転職先が決まったら、上司にはいつ、どう切り出せばいいのでしょうか。最初に伝える相手は直属の上司で、時期は就業規則にある申し出の期限より前です。入社日から日付をさかのぼって切り出す日を先に決めてしまえば、引き継ぎも有給休暇の消化も無理なく収まります。
とはいえ、いざ上司の席を見ると、最初の一言で手が止まりますよね。いきなり「辞めます」と言わなくて大丈夫です。最初に送るのは「少しお時間をいただけますか」の一文で足ります。
入社日から逆算して、切り出す日を決める
最終出社日までに、後任と並んで仕事を回しておくイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
法律が決めている最低ラインは、思っているより短いかもしれません。契約期間の定めがない雇用なら、退職を申し入れた日から2週間がたつと、雇用は終わります。民法の決まりです。1
ただ、実際の日付はもう一つの決まりから考えます。会社の就業規則にある、退職の章です。厚生労働省のモデル就業規則では、退職願を出してから何日で退職とするかが空欄になっていて、日数は会社ごとに書き込む形です。2
宮崎県労働委員会は相談事例の中で、就業規則に「〇か月前までに届け出る」といった決まりがあれば、働く人を不当に長く縛る内容でない限り、従ったほうがよいとしています。円満に辞めたいなら、なおさらです。3
もう一つ、法律にも就業規則にもない目安として、退職日の1〜2か月前に伝えるという慣習があります。後任を探したり、仕事を割り振り直したりする時間を、職場に残しておくための目安です。
日付は後ろから順に置いていきます。
- 転職先の入社日をはっきりさせる。
- 退職日を、入社日の前日に置く。
- 有給休暇があと何日残っているかを数え、退職日の前に並べる。
- その前の最後の出勤日を、最終出社日にする。
- 引き継ぎに要る期間と、就業規則の期限をさかのぼり、早いほうを切り出す日にする。
入社日が2027年2月1日、有給休暇の残りが10日、土日休みで、就業規則に「退職日の1か月前まで」とある会社なら、日付は次のようになります。
| 時期 |
日付の例 |
すること |
| 退職日の2か月前 |
2026年12月1日(火)ごろ |
上司に切り出す |
| その週のうち |
12月4日(金)まで |
退職日と最終出社日を決め、退職届を出す |
| 12月中旬 |
上司と決めた日 |
同じチームに伝え、引き継ぎを始める |
| 12月下旬〜1月上旬 |
会社が決めた日から |
後任と一緒に取引先へ挨拶する |
| 最終出社日 |
2027年1月15日(金) |
引き継ぎを終え、借りたものを返す |
| 有給休暇 |
1月18日(月)〜29日(金) |
残りの10日を使う |
| 退職日 |
1月31日(日) |
雇用契約が終わる |
| 入社日 |
2月1日(月) |
新しい職場で働き始める |
表でいちばん窮屈なのは、12月の後半です。暦の上では1か月半あっても、年末年始の休みを除くと、引き継ぎに使える出勤日はぐっと減ります。自分の場合は、就業規則の退職の章と、勤怠システムにある有給休暇の残りを開いて、表の日付を入れ替えてみてください。
入社日から逆算した、退職の日付の例。切り出す日は就業規則と引き継ぎの期間で決める作成: 編集部 / 出典: e-Gov法令検索、厚生労働省、宮崎県労働委員会、愛知労働局、日本年金機構
契約社員や派遣のように、契約期間が決まっている場合は考え方が変わります。期間の途中で辞めるには、原則として、やむを得ない事情か、会社との合意が要ります。ただし1年を超える契約なら、契約の初日から1年がたったあとは、申し出ればいつでも退職できます。4まずは契約書で、期間と更新の時期を見ておくと安心です。
最初に話す相手は、直属の上司
最初の1人は直属の上司です。法律の決まりではなく慣習ですが、理由ははっきりしています。後任を決めるのも、仕事を割り振り直すのも、ほかの人にいつ知らせるかを決めるのも、上司だからです。
仲のよい同僚にだけは、先に話したくなるものです。でも、うわさの形で上司の耳に入ると、話の入り口でつまずきかねません。退職日が決まるまでは、話す相手を上司だけにしておくと、あとで話がずれません。
