全労働者69.7%、正規雇用75.3%、非正規雇用80.9%。2024年3月時点で、301人以上の会社が公表した男女の賃金差異の平均です。1全体の数字が、内訳の2つより低い。少し不思議ではありませんか。
この数字が、同じ仕事の給料を比べたものではないからです。会社にいる女性全員の平均を、男性全員の平均で割っています。だから女性にパートが多い会社では、賃金の決め方が同じでも数字は下がります。
応募先の数字が低くても、それだけで「女性が損をする会社」とは決められません。どの欄をどの順に読めば、自分の働き方に関わる話になるのか。一緒にたどってみませんか。
分かるのは、会社全体の平均どうしの差
同じ会社の数字でも、欄によって見え方が変わるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
男女の賃金差異は、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で割り、100を掛けた数字です。2男性を100としたときの女性の値なので、100%に近いほど差は小さく、女性の平均が高ければ100%を超えます。
賃金の範囲は広めで、基本給のほかに残業代や賞与、家族手当、住宅手当まで入ります。除いていいのは退職手当と通勤手当などで、除くかどうかは会社が決めます。3
人の数え方にも幅があります。育児のために短い時間で働く人も数に入りますが、パートや短時間の人を労働時間で換算するかどうかは会社しだい。産休や育休で休んでいる人を外すこともできます。4派遣社員は派遣先ではなく派遣元の数字に入り、非正規の欄は「パート・有期社員」と書かれていることもあります。
公表の単位は法人です。ホールディングスも単体の数字を出すので、グループの名前で見かけた数字が、応募する会社のものとは限りません。
つまり、この数字から読み取れるのは「同じ仕事なのに女性の給料がいくら低いか」ではありません。男性と女性がその会社でどんな立場に分かれ、1年間にいくら受け取ったか。その結果です。
全体の欄が、内訳より低くなるわけ
男女の賃金差異の3つの欄の出し方と、架空の会社で数字が動く例作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「男女の賃金の額の差異の算出及び公表の方法について」
図の架空の会社では、正規が80.0%、非正規が90.0%なのに、全労働者の欄は64.3%まで下がります。女性は110人のうち50人が非正規で、男性は90人のうち10人だけ。賃金の低い区分に女性が偏るぶん、内訳の差に人数の偏りが上乗せされるのです。厚生労働省の通達にも、全労働者の数字は正規と非正規の男女の割合に大きく左右されるとあります。
しかも、賃金の決め方を変えなくても数字は動きます。
| 架空の会社に起きたこと |
全労働者 |
正規 |
非正規 |
| 元の状態 |
64.3% |
80.0% |
90.0% |
| 女性の非正規30人が正規に転換 |
77.1% |
80.0% |
90.0% |
| 女性の新卒20人を年300万円で採用 |
62.6% |
72.5% |
90.0% |
| 女性パート50人を時間で換算 |
72.5% |
80.0% |
120.0% |
女性の新卒を採用した行を見てください。女性を増やしたのに、数字は下がっています。新卒の賃金は平均より低いため、女性の採用に力を入れた年に差が広がることは、通達も例に挙げるほどです。いちばん下の行はもっと極端で、誰の給料も変わらないのに、非正規の欄が120.0%に跳ねました。
だから、ほかの会社と並べる前に、人数を換算しているかどうかは見ておきたいところ。換算した会社は、そのことを必ず注記します。
正社員で転職するなら、最初に見るのは全労働者ではなく正規の欄。自分がこれから入る区分の中で、男女の平均がどれだけ開いているかが分かるからです。
低い数字は、何の合図なのか
それなら低い数字に意味はないのかというと、そうとも言えません。厚生労働省の分析では、男女の差のいちばん大きな理由は役職の違いで、次が勤続年数です。2024年の数字では、男性を100とすると女性は75.8。女性の役職の構成が男性と同じだと仮定すると84.6に、勤続年数の構成が同じだと仮定すると79.4に上がります。6
