学び直しの費用を減らしたいなら、国の制度より先に、勤め先の制度を見るのが近道です。会社が出してくれた分は、あとで申請する国の給付金からも、税の控除からも差し引いて計算されるからです。会社、国、税の順に当たっていけば、使えるはずの支援の取りこぼしが減ります。
とはいえ、自分の会社にどんな制度があるか、すぐに言える人は多くありません。学ぶための休暇や短時間勤務の制度が勤め先にあるか「分からない」と答えた働く人は、6割を超えました。費用の補助も時間の配慮も、聞いてみるまで分からないことが多いのです。
最初に見るのは、勤め先の制度
学びたい講座と頼みたいことを、人事の担当者に相談するイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査では、正社員を雇う事業所の81.4%が、社員の自己啓発をなにかしらの形で支えていました。いちばん多いのは受講料などの金銭的援助で、74.7%。資格を取ったときの報酬が40.5%、就業時間の配慮が39.2%と続き、教育訓練休暇は16.5%にとどまります。
お金の支援は多くの職場にあり、時間の支援はまだ少ない。制度として入れている企業の割合で比べると、その差がもっとはっきりします。
| 制度 |
導入している企業 |
勤め先にあるか分からない人 |
使いたい人 |
| 教育訓練休暇 |
5.7% |
64.2%(30日以上)、63.1%(30日未満) |
15.7%(30日以上)、19.1%(30日未満) |
| 教育訓練短時間勤務 |
4.7% |
63.1% |
19.1% |
| 教育訓練所定外労働時間免除 |
4.6% |
63.7% |
18.1% |
いちばん下の制度は学ぶあいだ残業をしなくて済むようにするものです。表でまず見てほしいのは「勤め先にあるか分からない人」の列でしょう。制度が「ない」と答えた人は3割に届かず、残りのほとんどは、あるかどうかを知りません。
会社にも事情はありますが、すべてが人手の問題というわけでもなさそうです。制度を入れる予定がない企業に理由をたずねると、代わりの人を確保しにくいことがいちばん多く、制度そのものを知らなかった、社員から要望がない、という答えが続きました。聞かれないから作っていない会社も、少なくないのかもしれません。
勤め先の学びの支援は受講料などのお金が中心。学ぶ時間の制度がある企業は1割に届かない作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」
目的によって、先に開く窓口が変わる
勤め先の次に見る国や自治体の支援は、何のために学ぶかで使えるものが分かれます。大きくは、今の仕事に生かす、資格を取る、転職をめざす、の3つ。主な支援を、この3つの目的と並べてみます。
| 支援 |
向いている目的 |
費用の減り方 |
動き出す時期 |
| 勤め先の補助や手当 |
今の仕事、資格 |
会社の規程しだい |
受講の2〜3か月前に相談 |
| 教育訓練給付金 |
資格、今の仕事、転職 |
受講料などの20%から、講座の種類で最大80% |
一般は修了後に申請、ほかは受講開始日の14日前まで |
| リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 |
転職 |
受講費用の半分以上、転職して1年たつと7割以上(補助の上限は合わせて56万円) |
在職中に補助事業者へ登録 |
| ハロートレーニング(在職者訓練) |
今の仕事 |
有料。東京都の講習は1講習1,600〜6,500円 |
都道府県やポリテクセンターの募集に合わせる |
| 自治体の補助 |
資格など |
自治体ごと。泉佐野市は受験料の70%(上限2万円) |
自治体ごと |
| 特定支出控除 |
今の仕事 |
給与所得控除額の半分を超えた分を、所得から差し引く |
翌年の確定申告 |
表の2列目で迷ったら、転職をめざすかどうかだけ先に決めると、行がかなり絞れます。経済産業省の補助は、転職をめざす人しか使えないからです。
学び直しの公的支援を、今の仕事、資格、転職の目的ごとに先に見る順で並べた地図作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省、経済産業省(リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業)、国税庁、文部科学省ほか
今の仕事に生かす学びなら、ハロートレーニングの在職者訓練が候補になります。厚生労働省の案内では、主に中小企業で働く人が、仕事に要る知識や技能を2〜5日ほどで身につける訓練です。講座は国の機関であるポリテクセンターと、都道府県の両方にあります。
東京都なら、都の職業能力開発センターが「キャリアアップ講習」を開いています。中央・城北センターの案内では、都内に住むか勤めていて、主に中小企業で働く人が対象で、派遣や契約社員、パートでも申し込めます。開かれるのは、主に平日の夜と、土曜や祝日の昼です。
