今の部署から動きたいと思い始めたとき、最初に話す相手はだれでしょうか。
答えは希望を出す道で変わります。自己申告書や面談で伝えるなら、最初に話すのは直属の上司です。社内公募なら、上司を通さずに応募できる形が基本なので、先に話すかどうかは自分で決められます。
どの道を選んでも、理由は「今の部署を離れたい」より「次の部署でこれをしたい」で書くほうが、角を立てずに進めやすくなります。
希望を出す道は3つ、まず自社にある道を知る
次にしたい仕事を、自分の言葉で書いてみるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
異動の希望を会社に伝える道は、大きく3つあります。年に一度など、決まった時期に書く自己申告。募集が出たときに手を挙げる社内公募。そして、評価面談やキャリア面談でじかに話すやり方です。
前の2つは国の調査でも制度として数えられてきました。厚生労働省が2002年に行った雇用管理調査によると、自己申告制度は、能力を伸ばしたい方向や異動の希望を、社員が会社に申し出る制度です。社内人材公募制度は人が要る仕事を社内で募るもので、「通常本人の上司を経由しないで応募することができる制度」とされています。1
同じ調査で、二つの制度がある会社の割合を、会社の大きさごとに見てみます。
| 会社の規模(常用労働者) |
自己申告制度 |
社内人材公募制度 |
| 5,000人以上 |
79.7% |
57.7% |
| 1,000〜4,999人 |
61.2% |
29.5% |
| 300〜999人 |
40.6% |
10.6% |
| 100〜299人 |
23.4% |
3.6% |
| 30〜99人 |
10.2% |
1.7% |
| 全体 |
16.2% |
3.4% |
数字は2002年1月のもので、今の割合ではありません。それでも、小さな会社ほど制度がないという傾向は、はっきり見て取れます。あなたの会社はどの行に近いでしょうか。制度がない会社でも、面談という3つ目の道は残っています。
制度があるのかどうか、実はよく知らない。そんな人もいるはずです。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2016年に、転勤を経験した正社員に聞いた調査があります。家庭の事情を伝えて転勤に配慮してもらう制度や機会が、自分の会社に「ある」と答えた人は69.9%。13.4%は「わからない」と答えました。2この「制度や機会」には、自己申告や、目標を決める面談も入っています。
見る場所は人事の規程や、社内ポータルにある人事のお知らせ、毎年届く自己申告の案内です。見当たらなければ、人事に「異動の希望を出す仕組みはありますか」と聞けば足ります。
最初に話す相手は、道ごとに違う
3つの道を、出すもの、最初に話す相手、上司に伝わる時期で比べました。
|
自己申告 |
社内公募 |
面談 |
| 出すもの |
決まった時期の申告書 |
募集ごとの応募書類 |
面談での話 |
| 最初に話す相手 |
直属の上司に、出す前にひと言 |
募集の窓口や人事 |
直属の上司 |
| 上司に伝わる時期 |
申告書を読んだときか、面談 |
異動が決まってから、人事から |
面談のその場 |
| 先に確認すること |
様式と締め切り、だれが読むか |
応募の資格と、上司の承認が要るか |
面談の日程と、話せる時間 |
まず「上司に伝わる時期」の行を見てください。社内公募だけ、上司が知るのがいちばん後になります。
異動の希望を出す3つの道と、最初に話す相手、上司に伝わる時期作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「平成14年雇用管理調査」・労働政策研究・研修機構
自己申告と面談は、直属の上司から
自己申告書をだれが読むのかは、様式や人事からの案内に書いてあることがあります。上司も目を通す形なら、出す前にひと言伝えておくと、面談の席で上司を驚かせずに済みます。書いた内容は上司から聞かれるつもりで準備しておくと安心です。
面談で伝えるときも、相手は直属の上司です。評価面談の終わりに急に切り出すより、予約するときに「今後の担当についても相談したい」と添えておくほうが、上司も時間を取りやすいでしょう。評価面談そのものの準備のしかたは、評価面談の自己評価の書き方で紹介しています。
話す順番は、お礼、希望、理由、それから今の仕事をどう引き継ぐか。引き継ぎまで先に口にしておくと、上司は「抜けたら困る」と身構えずに、話の続きを聞けます。
社内公募は、上司の許可なしで応募できる形が基本