話す相手は、おおむね次の順に広げていきます。
- 直属の上司
- さらに上の上司や人事(上司が決めた順で)
- 同じチームの人(上司と決めた日に)
- ほかの部署や取引先(会社が知らせてよいと決め、後任が決まってから)
- 社内全体(最終出社日の挨拶で)
上司との関係がつらくて、どうしても切り出せないこともありますよね。そんなときは、さらに上の上司か人事に先に相談する方法もあります。順番は、話をこじらせないための目安です。無理に守らなくてもいいのです。
退職を伝える順番と、面談で話すこと、引き止めへの返し方、退職願と退職届の違い作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省、宮崎県労働委員会、広島県、e-Gov法令検索
アポはチャットで、本題は会って話す
上司への最初の連絡は、用件を書かずに時間をもらうだけで十分です。チャットに「退職」と書くと、通知の表示や画面の共有で、ほかの人の目に入ることがあるからです。
これなら、まわりに知られずに時間をもらえます。在宅勤務が中心の職場なら、1対1のオンライン会議をお願いしましょう。当日はカメラをオンにして話すと、表情まで伝わります。
面談では、あいさつのあと、すぐに本題に入ります。
「退職を考えていまして」と迷いを残す言い方より、決めたことを先に伝えるほうが、話は早く進みます。相談の中身は辞めるかどうかではなく、退職日と引き継ぎの進め方です。
理由は本当のことを1〜2文で話せば足ります。期間の定めのない雇用なら、民法は「いつでも」申し入れができるとしていて、理由までは求めていません。1今の職場への不満を並べるより、次の職場でやりたい仕事を話すほうが、上司も受け止めやすいはずです。
引き止められたら、お礼と決めたことを繰り返す
引き止められると、うれしさと申し訳なさで、気持ちが揺れますよね。返すときは、お礼、決めたこと、引き継ぎへの協力の順に言うと、角が立ちにくくなります。
一度で話がまとまらないこともあるでしょう。それでもかまいません。平行線のまま終わったら、その日は持ち帰って、日を改めて同じ答えを伝えれば十分です。
何度話しても「辞めるのは認めない」と言われ続けるなら、法律の決まりを思い出してください。モデル就業規則の解説にも、期間の定めのない雇用では、会社の承認がなくても、退職を申し出た日から原則として14日がたてば退職になる、と書かれています。2
「辞めたら損害賠償を請求する」と言われることもあるかもしれません。労働基準法は、辞めたときに払う違約金や、損害賠償の額を前もって決めておく契約を禁じています。5話が進まないときは、都道府県労働局や労働基準監督署にある総合労働相談コーナーに相談できます。予約は要らず、無料です。
退職願と退職届は、出したあとの重さが違う
上司と退職日を決めたら、書面を出します。会社に決まった書式や、システムでの申請があれば、それを使います。何という名前の書面を、だれあてに、いつまでに出すかは、上司か人事に聞いておくと確実です。
名前の違いには、意味の違いもあります。宮崎県労働委員会の相談事例によると、法律にはっきりした区別はないものの、一般に退職願は会社との合意で契約を終える申し入れ、退職届は一方的に契約を終える意思表示と解されています。3
違いが表に出るのは、取り消したくなったときです。広島県は労働相談のQ&Aで、合意で契約を終える申し入れなら、会社の承諾が本人に伝わるまでは撤回できると考えてよい、と説明しています。一方で、一方的な退職の意思表示は撤回できないとしています。6
どちらを出すにしても、出したら取り消せないものと考えて、退職日が決まってから出すのが安全です。気持ちが揺れているうちは、まだ書面にしなくていいのです。
「一身上の都合」は、自分の都合で辞めるときに使う慣習の書き方です。日付や宛名の形は会社の書式があればそちらに合わせます。
有給休暇の残りから、最終出社日を決める
最終出社日と退職日は別の日です。退職日は雇用契約が終わる日で、最終出社日は最後に出勤する日。違いは退職の挨拶メールの記事でも説明しています。