会社からの申し込みでしか受けられない国の訓練もあります。ポリテクセンター関西の案内では、生産性向上支援訓練は個人では申し込めず、会社の指示で受ける形です。1人2,200〜6,600円で、生産性の向上やDXに関わる講座を4〜30時間で学べます。勤め先に相談するとき、こうした選択肢を知っていれば話は早いはずです。
資格を取るなら、まず教育訓練給付金です。指定された講座を修了すると、払った受講料などの一部がハローワークから支給されます。条件や申請の期限は、教育訓練給付金の対象講座と申請、受講料の2割が戻る条件と期限に詳しく書きました。
自治体の補助は住んでいる地域によってあったりなかったりします。大阪府泉佐野市が令和8年度に実施している「リスキリングチャレンジ支援金」は、ITパスポートや基本情報技術者など13の国家試験を受けた市民に、受験料の70%を給付するもの。上限は2万円で、合否は問われません。ただし、国や勤務先から補助を受けた分は、受験料から除いて計算します。ほかの自治体の補助を探すときも、この「何を除いて計算するか」を見ておくと、あとで計算が狂いません。
転職をめざすなら、補助か給付金かを選ぶ
経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、在職中の人が、キャリア相談から講座、転職の支援までをひと続きで受けられる仕組みです。申し込む先はこの事業に選ばれた民間の補助事業者。キャリア相談と転職の支援は無料で、講座は修了すれば、受講費用の半分以上が安くなります。講座のあと実際に転職し、転職先で1年続けて働くと、軽くなる分は合わせて7割以上。国から事業者への補助は、1人あたり最大56万円です。
対象は登録のときと最初の面談のときに会社と雇用契約を結んでいる人で、正社員のほか契約社員、パートやアルバイト、派遣社員も入ります。でも、勤め先を変える転職をめざしていることが条件です。同じ会社での昇進や正社員への登用、独立して開業することは、この事業の「転職」に入りません。講座を受けたいだけの人も対象外です。
期限にも注意が要ります。2025年8月の公募要領では、個人への支援は2027年3月31日までで、講座は転職先に入社する日までに終えていなければなりません。事務局は2026年10月26日に事業を1年延ばすと知らせましたが、延長の対象は要件を満たした事業者に限られます。申し込む事業者に、いつまでに修了すればよいかを聞いておくと安心でしょう。
気になるのは、教育訓練給付金と重ねて使えるかどうかですよね。事務局のよくある質問で、個人がほかの支援と併用できるかという問いへの答えは、「国が支出する趣旨を同じくする他の制度との併用はできません」です。補助事業者は、この事業で支援する人に教育訓練修了証明書などを出してはいけない、とも書いてあります。この事業で受けた講座は、給付金を申請できないと考えておきましょう。
どちらが得かは、講座の種類で変わります。給付金は一般教育訓練なら20%ですが、専門実践教育訓練の指定講座なら条件しだいで最大80%になり、転職向けの補助の7割を上回ることもあります。反対に、一般教育訓練の講座や、給付金の指定がない講座なら、補助のほうが手厚くなります。決めきれないときは、受けたい講座が給付金のどの種類に指定されているかと、補助事業者の講座かどうかを並べてみると、答えが出やすいはずです。
仕事を辞めてから学ぶなら、ハロートレーニングの離職者訓練や求職者支援訓練もあります。受講料は原則として無料で、テキスト代だけは自分で払います。ハローワークで相談し、訓練が必要だと認める「受講あっせん」を受けてから始める流れです。
重ねるときは、差し引かれる順に
会社の補助と国の給付金、税の控除は、重ねて使うこともできます。ただし、あとから申請するものほど、先に受け取った分を引いて計算する決まりです。
たとえば、受講料30万円の講座が一般教育訓練の指定を受けていて、会社が10万円を補助してくれるとします。
|
会社の補助なし |
会社の補助10万円 |
| 給付金の計算のもとになる額 |
30万円 |
20万円 |
| 教育訓練給付金(20%) |
6万円 |
4万円 |
| 自分の負担 |
24万円 |
16万円 |
会社の補助があると、給付金は2万円減ります。それでも自分の負担は8万円軽くなるので、勤め先の補助は先に使って損がありません。
税の控除なら、給与所得者の特定支出控除があります。仕事に直接必要な研修費や資格を取る費用などを合わせて、給与所得控除額の2分の1を超えたら、その超えた分を確定申告で差し引ける制度です。会社から出してもらった分(所得税がかからないもの)と、給付金でもらった分は数えません。仕事に直接必要だという証明を出すのは、勤め先かキャリアコンサルタント。1