社内公募は、ほかの2つと順番が逆になります。JILPTが2006年に上場企業に聞いた調査では、社内公募のある51社のうち94.1%が、応募するのに上司の許可や推薦は要らないとしていました。3許可を要らないとした理由で、いちばん多かったのは、上司が優秀な人を抱え込んで、本人が手を挙げにくくなるおそれがあるから。83.3%の会社がそう答えています。
合格したことを上司に知らせるのも、74.5%の会社では人事でした。本人が伝える会社は3.9%だけ。報告書にも、社内公募はふつう内密に進められ、異動が決まってから人事から上司に知らされる、とあります。
上司に知られずに手を挙げられるからこそ、制度が回るのです。だから、応募の前に上司に話すかどうかは、あなたが決めていい。ただ、募集の案内に「所属長の承認を得る」のような手順が書かれていれば、そちらに従います。
応募には条件が付くこともあります。同じ調査で、社内公募のある会社が応募の条件にしていたものを並べました。
| 応募の要件 |
要件にしている会社 |
| 正規従業員であること |
74.5% |
| 入社後の勤続年数 |
41.2% |
| 今の部署での勤続年数 |
27.5% |
| 特定の職位にあること |
27.5% |
| 年齢 |
25.5% |
| 一定以上の人事評価 |
17.6% |
| 公募で移った部署での勤続年数 |
13.7% |
勤続年数を条件にする会社では、入社してからは「2〜3年未満」が42.9%、今の部署では「1〜2年未満」が50.0%で、どちらもいちばん多い答えでした。今の部署に来てまだ1年たっていないなら、募集の案内にある条件の欄から先に読んでおくと、あとで慌てずに済みます。
制度のある会社の割合(2002年・規模別)と、社内公募の運用(2006年)作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「平成14年雇用管理調査」・労働政策研究・研修機構
合格したら、人事から伝わる前後に、自分からも上司にお礼を伝えて、引き継ぎの相談を始めます。今のチームとの関係は異動したあとも続いていくからです。
理由は「離れたい」より「行きたい」で書く
異動を最後に決めるのは、会社です。厚生労働省が公開しているモデル就業規則にも、会社は仕事のうえで必要があれば、働く場所や仕事の中身を変えるよう命じることがある、という条文があります。4転勤をどう決めているかを会社に聞いた2016年のJILPTの調査でも、会社が主導してすべて決めるほうに近いと答えた会社が79.7%で、社員の意見や希望をふまえて決めるほうに近い会社は19.4%でした。2
つまり、希望は、会社が配置を決めるときに並べる材料の一つ。人事が「この人をあの部署に置けば、あの仕事が回る」と思い描ける理由なら、ほかの事情と並んだときにも目に留まりやすいでしょう。
自分の場合、どこまでが異動の範囲なのか。2024年4月以降に結んだ労働契約なら、労働条件通知書を開いてみてください。就業場所と業務のところに、「変更の範囲」が書かれているはずです。5職種や勤務地を限る合意があるときの扱いは、異動、転勤、出向、転籍の違いで説明しています。
理由の下書きには厚生労働省のジョブ・カードにある「キャリア・プランシート」が使えます。働いたことのある人向けの様式には、「価値観、興味、関心事項等」「強み等」「将来取り組みたい仕事や働き方等」「これから取り組むこと等」の4つの欄が並びます。6このうち後ろの3つが、そのまま理由の部品になります。
- 「将来取り組みたい仕事」の欄から、行き先でしたいことを1文で書く。
- 「強み」の欄から、今の仕事で身につけて持っていける力を1つ選ぶ。
- 「これから取り組むこと」の欄から、もう始めている準備を書き添える。
最初の「価値観」の欄は申告書に写さなくてかまいません。なぜ動きたいのかを、自分のために言葉にしておく欄です。
書き換えの前と後を、きっかけ別に並べてみます。
| きっかけ |
前(離れたい) |
後(行きたい) |
| 仕事に物足りなさがある |
今の仕事は単調で、成長できないと感じています。 |
請求書の処理を〇年担当し、数字の食い違いを期日までに突き止める力が身につきました。この力を〇〇部の予算管理で生かしたいと考えています。 |
| チームが合わない |
今のチームの雰囲気が合わず、続けるのがつらいです。 |
一人で深く調べて形にする仕事で、より力を出せると感じています。〇〇部の〇〇の仕事で、それを試したいと考えています。 |
| 家庭の事情がある |
子どもの送り迎えがあるので、遠くの事業所は無理です。 |