だから低い数字は、女性が上の役職に就きにくいのかもしれない、長く働き続けにくいのかもしれない、という合図として読めます。女性管理職の割合のデータを見ると、役職が上がるほど女性が減っていく様子が分かります。
ただ、役職だけで説明がつくわけでもありません。2025年の賃金構造基本統計調査で、無期雇用の人の月給を役職ごとに女性÷男性で割ると、部長級90.0、課長級86.9、係長級89.0、役職のない人は84.3でした。7年齢や勤続の違いも混ざった数字ですが、役職をそろえても100には届かないのです。
国全体と比べたくなったら、物差しの違いに気をつけてください。同じ調査の男女間賃金格差は2025年に76.6で、10年前の72.2より縮まりました。ただし、こちらは6月分の所定内給与だけで、残業代も賞与も入らず、短時間労働者も含みません。OECDの国際比較は、フルタイムの人の中央値どうしを比べたもので、日本の差は22.0%(2023年)。男性を100とすると女性は78.0です。
どちらも計算の土台が違うので、会社の数字の横に並べて高い低いは言えません。目安にするなら、同じ計算式で集計した冒頭の平均のほうが近いでしょう。
応募先の数字を調べる手順
いちばん手早いのは、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」です。個人情報を登録しなくても無料で使えて、2026年11月2日の時点で4万5,056社のデータが見られます。
- 女性の活躍推進企業データベースを開く
- 検索欄に、「株式会社」を付けずに応募先の社名を入れる
- 検索結果から、応募する法人の企業情報を開く
- 「データの対象」が単体かどうかと、データの最終更新日を確認する
- 「男女の賃金の差異」の3つの数字と、注釈・説明、対象期間を読む
載っていなければ、会社のサイトを探します。公表の場所はデータベースに限られていないためです。
上場企業なら、EDINETで有価証券報告書を開く方法もあります。数字が載るのは「従業員の状況」で、2026年3月期の報告書から「第4【提出会社の状況】」の「5【従業員の状況等】」に移りました。8それより前の報告書は「第1【企業の概況】」の「5【従業員の状況】」です。親会社の報告書には、公表している連結子会社の数字も書く決まりなので、グループの会社に応募するときにも役立ちます。
もっとも、見つからなくても隠しているとは限りません。公表の義務が301人以上から101人以上に広がったのは2026年4月で、101〜300人の会社の初回は、4月1日以後に最初に終わる事業年度の実績です。3月決算の会社ならおおむね2027年6月末まで、12月決算なら2027年3月末まで。100人以下は努力義務です。
読む順番が決まれば、聞くことも決まる
転職先を調べるときに読む欄の順番と、公表の扱い作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「女性活躍推進法が改正されました!」
いちばん手がかりが多いのは4番の注釈・説明です。記入は任意なので、空欄だからといって問題があるとは言えません。でも書いてあれば、要因が採用の増加なのか、勤続年数なのか、職種の偏りなのかが、会社の言葉で読めます。厚生労働省も、求職者に向けて、数字だけを切り取らず説明欄まで見るよう呼びかけています。
ほかの会社と比べるなら、同じ業種で規模の近い会社どうしがおすすめです。パートの多い会社と正社員が中心の会社を並べても、全労働者の欄の差は、人員の構成の差でしかないかもしれません。
残った疑問は、面接で聞いてかまいません。数字を責める聞き方ではなく、背景を教えてもらう聞き方にすると、相手も答えやすいはずです。
面接の時間の作り方は在職中の転職活動の進め方で、転職で年収がどう変わるかは年収が上がる人の割合のデータでご覧いただけます。
公表の数字は、会社を落とすための点数ではありません。面接で何を聞くかを決める材料です。次に求人を開いたら、その会社の正規の欄と注釈・説明を読んでから、応募するかどうかを決めても遅くはありません。
この記事は、2026年11月2日に確認した女性活躍推進法と省令、厚生労働省の通達と資料、賃金構造基本統計調査、開示府令の内容です。