正直なところ、ハードルは高めです。2026年分の年収が400万円なら給与所得控除額は124万円で、その半分の62万円を超えないと控除は始まりません。表の例の16万円では届かないのです。届きそうなのは、大学院のように費用が大きく、仕事に直接必要だと認めてもらえる学びでしょう。ほかに特定支出がなく、研修費が100万円なら、62万円を超えた38万円を差し引けます。
勤め先から証明をもらいにくいときは、キャリア形成・リスキリング支援センターに頼る道もあります。キャリアコンサルティングを受けたうえで、特定支出控除のための証明書を無料で出してもらえます。
会社、国、自治体、税の順に申し込むと、あとの制度は先に受け取った分を引いて計算する作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省、国税庁、泉佐野市ほか
時間は、勤め先の配慮と講座の形で作る
職業能力開発促進法には、社員が自分から学ぶ機会を持てるよう、会社が必要に応じて援助をするという定めがあります。例に挙がっているのは、学ぶための有給の休暇や長い休暇を与えること、始業と終業の時刻を変えたり、勤務時間を短くしたりすることです。2制度の中身は会社に任されていますが、相談するときの手がかりにはなるでしょう。
最初の表のとおり、学ぶための休暇を制度にしている会社はまだ少数です。それでも、講座のある曜日だけ定時で上がる、試験の前の週は残業を減らしてもらう、といった個別の相談なら、制度がなくても話し合えます。会社の制度に沿って30日以上続けて無給の休みを取れば、失業給付に相当する教育訓練休暇給付金を受けられることもあります。
講座の選び方しだいで、時間の悩みが軽くなることもあるでしょう。放送大学なら、放送授業をインターネットでも見られるので、時間や場所を選びません。科目履修生として半年に1科目だけ取る場合、入学料7,000円と授業料12,000円で、合わせて19,000円。
文部科学省の「マナパス」は、大学などが社会人向けに開く講座を探せるサイトです。講座一覧には絞り込みの条件があり、「土日・平日夜間」や「Eラーニング等オンライン講座の活用」のほか、「教育訓練給付制度対象講座」「女性の復職・就職支援」も選べます。夜と週末しか空いていないなら、最初の2つを選ぶだけで候補がぐっと減り、見比べやすくなります。
週ごとの勉強の時間割の組み方は、資格の勉強計画 働きながら続ける選び方と、週ごとの時間割の作り方にあります。
会社への相談は、受講の2〜3か月前に
勤め先に費用や時間の配慮を頼むなら、受講の2〜3か月前に切り出しておくと安心です。少し早すぎる、と感じるかもしれません。けれど、社内の決裁には時間がかかりますし、会社にも締め切りがあります。
会社が社員の自発的な学びの費用を負担すると、人材開発支援助成金の「自発的職業能力開発訓練」で、経費の45%の助成を受けられる場合があります。令和4〜8年度の期間限定のメニューで、会社は訓練を始める日の6か月前から1か月前までに、計画を労働局に出さなければなりません。直前の相談では、この締め切りに間に合わないのです。会社から見た助成金の使い方は、中高年社員のキャリア面談と、45歳から使える助成金でも紹介しました。
切り出すときは、講座の名前と期間、費用、今の仕事のどこに生きるか、頼みたいこと(費用か時間か)の4つを先に書いておくと、上司も人事に回しやすくなります。
転職をめざす学びは、勤め先に費用を頼みにくいものです。経済産業省の補助は登録から面談まで補助事業者とのやりとりで進み、教育訓練給付金も自分でハローワークに申請します。どちらも、会社に相談しないまま計画を立てられます。
支援の地図を埋める手順
- 学ぶ目的を、今の仕事、資格、転職のどれか1つに決めてメモに書く
- 就業規則と社内のポータルで「自己啓発」「研修」「資格」「休暇」と検索する
- 教育訓練講座検索システムで、受けたい講座の指定の種類と指定期間を見る
- 住んでいる市区町村と都道府県のサイトで「リスキリング」「資格取得 補助」と検索する
- 転職をめざすなら、補助事業者の検索ページで同じ分野の講座を探す
- 迷ったら、キャリア形成・リスキリング相談コーナーの無料のキャリアコンサルティング(60分、対面かオンライン)を予約する
- 受講の2〜3か月前に、上司か人事へ相談のメールを送る
自治体のサイトでは、対象が住んでいる人か勤めている人か、申請が受講の前か後か、勤務先の補助をどう扱うかの3つを見ておくと、あとで慌てません。
ここまで埋まると、何を学ぶか、いくらかかるか、いつ学ぶかが1枚にそろいます。そのまま上司との面談に持っていける、学びの計画です。
この記事の制度と金額は、2026年10月30日に各制度の案内と法令で確認した内容です。調査の数字は、2026年7月31日に公表された令和7年度の結果を使いました。対象になるかは、ハローワークや補助事業者、自治体の窓口に、税の控除は税務署に相談してください。