有給休暇の残りは退職日まで使えます。愛知労働局はQ&Aで、退職が決まっている人から請求があれば、会社は休暇を与えなければならないと説明しています。会社が時季を変えられる場合でも、変えられるのは退職日までの範囲だけです。7
つまり、残りの日数を退職日の前に並べれば、最終出社日は自然に決まります。土日休みで残りが10日なら、祝日のない時期で、退職日のおよそ2週間前。ここまで決まれば、上司にも話しやすくなります。
ただ、権利があるからといって、引き継ぎを残したまま休みに入ると、休み中に電話が鳴りかねません。上司には、使いたい日数と、引き継ぎを終える日をセットで伝えると、話がまとまりやすくなります。たとえば「残っている有給休暇の10日を、最終出社日のあとに使わせていただきたいと考えています。引き継ぎは1月15日までに終えます」という言い方です。
残りの日数は、勤怠システムや給与明細に載っていることがあります。見当たらなければ、人事に聞いてみてください。年次有給休暇の時効は2年なので、使えるのは今年度と前年度に付いた分です。8
退職日を入社日の前日に置くと、保険の手続きも楽になります。健康保険と厚生年金の資格は退職日の翌日になくなり、新しい会社の保険には入社日から入るからです。9退職日が1月31日、入社日が2月1日なら、なくなる日と入る日が同じ2月1日になり、間が空きません。
間が空くと、その期間の健康保険と年金は、自分で切り替える手続きが要ります。手続きと期限は退職の手続き 会社側のチェックリストの「本人に伝える退職後の手続き」にまとめています。
上司に話した日から最終出社日までの段取り
上司に話したあとは、ひとつずつ片づけていくだけです。次の順に進めます。
- 上司と、退職日と最終出社日を決める。
- 会社の書式で、退職届か退職願を出す。
- 人事に、有給休暇の残りの日数と、退職のときに出す書類を確認する。
- 担当している仕事を書き出し、引き継ぎ書を作り始める。
- 上司と決めた日に、同じチームの人へ伝える。
- 会社が知らせてよいと決めたあとで、後任と一緒に取引先へ挨拶する。
- 最終出社日に、社員証やパソコンなど、会社から借りているものを返す。
- 源泉徴収票など、退職後に届く書類の送り先を人事と確認する。
引き継ぎ書は最終出社日の1週間前には後任が一人で回せる状態を目標にすると、残りの日を確認と手直しに使えます。項目とひな形は引き継ぎ書の書き方にあります。
在籍した期間や退職の事由を書いた証明書が要るときは、会社に請求できます。会社は遅滞なく出さなければならず、本人が求めていないことは書けません。10
8つ目の源泉徴収票は転職先の年末調整で使います。国税庁の案内によると、年の途中で就職した人の年末調整は、前の会社から受け取った源泉徴収票で給与と税額を確認して行います。確認できないと年末調整はできず、自分で確定申告をすることになります。11
引き継ぎの一覧は、自分の仕事の棚卸しにもなる
退職の段取りは、だれかに評価される仕事には見えないかもしれません。でも、引き継ぎのために書き出した仕事の一覧は、あなたがこの職場で何を任されてきたかの記録でもあります。
毎月どんな処理を回し、年に1回の仕事をいくつ抱えていたか。後任に渡すために整理したことは、次の職場で自分の経験を話すときの材料になります。会社の資料はもちろん持ち出せませんが、どんな仕事を任され、どう工夫したかを、自分の言葉で手帳に書いておくことはできます。
最後の数週間の仕事ぶりは、元の上司や同僚の記憶に残ります。転職先で、前の職場と取引が始まることもあるかもしれません。そのとき安心して声をかけてもらえる辞め方も、キャリアの一部です。
まずは上司に切り出す日を、カレンダーに入れるところから始めてみてください。
民法、労働基準法、健康保険法はe-Gov法令検索で、厚生労働省と労働局、日本年金機構、国税庁、宮崎県と広島県の資料は、2026年10月29日時点の内容です。伝える順番と時期の目安、文例は慣習にもとづく例で、会社の就業規則や書式があればそちらに従います。法律と就業規則のどちらに従うかで迷うときは、社会保険労務士や総合労働相談コーナーに相談してください。