1行ができたら、15分で終わることを1つ選びます。
- 続けたい仕事の名前で求人を3件読み、くり返し出てくる条件を1つメモする。
- その仕事をしている社内の人に、15分だけ話を聞く。
- 「減らす」に書いた作業の手順を書き出す。
転職の予定がなくても、求人を読むと、その仕事に何が求められているかが手早く分かります。
半年に1回は、紙を読み直します。評価面談の前など、必ず来る日に合わせると忘れません。3つの問いに答え直し、変わったところだけ新しい日付で書き足しましょう。半年はこの記事の目安です。厚生労働省のマイジョブ・カードも、活用の最後のステップに「定期的に振り返りを行う」を挙げています。
ひとりで行き詰まったら、国の無料の窓口で話してみる手もあります。
描き直すのは、外れたからではありません
プランは約束ではありません。
雇用動向調査で、2025年に転職した30〜34歳の女性が前職を辞めた理由を見ると、具体的な理由でいちばん多いのは「給料等収入が少なかった」の12.2%でした。「会社都合」は6.5%、「出産・育児」は6.2%です。5仕事が変わるきっかけは家庭の事情に限らず、会社の側から変わることもあります。
だから、変わったら問いに戻ります。最初に見直す問いは、起きたことで違います。
| 起きたこと |
見直す問い |
見直すこと |
| 異動で担当が変わった |
続ける |
動きの言葉が新しい部署でも使えるか |
| 家庭の事情で使える時間が変わった |
減らす、積む |
方向は残して、積む量と速さを変える |
| 会社の組織や仕事の進め方が変わった |
積む |
社外でも通じる知識や経験に入れ替える |
異動の行に、動きの言葉で書いた効き目が出ます。担当の名前が変わっても、多くはそのまま持っていけるはずです。
それに、上司に話したことも、その時点の考えです。次の面談で「前は〇〇とお話ししましたが、今は〇〇と考えています」と言えば済みます。
次の面談の前に15分だけ、紙を1枚出してみてください。5年後、その紙と違うことをしているかもしれません。そのときは、日付の違う何枚かが手元に残っているはずです。
統計と様式の確認日は、2026年10月31日です。