〇年〇月まで保育園の送迎があります。この間は転居を伴う異動を避けていただけると助かります。今の〇〇の業務は続けられます。 |
表の「前」の文も、本音としては自然です。ただ、読んだ上司や人事に打てる手は、今の部署を直すか、引き止めるかくらいしかありません。行き先の話が始まらないのです。
人間関係の悩みが、ハラスメントにあたるかもしれないときは別です。異動の希望とは分けて、社内の相談窓口に話してください。異動の希望だけで片づけようとしなくていいのです。
異動の理由を「離れたい」から「行きたい」に書き換える3つの部品作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省 マイジョブ・カード「キャリア・プランシート」
強みを言葉にするところは、自己PRの書き方と例文で詳しく紹介しています。
家庭の事情が理由なら、事情と期間と希望を分ける
子育てや介護のために、遠くへの転勤は避けたい。言い出しにくい理由ですよね。でも、ここには法律の後ろ盾があります。
育児・介護休業法は、会社が勤務地の変わる異動を命じるとき、そのせいで子育てや介護が難しくなる人がいれば、その状況に配慮するよう求めています。7配慮の例として指針にあるのは、子育てや介護の様子をつかむこと、本人の意向をくむこと、代わりに頼れる手だてがあるかを確かめることです。子どもの年齢は小学校に入る前に限られず、小学生や中学生の子どもも入ります。
もっとも、求められているのはあくまで配慮です。厚生労働省は通達で、異動させないという結果までは求めていないことを示しています。同じ事業所の中で別の仕事に移るだけの配置換えも、この決まりには入りません。結果が約束されていないからこそ、事情は早めに、具体的に伝えておく意味があります。
2025年10月からは伝える場がもう一つ増えました。妊娠や出産を申し出たときと、子どもの3歳の誕生日の1か月前までの1年間に、会社は一人ひとりから、働く時間帯や勤務地などの希望を聞いて、配慮しなければなりません。8聞いた希望の中身を理由に、不利益な扱いをすることも禁じられました。この場で、勤務地や異動の希望を伝えてもいいのです。
転勤を経験した正社員のうち、自分や家族の事情を伝えて、転勤しないで済むよう配慮を求めたことがある人は12.2%。女性だけで見ると14.6%でした。28人に1人ほどが、事情を伝えて配慮を求めてきたことになります。理由で多かったのは親などの介護、子どもの学校や受験、出産や子育ての順でした。
伝えるときは事情、続く期間、希望の3つを分けて書きます。表の3行目のように、事情だけを長く書くより、期間と希望が見えるほうが、会社も配置を考えやすくなるはずです。
通らなかったときは、次の機会への準備に変える
希望が通らなくても、それだけで評価が下がったと決めつけなくて大丈夫です。異動には受け入れる側の人数の枠や時期、今の部署の事情もからむからです。
結果を聞いたら、まず時間を取ってもらったお礼を言い、そのうえで、足りなかった点と、次に希望を出せる時期を聞きます。聞く相手は人事でもかまいません。先ほどの2006年の調査では、社内公募のある会社の49.0%に、応募の前に相談できる場がありました。話を聞く役は人事が60.0%、直属の上司が40.0%です。3
聞いた内容は日付と一緒にメモに残しておきましょう。次の申告書に「前回いただいた助言を受けて、〇〇を始めました」と書ければ、同じ希望でも伝わり方が変わります。
社内では話しにくいなら、社外の窓口もあります。厚生労働省から委託を受けたキャリア形成・リスキリング支援センターでは、働いている人もキャリアコンサルティングを無料で受けられます。1回60分で、対面かオンラインを選べます。事前にジョブ・カードを作って臨む形ですが、書けるところまででも申し込めます。9
希望を出す前の確認表
「どこから離れたいか」ではなく、「次に何を任せてほしいか」。異動の希望を書くことは、自分がどんな仕事を担える人なのかを、会社に伝わる言葉で説明する練習でもあります。
一度その説明ができれば、評価面談でも、昇進の打診を受けたときでも、いつか職務経歴書を書く日にも使えます。今回の希望が通っても通らなくても、言葉にした強みと準備は、次のキャリアにそのまま持っていけます。
この記事の制度と法令は2026年10月29日時点のもので、厚生労働省などの資料で確認しました。調査の数字は、それぞれの調査の時点のものです。家庭の事情と配置のことで会社と話がまとまらないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。